11月25日の夜、20時くらい。
「レイくん、テオ君。今頃どうしてるのかな…?」
リリィの胸中は穏やかではなかった。今朝も、悪夢と共に起こされた。家にいてもずっと落ち着かないので、彼女は夜風に当たりに家の近くの公園までやって来たのだった。
「どうか無事でいて……」
工場地帯を後にしたザークは、高台から街を一望していた。
「さぁてと、次のステージだ。リリィ・テルヌーラは……」
ザークは目を瞑る。少しすると、彼は裂けるような笑みを浮かべる。
「ククッ、そこか。今こいつらに会わせてやるよ…」
そしてザークは、高台から消えた。
☆
夜の風は冷たかった。もう11月も終わり。指先が冷風でチリチリと痛む。でも、こうして風に吹かれると、何だか気持ちが落ち着く気がした。
それが思い込みでもいい。勘違いでもいい。ただじっとしていると、不安で胸が一杯になって、どうしようもなかった。シモンさんが亡くなってから10日間、私は暗く沈んだ気持ちの中にいた。
だから私は、外に出る。もしかしたら、レイくんとテオ君にばったりと出会えるかもしれない。そんな気持ちも、無いわけじゃない。とにかく、不安から少しでも逃れたかった。
「うぉぉぉぉっ!?」
突然、男の人の叫び声が聞こえた。私はいきなりのことで身体がビクッとしてしまった。
「な、なに…?」
私は、恐る恐る声がした方に向かっていった。公園の電灯の光に灯されて、黒紫色の髪の毛の男の人がいるのが分かった。
「あ、あんた!これを見てくれ!!何故か分からねぇけど、人が倒れてんだ!!」
男の人は恐ろしいものでも見たかのように、指を指して言っていた。私は、指された方をゆっくりと向いた。
さっきまでの私の希望は、粉々に打ち砕かれた。
倒れている人は、レイくんとテオ君だった。
「!?」
私は口を手で押さえた。顔から血の気が引いていくのが分かった。レイくんもテオ君も血だらけで、2人とも苦しそうな顔で気を失っていた。
「どう……して……??」
頭の中がぐちゃぐちゃになった。目の前の状況が、全く理解できなかった。
「なんで……2人が……?」
私はとにかく2人に駆け寄った。まさか、死んでいるんじゃないかと、気が狂いそうな程に不安だった。
「い、息はしてる……でも、身体中がボロボロじゃない…」
2人は生きていた。それだけは本当に良かった。でも、2人とも死にかけだった。このまま何もしなかったら、本当に死んじゃう…!
「!? だめっ!それだけは…!」
ぶんぶんと首を振って、悪いイメージを打ち払った。今は、2人を助けなきゃ…。
「救急車、救急車を呼ばないと…!」
「待ちな」
「!」
あの男の人の声だった。
「病院に連れて行く気か?」
「だ、だってこのままだと2人が…!」
「無駄だぜ。こいつらは波動でボコボコにされたんだ。病院の治療なんぞで治るとは思えねぇなぁ」
「!?」
なんでこの人がそんなことを…?
「まぁ、とにかく聞きな。こいつらを助ける方法が一つだけある」
「え?」
「それは…」
男の人は、私の耳元まで顔を近づけて言った。
「お前が波動でこいつらを治すんだ」
「…は?」
頭の中が?で埋め尽くされた。
この人は一体、何を言ってるの…?私のことをからかってるの…?
私は、波動なんか使えない。言っている意味が全く分からない。
「何言ってんだコイツ、って顔だな。別にふざけちゃいねぇよ」
「わ、私は波動なんて…」
「細かい説明は省くが、波動使いには2種類がある。修行によって波動を身につけた者と、ある出来事がきっかけで、波動に目覚める者」
男の人は、指を2本立てて言った。
「お前はまさに、『ある出来事』がきっかけで目覚めるタイプになる。こいつらを治したいという強い思いで、力を呼び起こすのさ」
男の人が言っていることは、全く分からなかった。でも…。
「私なら…私なら2人を治せるんですか…?」
「おう。お前なら治せるぜ」
「でも、どうやって…!」
「教えてやるよ」
「お願いします…!」
男の人は私の側まで寄ってきた。
「まずは、そいつらの身体に手を乗せな」
私は、言う通りに手をレイくんとテオ君のお腹に乗せた。
「ひっ…」
2人ともお腹の部分の骨が…。骨が折れてるのが分かった。
「怯えるな。目を瞑って、そいつを治したいと強く心に念じろ。そうすれば治る。簡単だろ?」
目をギュッと瞑った。お願い、どうか治って…!レイくんとテオ君が死んだら、私……!!!
でも、2人の傷は治らなかった。どんなに強く念じても、2人の身体は元に戻らなかった。
「どうして…どうしてっ…!?」
「うーん…」
「私なら、2人を治せるって…!」
男の人を見ると、頭をポリポリと掻いていた。やっぱり、私にレイくんたちを治すことなんて…。
「なぁ、リリィ・テルヌーラ」
「…?」
男の人は、私の名前を呼んだ。そして、私の肩を叩くと、また耳に顔を寄せて言った。
「想いの強さが足りねぇよ」
「えっ…」
「このままほっとけば、こいつらは後1時間もしないで死ぬぜ?そしたらもう、二度と会えねぇんだよ。二度と、だ」
男の人の言葉は、とても冷たく、私の心を抉るように鋭かった。
「お前、レイスのことが好きなんだろ?」
「な、何を…」
何を言ってるの?
私の言葉が出る前に、男の人は低い声で言い放った。
「良いんだな?こいつらが死んでも、良いんだな?」
「ひっ…」
死ぬ。シモンさんのように、死んで、この世からいなくなる。もう二度と、あの時みたいに楽しくお喋りも出来なくなる。もう二度と、3人で歩くことも出来なくなる。
「いやぁぁぁぁぁあっ!?」
嫌だ!それだけは絶対に嫌だ!2人が死んじゃったら、私はもう生きてられないっ…!もう二度と、笑うことなんてできないっ…!
2人とまだ遊びたい…。2人とまだ話したい…!2人とまた、昔みたいに…!
笑っていたい
「レイくん!テオ君!死なないでぇっ!!」
私が叫ぶと、私の身体が光った。身体の内側から、何かが湧き上がってくるのを感じた。
「!?」
「おお…!」
すると、私の光が、2人の身体に入り込んでいった。少ししたら、2人のお腹の骨が治っていくのを感じた。それだけじゃない。他の部分の傷も消えていった。
「んんっ…うーん…」
レイくんの眉が動いた。テオ君の方も、ゆっくりと目を覚ました。
「あれ……俺は……」
私は、2人に抱きついた。
「えぇっ!?」
「はっ…!」
2人とも驚いていたけど、私は身体を止めることが出来なかった。
「良かった…!2人とも治って、良かった……!!本当に…!!」
私は、2人の身体をギュッと抱きしめた。流れる涙は、嬉しさと安心の涙だった。
☆
「おめでとう、リリィ・テルヌーラ」
ザークは既に公園を後にしていた。暗い夜道で、一人不気味に笑っていた。
「これでお前も、波動世界の住人だぜ……クフフ…クハハハハハッ!!!」
ザークはゲラゲラと笑っていた。傍から見れば、完全に変質者と思えるほどに不気味な高笑いであった。
「にしても、光の波動で受けた傷を治すとはなァ……。うーん、『治す』ねぇ…?クククク………」
どこか満足したような表情であった。
「さぁてと、こっちは片付いた。あっちの方も、もうじき片付くな」
「これからだぜ、てめぇらの闘いはよ。精々、平穏に別れの挨拶でもしときな。…もう平穏じゃあねぇか?ハハッ!」
ザークの高笑いは、いつまでも続くのであった。
リリィ・テルヌーラ
9月18日生まれ。17歳。レイスとテオとは幼馴染。
波動使いの家系出身ではなく、父母共に普通の人間である。