斬 殺 サムライ・ダークネス   作:馬路まんじ……?

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17:カムイカグラ

 

 

 

 

 

 ――深夜二時過ぎ。闇への恐怖が最も強まる『丑三つ時』より、妖魔共の本格的な活動は始まる。

 場所は栃木の小規模な農村。ガス灯すらも存在しない文明の僻地は、妖魔共にとって格好の餌場だった。

 

『コロセェエエエエエエッッッ!!!』

 

『オォォォォォオオ――ッッッ!』

 

 突如として上がる雄叫び。夜闇の中より現れたのは、恐るべき鬼の軍勢だった。

 

『ヤレッ!』

 

 屈強な赤鬼の下、矮躯の黒鬼集団が駆ける。目に付く住居に次々飛び込み、眠る人々に襲い掛かる。

 

「なッ、なんだァーッ!?」

「鬼ィッ!?」

「うわああああああああーーーッ!」

 

 そして(こだま)す断末魔。魂切(たまぎ)る叫びの数々が、鬼の集団を酔わせていく。

 これぞ彼らの生命活動。人々の恐怖より産まれ、人々の殺傷に熱を上げる事こそ、妖魔共の本能なのだ。

 

『アァ悦いゾッ! 人間ノ恐怖コソ我らガ滋養ッ! 魂が充実シテいクゾォオオッ!』

 

 響く絶叫が堪らない。香る血臭が堪らない。これぞ妖魔にとっての歓び。

 赤鬼は恍惚と身を捩じらせると、惨劇の空気を味わうように大きく吸い込んだ。そして。

 

『妖術解放【鬼火玉】ァッ!』

 

 鬼の口より炎弾が(はし)る。首を振りながら無数の火の玉を吐き散らし、目に付く民家を焼き払っていく。

 

『カハハッ! ハハッ、ハハハハーーーッ!』

 

 強くなる絶叫。肉の焦げる悪臭。夜闇の中で燃え上がる集落。

 もう、赤鬼の絶頂は止められない。配下たる黒鬼たちすら巻き込みながら、殺人欲を満たしていく。

 これぞ赤鬼。その単純かつ妖魔らしい暴虐性こそ、赤鬼が“かの組織”でもある程度の地位に居座れている理由だった。

 

『息ある者ヨ、死ス前に聴ケ。我こそは妖魔赤鬼。大妖魔衆『天浄楽土』における、六尽将(ロクジンショウ)が候補ナリッ!』

 

 名乗ると同時に、さらに炎弾の勢いを強めた。

 さぁ死ね。そら死ね。焼けて死ね。我は恐怖に歪んだ焼死体が大好きなのだ、その顔を舐め回しながら焦げた肉を貪るのが堪らないのだ。死骸を晒せや人間と、歓喜の叫びが止まらない。

 

 あぁこれからも殺してやろう。人類全てを皆殺しにして食い散らし、更に力を高めてやろう。

 そして『天浄楽土』の頂点にすら立ち、かの『九尾の妖狐』が如き伝説の存在になってやろう。

 

 そう叫びながら、赤鬼が更なる虐殺に励まんとした――その時。

 

 

「お前じゃ、無理だよ」

 

 

 瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ナッ!?』

 

 絶叫すらも許されぬ即死。乱れて舞い散る、同胞たちの肉片と鮮血。

 

 かくして、血肉の桜吹雪が舞う中――大陰陽師が、現れる。

 

「やれやれ。仕事を速攻で片づけて『殺生石』見に旅行に来たら、調子こいてる雑魚発見か」

 

『ッッッ……!?』

 

 惨劇の場に現れたのは、傘を差した黒き洋装(スーツ)の青年だった。

 降り注ぐ肉片を「汚いなぁ」と傘で防ぎ、端正な顔に愁いを帯びさせるその男。

 顔は知らないが――恰好で判る。何より感じる霊力で判る……!

 

『キサマ、『八咫烏』の陰陽師か……!? そレも、かなり高等ナ……!』

 

「ご名答。――僕こそ特等陰陽師が筆頭、安倍 清明(あべのせいめい)様だよ」

 

 あべの、せいめい。

 その名を聞いた瞬間に、赤鬼の身に怖気が走った。興奮に熱くなっていた身が、冷や水を浴びせられたように震える。

 

『嘘、ダ…………!』

 

 ああ、かの存在こそ陰陽師たちの頂点。人類最強とも呼べる存在。

 恐怖から産まれた妖魔すらも恐れる、まさに人外共にとっての死神だった。

 

「はい失格」

 

 そして、唐突に突き付けられる落第。

 震える赤鬼に対し、清明は「駄目だ駄目だ」と肩を竦めて言い放つ。

 

「お前マジで才能ないよ。まず強敵と出会ったからって、そうやって固まる時点で駄目だろ。即座に逃げるか速攻狙えよ。部下も散らさず周囲に置けよ。そもそも夜に暴れてる時点でダサいよ。文明(ガス)の光はいずれ田舎にも届くんだからさ、今のうちに昼間に動く練習しようよ? 夜より幾分弱るだろうけど、そこは知恵と工夫で()り方を考えてさぁ」

 

 駄目だ駄目だ。それじゃお前は雑魚のままだ――と、清明は赤鬼の全てを否定した。

 

『ッ、ナンダトキサマッ!』

 

 これには赤鬼も黙っていられない。

 怒りの感情で恐怖を断ち切る。所詮は獲物(エサ)のニンゲン風情に馬鹿にされたままで堪るかと、妖魔としての矜持が吼えた。

 あぁ、ならばやってやろう。今こそ貴様を打倒して、天下の清明討ち取ったりと叫び妖魔界を震撼させようとそして組織の頂点に立つのだ伝説になるのだと夢想しながら突撃し――

 

「はい駄目」

 

 瞬間、赤鬼の両足が爆散した。

 その場に勢いよく倒れ、まるで清明に(こうべ)を垂れるが如き体勢となる。

 

『ナッ、なぁ……!?』

 

「話聞いてから襲ってきてんじゃねえよ。話する隙を見せてやったんだから、その途中で襲って来いよ。あと絶対に脳内でごちゃごちゃ考えてるだろ? それじゃぁ駄目だ。『殺す』と決めたら、殺意(ソレ)一色で思考を染めろ」

 

 たとえば()()()のように――と小さく呟きながら、清明は鬼を見下ろした。

 

「お前を生かしたのは、『天浄楽土』の情報を探るためだ。本拠地とか構成妖魔の総数とか能力とか、そういうの知らない?」

 

『ッ……知ッテル、が、()()()……! 大首領様の、術によリ……ッ!』

 

「あぁそ」

 

 やっぱりお前もかぁ~と、さして失望した様子もなく清明は諦める。

 

 そこは既に判っているのだ。

 “世界支配”を目論んでいるらしい大首領なる存在が、『絶対的な命令』を下せる能力を持つと。

 果たしてそれは口をつぐませられる程度なのか。あるいは複雑な命令も可能なのか。

 詳細は未だに不明だが、油断ならないのは確かだった。

 

『タッ、タノムッ! 陰陽師共の式神とヤらにデもなっテやるからッ、命ダケハ――!』

 

「黙れ、悪党」

 

 瞬間、爆滅する鬼の両腕。人々の声が消えた廃墟に、赤鬼の悲鳴が響き渡った。

 

「さてと。この様子じゃ、生き残りはもういないか。……せめて故郷と仇ごと、あの世に送ってやるのが慰めかな」

 

 清明の瞳が金に輝く。その視界は村全体を、そして赤鬼を鋭く捉えた。

 

『なッ、ナニヲ……!』

 

 四肢を失った赤鬼が震える。

 何か、恐ろしいことをしようとしている。だがもはや逃げることも出来ず、ひたすら恐怖におびえ続け……そして。

 

 

「巫装展開」

 

 

 悪しき妖魔の、生涯が終わる。

 

 

「術式巫装――【神威神羅(カムイカグラ)】」

 

 

 ――かくして、この夜。

 一つの村が、欠片も残さず消滅したのだった。

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