ウマ娘じゃないよ。ほんとだよー   作:パンダコパンダ

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二話目です


無気力教師とタバコ

 競走馬。イナナキ。

 

 戦績は5戦5勝。勝ち鞍にはG1競争であるNHKマイルC、ダービー。そして、宝塚記念を持つ競走馬である。

 

 特徴は圧倒的な瞬発力とスタミナ。主に逃げ戦法にて先頭を走り、勝った5つのレースは全てワールドレコードという破格の記録。デビューは三月中旬。そこからわずか三ヶ月のみという短命であり早熟と言われる馬である。

 

 父はハービンジャー。母はメーヴェ。姉にはメロディーレーン。弟にはタイトルホルダーという血統。

 

 だが、そんな競走馬のことを知っている存在は居ない。

 

 僕が刻んだ三ヶ月の存在証明は、この世界じゃ誰の心にも刻まれていない。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 僕は無気力に、タバコの先端に火をつけた。

 

 トレセン学園の職員でありながら、タバコを吸う人間は少数派だ。なんせウマ娘は鼻がいい。基本的にタバコの匂いを纏わせてるのは嫌われる。いくら自分の吸っているタバコがバニラフレーバーだろうがなんだろうが、嫌がられる。

 

「タバコを吸う理由が、ただの人になりたいからって、末期だよな」

 

 僕には前世の記憶がある。それもはっきりと。

 競走馬として生まれ、3歳の6月まで生きた記憶が。

 

 考えうるに、僕が生きていたあの前世の世界とこの世界に生きるウマ娘達のウマソウルがあった世界は別なんだろう。だから僕はウマ娘になれず、人の体でウマ娘と同じ力を持ってしまっている。

 

「一番納得できる理由が馬鹿げてんだよなぁ」

 

 この体に宿る力に気付いたのは幼少期だ。同い年のウマ娘と駆けっこをしていた時、他の男の子達はウマ娘の子に追いつけないのに、僕だけが追いつけた。その話をウマ娘の子が自分の母に話したことで、自分が異質な存在だと気がついた。

 

「そういや、アイツはどうなったんだ?」

 

 競走馬時代、5回のレースで唯一負けかけたのは、ダービーだけ。その他は大差で勝利していたのに、あのレースの2着馬は僕のすぐ側まで来ていた。名前は……。

 

「名前は……」

 

「名前がどうしたんだ? イナナキ先生」

 

 名前を思い出そうとうんうん唸っていれば、声をかけられて顔を上げる。そこにいたのは飴を口に咥えた黄色いシャツの男。たしか、沖野トレーナー。スペシャルウィーク君のトレーナー。

 

「昨日の今日だな。なんか考えてたけど、どうした?」

 

「あー、いや、ちょっと勉強したウマ娘の名前が思い出せなくて」

 

 そう言えば、沖野トレーナーが当ててやる。なんて言い始めた。だから僕はいう。

 

「皐月が1着のダービー2着ですね。それだけは覚えてるんですけど」

 

「え? ならエアシャカールじゃないのか?」

 

 そんな即答で出てくるものか? とも思いつつ、その「エアシャカール」をネットで調べてみる。

 出てきたのは青と黄色が特徴の勝負服。なかなかパンクな感じのウマ娘だが、どうも違う。

 

「その感じは違うな。んじゃあ誰だ?」

 

 あ。この世界と違うからダービー2着じゃないかもじゃん。というか、生まれてない可能性もあるか?

 

「まあ、今思い出さなくても大丈夫なので、家に帰ってゆっくり考えます」

 

「そうか」

 

「ところで、トレーナーが喫煙所にいるのは不味いんじゃないですか? タバコの匂いで嫌がられますよ?」

 

「ああ、それに関しては多分大丈夫だ。昨日テイオーがお前からタバコの匂いがするって言ってたから、今日お前を探すために喫煙所行くって言ってるしな」

 

「というと、何か要件が?」

 

 僕が促してみれば、彼は彼で何か考える様なそぶりを見せる。

 

「あー。俺も俺でウマ娘探ししてんだけど……。なあ」

 

 くいくいっ、と人差し指を使って呼ばれたので耳を貸してみる。もちろん人耳。目の横についてるやつね。

 

「2400メートルを2分20秒台で走れる生徒って知ってるか?」

 

 そう言われて思った。絶対僕じゃん。

 

「いやぁ、流石に分からないですね。生徒が自分から何メートル何分だったって話してくれることはありますけど、2400メートル2分20秒は聞いたことないです。ちなみにそれって、早いんですか?」

 

「そのタイムはあくまでも俺の体内時計だから、参考にしかならないけど、ワールドレコードクラスだ。確か日本レコードが22秒台のはず」

 

「2秒以上早いんですね……。わかりました。それとなく生徒達に聞いてみます」

 

 ありがとな。なんていう沖野トレーナー。どうやら話したかったのはそれだけらしく、要件だけを伝えて喫煙所を出て行った。

 ふう。どうやらうまく行ったらしい。話しすぎて短くなったタバコの灰を落とす。

 

「あ、そうだ。コントレイル。思い出したぁ」

 

 3戦目までは背中に乗ってたジョッキーが、ダービーだとそいつに乗って僕に近づいてきた。思い出せなくてモヤモヤしていたけど、これでスッキリだ。

 

 さて、明日の授業の準備でもしようかな?

 

「ああ、イナナキ先生。やっぱりここだった」

 

「ん? 佐竹先生じゃないですか。どうされました?」

 

 あまり人がいない喫煙所に駆け込んできたのは同期の教員である佐竹先生。

 

「いつも、担当がいない子達が放課後練習してるの、教官達がみてくださってると思うんですけど」

 

「はいはい、やってますね」

 

「明日担当だった人がどうしても外せない用事ができたらしく、代わりにイナナキ先生にしてもらえないかなと思いまして」

 

 あれ? 他の教官は? とか、誰かいないんですか? とも思いつつ、僕は佐竹先生に問いかけてみる。

 

「えーっと、なんで僕?」

 

「イナナキ先生がいいと生徒達が言い始めまして」

 

「僕体育の資格とかないですよ?」

 

「教官も、オーバーワークしそうな子を注意するだけで良いって……」

 

 マジかー。おいおい、適当すぎるだろこの学校。それで良いのか?

 

「一応教官も、理事長の許可は取ってると……。なのでどうか!!」

 

 よりによって理事長もなんで許可出してんの? やる気起きねぇっておい。

 

「はぁ。まあ理事長が許可出してるなら断れませんね……。臨時報酬出ないかなぁ。完全に貧乏籤じゃん」

 

「あはは、素が出てますよ。イナナキ先生」

 

 いけないいけない。

 

 とりあえずここで争うのは諦めて、大人しく明日は教官ごっこでもするか。

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