斬 殺 サムライ・ダークネス   作:馬路まんじ……?

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「気に食わねえ、気に食わねえ、気に食わねえ……!」

 

 深夜二時過ぎ。青年・蘆屋鋼牙(あしやこうが)は、妖魔討伐に向かうべく仄暗い宿の廊下を歩いていた。

 

「なんでオレが、妖魔(もど)き共と共闘しなきゃいけねぇんだよ……!」

 

 夜闇に響く荒々しい足音。呟き漏れる苛立ちの声。

 それらは宿の無関係な客たちの安眠を妨害するものだったが、知ったことか。

 

「オレ様は、千年続く陰陽の名家・蘆屋家の末裔だぞ……ッ!」

 

 それなのに、どうしてと。蘆屋は呻きながら立ち止まってしまう。

 

 ――蘆屋家。平安の時代より、千年近くも妖魔伏滅機関『八咫烏』に人材を送り続けてきた一族である。

 そこに産まれた鋼牙は、幼き頃より様々な修練を積まされ、満を持して陰陽師の世界に送り出された期待の星だ。

 等級は最初から二等陰陽師。通常は三等から始まるのだが、蘆屋の戦闘力は現場に出る前から高いものだった。

 指導役には特等陰陽師の天草を付けられていた。機関でも七人しかいない、偉大なる大陰陽師の一人だ。

 

 ああ、自分は恵まれている大天才だ。期待されている未来の英雄だ。

 ならばこそ――大活躍していくと、思っていたのに。将来は明るいと、信じていたのに。

 それなのに……初任務にて、侍姿の『あの男』に出会った時から、全てがおかしくなってしまった。

 

 

「四条、シオン……ッ!」

 

 

 握った拳が軋み上げる。脳髄が殺意で溢れそうになる。

 

 あぁそうだ。全てはアイツのせいなんだ。

 巫装が暴走してしまったのも、大怪我を負ったのも、そして真緒という実験動物の(メス)の血を飲まされて貸しが出来てしまったのも。

 一人で次々活躍していくはずが……『欠点』を埋めるために、仲間を作らされたのも。そんな恥辱を味わうことになったのも。

 

「テメェのせいだ、シオン……! 天才のッ……期待されてたオレ様の経歴に、泥を塗りやがってェェェ……ッ!」

 

 ――殺してやる。

 ああ、殺してやると蘆屋は決めた。決めていた。

 この任務中のどさぐさに紛れ、シオンを殺害してやろう。真緒にばれたならあちらも必ず殺してやろう。

 そうだ、それがいい。そうしなければと決意する。そして任務を一人で解決してやるのだ。

 今回の敵は大妖魔衆『天浄楽土』の元幹部らしいが、所詮は脱落者。自分なら何とかなると蘆屋は信じていた。

 

「よォし……やってやる……()ってやるぜ……!」

 

 これで経歴の汚点はチャラだ。栄華の道はここから始まるんだ。

 ゆえに、さぁ行こう。敵を殺しに。仲間を殺しに。

 

 そうして尊厳を取り戻すのだと、蘆屋が暗い廊下を抜けて、月光の差す外へと出た……その瞬間。

 

 

「――来たか、蘆屋」

 

 

 ヒィッ、と。音がした。

 それは自身の喉から出たモノであることに、蘆屋は数瞬してから気付いた。

 

「俺は、未熟だ。妖魔に対する知識も見識も全くない。(ゆえ)に蘆屋よ、至らぬ俺にどうか力を貸してくれ」

 

 丁寧な言葉が尽くされる。声音に誠意が溢れている。

 その声の主は――月光の下に佇む、四条シオン。これから殺そうと思っていた相手()()()

 

如何(どう)したんだ、蘆屋。黙ってないで、答えてくれよ」

 

「あッ、いっ、いやッ……!?」

 

 舌が全く回らなかった。気付けば身体が震えていた。

 月の光を背にした怨敵(シオン)。それゆえ彼の顔には影が差し、その面貌がよく見えなかった。見えなくてよかったと思った。

 

「がっ……頑張ろうぜ、シオン……! 一緒に、妖魔を倒してやろう……!」

 

 まるで似合わない言葉が出た。無意識のうちに、蘆屋は作り笑いさえも浮かべてしまっていた。

 あぁそうだ。今の『アレ』に悪態なんて吐けない。殺そうなんて全く一切思えない。

 

「嬉しい言葉だ。有難(ありがと)う、蘆屋」

 

 仄かに緩むシオンの口元。蘆屋の脳裏に、牙剥く獣の姿が(よぎ)る。

 

「頑張って、妖魔を、殺してやろうな――?」

 

 ……その言葉に込められた殺意の量が、吐き気を催すほど濃くて。

 

「あっ、あぁ……!」

 

 蘆屋の歪んでいた心は、完膚なきまでに砕けてしまったのだった。

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

「――わッ、我ら『鴉天狗』の諜報により、目標妖魔の大まかな居場所は掴めているでござる。あとは、陰陽師様らの『霊視』によって、正確な特定をしてくだされば……!」

 

 黒ずくめの身をなぜか震わせる鴉天狗。宿の前に集まった蘆屋も真緒も、同じような様子だった。

 まぁ、いいか。みんな妖魔討伐に当たり、緊張感が高まっているのだろう。腑抜けているより良いことだ。

 

「鴉天狗よ、霊視とは?」

 

「あっハイ! 霊視……それは『陰陽魚』を飲んだ陰陽師様たちだけに出来る、特殊な技能でござる。心の目を凝らし、妖魔の漏らした妖力の残滓を視ることが出来るでござるよ」

 

「ほう」

 

 ……そういえば蘆屋と出会った時、ヤツは俺から妖気が漂っているだの言っていたな。

 なるほど。その霊視とやらを使って見抜いた結果というわけか。

 

「――シ、シオン。霊視は人を超えた技能の一つで、使えるようになるには訓練が必要なんだ。だから索敵は、僕と蘆屋に任せてもらってもいいかな……?」

 

 おずおずと声をかけてくる真緒。

 どこか気遅れた様子なのは、出来ない俺に恥をかかせることを躊躇ってのことか。本当にお前は優しいな。

 だが。

 

「三人で探したほうが効率的だろう。だから、挑戦だけはさせてくれないか?」

 

 俺は、夜が明ける前に妖魔を狩らねばいけなかった。優しい九尾に明日の光を拝ませるため、どんな手すらも尽くしておきたい。

 

「やり方を教えてくれるだけでいい、頼む」

 

「う、うん。……まずは目を閉じて、ゆっくりと深呼吸するんだ。そして両目に全神経と血流を集中させて……」

 

 真緒の言葉に従っていく。

 瞼の裏。闇に包まれた俺の両目に、熱き血潮が流れ込んでいく。

 

「そして、目を開ければ――」

 

「出来た」

 

「は!?」

 

 開眼完了。今や俺の両目には、街の一画より立ち昇る闇色の気が見えていた。

 

「居場所は掴めた、いくぞ」

 

「ちょっ、居場所は掴めたって!? えっ、僕の霊視にはまだ何も映ってないのにッ!?」

 

 斬殺すべく駆け出した。背後より「どこ行くのッ!?」と叫ぶ真緒と、「いや、あの行き先は拙者らが怪しいと見込んでいた方角……!」と呻く鴉天狗の声が聞こえる。

 

『なるほど……シオンよ、貴様の巫装の能力は、『刃の硬質化と、視力の強化』だったな……』

 

「九尾」

 

『特に、強化系の巫装の異能は、巫装展開していない時にも強化部位に影響を与えると聞く。ゆえに眼を使う霊視も、即座に習得できたわけか……』

 

 ……そうなのか。これは巫装のおかげだったのか。

 

「感謝すべき、だな」

 

 黒蟷螂(クロカマキリ)を模した己が装備に礼をする。

 お前のおかげで九尾との戦いを乗り越え、そして今回は九尾を救うことが出来そうだ。

 喰密刃(クラミツハ)と違って意思はないようだが、それでもお前に感謝だよ。

 

「あと九尾、弱ってるんだから喋らず寝てろよ。まさか俺が心配だったか?」

 

『……そうだと言ったら?』

 

「とても嬉しい……ッ!」

 

 地を蹴る足に力が籠る。立ち並ぶ民家すらも足場と変えて、最短最速で目的地に駆けて行く。

 

 妖魔の気配がするのは――見上げるような、高層建築物。

 街に来たとき、アレはなんだと真緒に訊ねたら“ビルディング”と教えられたモノだ。

 

「乗り込むぞ」

 

 かくして俺は、夜闇の中を突き進んでいったのだった――。

 

 

 

 

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