修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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波動使い殺し

11月25日の夜。21時30分頃。レイスとテオを完膚なきまでに叩きのめしたグレイドは、メラメラと燃え盛る工場地帯の中、一人立っていた。

 

「ザーク…。聞いた事の無い名だ。更に、闇の波動の使い手か。まさか、奴の正体は…」

 

グレイドの脳裏には、自分を前にしても全く動じる事なく、軽快に笑っていたザークの姿が浮かんでいた。

 

「戯れなどせず、小僧共を殺しておくべきだったか…?」

 

レイスもテオも、彼の敵ではなかった。いかに天才と言えども、グレイドもまた傑物。その彼らを殺すのは、グレイドには造作もない事であった。

 

「いや、奴は小僧共を助ける機会を伺っていた。俺は奴の掌で踊らされていたという事か…」

 

グレイドは怒りを覚えた。一瞬にして昂ぶった彼の波動は、地面に大きなヒビをいれた。

 

「だが、闇の波動使いとは面白い。相手にとって不足は無いというもの…」

 

彼の眼は、燃えていた。彼が去って行った凄惨な戦闘の現場の炎は、彼の闘志に呼応するように勢いを増して燃えた。

 

 

 

 

 

ガルーダによって右腕を傷つけられたクレアは、応急措置を済ませると、ライムシティを離れていた。彼女が向かう先は、カリンシティ。ライムシティからは新幹線で2時間程の距離にある。そこにて、グレイドの他の配下たちと合流する事になっていた。

車内で彼女は、ガルーダに受けた傷が痛むのを感じ、顔をしかめた。

 

「っ…あの男…グレイド様の前で恥をかかせて…!」

 

自身を傷つけただけでなく、その上でグレイドの前で醜態を晒させた。あまりにも許し難い行為だと、彼女は怒りで胸が一杯であった。

彼女は、グレイドを愛している。圧倒的な強さとカリスマを兼ね備えた彼を、心の底から愛している。それは最早、依存と言い換えても差し支えない程に、だ。

 

普段、どれだけグレイドを誘っても、グレイドは彼女に欠片の興味も示さない。クレアのスタイルは良かった。まさしく、大人の女性の妖しげな魅力、というものを持っていた。だが、グレイドは振り向かない。若く、血気盛んな年齢のはずのグレイドは、クレアなど眼中に無いといった態度を取っていた。

 

それが、彼女を刺激した。今は無理でも、いつかきっと振り向かせてみせる。グレイドの愛を独り占めしてやる。そう思っていた。

 

そんな彼女にとって、グレイドの中での評価を下げる出来事は、あってはならなかった。

 

「あの男は、私が殺すべきだった…!グレイドの様のお手を煩わせるなんて事、あってはならないのに…!!!」

 

服の裾を握りしめ、下唇を噛んでいる。

 

「間もなく、カリン駅に到着致します…」

 

車内アナウンスが鳴った。もう夜の12時だ。合流予定時刻は、深夜1時。まだ時間がある。

荷物など特に持っていないクレアは、座席を立ち上がると、そのまま新幹線を下りていった。

 

彼女の後ろに座っていた、黒紫色の髪の男に気づく事なく…。

 

 

 

 

時は少し遡り、夜の11時。グレイドの配下らの合流地点である廃ホテルには、既にクレア以外のメンバーが揃っていた。ホテルは5階建て。グレイドの配下は、アルザスやベリー、ジェクラを含めずに現在総勢102名。クレアを除き、101名がホテルに集まっていた。超人と言える波動使いが、100人以上もグレイドの下についていた。

メンバーの多くは4階の大広間にいたが、一部の者は疲れ故に部屋で少し休息をとっていた。

 

大広間では、クレアとグレイドの到来を待つメンバーたちが、雑談などをして暇を潰していた。

 

「クレアはまだ来ないのか?」

 

男が呟いた。

 

「まだ約束の時間まであるよ。ちょっと早く来すぎたね。ていうか、合流時間を遅くしすぎたね…」

 

別の男が、それに答える。

 

「ふん。あんな女のどこが良いんだか!グレイド様は、何であんな女に役割を与えるのかしら?私の方が、きっと良い働きが出来るのに…」

 

女の一人が悪態をつく。

グレイドの配下には、女もいる。現在の構成員102名の内、23名は女であった。彼女らも、グレイドのカリスマに惹かれている。故に、重用されているクレアは嫉妬の対象となっていた。

 

 

 

 

そして、1階から3階の各部屋に、何人かのメンバーはいた。時刻は23時2分。それぞれ、長旅の疲れを癒やしている、といった感じであった。

 

「ふぁぁ〜…。眠いなぁ…」

 

男はベッドに寝転がり、欠伸をしていた。

 

「少しだけ寝ようかなぁ…」

 

そうしてウトウトしていると、ガチャリという音が聞こえた。誰かがドアノブを握った音だ。

 

「んぁ?誰かいるの?何のよ」

 

ドアが開くと同時に、男の意識は途切れた。首が胴体から離れ、床に転がっていた。

 

 

 

 

「まだ11時10分かよ」

 

「長いわねぇ…」

 

大広間のメンバーたちは、退屈そうにしていた。だが、その退屈はすぐに吹き飛ぶ事になる。

退屈とは、平穏な時に起こる感情だ。では、平穏でなかったら?それがチャンスだろうと、ピンチだろうと、退屈ではなくなるだろう。

 

「いやぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

「!?」

 

大広間入口から、女の悲鳴が聞こえた。

 

「な、なんだ!?」

 

入口の扉を開くと、女が必死の形相で逃げているのが見えた。

 

「いやっ!!助けて!死にたくな」

 

そこで、女の言葉は止まった。女の首が刎ね飛ばされたのだ。

 

「あぁ…」

 

床に転がる女の首を見て、大広間の面々は絶句していた。メンバーの一人と、転がった女の首の目が合ってしまった。絶望に染まった目であった。

 

「なんなんだよこれ…」

 

そして、足音がした。入口に近付いてくる。大広間の誰もが、固唾を飲んでいた。

 

 

 

足音は、女のものであった。白い小袖に青い袴を着た女だ。大きな頭巾のようなもので頭を覆っており、顔はよく分からない。

 

「…」

 

大広間にいる全員の時が止まった。

あまりにも強力な波動。底が知れない。そして、袴の女の波動は、近くで感じるだけで寒気がするものであった。

 

袴の女の右手には、剣が握られている。実物の剣ではない。真っ黒な剣。波動によって形作られた、波動剣である。そして、女の足元には、無惨にも殺された先程の女の死体。

 

彼らは悟った。

こいつは化け物だ。

 

袴の女は、ゆっくりと足を動かし、彼らの方へと歩き出した。

 

「……ぁ…やっ、やれぇぇぇっ!!!!!」

 

彼らは波動を身に纏い、一斉に袴の女へと飛び出していった。腐っても波動使い。まずは闘おうという思考になった。

大広間にいるグレイドの配下は、85人。対して女は1人。数の上では、圧倒的に彼らの方が優位に立っていた。

 

「くたばれアマがぁぁーっ!!!」

 

7人の波動使いが跳び上がり、女を目掛けて攻撃を仕掛けた。ある者は短刀に波動を込め、ある者は波動能力を発動し、拳に炎を纏っていた。

 

「…」

 

だが、女は微動だにしなかった。そして、右手が少しだけ動いたと思うと、女の姿が消えていた。

 

「何っ!?」

 

次の瞬間には、7人の身体がは上から3つに斬られていた。切断面から、だるま落としのように彼らの身体は落ちていった。

 

「な……怯むな!!殺せッ!!」

 

次に、10人が女を囲んだ。すると、女の右手から剣が消えた。そして、新たな形を見せる。

槍だ。黒い槍、波動の槍。

 

「変わった……!?」

 

10人が怯んだ所で、女は構えを取り、槍をぶん投げた。

 

「ごあっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

今の投擲で、8人の波動使いの腹がぶち抜かれた。彼らは槍に貫かれ、壁に貼り付けられた形になったが、槍の方は勢いが衰えずにビルを貫いてどこかへ飛んでいった。

 

「なんてやつだ…」

 

女を囲っていた波動使いは、今の攻撃で1人死に、残り9人。

女の手には、いつの間にか薙刀が握られていた。これも波動の薙刀である。

女がそれを振り回すと、9人の命の灯火は消えた。顔の上半分がすっぱりと斬られ、力無く倒れた。

 

「あぁっ…」

 

ここに来て、波動使いたちの戦意に陰りが見えた。

今、自分たちの目の前にいるこの女はまさか、自分たちが逃げてきた、あの…。

 

女が首の向きを変えた。向かってくる。

 

 

「よ、よよよ、よせ!来るなぁ!!」

 

首をブンブンと振り、拒絶を示すも何の意味も成さない。女は一歩、一歩と足を前へ運び、波動使いたちは一歩、一歩と後退りする。

女が薙刀を構えると、ついに彼らの恐怖は限界を迎えた。

 

「逃げろッ!!!」

 

敵に背を向ける、愚かな行為ではある。だが、彼らには他に選択肢は残されていなかった。

 

 

もっとも、逃げることなど許されない。そこからは悲惨であった。残りの波動使いたちは、あるものは上半身と下半身を真っ二つに斬られ、ある者は頭頂部から剣で唐竹割りにされ、パカリと2つに分かれた。大広間に舞う血の雫。骸の陳列場。

80人以上いた波動使いが、たった一人の女の波動使いによって皆殺しにされた。

そして、最後の一人となった。

 

「あ、いや………やめて……来ないで……」

 

最後の一人となった女。顔は涙と汗にまみれ、ぐちゃぐちゃだ。身体もブルブルと震え、無様に尻餅をついている。

 

袴の女は、ゆっくりと最後の一人に近づき、槍を構える。

 

「やめ……やめて……!!」

 

恐る恐る袴の女を見上げる。下から見ているので、その素顔が少し見えた。

何故か袴の女は、悲しげな表情を浮かべていた。

 

「え……?」

 

一瞬戸惑う。だが、それで終わり。槍が女の顔面を貫き、大広間…いや、ホテルにいた波動使いは全滅した。

 

袴の女は、無惨な86人の死体が転がる大広間を出る。

 

 

 

「……っ」

 

袴の女は、その場でただ立っていた。俯き、何かを思いながら立っていた。1人きりとなったホテルで、彼女は何を思っているのか。

 

 

 

 

 

グレイドは時計を確認した。時刻は22時32分。合流の時刻まで残り2時間半。まだ余裕はある。

 

「奴らのもとへと向かうか…」

 

すると、グレイドはその場から消えた。高速移動である。彼は、自らの足でカリンシティへと向かっていた。

凄まじいスピードだ。人間の速さとは思えないスピードで、新幹線で2時間かかるカリンシティへと直行。

結果、1時間程で到着した。しかも、まったく汗をかいていないし、息もあがっていない。彼にとっては、小走りをしていた感覚であった。

 

 

 

 

23時37分。グレイドは合流予定地の廃ホテルに足を踏み入れる。中へ入った瞬間に、異様な雰囲気を感じ取った。

 

「何だ?」

 

1階の部屋をいくつか覗いてみると、部屋の中で無惨な物言わぬ骸となった配下たちがいた。そして、上の階に凄まじい波動を感じた。

 

「これは…」

 

グレイドは2階、3階と確認するも、いずれも同様に配下たちの死体があった。

 

そして、4階の大広間。入口に転がる女も含め、86人の惨たらしい死肉が辺り一面に広がる修羅の場。血の生々しい匂いが、大広間中を覆っている。

 

「この数の波動使いを皆殺し、か」

 

この地獄絵図を前にしても、グレイドの表情は変わらない。動揺の欠片も無かった。

 

「奴は5階にいるな」

 

グレイドは大広間を後にし、5階・屋上へと上った。

広々とした屋上を、月明かりが照らしている。そこには、一人で月を眺めている袴の女の姿があった。

 

「…」

 

グレイドが屋上の扉を開くと、女は彼の方を向いた。

 

「ん…女であったか」

 

相変わらず、女の顔はよく見えない。

 

「貴様が、下にいる配下共を皆殺しにしたのだな?」

 

「…」

 

女は何も答えない。

 

「闇の波動か…ザークに続き、こいつまでもが、か」

 

グレイドは、女の実力を測る。

今はかなり波動を抑えているが、内に眠る凄まじいパワーを確かに読み取っていた。

 

「どうした?声を聞かせてはくれんのか?」

 

「…」

 

やはり女は答えない。

 

「黙するか」

 

グレイドから輝く波動が放たれる。それは刃となり、彼の右腕から伸びていた。

 

「ならば、それも良かろう」

 

グレイドは跳んだ。そして、女に勢いよく光の刃を振り下ろす。

 

だが、それは女に届くことはなかった。女は、瞬時に波動剣を生み出し、それでグレイドの刃を受け止めた。

 

「ほう」

 

グレイドはニヤリとした。今の感触で、女の実力が相当なものであると分かった。

そして、二撃目の刃。これもまた女に防がれる。三撃目、四撃目。これらも女は剣で受け止めた。

そして五撃目。女はこれも防ごうとしたが、グレイドは波動剣に触れる寸前で波動を解き、刃を消した。そして、それまでの勢いを生かし、女に回し蹴りを放った。

 

「…」

 

女は、紙一重でその蹴りを躱すと、そのまま跳び、ムーンサルトの動きでグレイドの顎を蹴り上げようとした。

 

「ふん」

 

グレイドは、その蹴りをバク転によって回避する。

両者共に無駄のない、流麗な動きであった。

 

「次は、肉弾戦といこうか…」

 

グレイドの拳が光った。ギラギラと煌めく、波動の拳だ。

そして、急接近。並の使い手ならば、反応すら出来ない踏み込みだ。

そして、その踏み込みから繰り出される右ストレートは、破壊的威力だ。命中すれば、頭が粉々にされるだろう。

 

しかし、女はこれを左腕でガードした。腕に特にダメージが入った様子も無い。

女はグレイドの腕を振り払うと、今度は自身の右手に波動を込め、グレイドに突き出した。

だが、グレイドもこれを左手で受け流す。そしてまた、拳に波動を込めて反撃。光と闇の波動が火花を散らす、熾烈な拳のぶつかり合いが始まった。

 

しばらくすると、女の拳がグレイドに命中。グレイドはこれを両の腕を交差させて防御するも、勢いまでは殺しきれずに吹っ飛ばされた。壁に激突し、それは崩れて瓦礫となる。

 

瓦礫の中、倒れ込んだグレイドに傷はない。全くダメージにはなっていない。だが、動かずにじっとしている。今受けた攻撃について考えているのではない。他の事に思考を巡らせていた。

 

「あの女の闘い方……」

 

先程の拳でのやり取りを思い浮かべる。

 

「聖煌流か」

 

グレイドはゆっくりと立ち上がる。

 

「そして、これは単なる座興に過ぎぬな」

 

グレイドも女も、全力には程遠かった。まず、両者共に波動能力を発動していない。どちらも小手調べのような感覚で闘っている。それでも、凡庸な波動使いには全くついていくことなど出来ないが、彼らにとってはまさしく「座興」であった。

 

「だが、これで分かった」

 

グレイドは女の方に歩み寄る。

 

「17年前より今に至るまで、世の波動使いを始末している『波動使い殺し』…」

 

「…」

 

「その正体は、貴様だろう?」

 

「…」

 

女は何も言わなかった。

 

「答えぬか。だが、貴様の内に秘められた波動が、言わずと答えを告げている」

 

「…」

 

「そして、貴様のその動き…聖煌流の色が見える。貴様、何者だ?」

 

「…」

 

女はやはり、何も答えない。じっとグレイドを見つめている。攻撃をしてくる素振りも見せない。

 

「俄然興味が湧いてきたぞ。貴様という存在にな」

 

グレイドは再び波動の刃を展開した。先程よりも強力な波動が込められている。

 

「はぁっ!!」

 

そして、女へと急接近。少々力を込めた一振りだ。女はそれを流れる水のように避ける。

 

「フッ」

 

だが、グレイドは笑った。ニヤリと口もとを歪め、ギョロリと女を見た。

 

すると、女の足元の空間が僅かにだが歪み、女の体勢が少しだけ崩れた。そこで女は、初めて表情を変えた。微小な変化ではあるが、驚いたような顔になっていた。

 

「顔を…」

 

その隙を突き、グレイドは女の顔を覆っていた被り物を鷲掴みにした。

 

「晒せ!!!」

 

グレイドは勢いよく被り物を引きちぎった。

初めて、初めて女の素顔が明るみになる。被り物に押さえられていた髪が、背にかかる。蒼い眼、黒い長髪。空に仄かに光る月に照らされた女の顔は、美しく、瑞々しかった。

 

グレイドの表情は固まった。

女に一目惚れした、と言った理由では当然ない。彼にとって、女が若い、というのが問題であった。

 

「若い…だと…?」

 

女の顔から見て、年齢は10代後半から20代前半であった。だが、波動使い殺しが現れたのは17年前。計算が合わない。見た目から判断するのならば、女は乳飲み子とは言わずとも、かなり幼い頃から世界中の波動使いを殺している事になる。いくら何でも、それは不可能だ。

 

「俺よりも若い…」

 

確かに、波動使いは実際の年齢よりも若々しく肉体を保つことが出来る。だが、達人の波動使いならば、それが波動故の若さか、本当に若いのかの判別が可能だ。目の前の女は「実際に若い」のである。

 

「待て。貴様、どこかで…」

 

グレイドは、昔の記憶を探ってみる。女の顔に、見覚えがある気がしたのだ。5年前、10年前。記憶にはない。15年前、20年前。徐々に思い出される記憶が薄れていく。だが、手がかりになりそうな記憶を思い出した。グレイドの目が見開かれる。

 

「聖煌流…女……まさか、貴様は」

 

「それ以上は言わないで」

 

「!」

 

女は初めて口を開いた。女の声を聞いて、グレイドは増々確信を深めた。

 

「ようやく声を発したな。だが解せぬ。貴様は歳をとらんのか?」

 

「…」

 

「また黙するか。仕方が無い、話を変えてやろう。貴様、何故波動使いを殺す?貴様のせいで、俺の配下共が皆殺しにされてしまったな」

 

「それは…」

 

女の表情が曇った。何か、罪悪感のようなものが見て取れる、複雑な表情であった。

 

「貴様との付き合いは無に等しかったが、貴様の話は何度か聞かされていた。まさか、貴様も自身のみが波動の境地に達すれば良いと考えていた訳か。人は見かけに依らんものだな」

 

「違うっ!」

 

女は叫んだ。

 

「何が違うのだ?」

 

「私は…!」

 

「ほう。貴様は?」

 

女はそこまで言うと、再び口ごもった。俯き、袴を握りしめていた。

 

「あれ程の数の波動使いを集めるのに、時間をかけたものだ。貴様から逃げ惑い、貴様に殺される恐怖に身を沈めていた奴らは、俺という救世主にすがる思いであった」

 

「……っ」

 

「従順であったな。俺が、自身らを貴様の手から救うと信じて疑わなかった。事実、奴らから見れば貴様は悪魔、俺は神であっただろうよ。それを貴様は……」

 

「その……っ」

 

女は、グレイドの顔を見ることができなかった。グレイドがどのような表情であるか、見る勇気が無かったのだろうか…?袴を握る力は、より強くなっていた。

 

 

 

「下臈共を殺す手間が省けたというものだ」

 

「………!」

 

女は、ハッとしてグレイドを見た。グレイドの顔には、悲しみも怒りも、女に対する憎しみも見て取れなかった。そこにあるのは、口端を歪めた、清々しい笑顔であった。

 

「何だその顔は?まさか、俺が貴様を憎んでいるとでも思ったか?」

 

「……」

 

「先程言ったな。貴様『も』と。俺は、俺以外が波動を使う事を認めん。この世に波動使いは、俺一人で良いのだ」

 

「あなたは……!」

 

「その為には、世に蔓延る波動使い共を皆殺しにする必要がある。無論、貴様も殺さねばな」

 

「……」

 

「さぁ、どうした?貴様も波動使いが邪魔なのだろう?俺を殺してみせよ。この距離ならば、造作もない筈だな?」

 

「私は…」

 

女は動かなかった。

 

「フン、何を躊躇っているのか。貴様は既に、血にまみれた人殺しだろう?」

 

「…」

 

「やはり動かぬか。だが、貴様は強敵だ。この際に殺しておくのが良いだろう」

 

すると、グレイドの波動が高まっていった。目を閉じて、意識を集中させる。

腕を左右に開き、ゆっくりと目を開いた。

 

「成…」

 

「!!」

 

女は初めて構えた。

だが、緊迫した空気はそこで途切れる。

 

「そこまでだぜ、てめぇら」

 

両者共に、ある方向を向いた。

そこに立っていたのは、ザークであった。

 

「ザーク…」

 

グレイドは、ザークを睨みつける。

 

「今日はここでお開きだ。何もここで決着を着けることはねぇからな」

 

「貴様もこの女も闇の波動の使い手だ。貴様ら、組んでいるのか?」

 

「さぁ、どうだろうな…?」

 

ザークは、いかにも「さぁ」といった仕草をしている。

 

「人の神経を逆撫でにする奴だ…」

 

そんなザークを、グレイドはやはり睨んでいた。

同時に、ザークがいる事で、この場で決戦とはならないとも悟り、グレイドは臨戦態勢を解いた。

 

「派手に殺したな。中々惨ったらしかったぜ!」

 

ザークは女に笑いながら話しかけた。

 

「…黙りなさい」

 

女もザークを睨みつけている。2人は知り合いであるかのような雰囲気であった。

 

疑問点も不満点もあるが、グレイドは結論を出す。

 

「今は退いてやる。最後に地に伏すのが貴様か、俺か。いずれ分かるだろう」

「しばしの別れだ」

 

 

 

 

 

「──────────」

 

 

 

そうしてグレイドは、屋上から姿を消した。屋上には、ただ2人が残されたのであった。

 

 

 

 

──────────第2部「受け継がれし波動」完

 

 

 




カリンシティ

田舎に近い雰囲気の街。商業施設などは充実しておらず、あまり賑やかな街ではないが、何故か駅だけは広い。カリン駅に初めて来た人間は、大体迷う事になる。
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