修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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第3部 あゝ 美しき理想郷よ
爆砕・エレーカ鉄道①


11月27日。レイスら3人の旅立ちの日。家を出てテオとも合流し、彼らは空港に着いていた。

 

「相変わらず広いな、空港って」

 

上を見上げると、通常の建物では考えられない程に高い位置に天井がある。空よりも高いのでは、とある種の錯覚を覚える程だ。

 

「人も沢山いるね…」

 

「急ぐぞ。乗り遅れるわけにはいかない」

 

彼らは無論、遊びに来た訳ではない。発着時刻まで2時間はあるが、彼らは足早に搭乗の準備を済ませる。

 

「刀も外国に持ち込めるんだ…」

 

リリィは少し驚いた顔をする。

 

「証明書類があれば持ち込める」

 

「でも、10本も持ってくるとは思わなかったぞ」

 

「一昨日、グレイドとの闘いで刀を1本失った。パキンスタでも、何が起こるか分からない。念には念を入れる必要がある」

 

「流石に用心深いな…」

 

そうして、レイスたちは飛行機に搭乗する。指定の座席まで移動し、腰を下ろした。窓際の席で、3人席だ。左からリリィ、レイス、テオの順で座っている。

 

「なんか、ずっと立ってたから足が痛くなったよ…」

 

リリィが疲れた顔をしていた。今朝は早く起きたので、欠伸もしている。

 

「今、8時だよな。あと30分で出発か?」

 

「ああ。そして、到着まで大体7時間といったところだ。パキンスタの方がホルロスより4時間進んでいるから、現地時間19時30分頃に到着だ」

 

「なるほど。やっぱり遠いなぁ」

 

レイスも背伸びをした。彼は早く起きること自体には慣れているが、連日の修行や闘いの疲れが残っていた。

 

「リリィ、眠いのなら寝た方が良い。体調を崩しては元も子もない」

 

「うん…。じゃあ、ちょっと寝るね」

 

テオの提案を受け、リリィはそっと目を閉じた。

 

「テオ、機内に波動使いはいないみたいだな」

 

「そのようだ。ひとまず安心だな」

 

機内で波動使いと戦闘になり、機体が墜落などでもしたら、互いに生還は絶望的だ。超人身体能力をもってしても、上空数千メートルから落下すれば、死は免れられない。

 

「ザークが見張ってるのかな…」

 

「奴の言葉をどこまで信じるべきかは分からないが、その可能性はある。だが、もし奴の言う事が全て正しいのなら、パキンスタで何らかの干渉をしてくるだろう」

 

ザークはレイスたちに、「パキンスタに行くまでに彼らに何かが起これば自分が困る」と言った。裏を返せば、パキンスタでザークがレイスらに何かをする、という事になる。

 

得体の知れない強者・ザークの動向に、早くも2人は神経をすり減らしていた。

 

「奴の事は、ひとまず置いておくしかない。どちらかと言えば、グレイドの方が気がかりだ。グレイドの配下がパキンスタにいて、俺たちの動向を探っていてもおかしくない」

 

「そうだな…。次あいつに見つかったら、確実に殺しに来るだろうしな」

 

「その前に、何としてもゼクトさんと合流しなければならない。リリィもいるから、戦闘になるとこちらが不利だ」

 

「…」

 

レイスもテオも、良い心地はしない。一寸先は闇、全く何が起こるか分からないパキンスタの旅は、すぐ目の前に迫っている。

 

 

 

飛行機が離陸し、先程までいた空港が遥か地上に見える。このような景色は、普段見ることはない珍しいものだ。

 

「空を飛ぶ、かぁ。昔は、ヒーローみたいにビュンビュン飛んだりしたいと思ってたけど、結局出来なかったな、波動使いになっても」

 

「波動使いだからといって、空中に浮くことが出来る訳ではない。そういう波動能力ならば可能だろうけどな」

 

「グレイドは、上空から現れたよな。しかも、浮いている感じだった。あいつの能力ってもしかして、空を飛ぶ能力?」

 

「その可能性はある。だが、お前が気を失ってからも、奴は波動能力を使わなかった。純粋な波動のみで俺たちを下した。結局、奴の能力は分からなかった」

 

「能力を使うまでもないって事か…」

 

レイスは、少し悔しい気分になり、拳を握りしめた。

 

「ただ、奴の波動は普通の人間の波動と違っていた」

 

「え?」

 

「波動は通常、薄い白色だ。気体のように沸き上がり、波動使いの意志で身体に纏われる。薄くはあるが、目で見ることは出来るし、そこに波動があるという事は感じ取れる、そういうものだ」

 

「うん、そうだよな」

 

「奴が俺の刀を受け止めた時、奴は指に波動を込めていた。だが、その波動は光を放っていたんだ」

 

「光を?」

 

レイスは背もたれから身を乗り出すような体勢となる。

 

「俺の電気、みたいなのじゃなくて?」

 

「ああ。能力ではなく、通常の波動だ。その波動が光り輝いていたんだ」

 

「光る波動……」

 

「光る波動など、俺も聞いたことが無い。これが、グレイドに特有の波動なのか、そうではないのか。この点が気がかりだ」

 

「うーん、謎が多い奴だなぁ…」

 

グレイドに対する謎が深まる。

だが、テオは次の話を切り出した。

 

「レイス、波動能力が目覚めたお前に、言っておく事がある」

 

「言っておく事?」

 

「まず、波動能力は個性ではあるが、固有ではない、という事だ」

 

「固有ではない?」

 

「波動能力には、その波動使いの性格や好みが表れる事が多い。だが、似たような性格や好みを持つ人間は、世界に何人もいるだろう。波動使いも同じで、自分とよく似た能力を使う波動使いもいる、という事を頭に入れる必要がある」

 

「じゃあ、俺と同じで電気を使う波動使いが敵にいてもおかしくないって事か」

 

「そうだ。そして、2つ目に言っておく事は、波動能力は1人1つではない、という事だ」

 

「2つ以上の波動能力を使うやつがいるってこと?」

 

「ああ。これはかなり希少な例のようだが、複数の波動能力を使う者がいるらしい。その場合、メインとなる能力以外の練度はそこまで高くはないようだが、もし敵にいたら厄介だ」

 

「メインとなる、って事は、本人の性格とかに合った能力がまずあって、他に自分で付け足していった感じなのかな」

 

「恐らくそうだろう。いずれにせよ、敵が複数の能力を使ってきたら、対処がし辛い。敵と闘う時は、そいつが1つしか能力を持っていない、という先入観は持たない方が良い」

 

「なるほど、分かったよ」

 

「そして最後に、俺たちにも当てはまる事だが」

 

「俺たちにも?」

 

「波動能力には、『条件』を付与することで、その能力の効果を高められる、という性質がある」

 

「条件?」

 

レイスは、テオの瞳を見た。

 

「例えば、即席で設ける条件だと、10日間波動能力を使えなくなるが、一時的に爆発的な力を発動する、と自分で自分に条件を付与する事が出来る」

 

「そんな事が出来たのか」

 

「ああ。他には、能力の発動自体に一定の条件が設けられているものもある。これらの能力は、能力の発動前に特定の行動を取ったり、特定の状況を作り上げなければならないが、その代わりに発動すれば強力な能力というケースが多い」

 

「俺もテオも、能力の発動自体に条件は無いよな」

 

「ああ。体内に波動が残っている、という全波動能力の発動に必要な共通の条件だけだろう」

 

「あ、それも一応条件になるのか」

 

「だから、波動能力者間の戦闘では、『想定内』は存在しないだろう。闘いには無限のパターンが存在する。実力では勝っていても、能力の相性や、敵の能力の条件次第で戦況が変わることもある。ここは要注意だろう」

 

「波動って奥が深いなぁ…」

 

レイスは腕を組み、目を瞑った。眉間にしわを寄せており、波動の厄介さに少し困っている。

 

「条件は頭の中で自分に課せば成立する。だから、もし戦況が悪化したら、即席の条件で乗り切るのも一つの手だ。後の事を考えようとも、そこで死んだら終わりだからな」

 

「そうだな。頭に入れておくよ」

 

 

 

 

「波動ってややこしいんだね…」

 

リリィは、レイスらがグレイドの話を始めたあたりで眠りから覚めていた。2人が何かを話しているので、そのまま目を瞑っていた。別に隠すつもりはなかったが、2人の話に割って入る気もなかったので、そのままでいたのだ。

 

「私も波動能力を使ったけど、また使えるかな…?」

 

リリィはあの後、波動能力は使っていなかった。使う場面も無かったので当然ではあるが、またあの時のように回復能力が使えるのか、気になっていた。回復の力があれば、レイスやテオのサポートが出来る。2人の役に立てるかもしれない、と思っていた。

 

「でも一番良いのは、何も起きないで帰れることだよね…。どうか、無事で帰れますように…」

 

リリィは、心の中で旅の無事を祈るのであった。

 

 

 

 

ホルロスの時刻で正午前後になると、昼食となった。機内食だ。

 

「メニュー自体は特別変わってないけど、機内食って何かスペシャルって感じするよな」

 

「そうだね。やっぱり、中々飛行機乗らないからかな」

 

目の前にある機内食を見て、レイスとリリィは普段は味わわない気分を感じていた。

プラスチックの容器には、白いライスにデミグラスハンバーグ、サラダが入っている。透明な蓋を開けると、香ばしい香りが辺りを漂っていた。

 

「おいしそう…」

 

「いただきます」

 

彼らは機内食に舌鼓を打った。束の間の平穏な時であった。

飛行機の中では、彼らはそれまでの日々からは打って変わってとても穏やかな時を過ごしていた。これからの事を考えたりして、胸中穏やかでない時はあったが、状況を見れば平穏そのもの、何の問題も無いフライトであった。

 

そして、その空の旅もあと少しで終わる。束の間の平穏は、長くは続かない。

 

 

飛行機が、着陸のアナウンスをした。機体が地上へ向かって降りていく。その際の震動や圧迫感は、これまた普段は馴染みのないものだ。リリィは、少しだけ怖いという表情となっていた。

 

「はぁ〜…。あの感覚、好きになれないよ」

 

「まぁ、しょうがないよな」

 

こうして、3人の空の旅は終わりを迎える。機体から外へ出て、エレーカ国際空港の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

飛行機を降りて、荷物を受け取って、それなりに時間が経った。30分は経っただろうか。私は、空港内の椅子に腰掛けたままでいた。

結局、兄は見つからなかった。世界の色々な所を見て回っても、兄がどこにいるのかすら掴めなかった。

あの男は、誰よりも罪深い。あの男のせいで、お母様は…。

お母様も、あとどれぐらい生きられるか分からない。だからせめて、最後に一度だけでも、あの男と母様を…。

 

暫く俯いていたけど、顔を上げた。こんな所で諦めていては駄目。もう長くはないのだから、娘の私が、本来なら側にいてあげるべきだ。でも、お母様はあんな男を、今でも愛してる。最後ぐらい、願いを叶えてあげるのも娘の役割のはずだ。

 

「…?」

 

何か、奇妙な感じがした。目を凝らして、少し遠くを見てみる。3人組の男女が歩いていた。歳は、私と同じくらい…?

 

「え、うそ…」

 

あの3人の身体を流れる波動…。全員、波動使いだった。金髪の女の子の波動は強くないけど、2人の男の方は抑えられてはいてもかなり強いのが分かる。

 

「まさか、ここに波動使いがいるなんて…」

 

3人組の波動使い。間違いなくただ者じゃない。見た目や仕草からすると、悪人っぽさは全く無いけど、今はこんな時代だ。彼らが一体何者なのか、知る必要がある。

 

「里帰りして早々、厄介なことになりそうね…」

 

私は席を立ち、彼らを追うことにした。

 

 

 

 

 

 

パキンスタ共和国現地時間20時4分。

飛行機を降り、荷物を受け取り、到着ロビーを歩くレイスたち。

 

「えーっと、エレーカ国際空港駅…はどうやって行くのかな?」

 

リリィは、辺りをキョロキョロとしながら言った。

 

「8番出口から外に出てすぐにある。まだ少し歩くな」

 

テオは地図を見ながら答えた。エレーカ国際空港は、かなり広い。ある出口から別の出口まで歩くのにかなりの時間を使う。

 

「俺、パキンスタって初めてだ。どんな所なんだろ」

 

レイスは、初めて来る国にどこかワクワクしていた。

 

「私、小さい頃に一度だけ来たことあるけど、凄い綺麗な所だったよ。建物とかも、おしゃれな感じがして良かったなぁ」

 

「ん…」

 

テオが何かに気付く。

 

「どうしたの、テオ君?」

 

「いや…」

 

「…」

 

レイスとテオの目つきが変わった。

 

「とりあえず、駅まで行こう。なるべく早く、ゼクトさんに会いに行くんだ」

 

目つきは変われど、テオの声色は変わらない。そして、彼らは歩き続けた。まずは目的地、エレーカ国際空港駅を目指して。

 

 

 

「ここが駅か。何か、普通の駅とは全然雰囲気が違うな」

 

エレーカ国際空港駅は、とてもシンプルなデザインだった。全体的に透明な内装で、どこか近未来的な雰囲気も感じさせる。そして、この駅は地下鉄の駅でもある。地上部分とは一変、地下部分の内装は荘厳で歴史を感じさせるレンガ式のデザインだ。

 

「地下の方はなんか上と違うね。珍しい駅だね」

 

「2番ホームから来る電車に乗るんだよな?」

 

「そうだ。そして、シーラ駅までは乗換無しで行ける。今日は、シーラ駅に着いたらホテルに泊まり、明日になってからゼクトさんの会社へ行く」

 

「分かった。で、テオ…」

 

「ん…」

 

「あいつ、やっぱり俺たちの跡を付けて来てるみたいだぞ」

 

「え」

 

リリィは、目を見開いた。

 

「付けて来てるって…」

 

「黙っててごめん。空港から、俺たちの後ろを追って来てる奴がいるんだ」

 

「!敵……なの?」

 

「それは分からない。でも、襲ってくる気配は今の所無い。殺気のようなものは感じられないからな」

 

「良かった〜…」

 

「でも、油断しちゃ駄目だ。ここには一般人も多くいる。ここで戦闘なんかしたら、怪我人どころか死者が出てもおかしくない」

 

「死者って、そんな…」

 

何事もなく家に帰る。リリィのそんな目標は早くも打ち砕かれそうで、彼女は俯いた。

 

 

 

跡を付けてみても、特に不審な動きは見せなかった。というより、私の尾行はバレてるかもしれない。私、気配を消すの苦手だからな…。

女の子が、どこかしょんぼりした顔をしていた。あれを見て確信した。少なくとも、女の子は悪い波動使いじゃない。それに、彼女の波動は、波動使いにしては弱すぎる。普通の人間と変わらないレベルだ。

そんな彼女と一緒にいる2人も、悪人には見えなかった。それなら、尾行してピリピリさせるのは逆に悪い。私の方から出向いて、話をした方が良い。

私は、3人の方に行く事にした。

 

 

 

 

「ん…?」

 

「…!どうしたの…?」

 

リリィは過敏になっているのか、恐る恐る尋ねた。

 

「誰かが俺たちに近付いてくる」

 

テオが、ある方向を向いた。

 

「尾行者だな」

 

「え、じゃあもしかして…」

 

「レイス、一応用心しろ」

 

「うん、分かってるよ」

 

そうしていると、彼らの視界に1人の女が入って来た。背中まで伸びた青い髪に、純白のブラウスを着た女。年齢は、レイスたちとあまり変わらないように見える。どこか気品のある、お嬢様、といった雰囲気も漂う女であった。

 

そして女は、3人のすぐ目の前までやって来ると、足を止めた。

 

「黙って付けてごめんなさい。空港で波動使いを見かけたから、不審な動きが無いか確かめていたの」

 

女はまず、尾行していた事を謝罪した。

 

「テオ、やっぱり悪人じゃなさそうだ」

 

「そうだな。もう警戒する必要は無い」

 

「良かった…」

 

リリィは、ホッと胸を撫で下ろした。ひとまず、危機は去った。

 

「私は、フィーリア。フィーリア・ゼルフォード。フィーリアで良いわ」

 

「…!ゼルフォード…!」

 

レイスは、驚いた顔をしていた。

 

「御三家のゼルフォード、で良いのか?」

 

テオは、落ち着いて尋ねる。

 

「…御三家の事を知ってるのね。ええ、波動御三家のゼルフォードよ」

 

「??」

 

リリィは、何が話されているのか分からず、ポカンとしていた。そんな彼女を見て、テオは説明をする。

 

「波動の世界には、御三家と呼ばれる名門の家系が存在する。レギレウス家・ゼルフォード家・メイヤー家の3つの家だ」

 

「レギレウス…。あれ、確かゼクトさんも…」

 

「そうだ。これから会いに行くゼクトさんは、レギレウス家の人だ」

 

「そうだったんだ…」

 

「俺たちも自己紹介をしないとな。俺は、レイス・リヒトワール」

 

「俺はテオ・クランゼル」

 

「私は、リリィ・テルヌーラ」

 

「レイスにテオ、リリィね。宜しくね」

 

フィーリアは、友好の印に柔和に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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