11月25日。修行9日目の夜。
今、俺とテオの前には、1人の波動使いがいる。中年の男だ。明らかに俺たちの味方ではなく、緊迫した空気が辺りを包んでいる。
遂にガルーダさんが言っていた、波動使い殺しの集団が、俺たちの居場所を掴んだのだった。
「テオ、こいつは…」
「分かっている。この前襲ってきた奴とはレベルが違う」
この9日間の修行で、相手の実力が分かるぐらいには波動のことを知った。
この男は、強い。男の体を流れる波動から、それがよく分かる。
「お前たちが、この街にいる波動使いだな。まだ若いが、かなりの熟練度のようだ」
男の方も、俺たちの実力を見切っていた。
何故、俺たちとこの男が出会うことになったのか。時間は少し遡る。
「今日は気分転換に、外の空気でも吸ってくるといいよ。あ、ついでに買い出しもお願いね」
ガルーダさんは、ずっと道場にいる俺たちに気分転換を提案した。確かに、1週間もずっと籠もっていたので、少し外出したいと思っていた。
そして、俺とテオは街に出つつ、食材の買い出しに行こうとしていた。
そして、街に出て少し歩くと、後ろに誰かがいるような気配がした。俺たちは気付いた。あれは、波動使いかもしれない。ガルーダさんが言っていた、刺客を差し向けてきた波動使いの一味。あるいは、聖煌流殺し…。
街には多くの人がいるので、街では闘いたくない。幸い奴も、街中で闘いを起こす気配は無かった。
テオはガルーダさんにメールを送ると、俺と共に歩き出した。人気が少なく、闘っても大丈夫そうな所。街の外れにある、今は使われていない工場地帯。奴の方も、俺たちについて来ているようだった。
そして工場の中に入ると、男の方も姿を現し、今に至る。
「お前たちに、一つ提案がある」
「何…?」
「その前に名乗っておこう。俺の名はジェクラ」
男の名は、ジェクラというらしい。そして、ジェクラは話を続けた。
「お前たち、俺たちの仲間になれ」
「…何を言っている?」
テオは警戒を強めていた。
「俺たちは、この世から波動使いを消そうと動いている。あの正体不明の波動使い殺しが現れてから、世界の至る所にいる波動使いは、その命を狙われることとなった」
「…」
「俺たちは、波動使い殺しから逃げる他無かった。奴の力は強大で、俺たちに勝つ見込みはなかった」
「だが、そこであの方が現れたのだ。孤高の波動使い・グレイド様が…」
ジェクラはそっと目を閉じた。
「グレイド様は、かねてより波動使いの選別を考えておられた。この世に波動使いは多くはいらない。選ばれし者のみが、波動の境地にたどり着ければ良いと」
グレイド…。新しい人物が登場した。
「そして、グレイド様は絶望した我々に手を差し伸べて下さった…。我々の手で、選ばれし波動使いの世界を作ろうと言った…!そして、あの波動使い殺しを、共に殺そうと言った!」
「お前たちには、才能がある。若くしてその波動の練度、素晴らしい。お前たちにも、十分に『選ばれし者』と呼ばれる資格はある。共に手を取り、あの忌まわしき波動使いを殺し、理想郷を作ろうではないか!」
ジェクラは、一人で盛り上がっていた。だが、俺たちはこいつの思想が全く理解できなかった。
「結局、お前らも波動使いを殺している…その波動使い殺しと、何も変わらない!」
「それは違うぞ!俺たちは、才能のある者には敬意を表する。無才の波動使いなどという思い上がった存在は、排除しなければならない!」
「だから、あの男を捨て駒に使ったのか」
テオの言う「あの男」…。俺たちが再会した日に襲ってきた、あの波動使いだ。
「奴は、波動使いとしての才能を持ち合わせていなかった。仲間ではない。グレイド様は、最初からあの男を仲間とは認めておられない」
「もういい!」
俺は込み上げる怒りを吐き出した。
「お前らの言っていることは、自分勝手だ!お前らの仲間になる気は無い!」
「…」
ジェクラは眉間を指で押さえた。聞き分けのない子供に頭を悩ませる親のような顔だった。
「まだ子供だから分からないのだ…。俺たちの思想が…」
「下らん話は終わったか?どの道俺たちは、お前たちの仲間になる気など無い」
「はぁ…」
ジェクラはため息をついた。
「それならば仕方が無い…命令通りに、お前たちを殺すしかないな!」
ジェクラは、全身から波動を放出した。闘いが始まる。
「レイス、構えろ!」
修行の成果を見せる時が来た。
☆
先に突っ込んでいったのはテオであった。刀に炎を纏わせ、ジェクラに斬りかかる。
ジェクラはそれを避けた。ダントンとは違い、しっかりと見切っている。
「中々のスピードだ」
テオは、攻撃の手を止めない。すぐさま次の斬撃を繰り出し、それを避けられるとまた次の斬撃へ。
ジェクラは、それらを全て躱した。そして、テオが見せたわずかな隙をがっちりと捉え、反撃をしようと拳に波動を込める。
しかし次の瞬間、テオの姿が消えた。いや、正確にはしゃがんだだけだ。
「はっ…!」
テオが見せた隙は、ブラフであった。しゃがんだテオの背後から、レイスが急接近していた。レイスは、ジェクラが反撃に移るより早く、その拳に波動を集中させ、ジェクラの顔面に殴打を喰らわせた。
「ごわっ!」
ジェクラは大きく仰け反った。すかさず、レイスの二撃目が加わるかと思われたが、ジェクラはその直前でバク転をし、2人から距離を取った。
「効いたぞ。良い突きだ」
ジェクラは口元から流れた血を拭うと、ニヤリと笑う。まだまだ余裕といった感じだ。
「レイス、攻撃の手を緩めるなよ」
「おう!」
2人は二手に分かれた。レイスが前方、テオが後方から攻める作戦だ。言葉での連携は取っていない。だが、2人の息はピッタリである。それは、彼らが昔からの親友であるからだ。加えて、道場での修行で、2人コンビネーションによる戦闘の修行を積んでいた。
そんな彼らが力を合わせると、とても若年の波動使いとは思えない力を発揮していた。その強さは、波動の修行を長い間積んできたジェクラに引けを取らない。
2人の攻撃を捌きつつ、ジェクラは思った。
「こいつらの連携は中々のものだ。戦力を分断し、連携を崩さねば」
2対1では流石に不利だと判断したジェクラは、次の一手に出た。両腕に波動を全集中させ、レイスの拳とテオの刀を受け止める。
「まずは…」
金髪のガキの方だ。
テオと比べると、波動の練度が低いレイスの方から摘み取ることにした。テオの刀を手から離すと同時に、両の拳に込めた波動をそのままにレイスへの殴打の連撃を始めた。
「くっ…」
息もつかせぬジェクラの殴打に、レイスはガードを解くことが出来ない。両腕を波動でガードしているとはいえ、後方へと押しやられていっている。ダメージも着実に蓄積していた。
「てやっ!」
そして、右脚に波動を込めての強力な蹴り。その蹴りでレイスは、工場の外に吹っ飛んだ。
「いてぇ…やったな…!」
頭から流れた血を拭い、構え直すレイス。
正面には、猛スピードで追ってくるジェクラが。右手に波動を集中させていた。
レイスは、腕に波動を集中させ、防御しようとした。だが…。
「なにっ!?」
ジェクラは突きを繰り出すことなく、流れるように右へとずれた。フェイントだ。パンチがくると思っていたレイスは、完全に反応が遅れた。
「まだまだ甘いぞ」
ジェクラは、レイスに足払いをした。腕に波動を込めていたレイスは、その他の部分へのガードは出来ておらず、簡単に体勢を崩されてしまった。
次にジェクラは、倒れそうになったレイスを上空に蹴り上げた。これはクリーンヒットし、レイスは勢いよく宙に飛ばされた。
「がっ…」
ダメージはそれなりに大きく、少し血を吐いた。足場のない空中では、レイスの行動はかなり縛られる。当然、満足には動けなかった。
ジェクラは、大ジャンプによりレイスよりも上まで跳び上がり、波動を込めた足で踵落としをお見舞い。レイスはなんとか波動でガードしたものの、超スピードで地上へと落下していった。
レイスが地に激突すると同時に、土煙が舞う。かなりの衝撃だった。
ジェクラは着地すると、ゆっくりとレイスの方へ歩いていく。
煙が晴れると、頭から血を流して立っているレイスがいた。先程とは違い、手で拭える量ではない。
「ひとまず、ダメージは与えたか…。刀のガキの姿が見えないが」
辺りを見回しても、テオの姿がない。
「炎を操る波動能力者…。シンプルだが、だからこそ厄介だ。不意討ちを喰らったら、少し痛手だ」
周囲を警戒するジェクラの背後には、完全に気配を経ち、その首に今にも刀を振り下ろそうとしているテオの姿があった。
テオからメールを受け取ったガルーダは、彼らがいる廃工場地帯へと向かっていた。
「もう出会ってしまったかぁ…。出来れば、あと1週間は来ないで欲しかったんだけどなぁ」
そうして走っているガルーダの上空から、何者かが急降下していた。人数は3人。
「!!」
ガルーダは急襲に気付き、後方に避けた。
若い男に、中年でスキンヘッドの男。そして、桃髪の女であった。
「僕に何か用かい?」
「ベリー、アルザス。こいつが波動使いね?」
桃髪の女にベリーと呼ばれたのは若い男。アルザスと呼ばれたのはスキンヘッドの男だ。
ベリーは、ポケットから何かの端末を取り出すと、画面を見て笑った。
「クレア、ジェクラは交戦中のようだよ。この男とジェクラが闘っている連中、無関係ではないようだね」
桃髪の女の名はクレア。妖しく微笑んでいた。
「と、いうことは。ジェクラは勧誘に失敗したってことね」
「悪いが、僕は急いでいるんだ。そこを通してはくれないかな?」
「ふん。俺たちが通さねぇってことぐらい、てめぇには分かるだろ?」
アルザスは指をボキボキと鳴らしながら、鼻で笑った。
「うーん…。どうしても通してくれないのか…」
「そういうこと。悪いけど、あなたにはここで死んでもらうわ」
クレアの表情が一変。殺気を含んだものとなり、彼女の両手が光り輝いた。クレアの波動能力だ。
「やれやれ…じゃあ、やるしかないな」
ガルーダの目が、レイスたちには見せたことが無いほどに鋭く、冷たくなっていた。