修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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遺言

俺たちは、気を失っていた。そして、目が覚めるとリリィが目の前にいて、俺たちに抱きついてきた。正直、何が起きたか分かっていない。

 

「えっと…何でリリィがここに?それにここは、工場じゃ…」

 

「あ、ごめん…いきなりでびっくりしたよね。どこから説明すればいいかな…」

 

リリィは俺たちから離れた。

 

「えっと、あの男の人が、2人が倒れているのを見つけて…あれ?」

 

俺たちもリリィの視線の方向を見てみるが、誰もいなかった。

 

「男…?どこにも見えないが」

 

「え、でも男の人が本当にいて、2人が倒れてるって…」

 

「まぁ、それは良いよ。それで、何で俺たちの身体が治っているんだ?」

 

「それは…男の人が、2人は波動で傷つけられてるから…」

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

その男が、俺たちが波動で倒されたことを知っていたのか!?

 

「何故そいつがそんなことを…?」

 

「リリィ、その男とは、茶髪で長身の男か?」

 

テオが言うその特徴は、グレイドのものだった。

 

「う、ううん。黒紫の髪色の人だったよ。背は高めだったけど…」

 

誰なんだ?黒紫の髪の男なんて、俺は知らない。そもそも、俺たちはグレイドにやられて、倒れたはず。あいつが俺たちを生かしておくとは思えないから、誰かが俺たちを助けたってことになる。

それが、黒紫の男なのか。

 

「男、と言うからには、名前は分からないんだな」

 

「うん…。急いでて、それどころじゃなかったから」

 

「話を遮っちゃったな。続けてくれ」

 

「その男の人が、私なら2人を治せるって…。波動で治すことが出来るって言ったから…」

 

「…?」

 

波動で?リリィが?

本当に何を言っているのか、一瞬分からなかった。

 

「レイス、注意深くリリィを見るんだ。緩やかだが、波動使いの波動の流れになっている…」

 

「え…?」

 

テオは険しい顔をしていた。俺は言われた通りにリリィをよく見てみる。

 

「何で…」

 

本当に、本当にリリィからは波動使い特有の波動の流れを感じられた。

 

「その男が、お前に波動を流したのか?」

 

テオは静かに口を開いた。

 

「違うよ。その人は、私が2人を治したいって強く念じれば、波動が使えるようになるって…。それで私、2人に治って欲しいって思ったら、身体の傷が元に戻ったの」

 

「そんなことが…」

 

そんなことがあり得るのか。今まで普通の人間として生きてきて、波動なんて知らないできたリリィが、突然波動を使えるようになるなんてことが、本当にあり得るのか。

 

「…波動は、才能や家系に依る所が多いが、何らかの経験によって目覚めることもある。リリィも、そのタイプだったということか」

 

「よく分からないけど…でも私、2人が元気になったから、本当に安心したよ」

 

リリィの話が本当だろうということは分かった。

 

「ともあれ、礼を言うよ、リリィ。お前が助けてくれなければ、俺たちは死んでいただろう」

 

「ありがとう。リリィは命の恩人だよ」

 

「そんな…。当然のことをしただけだよ。私たちは友達でしょ?」

 

リリィが笑った。とにかく、リリィが安心してくれて良かった。

でも、気になることは山積みだ。

その黒紫の男とは、一体誰なのか。誰が俺たちを助けたのか。何故、リリィの前に俺たちが倒れていたのか。男は何故、リリィに波動で俺たちを治させたのか。何故、リリィが治癒の波動能力に目覚めると分かっていたのか。

 

そして、グレイドが手に握っていた、ガルーダさんの首。ガルーダさんは、本当にグレイドに…。

 

「テオ…ガルーダさんは…」

 

「…この場では止しておこう。リリィもいる。この後、道場に戻って、そこで話がある」

 

テオは、特に悲しんでいる様子は無かった。昔からクールな奴だけど、本当に心が強いというか、俺とは違って何事にも動じないという感じか。これ以上リリィに心配をかけない為にも、細かい話はしない方が良い。

 

「リリィ、家まで送っていく。俺たちはその後、また道場に戻ってやることがある」

 

「…また闘うの?」

 

「それは…」

 

「私、この前は2人が闘うの、止めなかった。でも、今日分かった。やっぱり、2人には闘ってほしくない。さっきみたいに、ボロボロになって、死にそうになって…。ワガママなのは分かる。それでも…」

 

「…」

 

闘わないと、皆を守れない。でも闘えば、リリィが悲しむことになる。

何が正しいかなんて、俺には分からない。

 

「リリィ、今は何も言わないで欲しい。俺たちはもう、波動使いなんだ。後には退けない」

 

「…」

 

リリィの表情が曇った。

でもテオの言う通り、俺たちはもう波動使いだ。この街を脅威から守らなければならない。それは確かだ。

 

「帰りは一人で大丈夫…。また今度ね…っ」

 

リリィは走って、その場を立ち去って行ってしまった。

 

 

 

 

この時、俺は「波動使い」の中にリリィのことを入れていなかった。でも、それが誤りだと、すぐに気づくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリィが帰って行った後、俺たちも公園を後にして、道場へと向かった。もう夜9時頃だからか、人通りは少なくなっていた。道中、テオが話を始めた。

 

「レイス、リリィは波動能力で俺たちを治した。そして、リリィの波動も、波動使いのものになっていた。これはつまり…」

 

「…!」

 

テオに言われるまで意識していなかった。リリィも波動使いになってしまった。これがどういう事を意味するのか。

 

「リリィも、グレイドたちや聖煌流殺しに狙われる可能性が出てきた、ということか…!」

 

「…そうだ」

 

何故気付かなかった。あまりにも突然のことで、頭が理解を拒んでいたのか。

リリィが波動使いたちに狙われたら、撃退することは出来ない。確かに波動使いにはなっていたけど、身体を流れる波動は熟練の波動使いとは比べ物にならない程に弱かった。普通の女の子が、波動能力だけ使えるようになった感じだ。それでも、偶然にしろ何にしろ、リリィに近付いたのならば波動使いだとは分かる。分かってしまう。もうリリィも、過酷な波動世界の住人になってしまったんだ。

 

「俺たちが生きている事から、今はグレイドたちは仕掛けに来ないだろう。俺たちを助けた何者かのおかげなのかは分からないが、とにかく今は問題無い。だが、これからがまずい。リリィは、波動で自分の身を守れない…!」

 

「ど、どうするんだ…。俺たちが、リリィを付きっきりで守るしかないのか…?」

 

「そうしたいが、俺たちといる事でかえって危険になる可能性が高い」

 

「くそっ…!何でこんな事に…!何でリリィが波動なんか…!」

 

「リリィの言っていた、黒紫の男。波動使いなのだろうが、そいつは俺たちがグレイドに倒されたことを知っていた。つまり、俺たちとグレイドとの闘いを見ていたということだ。もしかしたら、ジェクラとの闘いから見ていたのかもしれない。そして、何故かリリィが波動使いに目覚める事まで予想していたようだ。俺たち3人を詳しく知っている事になるが、そいつが気がかりだ」

 

「俺たちを詳しく知っている波動使い…」

 

現時点では、何も分からない。俺たちが煮えきらない疑問を口にしていると、いつの間にか道場に着いていた。誰もいない、薄暗い道場。ガルーダさんは、本当に…。

 

「レイス、師範は俺たちに遺言を残している」

 

「えっ!?」

 

「自分が死んだら、封を開けるよう言っていた。師範の自室に隠し金庫がある。番号も教えてもらった」

 

 

俺たちは道場に入り、ガルーダさんの部屋まで歩いて行った。そう言えば、ガルーダさんの部屋に入るのは初めてな気がする。

 

ガルーダさんの部屋は、綺麗だった。軽いノリの人だったけど、整理整頓はしっかりしていたみたいだ。10日程の付き合いだったけど、俺に波動の事を本格的に教えてくれた。そして、テオにとっては…。

 

テオは涙は流さなかった。だが、血が流れる程に強く、強く拳を握りしめていた。

やっぱり、テオでも悔しいんだ。冷静なテオが感情を表に出す事は、あまり無い。そのテオが、悔しさで溢れていた。

 

「テオ…」

 

「金庫は押し入れの中にある。ついてきてくれ」

 

押し入れの戸を開き、テオは四つん這いになって中へと入っていった。ダイヤルを回す音が聞こえると、今度はカチンという音が鳴った。金庫が開いたようだった。

 

テオが押し入れから顔を出すと、その手には一枚の封筒が握られていた。

テオは封を切り、中から手紙を取り出す。ガルーダさんが書き残した遺言だった。

 

 

 

テオへ

 

隣には、レイス君もいるのかな?これは僕の遺言だ。と言っても、金庫を開けたからもう分かってるだろうけどね。

僕がどのように殺されたかは分からない。でも、今はそれは忘れて、これから僕が言う事を、よく頭に入れて欲しい。

 

まず、僕のフルネームは“ガルーダ・レギレウス”だ。そして、レギレウスとは、波動御三家と呼ばれる家系の一つなんだ。僕は分家の分家の…と少し遠縁だけどね。

そして、聖煌流の実質的なナンバー3で、僕とも昔友達だった“ゼクト・レギレウス”という男がいる。彼は本家の次期当主だったんだけど、家族と揉めて家を出て行ってしまったんだ。

そして、彼は数年前にライムシティに来ていて、そこで再会した。今は会社に勤めてるらしくて、パキンスタ共和国で働いてる。波動の世界とはお別れしたって話をしてたんだけど、とてもそうは思えない程に凄い波動だったよ。彼は全く衰えていなかった。

そして、彼に思い切って頼んでみたんだよ。僕はテオを、シモンさんはレイス君を育てていて、もし僕たちに何かあったら、2人を助けてはくれないか、と。彼は最初は断ったんだけど、レイス君の名前を伝えたら一応話は聞いてくれるって事になったんだ。彼の住所と勤め先は、もう1枚の手紙に書いておくから、それを頼りになんとか合流して欲しい。

 

それと、パキンスタ共和国には御三家の一つ「ゼルフォード家」の宗家がある。御三家の中で唯一穏やかな家風と言えるところだから、彼らの助けを借りるのも良い。具体的な位置は分からないけど、ゼクトなら知ってるかもしれない。

旅費とかその他の必要経費は、前にテオの口座に振り込んだ1億ルネからやりくりしてね。テオのことだから大丈夫だと思うけど、無駄遣いしちゃ駄目だよ。

 

最後になるけど、僕の人生に悔いは無い。全てなるべくしてなった、それだけさ。テオと出会ったのも、運命だと思ってる。

僕の死に構っていちゃ駄目だ。これから、それよりも辛い事が起こるかもしれない。どんな事があっても、前だけ見続けるんだ。

大丈夫。君たちなら乗り越えるさ。君たちが平和な世界で笑い合っている光景を、僕は夢見ているよ。

 

 

 

 

「ガルーダさん…」

 

悲しんでいちゃ駄目だ。ガルーダさんは、俺たちに進むべき道を示してくれたんだ。テオの瞳にも、一切の迷いは見えない。

ゼクト・レギレウス。聖煌流のナンバー3ということは、相当強いはずだ。その人を味方につけることが出来れば、グレイドや聖煌流殺しにも対抗出来るかもしれない。

 

「でもテオ、今この街を離れたら、リリィは…」

 

「…」

 

一つだけ、一つだけ不安要素があった。

グレイドはまた、この街に来るかもしれない。そうなれば、リリィやこの街に住む人々を守る者がいなくなってしまう。

 

「心配する必要は無いぜ」

 

「!?」

 

背後から、男の声がした。気配は全く無かった。いつからそこに…?俺たちは急いで振り返る。

黒紫色の髪の毛で、背の高い男だった。まさか、リリィが言っていた…!?

 

「おっと、警戒すんなよ。お前らに何かしようってんじゃない」

 

「…俺たちをグレイドから助けたのはお前か」

 

テオは警戒を解かなかった。男の強さは、ひしひしと感じられた。グレイドレベルの強者と言っても過言じゃない。

 

「ま、そうだな。礼には及ばないぜ」

 

「…」

 

「そうだ!名乗っとかねぇとな。俺はザークだ。宜しくな!あ、お前らの名前は知ってるからな」

 

ザークはニカッと笑った。さっきから、この男からは何か嫌なものが感じられる。ザークに流れる波動のせいなのかは分からないが、一緒にいてとても不安になる感じだ。

だが、それよりも…。

 

「俺たちを助けてくれた事には礼を言うよ…。でも、何でリリィに波動を!?」

 

「あいつがいなければ、お前らは死んでたぜ?俺に回復は無理だからなぁ」

 

「それは…」

 

「そもそも、何故俺たちをリリィの前に運んだ?何故お前は、リリィの波動能力が治癒能力だと知っていた?」

 

「さあ、何でだろうな」

 

「…ふざけているのか?」

 

「そんな話、今はどうでもいいだろ?それより、今はあの女の今後についてだ」

 

「…」

 

どんな疑問よりも、リリィの安全が最優先だ。俺たちは、今は黙ってザークの話を聞くことにした。

 

「お前らがこの街を離れれば、あの女に危害が及ぶかもしれない…。その考えは正しいぜ。お前らの旅に同行させるしかねぇな」

 

「…」

 

「でも、そしたらもっと危険な目に…」

 

「その為にお前らが側にいてやんだよ。この街に置いてきゃあ、守ることさえできねぇんだからな。あ、ちなみにこの街には他に波動使いはいないぜ。残念だけど、な。」

 

「…あんたが守ってくれるってことは」

 

「そいつは無理だな。俺にもやる事があるんでね。それに、一番危険に見えて、側で守れるってのは一番安全なモンだぜ?」

 

今の状況は、リリィにとって好ましくない。グレイドの仲間がやって来れば、リリィは為す術もなく殺されてしまう。かと言って俺たちの側にいさせれば、それはそれで危険が及ぶ可能性が高い。どちらが良い、と言えるような物は無かった。

でも、やはり俺たちは、ザークの言っていた選択肢を選ぶしか無かったのかもしれない。どの道危険が及ぶのなら、俺たちが守れる所にいてもらった方が良い。それでも、他に希望は無いかと模索を続けたかった。

 

「お前の目的が分からない。俺たちを助けて、何がしたい?何故リリィの今後のことにまで首を突っ込んでくる?」

 

「そうだな…今は答える気はねぇってことだけは確かだ」

 

ザークは不敵な笑みを崩さない。

 

「あんた、本当に何者なんだよ…」

 

「その内分かるさ…」

 

ザークは、踵を返して部屋から出ようとした。どうせ、何を質問しても答える気は無さそうだ。引き止めても無駄だろう。

 

「まぁ、パキンスタに行くまでは安心しろよ。それまでに何かあっちゃあ、俺にとっても損だからな」

 

ザークはさり際にそう言うと、道場から出て行った。遺言の内容まで知っていたのか。

 

「あ、そうそう!」

 

出て行ったと思っていたザークが、顔だけ見せるようにして戻って来た。

 

「もし、リリィを同行させないってんなら、俺が殺すからな!」

 

「何っ!?」

 

「じゃあな!」

 

追おうと思ったが、ザークはすぐさま姿を消してしまった。

 

 

俺たちよりも遥かに強い。そして、味方とも思えない。いや、今の発言で、敵だと分かった。なのに、俺たちを助けた。俺たちの名前も、リリィの事も知っているようだった。本当に、何が目的なのか分からない。

 

「今の俺たちがどうこうできる相手ではない。それに奴は、パキンスタ共和国に行くまでは俺たちを守ると言った。奴の正体も目的も全く分からないが、それは今は置いておき、師範の遺言に従うしかないだろう」

 

「…」

 

テオの言う通り、今は他に選択肢は無い。不本意だけど、リリィを連れてパキンスタに行くしかない。

俺たちは荷物を纏めて、今日は家に帰ることにした。母さんにも、今後のことを伝えなくてはならない。そして、リリィにも…。

 

「出発は明後日を予定している。それまでに、準備を済ませてくれ」

 

「分かった…」

 

道場を出るとき、俺たちは深々と礼をした。ガルーダさん、短い間でしたが、波動を教えてくれてありがとうございました。

どうか、俺たちを見守っていて下さい…。

 

 

 

 

 

 




ルネ

ホルロスの通貨。世界的にも信用のある通貨である。
一般的なホルロス人は、生涯働いて2〜3億ルネ稼ぐと言われている。
ガルーダは、レイスが道場にやって来るより前に、有事に備えてテオに1億ルネを譲渡していた。




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