斬 殺 サムライ・ダークネス   作:馬路まんじ……?

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「刺身の……ッ、旨味が、旨い……!」

 

『やはり感想力が死んでるなぁ貴様』

 

 街道を突っ走った後のこと。無事に横浜に辿り着いた俺たちは、港近くの定食屋で夕食を取っていた。

 今晩のおかずは『刺身の船盛』なるものだ!

 船を象った木の器の上に、色とりどりなナマの魚の肉がいっぱい並んでいる。

 それを机の中心に置き、九尾に真緒(マオ)についでに蘆屋(あしや)とご飯片手に突っついていた。

 

「魚とはナマで食えるんだな。ほれ九尾あーん」

 

『あーん……むぐッ、これは、旨味がすごい……ッ!』

 

 白いほっぺを持ち上げる九尾さん。幸せそうで何よりである。

 真緒もそんな九尾に微笑ましげだ。

 

「あははっ、九尾さんってばそれじゃあシオンと感想一緒じゃん! ……ちなみに蘆屋はどうなわけ? ずっと黙って食べてるけど」

 

「普通にうめぇよ。まぁテメェのツラ見て今吐きそうになったが」

 

「死ね」

 

 ――瞬間、バチィッと激しく箸をぶつけ合う二人。「「やんのかテメェッ!?」」と吼えながら幾度も激突する。

 

『仲悪いなぁあの二人……。あれで無事に妖魔を狩れるかどうか。おいシオンよ、あの二人についてどう思う?』

 

「元気ですごいと思いました」

 

『もう貴様に感想は聞かんッ!』

 

 こうして俺は騒がしい空気を楽しみながら、美味しく刺身を平らげたのだった。満腹!

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 夕食を終えた後のこと。お腹を撫でる俺と九尾と、あとぜェーはァーと息する真緒と蘆屋が定食屋を出て少し歩いた時のことだ。

 俺たちの前に、突如としてシュタッと黒ずくめの男が現れた。

 お、なんだなんだ? なんか鳥の面なんてしてるんですけど、怪しいし敵か?

 

 

「やれやれ、ずいぶんと騒いでくれるでござるな。陰陽師は機密の仕事だというのに……」

 

 

 肩を竦める黒ずくめさん。真緒も蘆屋も特に構えないあたり、どうやら敵ではないようだ。

 ……ていうか俺、この人みたいなののこと見たことあるぞ。

 

「あ、俺が本部に来たとき拘束してきた人たちと、同じ格好だ」

 

「うむ如何(いか)にもッ! 我らは妖魔伏滅機関『八咫烏』の屋台骨、その名も隠密機動部隊『鴉天狗(カラステング)』であるがゆえッ!」

 

 じゃじゃんッと謎の音を口で叫ぶ鴉天狗さん。

 なんだか面白い人だ。恰好は黒ずくめなうえ鳥の面で顔も見えないのに、中身は気さくで明るそうだぞ。蘆屋くんも見習いなさい?

 

「ってうっせぇよッ! つかなにが屋台骨だよ、鴉天狗なんざ雑用じゃねえか」

 

「むぐっ……そう言われるとショックでござるな。まぁたしかに、拙者らの仕事は情報収集に戦闘後の証拠隠滅と地味であるがゆえ……」

 

 ニニーン……と変な鳴き声を出す鴉天狗さん。やっぱり面白い人だ。

 あぁそういえば。

 

「すまん。証拠隠滅が必要ということは、やはり妖魔との戦いは秘密なのか? 天草さんって人も人払いの札を撒いてたし」

 

「って知らなかったでござるか!?」

 

「知らなかったでござるよ」

 

 そう頷くと、鴉天狗さんは「あぁ、そういえば噂のシオン殿は組織に入ったばかりの身。でも清明殿、少しは説明しておいてくれでござるよー……相変わらずめんどくさがりな……!」と納得したり唸ったりした。もの知らずでごめんね。

 

「ごほんっ、では拙者から説明を。――陰陽師および妖魔の存在は、世間に広まらぬようずっと隠蔽工作されてきたんでござるよ」

 

「ほほう」

 

 たしかに、俺もまったく知らなかったしな。九尾の妖狐を見た時には“化け物ってホントにいたんだ”って驚いたし。

 

「秘密である理由。それは、人々の『恐れ』を減らすためでござる。妖魔とは様々な負の感情、とりわけ恐怖や畏怖から湧き出るモノであるがゆえ、戦国のあたりから情報を広めないようにしたんでござるよ」

 

「ほほほう」

 

 なるほどな。たしかに化け物が実在して暴れてるとなったら、人々の恐怖も半端ないか。

 

「尽力の末、かくして妖魔は怪談話に登場するだけの存在に。また、結果的に陰陽師が妖魔と戦っている事実も秘され、陰陽師は眉唾なオカルト職業ということになったでござる」

 

「おかると」

 

 呟くと、真緒が耳元で「神秘的とか、悪く言えば怪しいって意味だよ」と教えてくれた。優しい。

 

 

 “――まっ、その隠蔽工作もいい加減に限界だけどねー”

 

 

 と、その時だ。懐から清明さんの声が響いた。鴉天狗さんが飛び跳ねる。

 

「ぬおっ、清明殿!? どこにいるのでござるか!?」

 

 “栃木県への列車だよ。ただ、この子たちには『通信札』っていう開発中の札を持たせててね。遠くの相手とやり取りできるんだよ”

 

 めんどくさがりで悪かったねー? と笑いながら言う清明さん。それに隠密衆さんはビクビクだ。

 

 “……ともかく、情報工作はもう限界だよ。今や、世界人口は何十億人と増え、さらには撮影機(カメラ)なんてモノが開発されちゃったんだからね。もうこのままじゃいられない。いずれ新しい時代が来るさ”

 

「新しい時代、でござるか?」

 

 “ああ。でも僕は、来るのを待つより()()()()ほうが好きでね。色々行動を……あっ、駅弁ください!”

 

 まいどーッ、という知らない人の声が懐から響いた。「えきべん?」と呟きながら蘆屋を見ると、意味を教えてくれずにフンッと鼻を鳴らされた。あと88万3208秒。

 

 “というわけで……シオンくん、キミも色々行動してみなさい。(うなぎ)の味を思い出して生きたくなったように、素敵な経験は命に重さを与えてくれる。気力が湧いて、例の目的以外にもやりたいことが見つかるかもだ”

 

 例の目的……俺が九尾復活を願っていることか。

 周囲には()()秘密にしろと言われた。

 ふむ。清明さんの意図はよくわからないが、まぁ。

 

「わかった。任務をこなしながら、色々食べたりしてみるよ」

 

 “ははっ、食事以外にも楽しみなさい! それじゃ、みんな元気でねー”

 

 ブツッと清明さんの声が途切れる。色々謎の多い人だか、俺にとってはいい人だからきっといい人だと思った。

 

『なんだか我、食ったら眠くなってきたぞぉ……』

 

「そうか。道中といい、なんだかよく寝るなぁ九尾?」

 

 今朝も二度寝してた気がするが、まぁいっぱい寝ることはいいことだ。気にすることでもないか。

 

「明日から頑張って妖魔を斬ろう」

 

 ――こうして、俺たちの横浜での夜は更けていくのだった。

 

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