リリィ・テルヌーラの人生は、幸せなものだった。
父、母、リリィの3人家族で、家はそれなりに裕福だった。生きるのに困ることはなかった。
彼女が2歳の時に、家族でライムシティに引っ越してきた。お隣さんは、レイス。彼らは出会うと、すぐに仲良くなった。同じ地域に住む子供同士、同じ幼稚園、同じ小学校に通うことになった。
小学校に通い始めると、新しい友達が増えた。テオ・クランゼルという男の子。レイスとテオが仲良くなると、自然とリリィとテオも仲良くなった。3人は、いつも一緒だった。
この頃からだろうか?レイスに、他の人達には感じない気持ちを感じるようになったのは。テオも、その他の友達も大好きだった。でも、レイスは特別だった。その時は、その感情が何かは分からなかったが、歳を重ねていくと、それが何と呼ばれるものか分かった。
中学に入ると、レイスやテオと共にいる時間が減った。彼女は、女子ソフトテニス部に入部した。経験は無かったが、かねてより興味があったので、入学してすぐに入部を決めた。
レイスは、ずば抜けた身体能力を活かし、助っ人として色々な部活に力を貸すこととなった。お互い、昔のように一緒に帰ることもなくなった。彼女は、それが少し寂しかった。
テオは、部活には入らなかった。ただ、彼も彼で放課後は忙しくなったようで、‾3人が一緒にいる時間は少しずつ減っていった。それでも、朝学校に行く時や、街のお祭りの時などは一緒にいられた。それだけでも、彼女は幸せだった。
そして、高校。テオはレイスとリリィとは別の高校に通うことになったので、テオと会うことは無くなってしまった。
それは本当に残念だった。まだ一緒にいたいと思っていた。でも、レイスとだけはまだ一緒にいられた。まだ想いも打ち明けられずにいたが、仲の良い友人として、共に平和な日々を送っていた。
それが、ある日崩壊する。11月15日の、あの日から。
「きゃぁぁぁぁあっ!?!?」
リリィは、悲鳴と共に目を覚ます。
息は荒く、体は少し汗に濡れていた。
自室のデジタル時計には、「11月25日」と表示されている。シモンとコールが闘い、シモンが凄惨な死を遂げてから10日が経った。そして、レイスが波動の修行の為に学校に来なくなってから8日が経過した。
彼女は、あの日の夜から、夢を見るようになっていた。シモンが串刺しにされ、血の池の中で事切れる場面が、夢の中に何度も出て来た。17年間、平和な生活を送り、「死」とは無関係でいてきた彼女にとって、目の前で人間が死ぬ光景は劇薬であった。
その光景は、トラウマとなっていた。あの日の翌日、レイスの前では気持ちが顔に出やすい性格を必死に、必死に抑えることで彼に心配をかけまいとしていた。だが、心の中では今にも倒れ込みそうな自分がいた。
訳が分からなかった。何で、あんなことが街で起こったのか。何で、あの人が死ななければならなかったのか。15日の夜は、強いショックと目の前で突然起こった「死」に対する恐怖で、体の震えが止まらなかった。
「なんで…なんで…?」
一人きりの夜の自室で、膝に顔を埋める彼女の口から出る言葉は、ただそれだけであった。
目の前で人が死んでしまっことは、家族には話した。家族に隠し通せるほど、彼女は器用ではなかった。
励ましの言葉はかけてもらった。大丈夫、あなたのせいじゃない。あなたは何も悪くない、と。だが、どんな言葉を貰っても、彼女の脳裏からあの「死」の光景が消えることはなかった。
レイスから、シモンの死の真相を聞いてもそれは変わらない。むしろ、レイスとテオという2人の親友が命がけで闘うことになると知って、気が気ではなかった。2人の手前、快く送り出す
2人が傷つくのは嫌だ。闘わないで。死なないで。
だが、最早レイスもテオも、それまでの日常のままでいられる存在ではなくなってしまっていた。「波動」が、彼らを異世界へと連れて行ってしまったのだ。そして今、リリィは起こってもいないレイスやテオの「死」の光景までもが頭に浮かんでしまっている。シモンの「死」もまた、彼女を異世界へと誘っていた。
「レイくん…テオくん…早く帰ってきて…!お願いだから…!」
誰も座っていない教室のレイスの椅子を見て、彼女はただ祈る。レイスとテオが、何事もなく無事に帰ってきて、また前のような日常を送ることを。