斬 殺 サムライ・ダークネス   作:馬路まんじ……?

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第四章 ―陰陽師の日々―
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「なるほど……! 脳器官『黒芒星』を食べた結果、妖魔の意識と繋がることが出来たのかっ!」

 

 興味深いッ! とうるさく叫ぶ清明さん。元気そうで何よりだ。

 

 ――エリザベート討伐より一日。俺は妖魔伏滅機関『八咫烏』に帰還していた。

 そこで同じく帰ってきた清明さんとばったり遭遇。今は自室に清明さんを招き、茶を飲みながら報告会をしていた。

 ちなみに九尾は元気になって、今は机の中心で茶菓子バクバクしてますね。かわいい。

 

「いやー、普通の人間なら妖力の塊である『黒芒星』を飲んだら死ぬからね。式神――あぁ、機関に隷属を決めた妖魔ね――に飲ませてどうなるか実験したところ、そちらは弾けてしまったよ。血液型のように妖力にも『型』があるらしく、個々で反発するようでね」

 

「ほほう」

 

 ……なんかこの人さらっと怖いこと言ったな。

 ともかく、俺は初の生存例らしい。

 

「ちなみに妖力同士は反発し合う性質にあるが、真緒(マオ)やキミのように人間に対しては定着することがあってね。これは妖力の性質が『人を傷付け、犯すモノ』だからとされているんだ。逆説的に傷付けるラインさえ耐えきれば人体に定着するわけだね。でッ、キミは九尾という特大の妖力の塊に適合できたわけだからッ、ならば他の妖力でも死ぬことなく取り込みまた人体という『金型』を通すことで個々の妖力の型を定型化して腹の九尾に取り込ませられるという予想はやはり正解で――!」

 

「清明さん、わからないわからない」

 

 ノリノリな清明さんを(いさ)める。

 前にもこんなことあったが、俺は学がないので専門的な話をされても理解不能だ。

 

『ふむ……陰陽師見習いだという(あきら)もその理論を語っていたな』

 

「九尾?」

 

 ここで意外なことに、清明さんの話に九尾が理解を示した。

 明ってたしか平安時代の友達だったって人か。九尾は清明さんのほうをちらりと見る。

 

『平安京を抜け出しては妖魔(われ)のところに遊びに来るような謎の女でな。貴様のように、よくわからん理論をベラベラと語っておったわ』

 

「ほほーう、それは気の合いそうなレディだ。で、九尾くんは明女史(じょし)の理論を覚えていたため、シオンくんに取り込まれても諦めずに妖魔食いを提案したと?」

 

『そうだが?』

 

「……平安時代から八百年も言葉を覚えてるとか、キミちょっと友達思いすぎない?」

 

『ってうっさいわッ!? 調子に乗るなよクソ安倍晴明の子孫がァーッ!』

 

 ギャーギャー喚く九尾さん。茶菓子の食べかすを清明さんに投げつけ始めた。羨ましい。

 

「イタタタタタッ……!? とっ、とにかくシオンくん、エリザベートの心を覗けたのはお手柄だ。大妖魔衆『天浄楽土』の情報について、何か重要なモノはあったかい?」

 

「いや微妙だ。意識が繋がったのはほんの一時だったし。だが、分かったこともある」

 

 食べかすまみれの清明さんに語る。

 彼女が『七大幹部』とやらに任じられたこと。そして、ヴラド・ツェペシュなる男に完敗したことを。

 

「大した情報じゃなく、申し訳ない。幹部就任を言い渡された時も、組織の長は天幕の中に隠れていて、顔もわからず……」

 

「っていやいやっ、『七大幹部』という単語が聞けただけお手柄だ。なにせ『天浄楽土』は徹底的に情報封鎖を行っていてね。幹部クラスの妖魔がいるとは知れているが、その総数は不明だった。敵の武将をいくつ潰せば王手を掛けられるかわかっただけ、大進歩だ」

 

 それに、と清明さんは続ける。

 

「ヴラド・ツェペシュ……これはマズい妖魔が転生してきたね。国を守るためにあらゆる非道を成し、自国民からも恐れられるようになったワラキアの魔将だ。こいつの出現を知れたのは大きい」

 

「ワラキアの魔将……」

 

 ――そう呟いたところで、頭が痛んだ。

 エリザベートの記憶が蘇る。長髪の男が大剣一本を振るい、彼女の鮮血兵団を一瞬で滅ぼす光景を。

 思えばエリザベートは、そんなヴラドの姿を俺に見て絶叫していたのかもしれない。

 

「よし、これらの情報は僕の口から機関に広める。……シオンくんが九尾復活のために妖魔を食べて、それで判明しました――なんて、伝えられないからねぇ……」

 

 苦笑いする清明さん。この人には世話になりっぱなしだな。

 

「手柄を横取りするようで悪いが、まぁそれを差し引いてもシオンくんは話題になっているよ。『機関に入って早々、大妖魔衆の元幹部を無傷で倒した』ってね」

 

「そうなのか」

 

 それは知らなかった。『八咫烏』に来て数日経つが、周囲の人からなんだか距離を取られてたし。

 

「ま、これでキミを認めてくれる人も増えるだろうさ。あぁそれと……」

 

 ドサッ、と。清明さんは机の上に、本の束を置いた。なんすかコレ?

 

「色んな教材の教科書だね。あと、機関のルール教本や陰陽界の歴史本なんかもある。――いやさぁ、実は鴉天狗くんから、『シオン殿はアンタが拾ってきたんだからちゃんと導け』ってガチ目に怒られちゃってね」

 

「鴉天狗さんが……」

 

 ござる口調のあの人を思い出す。清明さんに相当鬱憤溜まっている様子だったが、まさか面と向かってそんなことを。

 

「鴉天狗さん、俺のために怒ってくれたのか……。俺みたいな、不愛想なヤツのために……」

 

「あぁ、キミは確かに目が死んでるしぶっきらぼうにも見えるけど、でもその代わりに言動に嘘がないからね。いつも気持ちを真っすぐ伝えてくる。だから、真緒くんも鴉天狗くんも、キミのことが好きになったんだろう」

 

「そうか……」

 

 それはなんというか……こそばゆい。

 鼻先がかゆくなるというか、言葉にしづらい感情が湧いた。

 

「さて、というわけで時間がある時にだけキミに勉強を教えるよ。ホントは真緒くんと蘆屋くんに任せるつもりだったけど、二人は復帰まで数日かかるし」

 

 それに怒られた手前、ちゃんとしなきゃね――と。清明さんは苦笑する。

 

「では、よろしくお願いします、先生」

 

「先生かーっ!? それはなんだか気恥ずかしいなっ!」

 

 

 ――こうして、妖魔伏滅機関『八咫烏』での日常が始まったのだった。

 

 

 

 

 

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