穢れなき虜囚   作:ヤン・デ・レェ

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お見舞い

入院四日目から、俺が目を覚ましたと聞いて顔なじみが続々とお見舞いに来てくれた。

 

 

 

 

いの一番に来たのはココだったが、その次に来てくれたのはアールとレームだった。病室だってのに、いや俺の病室だから気兼ねなくタバコをふかすレームに小言を言いつつ、俺たちは久しぶりに世間話をしたりした。

 

すると、俺がポーカーがめちゃ弱いという話から賭けの話になった。なんでも二人は俺の生死に百ドルずつ賭けていたらしい。なんて不謹慎な奴だと思ったが、何時もの調子だからだと思えば居心地がよかった。

 

「へっへへ…やぁっぱりな。生きてたようで安心したよ。これでアールとの賭けは俺の勝ちだ。」

 

レームが風でカーテンがそよぐ窓際で、タバコを口元から離して笑った。勝ち誇ったような顔がいやらしい。

 

「なんだよおっさん!アンタが始めて先に賭けたんだから勝つに決まってんだろ!…っつーか、それだと俺がジタンさんが死んだと思ってたことになるじゃんか。」

 

ベッド脇のパイプ椅子に座るアールが青い顔で気まずそうに俺を見たので、十センチほど腕を上げて「気にするな」と言っておいた。

 

「早い者勝ちだよぉ…ところで、流石に動けそうにないかい?」

 

そんな馬鹿な質問した奴は後にも先にもレームくらいだった。今思えば、こいつは健康な俺しか見たことないんだったな。いや、それは俺もだった。

 

「見りゃ分かんだろ!ここまで全身くまなく包帯でぐるぐる巻きなんて初めて見たわ!」

 

「へへ、ジョークジョーク!ところで…ライターは役立ったみてーだな。好かったよ、君を失うには早すぎるように感じていたんだ。」

 

アールが俺を指さしながら呆れたように言った。レームと意外にも相性がいい。名前の響きも似ているからなぁ、とか変なことを思っていると、レームはしんみりした顔で俺の枕元に置いてあった汚れたライターを見て言った。心配してくれてたんだろうな…少ししんみりしていると…

 

「レームのおっさんに乗せられない方がいいっすよ、ジタンさんまで老けちまうぜ!」

 

「なんだぁ?この伝説の傭兵同士の友情に嫉妬か?」

 

「んなわけあるか!おっさん同士の友情に興味なんてないわ!」

 

アールの言葉は結構俺に刺さった。ぐふぅ…俺も思えばおっさんかぁ…大けがして、最初に味わったのが若さへの敗北とはこれ如何に…。

 

 

 

 

次にお見舞いに来てくれたのはワイリとマオとウゴだった。ウゴとワイリは大柄な方だから病室が少し手狭に感じた。

 

「ハッハッハッハッハッ!生きてまた会えて嬉しいですよ。」

 

「いやはや、どんな人でも危ないときはありますからね。」

 

「私も軍にいたときはそういうことありましたけど…えー…流石にここまでのはなかったような…。」

 

ワイリはいつも通りの調子であの豪快で爽やかな笑い声を披露し、マオは器用にもリンゴを剥いてくれた。ウゴはというと、何かと最近の車事情について語って聞かせてくれた。乗る専かと思っていたが、案外見るのも乗せてもらうのも好きらしい。ケガをしてみないとわからない同僚の一面があるんだなぁと思った。

 

「この人は特別製ですからね。ところで、気晴らしにドライブなんてどうですか?大型のバンとかなら、ストレッチャーに乗ったままでも外の景色が見えると思いますよ?」

 

ウゴらしい提案だった。

 

「さすがにまだ安静でしょう…でもドライブですか、好いですね。治ったらみんなでピクニックがてら行くのも楽しいでしょう。」

 

マオの言葉もご最もだった。

 

「家族連れからは警戒されそうなピクニックになりそうだね。」

 

ワイリの洒落にも聞こえる有様がありありと連想された。いかつい男所帯でピクニックかぁ…最後にしたのはいつだったか。そもそも経験がないかもしれない。三人とも仕事人だから、それぞれの専門的な話に耳を傾けつつ、これからに少し期待してしまう時間だった。

 

 

 

 

次にやってきてくれたのはルツ、トージョ、それからバルメだった。バルメが俺を見た瞬間涙目になったのは少しドキっとした。心臓に悪い。ただでさえ、今は弱っているのに。そのまま言ったら手は出なかったが叱られて、それからまた涙目になった。ちょこっと罪悪感。

 

「あ、これお見舞いっす。いやぁ~災難でしたね。」

 

「いや、でもルツ考えても見ろ、この人ばっかり災難にあってるおかげで俺たちは毎回何とかなってんのかも知んねぇぞ?」

 

「やめなさいトージョ!そういう不謹慎なこと言うんじゃありません!」

 

ルツはスイーツをお見舞いに差し入れてくれた。甘いものとか好きなイメージあったし、少し納得。トージョに至ってはエロ本を差し入れようとしたようで、失敗したからせめてもと文庫本に見せかけた官能小説を寄越した。バルメにバレて殴られていた。うん、自業自得である。因みにバルメはダンベルをくれた。…いや、ウッソだろ?

 

「ははは!姉御がお嬢に本気で慰められてるとこ初めて見たぜ!」

 

「あッ!?そのことは言わない約束です!覚悟しなさい!」

 

「あーあ…ルツ、骨は拾ってやる。」

 

「うぐおぉぉぉぉッ!?助けろやぁぁ!」

 

ルツがパイルドライバー掛けられる程度には賑やかだった。俺は和んだような疲れたような気がした。悪くない気分だった。

 

 

 

 

次に訪れたのはエコーだった。手酷く傷を負って退役となり、今でも親交が続いているのは嬉しいことだと思う。こうして見舞いにも来てくれるのだから俺も…いや、俺に記憶はないのだが、俺のお陰らしいので、一応俺も頑張った甲斐があるものだ、と言っておこう。

 

「へへ…まさかアンタも退役組か?ふぅーん、まだまだね…まぁ、負傷兵の先輩としちゃぁよ、死なない程度に頑張ってくれよ。戦えなくなっても案外失うものより得るものの方が多いかもしれないぜ?」

 

「…なぁ、アンタあの満月の夜のこと本当に覚えてないのか?」

 

「そうか…ま、思い出したら教えてくれよ。俺の命はアンタに拾ってもらったもんだからな。恩返し、とっとくからさ。」

 

エコーはよくその、満月の夜のことについて俺に聞いてくれる。だが、俺は何時も覚えていないと答えるしかない。少し気を悪くさせてしまわないか心配なのだが、それでも事実だ。俺はその夜のことが記憶から抜け落ちている。何が起きて、何を見て、そして俺が何を成したのか。俺は一つも知らないのだ。エコーが無事で、それから俺も生き残ったという以外、何もわからない。誰かに聞こうとすると、足がすくんで声が出ない。…俺の過去に、何か深く楔打つ何かがこの夜にあるのだろうか。

 

 

 

 

「本当に会うつもりなの?」

 

あぁ。その子に、ジョナサンに会ってみたい。

 

「…わかった。多分何も起こらないと思うけど…でも、私も一緒に行くからね。ジタン、それが条件だよ。」

 

分かったよ、ココ。

 

 

 

俺は明日、現在軟禁中だというジョナサン・マルに会うことにした。自分を撃った少年兵に会うということでココからはやんわりと反対されたが、それでも俺は会ってみたい。

 

何故なのかはわからなかった。これまでにも少年兵をたくさん見てきたはずだ。けれど、そのどれとも違う何かを彼に感じているのだろうか?それとも俺自身に何か、深いところで変化があったとでもいうのだろうか?

 

わからない。だが、分からないからこそ俺はジョナサンと会うことでそのわからない何かの正体を突き止めたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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