斬 殺 サムライ・ダークネス   作:馬路まんじ……?

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20:血凱法権

 

 

 

 

 ――横浜。そこは1858年:日米修好通商条約をきっかけに、数多くの外国人駐留者たちを港より迎え入れることになった土地である。

 人が入れば技術も入る。いつしか横浜には異国の技を用いた建築物がこぞって建てられ、外国人街として独自の発展を遂げていた。

 

 その中心部。海外でも真新しい『鉄筋コンクリート技術』を用い、堂々と建てられた高層建築物(ビルディング)があった。

 さる海外貴族の女社長が建設した、貿易会社ビルとされているが……その実態は――

 

 

「――血よッ! もっと血をブチ撒けるのよォォォオオーーーーッ!」

 

 

 吹き抜けの第一階層(エントランス)に響く女の声。

 それに合わせ、無数の『赤き鎧』たちが捕らえられた少年らの首を刃で裂いた。

 そして、魂切(たまぎ)る絶叫。首の穴から断末魔と共に大量の鮮血を噴き散らし、ビル内を血臭で染め上げていく。

 

「ん~んッ、甘美(スイート)♡ (わらわ)感激ッ! オトコノコの血の香りは(たぎ)っちゃうわねぇ~♡」

 

 悲鳴もとっても可愛いワ、と。惨劇の舞台の中心で、赤髪の貴婦人は淫らに笑う。

 

 ――彼女こそ、『英霊型妖魔』エリザベート・バートリー。

 

 数百年前、己が嗜虐心を満たすために数百人の領民を拷問殺害した、人類史上最悪に近い殺人鬼である。

 当然ながら人々からの恐れを十分すぎるほど掻き集め、今や彼女は妖魔として転生。人の枠を超えた化け物として、日本の地で悪逆を続けていた。

 

「はァ、日本はいいわねェ。メージ維新っていうの? ソレのおかげで混乱中で、浮浪児の一人や二人や三人や百人を拉致って(なぶ)って殺しても、バレにくいし~♡」

 

 指を鳴らすエリザベート。すると、床に撒き散らされた鮮血が座椅子の形に変化した。そこに彼女は腰を下ろし、周囲に鎧たちを(かしず)かせる。

 

「『断罪教会』の連中と違って、陰陽師とやらは人手不足みたいだしねェ。そして連中の『霊視』って技術は、建物の中の妖力までは見抜けない……!」

 

 エリザベートは虐殺を邪魔されるのが嫌いだ。

 日本に来たのは、個々の戦闘力が低い代わりに信徒を無数に集めた海外退魔組織『断罪教会』より逃げるため。

 そしてビルを建設した理由は、陰陽師らの霊視より逃れながら残虐行為を楽しむためである。陰陽師の走狗である『鴉天狗』という連中も、表向きには会社である場所には早々踏み入ることが出来ない。

 

 逃亡と隠れ蓑の建設。どちらも全く容易なことだった。

 前者の逃亡劇は()()()()()()()()ことで成し遂げ、後者のビル建設は()()()()()()()()()()()()ことで成し遂げた。

 今のエリザベートには、それが出来る。

 

「完璧なる日々は近いわァ……!」

 

 どこからともなく血入りの鉄杯を取り出し、一気に(あお)る。

 口内に広がる甘い味。ソコに宿った死に際の人間の恐怖と怨嗟が、妖魔たるエリザベートを強くする。

 

「さぁ兵士たち、保管庫から次の人間(ワイン)を持ってきなさい。今宵はたっぷり味わうんだからァ……!」

 

 血の貴婦人の言葉に従い、赤鎧たちが立ち上がる。

 地下で怯える哀れな子供ら。その身を裂いて、悲鳴と鮮血を絞り上げるべく。外道婦人の従者らは歩き出さんとした。

 

「あぁ、この調子で妾強くなる……! 信徒共も陰陽師共も敵わない存在になり、そしていずれは、『天浄楽土』の者たちを見返せるような大妖魔に……ッ!」

 

 完璧だ。完璧なる人生設計だ。

 自分は今、着実に栄光への道を突き進んでいるのだと。誰も邪魔できない絶対悪なる存在に近づいているのだと、血の貴婦人は凄惨に笑う。

 

 かくして、エリザベートの悪逆の日々は――

 

 

「斬る」

 

 

 この日、終わりを迎えることになる。

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 ――斬撃百閃。鍵の掛けられた入り口を斬り刻み、俺はビルの中へと入った。

 

「見つけた」

 

「はっ……はァッ!?」

 

 妖魔を探すまでもなかった。

 入ってすぐの大広間で、赤髪の女と数百体の鎧たちが血まみれで楽しそうにしていたのだ。

 

「なッ、何よお前は!? 陰陽師ッ!? どうしてこの場所のことがッ!?」

 

 喚く女の口に付いた血潮。辺りに倒れた無数の少年たちの死体。どう見ても悪徳を成しているのは明らかだった。

 じゃ。

 

「斬る」

 

「なァッ?! へッ――兵士たちよッ!」

 

 女を斬り裂く直前、鎧の群れが俺の前に立ちふさがった。

 当然の如く斬って斬って斬り伏せる。

 剣を振り上げてくる腕も、こちらに踏み込んでくる足も、全て斬って地に伏せさせる。

 

 だが。

 

『アァアァアアァアァアァァァ……ッ!』

 

「何?」

 

 復活を果たす鎧の群れ……。

 落ちたはずの手足が蠢き、胴体へと再接合を果たしたのだ。

 こいつらは何だと訝しむ。断面を見れば、中身すらも存在しなかった。これは明らかに異常だ。

 まぁ考察は後。群がられる前にとにかく斬る。

 

「シオン、無事っ!?」

 

「お、おいテメェ先走んな!」

 

 少し遅れて真緒(マオ)蘆屋(あしや)が追い付いてきた。彼らは俺に斬られては蘇る鎧軍団を見た瞬間、「なんだこりゃ」と同時に顔を青くした。

 

「見ての通り、斬っても斬れない面倒な連中だ。十中八九――あの女妖魔が仕掛け人だろう」

 

 数百体の鎧の壁に守られた先、気付けば部屋の奥に逃げていた妖魔のほうを睨む。

 まったく面倒な事をしてくれる。俺には時間がないというのに。

 

「チッ、妾の(ビル)に次から次へと……! 不愉快だッ、死ねぇッ!」

 

 指を鳴らす女妖魔。すると足元に散らばった血が無数の杭となり、俺たち目掛けて飛んできた。

 俺は咄嗟に全て斬るが――蘆屋と真緒は、無事では済まなかったようだ。

 

「くっ……なるほど、血を操る妖術か……。その鎧たちも、ソレで動かしてるわけだね……!」

 

 苦しそうに呻く真緒。見たこともない拳法で大半の杭をはたき落していたが、それでも白い手足の複数個所に掠れてしまったらしい。

 そして蘆屋は、

 

「なッ……舐めんじゃねぇぞこの野郎ッ!」

 

 驚くことに、蘆屋も杭の大半を落とし躱してやり過ごしていた。真緒と同じく細かな傷もあるが、それでも重傷は負っていない。意外だ。

 

「蘆屋、お前のこと弱いと思ってた」

 

「ってふざけんじゃねぇぞッ!? オレ様は幼少の頃から戦闘訓練を積んできてだなぁッ!」

 

 おお、そうだったのか。

 

「見直したぞ、蘆屋」

 

「はッ、はぁッ!? テメェに見直されても嬉しくねえよカスボケ(ざむらい)ッ!」

 

 カスボケ侍と言われた。うーん。

 

「あと86万8720秒」

 

「って何の数字だよッ!?」

 

 ギャーギャーうるさく喚く蘆屋。よし、先ほどまでは何やら緊張しすぎているように見えたが、この調子なら大丈夫そうだ。

 ……俺も九尾を想うあまり熱くなりすぎてたかもだから、ちょうど良かったよ。

 

「蘆屋、真緒。お前たちの力を貸してくれ。この鎧共を一気に吹き飛ばし、妖魔本体を叩くぞ」

 

「うんッ!」「命令すんなッ!」

 

 正反対の反応をしつつ、共に俺の側まで駆け寄ってくれる二人。

 蘆屋は手袋に包まれた拳を、真緒は袖口から二丁拳銃を出して構え、鎧の群れに対峙する。

 

「――チィッ、いい気になるなよ人間共ッ! このエリザベート様の城に踏み込んだ愚行(コト)ッ、後悔するがいいわァッ!」

 

 エリザベートなる妖魔が吼える。全身から闇色の妖気が噴き出し、真紅の髪が逆巻いて波打つ。

 

「血ッ、血ッ、血ィッ! 貴様たちの血も妾に見せろッ! ――妖術解放【血凱法権(ブラッド・ヴァース)】!」

 

 瞬間、赤鎧共が激化を果たす。装甲各部が凶悪に尖り、蜚蠊(ゴキブリ)の如く蠢きながら殺到してきたのだ。

 さらには周囲一帯に撒き散らされた血も様々な鋼鉄具と化し、俺たちに襲い掛かる。

 

「死ねェ人間共ォオオオオオーーーーーーッ!」

 

 鮮血妖魔の放つ怒号と押し寄せる殺意。

 それらを前に、俺たちも負けじと声を上げる――!

 

『巫装展開――!』

 

 丑三つ時の横浜にて、全力の戦いが幕を開けた。

 

 

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