ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ 作:みはいるすーす
定期テストが終わって数日、暁子は生徒会に呼び出されていた。
テストについては坂柳による過去問の配布や、そもそもAクラスの人間は優秀ということもあって、特段問題なく終わった。
呼び出されたのは、それからまもなくの放課後。暁子が生徒会室へ向かっていると、金髪の男とすれ違う。
「やぁ、暁子ちゃん。」
彼の名は南雲 雅。高度育成高等学校随一のヤ○チンである。(ネタバレ)
生徒会では副会長を務め、学校中の女子生徒をマッチポンプ上等のやり口で手中に収めつつも、2年での絶大な影響力を背景に彼に立ち向かう者はいない。
(よくよく見るとなかなか可愛いんだよな、こいつ。)
南雲はその爽やか系イケメンの顔の下に下衆な思考を隠し、暁子を今日も狙っている。ところであることを思い出した南雲は、暁子に話を振る。
「そういえば、1年で暴力事件があったらしいよ。暁子ちゃんも気をつけてね。」
「へぇ、初耳です。私も今日堀北会長に呼び出されたんですが、もしかしたらこの事かも知れませんね。」
たわいもないやり取り。しかし南雲は暁子の態度に感心する。初耳という割には全くたじろいでいない。女子に暴力事件が同じ学年で起こったと言えば、普通は僅かでも恐れを顔に表すのが常だからだ。生徒会に初めて来たときは、あんなに怯えていたのに。
「では、私も気をつけて行って来ます。」
そういうと暁子は生徒会室に向かった。南雲は暁子が全く動じなかったのは、一体肝が据わっているのか、それとも彼女はどこかでこういうことに馴れたのか、と思考を巡らす。
ともあれ、気の強い女は嫌いではない。ヤ○チンは、無意識に自分の唇を舌で湿らせていた。
ちなみに、暁子が動じないのには訳がある。もちろん暁子の目前で事件が起きる分には彼女は怯えるだろうが、あくまで聞いた程度の話ならば、彼女の盲信する人口削減計画とか、そちらの方が数千倍怖い。それらに比べれば、暴力事件のひとつやふたつ可愛いものである。
なんなら彼女にとっては、暴力事件とかより生徒会の方が怖い。
「暁子です。」
生徒会室の前に立つと、暁子はノックしながらそういった。開けると、正面に堀北が座り、橘ががファイルを胸の前で抱えながら側に立っていた。
ちなみに今の暁子は橘の“部下”という扱いである。この“部下”とは、教育係、いわゆる直属の先輩、後輩みたいなものであって、例えば南雲と橘が同時に暁子に異なる指示を出した場合、橘の指示が優先される。そういうシステムが皆から部下と言われているだけだ。
「今日呼んだのは、一年で暴力事件が起きたからだ。」
堀北がそういうと、橘がおもむろに写真を机の上に出した。暁子には見覚えがある顔がいた。
「これ、須藤くんでしたっけ。」
「ほぅ、知っているのか。」
提示された写真に写っていたのはDクラスの須藤だった。この間、暁子が仲裁にはいった騒ぎを起こしていた赤髪の生徒である。
しかし堀北はそんなことを報告されていないので、彼女が初コンタクトのときに、「困っているクラスの人を助けたい。」という意思を示していた事を思いだし、AクラスなのにDクラスの生徒を知っているということは、ちゃんと下級クラスを助けるために行動を起こしているのか、やはり俺の目に狂いはなかった。と思った。
別に堀北の目に狂いがあった訳ではない。単純に暁子の仮面が一枚上手だった、というだけである。そりゃそうだ、真実を知ったものは消される、というのを本気で信じている暁子は、文字通り“死ぬ気”で頑張っているのだから。
「それで、後日裁判を行うこととなる。詳しくはこの資料を。」
資料を少し見ると、どうやら須藤が加害者らしい。被害を受けたのはCクラスの数人。双方の供述として、加害者の須藤は特別棟にCクラスに数人から呼び出され、喧嘩を売られ正当防衛。被害者側はただ一方的に殴られたと、意見は食い違っている。
(どっちが正しいのかな...わかんないや。)
暁子はあまり興味を持てなかったらしい。
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明くる日、裁判、もとい審議が開催された。
部屋は高層にあった。木板が貼られた壁と大きなはめ殺しに囲まれて、U字型の巨大なミーティングテーブルが置かれてある。コンクリート打ちっぱなしでダクトが見えてるような教室からすると、高価で、解放感を感じさせる。
もっとも、雰囲気は対照的に、緊迫感でいっぱいだったが。
「これから、審議を開始する。」
堀北学がそういうと、暁子が資料を配る。テーブルの上座に堀北学、左右後方に橘と暁子が控えている。入り口側にDクラスの茶柱先生、弁護の綾小路、堀北鈴音が並び、最後に被告の須藤が来る。向かいは坂上先生を筆頭にしてCクラスが並ぶ。
両者の主張は様々だったが、被告の須藤はなかなかに態度が悪いようだ。暁子は須藤が嘘ついてんじゃないの? と蚊帳の外ながらもそう思っていた。
結局、審議は両者の意見が食い違ったまま、次回へ持ち越しとなる。
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「会長、次回の審議については...」
「あぁ、その件に関してはもういい。」
「え?」
「Cクラスが訴えを取り下げた。」
「え」
一次の審議が終わって数日の二次審議会前日、生徒会室にて急にCクラスの訴えが取り下げられたことを伝えられた。
暁子は戦慄した。
(揉み消された!汚ない手を...)
審議には弁護側に堀北鈴音がいた。言うまでもなく堀北学の妹である。暁子はCクラスに圧力がかかったと考えたらしい。上の組織が下の組織に圧力を加えるなど、暁子の脳内では日常茶飯事である。
実際には綾小路の発想で、監視カメラのシステムを利用してCクラスをだまし訴えを取り下げさせたのだが、暁子はそんなこと知らない。
それよりも重要なことが...と堀北は続ける。
「あと、南雲の推薦で今日から新人が入ってくる。」
ああ、帆波ちゃんのことか、と暁子は思考を一変する。それは嬉しいのだが、なぜか堀北の顔は優れない。
「一之瀬という奴だが、お前とは面識があるそうじゃないか。当分はお前の部下という扱いにする、お前が面倒を見るんだ。頼めるか。」
暁子は部下を手に入れた!
当然これには訳がある。堀北は南雲の部下が増えるのを恐れて、生徒会の審査を厳しくしていたのは前に話した通りだが、南雲は可愛くて生徒会に入りたがっている一之瀬の存在を知ると、堀北に悟られないように外堀を埋めてから一之瀬を生徒会に推薦した。そうして南雲の部下候補の一人が増えてしまったのだ。
しかし、ここで諦める堀北ではない。彼は自分の息がかかった暁子の部下に一之瀬を推薦した。暁子が一之瀬より早く生徒会に入ったのもあって、先輩、後輩の概念は既に出来上がっていた。南雲は既に部下を持っていたので、堀北は南雲に黙って一之瀬に暁子の部下になるように言った。
その結果として、入学一学期目にして部下をもつという、異例な生徒会員が出来あがったのだ。
そしてこれにより、Bクラスには自分たちのクラスの纏め役たる一之瀬の上司的存在として、一方AクラスにはBクラスのリーダー格を、生徒会という職務上のみではあるが、部下にした人間ということで、暁子は認識されることになる。