「…なにがあったんだ?」
アフリカ某所。遂三十分前まで小さな集落として機能していたその場所は、一人の規格外の男によって完全に破壊されてしまった。
だが、外ならぬその執行者である男は、訳の分からぬ状況に困惑していた。死体の海で立ち尽くす男の手には着火済みのライターがあった。
「ライター?なぜ?…そもそも、どうして海賊共が死んでいるんだ?」
<<カシンッ!>>
「考えるのは後だな…まずは、生きてる人間でも探すか。あの白髪スーツの男の部下がやったのか?」
「だとしても俺以外の奴隷が居ない、置いてかれたのか?それとも俺が原因で撃ち合ったのか?さっき俺のことがどうのこうのって…ったく、物騒極まりないな。どうかしてるぜ…。」
ライターの蓋を閉めてそこらへんに放ると、身に纏う襤褸布から上品な所作で埃を払ってから男はゆっくりと歩き出した。
「お、生存者発見。おーい!アンタ!あんた、さっきの商人だろう?」
歩き回ること数分。険しい表情であたりを見回す白髪頭を見つけた。
男は手を振りながら悠々と歩いて近づいていったが、すぐに白髪の商人の二人の護衛が銃を構えて商人の前に布陣した。気配は鋭く、目にも感情の色を極力載せないように洗練されていた。
そのため、手の平を見せるように両手を挙げて敵意が無いことを示しつつ、その場で立ち止まり声を掛けた。
「なぁ、他の連中は何処に行ったか知ってるか?俺は知らないんだ。それに、見てくれよこの惨状。気が付いたらこうなってた…ハァ…全く参ったよ、重要な部分を見落とすからこうなっちまうんだなぁ。」
男は自嘲するように自分が肝心の場面を見逃してしまったことに対して溜息を吐いた。
<<チューーーンッ!!>>
すると、護衛の男の方が男の足元に一発打ち込んだ。
「なんだよ脅かすなよ、口を閉じろか?」
「チッ!動くな!」
「(少し早漏すぎる嫌いを感じる…若いな。だが所作だけ見れば、確かに手練れだな…。)」
男は無意識にそう考えた。そして体が勝手に動き出しそうな躍動感を奥の方から感じて、自分は何を考えているんだと首を振った。
「やはり…生きていたか。」
両手を上げ、完全に立ち止まり一言も発さなくなった男を見据えて口を開いたのは、白髪の商人だった。
「…」
「…いい、少し話をしよう。」
「わかった。俺も丁度相談があったんだ。」
律儀に口を噤んでいた男に対して許しを出してから、白髪の商人と男は互いに自己紹介をした。
「久しぶりだな…いや、お久しぶりですミスター・コッポラ…数年前は貴方のお陰で助かりました。いや、気づいていないだけで何度も助けていただいているのでしょうが…。私の事を覚えておいでですか?フロイドです、フロイド・ヘクマティアルです。幼い頃にも、賊の拉致から助けていただきました…立場は逆ですが、今日のようにね。」
丁重な一礼を受けてもジタンは驚かなかった。
「(商人と言うくらいだ、多分ホストと同じように相手を自分側に抱き込むための常とう手段なのだろう…それにしても、随分凝った設定を瞬時に思いつくとは大したものだな…。)」
ジタンは一通り感心すると、習うように一礼してから自分の知る自分の全て、つまり名前だけを開示してから状況確認の為にフロイドに問うた。
「…人違いではないか?俺たちは初めまして、だろう?俺は…ジタン・コッポラ。それ以外は俺自身も全く知らんが…えぇ?何故今日あったはずの俺の名前を知っているんだ?フロイド?」
「はい。フロイドです。ミスター・コッポラ。」
問うた、は良いものの途中から決定的な違和感を覚えたジタンは着地点を変え、今日初めて教えた自分の名を当然の如く知っていたフロイドに自身との面識があるのか確認を取った。答えは是。
「あぁ、なぁフロイド…もしや君は以前に、俺に会ったことがあるのか?」
「はい。それも何度も。」
ジタンは驚いたり、過去の自分への興味が湧いたりと忙しかったが、今は目の前のフロイドと名乗った自身と面識がある人物が、過去の自分とどれだけ関わり深い者なのか探りたかった。
家族…ではないが、少なくとも何度も会うくらいには誼があったことが確認でき、満足したジタンは少し茶目っ気を出すように周りを手で示しながら言った。
「……にわかには信じがたいな。だが、助けて貰って言いにくいんだがここには何の用で?商売のために来てたような気がするんだが…相手を殺しちゃ元も子もないだろうに。」
言っていてジタンは首を傾げた。おや、どうしてフロイドが驚いているんだ、と。
「え?殺した?誰が、誰をですか?」
「え?海賊殺したのは君達じゃないのか?」
フロイドは困惑して尋ね帰すが、更に困惑したジタンがこれに返す。
出掛かった答えがアブナイことに商人の勘で気づいたフロイドは、敢えて藪蛇になるようなリスクを避けて口を噤んだが、そこに容赦なく爆弾を投下する者が居た。
「あら?ジタン、貴方自分でやったんじゃない。海賊を一人で皆殺しにしたこと…覚えてないのかしら?」
「は?」
フロイドの護衛の屈強な女性。チェキータがそう言った。ジタンは信じられないとばかりに口を開いて固まってしまった。
「し、失礼します。少々、相談しなければいけない事案が出来まして…。」
呆然としたジタンから引き離すように、フロイドはレームも連れて小屋の中に撤退した。