修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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☆は、視点変更のマークです。


第2部 受け継がれし波動
継承


 

「どうか、この子が元気に育ちますように…」

 

────────────────闘いは次の世代へ。

 

薄暗い部屋の中、目覚まし時計の音が鳴り響く。青年は、布団から手を出し、時計はどこかどこかと探し、なんとかその耳障りな音を止めた。時計の針は、は朝の6時を指していた。

 

「ん〜…もう朝かぁ…」

 

レイス=リヒトワールの朝が始まった。

 

 

 

俺は、少しふらついた足取りで洗面台まで向かう。俺の寝室は2階。1階の洗面台まで、階段を降りていった。今は11月の14日。朝は冷える季節になってきた。肌寒い空気のためか、徐々に眠気が覚めていく。洗面台の前に立つと、赤い点のついた蛇口と、青い点のついた蛇口がある。俺は、赤の方を捻った。

 

「冷たっ!」

 

赤の方の蛇口を捻ると、温水が流れる。しかし、すぐに流れる訳ではない。徐々に水の温度が温かくなる仕組みなので、すぐに水に触れた俺は、顔をしかめることとなった。

 

「そろそろ良いかな?」

 

水に触れると、適温になっていたので、そのまま水を手で掬い、顔を洗う。

 

 

台所に行くと、香ばしい香りがした。母が、朝食を作っていた。

「あぁ、レイス。おはよー」

 

「おはよう、母さん」

 

エプロン姿の母・ローラは、俺に顔を向けた。

 

「もうすぐできるから、待っててね」

 

「うん、分かった」

 

俺は、台所から出て居間へと向かう。そして、テレビのリモコンを持ち、テレビを起動した。朝のニュースが流れる。ニュースキャスターが、今朝のトピックがどうとか喋っていた。聞き入っている訳ではない。朝食が仕上がるまでの暇つぶしだ。

 

「ふあー…」

 

まだ少し眠いのか、欠伸がでた。しばらくすると、母から呼ばれ、テレビを消して台所へと向かった。

 

 

 

朝食は、ベーコンエッグトーストにサラダ、そしてコーンスープであった。

 

「いただきます」

 

口を開けて、トーストにかぶりつく。カリッとした食感に、ベーコンの程よいしょっぱさが乗って、美味しい。

 

「今日も、学校帰りに道場?」

 

「うん、だから帰りは遅くなる」

 

「毎日頑張ってるわね」

 

「今日は、先生が大事な話があるって言ってたんだ」

 

「大事な話?」

 

母の目が、俺に向いた。

 

「何かしら?」

 

「今日話すって言ってたから、会うまで分からない」

 

朝食を終え、歯を磨く。制服に着替えて、鞄を持つ。いつもと変わらない一日が、今日も始まった。

 

 

家を出ると、門の前にリリィが立っていた。リリィ=テルヌーラ。俺の幼馴染で、同じ高校に通う友人である。俺が2歳の時に隣の家に引っ越してきて、それから15年間、ずっとお隣さんだ。

 

「レイくん、おはよー!」

 

「おはよう、リリィ」

 

彼女はいつものように、元気に挨拶をしてきた。まだ小学生の時から、学校へ行く時はずっと一緒だった。今朝も、2人で登校する。

 

「冷えてきたね…。私、もうマフラー巻いちゃったよ」

 

「そうだなぁ。先週まではまだ暖かかった感じだったんだけどな」

 

リリィは寒がりで、マフラーだけでなく手袋まではめていた。家から高校までは、歩いて10分ってところか。彼女が風邪をひかないか心配だ。

 

他愛の無い会話をしながら歩いていると、学校の門の前に着いた。登校してくる他の生徒も、門をくぐっている。

 

「よっ、お二人さん。今日もおあついねぇ!」

 

後ろから肩を叩かれ、振り向くと同級生がいた。毎日2人で登校するから、俺たちのことをカップルだとからかってくる奴もいる。

 

「もう!そんなんじゃないよ!」

 

リリィが頬を染めながらそれに反論する。実際、付き合っているという訳ではない。普段から一緒にいることが多いが、未だに恋愛にまでは発展していなかった。

 

「そうだぞ、からかうのは止めろよな」

 

俺も続けて反論した。すると、ふとした拍子にリリィと目が合う。何故か慌てて、お互い目を逸らした。頬が熱を帯びているのを感じる。

 

「も、もう!変なこと言ってないで、教室に行こうよ!」

 

「はいはい、そうしますよ」

 

 

 

放課後。生徒たちがクラブ活動のための準備を進める中、俺は上履きを靴に履き替えていた。俺は、部活には所属していない。2年前…1年半前か。高校に入学して程なくして、俺はある道場に入門した。切っ掛けは、街で不良に絡まれていたリリィを助けたとき、ある人にそれを見られていたことだった。俺は昔から身体能力が高かった。理由は分からないが、同世代の子供たちと比べても、頭一つ…体一つ抜けて体が動いていたと思う。腕っぷしも当然強く、リリィに絡んできたゴロツキたちが実力行使に出たとき、それを抑えることができた。その時、ある男が俺に話しかけてきた。俺の身体能力の高さを見込んで、道場に入門して欲しいと言ってきたのだ。それまで真剣に何かに打ち込んでこなかった俺は、その人の勧誘を受けて入門することにした。

 

その人が、俺の先生だ。道場では、拳法を教わっていた。先生は未だに、何の流派の拳法なのか教えてくれない。ただ、そこでの修行は、着実に俺の糧となり、俺を強くしていた。その先生が、大事な話があると言っていた。俺は学校を後にすると、道場へと向かった。道場は、学校から歩いて20分程の距離にある。冬の季節には、少しキツイ距離かもしれない。

 

道場は、結構古臭い、良く言えば歴史のある雰囲気だ。そこまで田舎ではないこの街、ライムシティの景観にはあまり合っていない。でも、道場内は結構広い。門下生が俺しかいないから、逆に閑散としているかもしれないが。

 

「やあ、レイス」

 

「こんにちは、先生」

 

場内にはシモン先生がいた。白髪が徐々に目立つようになってきたが、まだ40代だという。正座をして、瞑想をしていたようだ。

 

「先生、今日は大事な話があるって」

 

「あぁ、そうだね。まずは着替えてくるといい」

 

この流派には、道着といったものは無かった。道着を着ても問題は無いが、動きやすい服ならば何でも良いとのことだ。俺はいつも、ノースリーブのスポーツシャツに短パンという、動きやすい服装にしていた。

 

「準備は整ったようだね」

 

「はい」

 

俺は、先生がこれから何を話すのか、期待と不安が入り混じった心境で待っていた。

 

「君は今まで、熱心に鍛錬を重ね、凄まじいスピードで技を吸収してきた。これ以上に教えがいのある弟子はいないと思える程にね。だからこそ、改めて問いたい。君は、この道場での学びを、学校の部活動の延長線上の物と捉えているのか?あるいは、この道場を継ぐ、というぐらい本気で修行をしているのか?」

 

「それは…」

 

「どちらだとしても、君を責めることはしない。ただ、これから話すことは、クラブ活動だとかの一般的な話とは、少しかけ離れたことになる。だから、君の本音が聞きたいんだ」

 

先生は、真剣な表情で俺を見つめる。俺は、どういうつもりで修行をしていたのだろうか。

 

少し考えてから、俺は口を開いた。

 

「俺…将来に何をしたいとか、どうなりたいだとか、まだ具体的には考えていませんでした」

 

「ふむ」

 

先生の表情は変わらない。

 

「でも、ここでの修行は本気でした。最初は、部活みたいな感じで始めたのは確かです。でも、修行を重ねるに連れて、もっともっと技を磨きたいと思うようになりました。道場を継ぐ…かは分かりませんが、とにかく俺は自分の本気を出していたつもりです」

 

正直に、思っていたことを伝えた。あまり口がうまい方ではないから、上手に伝えられたか不安だったが、先生はそれを聞くと、口もとを緩めた。

 

「うん、分かった。君が本気なのは十分に伝わった。では、最後の確認なんだが、これから教えることによって、君は一般人とは比べ物にならない力を得ることになる。それでも、道を誤らないと誓えるかな?」

 

一般人とは比べ物にならない、か。元々、普通の人よりも遥かに体が動くので、そういう事には慣れっこのつもりだ。

 

「はい。それが、この道場で学ぶことであるのなら」

 

先生はその答えに満足したのか、満面の笑みを浮かべた。

 

「よろしい。ではこれから、この流派…『聖煌流(せいおうりゅう)』の真髄を見せようと思う。突拍子もないことも言うが、どうか理解してほしい」

 

「セイ…オウリュウ…?」

 

それが、先生の流派だったのか。初めて聞かされた。そして、どこでも聞いたことのない流派だった。

 

「フゥゥゥゥ…」

 

先生は、深く息を吐いて目を瞑ると、その体から何か湯気のようなものが湧き上がってきた。

 

「見えるかな、レイス」

 

「これは…」

 

確かに見えていた。だが、それが何なのかはまるで分からなかった。

 

「先生、これは一体…」

 

「これは『波動』というものだ。人間…いや、生けとし生けるもの全てが生まれながらにして持つもの。分かりやすく言えば、生命エネルギーといったものだ」

 

「生命エネルギー…」

 

「我が『聖煌流』の極意は、単に肉体を鍛え、武術の動きを学ぶことではない。この『波動』を高め、自在に操ることにある」

 

確かに、突拍子もない話だ。「波動」だの「生命エネルギー」だの、現実離れしている。でも、俺には不思議としっくりと来た。

「レイスよ、私の手に触れてみてくれないかな?」

 

先生は、俺の前に手を出してきた。その手に触れてみる。

 

「!これは…!」

 

手に触れると、何かとてつもないエネルギーを肌で感じた。生命の鼓動、脈動。先生の呼吸が、全て自分のものと思えてしまうほどの、凄まじいダイナミズム。

 

「これが『波動』だ。少し分かってもらえたかな?」

 

「凄い…活気というか、エネルギーに満ちた感じでした」

 

「そうだ。そして、君は筋が良い。今ので、自分に流れる波動を操る感覚を、直感的に理解できたと思う。一度、やって見せてくれないかな?」

 

「その…どうやってやるんですか?」

 

「まずは、深呼吸をして気持ちを整えるんだ。そして、自分の体の中心部を意識したまえ。その中心部から、全身に火花が散るようなイメージを思い浮かべると、波動が体から浮き出る」

 

初めての感覚だ。正直、出来る自信は無かった。だが、先生の言う通りに、深呼吸をして、自分の体の中心を思い浮かべた。無意識に心臓をイメージしていた。心臓から、少しずつ火花が散っていく。そして、それがある時に一気に全身に飛び散っていった。

 

「はっ!?」

 

すると、体が何とも言えない、凄い力で満ち溢れた。全能感、とも言えるのか。とにかく、今までの俺の体とは、全く別に思える感覚だ。

 

「素晴らしい…。やはり、君なら出来ると思っていたよ」

 

先生は、ニッコリと笑った。

 

「波動を操れば、常人を遥かに超越した力を得られる。だからこそ、道を誤ってしまうと、取り返しのつかないことになるんだ」

 

先生の顔が下に向き、その表情がどことなく暗くなった。だが、すぐに顔を上げて、俺の目を見て話す。

 

「あの日、初めて君を見た時に、君の中にまっすぐな心を感じ取れた。あの不良たちを相手に、極力痛い思いをしないようにしながら、君の友人を守った姿からね。これからは、この波動の修行を中心に行う。今までのように、頑張れるかな?」

 

今までとは全く違うレベルの話だ。だが、俺の答えは決まっていた。

 

「はい、先生。どうかよろしくお願いします」

 

「ありがとう。こちらこそ、よろしく」

 

今日は、「波動」についての入門講座のようなものだけで、稽古は終わった。明日は休日。俺は、朝から道場に行くことにした。

「波動」…。何だか、フィクションみたいな話だった。まだ現実の話だとは完全に思えない。それでも、俺には「波動」について、もっと学びたいという衝動があった。

ともあれ、11月14日は、このように平穏に終わった。これが俺の最後の平穏だったとは、夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 




この世界の技術水準

我々が住む現代と大差ない技術水準にある。スマートフォンやパソコン、カラーテレビ等も備わっている。


ライムシティ

レイスらが住む「ホルロス」という国の首都「ネピア」にある街。首都とはいっても、当然全域が高層ビルばかりという訳ではない。ライムシティは、ネピアの中では都会色が強くない、近郊に近い雰囲気の街である。とは言え、首都の街には変わりがないので、田舎のように広々とした草原や何十年、何百年前から続く古い家屋はあまり存在しない。


ホルロス

レイスらが住む国。先進国であり、治安も良い。気候も穏やかで、春夏秋冬が明確に分かれている。人々の暮らしも豊かな方である。世界で10番目の面積を誇る島国である。人口は7500万人程。この世界の総人口は50億人である為、一定の割合は占めていると言える。民族は、人口の9.5割以上がホルロス人である。

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