修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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The Gunman

テオの前に立つのは、緑髪のカウボーイハットの男。名はディヴァイン・メーゲル。まるで映画に出てきそうなカウボーイ風の男であった。

 

「どけ、俺は貴様の相手をしている時間はない」

 

「どけ、と言われてどく野郎がいると思うかい?」

 

ディヴァインはニヤリと笑う。

 

「若いのにやるねぇ。その波動、かなり磨かれているようだ」

 

軽めの態度とは裏腹に、テオの実力はしっかりと見極めている。テオはそんなディヴァインを見て、一筋縄ではいかない相手だと思った。

 

「どかぬのなら」

 

テオは両足に波動を込めると、勢いよく跳んでいった。彼の何よりも優先すべき目標は、リリィの奪還だ。ディヴァインの相手をしている時間など、彼には欠片も存在しない。

 

「俺は無視ってか!釣れないねぇ!!」

 

だが、そんなテオを見逃すはずもなく、ディヴァインも彼を追った。そのスピードは凄まじく、テオの初動速度よりも速かった。テオの視界には、自身の前に現れたディヴァインがいた。

 

「そぉら!」

 

ディヴァインは拳に波動を込め、テオの顔面に突き出す。

 

「ほぉ!止めるか!」

 

テオはその拳を受け止め、地上へ投げ飛ばそうとする。だが、その彼の手を逆に掴み取り、下へ投げた。

 

難なく着地するが、ディヴァインが目の前にいる状況は依然として変わらなかった。

 

「少しはやる気になったか?」

 

「……」

 

テオはディヴァインを鋭く睨みつけると、刀を鞘から抜き出した。銀色に輝く鋒は、ディヴァインの首に向いている。

 

「よし、じゃあ始めようか!!」

 

ディヴァインは両手に波動を込めると、テオへと飛び立って行く。

 

「そら!そら!そら!」

 

テオはディヴァインによる連続の突きを躱しながら、ある違和感を覚えていた。

 

(何だ…?こいつのこの突きは。まるで鋭さを感じられない。闇雲に突いている感じだ)

 

ディヴァインの波動自体は、弱いものではない。グレイドのような圧倒的なものでもなかったが、それなりの実力者だとは分かるレベルであった。だが、そのディヴァインが仕掛けてくるのは、大して鋭くもないパンチ。まるで脅威には思えなかった。

 

「そら!どうした!反撃しないのかい!テオの兄ちゃんよ!」

 

「貴様、何故俺の名を?」

 

「さあ!どうしてかな!」

 

テオはディヴァインが見せた隙を突き、刀を鋭く振った。

 

「うおっ!?」

 

刀は、彼の首を狙っており、イナバウアーのように身体を仰け反らせてそれを避けた。

 

「危ねー」

 

テオは攻撃の手を緩めず、次の斬撃を放つ。

 

そこで、ディヴァインの目つきが変わった。身体を回転させてそれを躱すと、テオの胸に掌底を放った。

 

「ハッ!」

 

だが、テオはそれしきの事では倒れない。少し後退したが、直ぐ様足に力を込めて素早くディヴァインの間合いに入り、刀を振った。

 

刃はディヴァインの右腕の肉を斬り、鮮血が宙を舞う。

 

「うぉおおあ!?!?」

 

血が流れる右腕を痛そうに押さえ、無様な悲鳴をあげる。

 

「いてぇえ!参った参った!降参だ!!」

 

「何…?」

 

突然の態度の豹変に、面食らった気分になるテオ。

 

「じゃあ俺は逃げるわ!アディオス!!」

 

そしてディヴァインは、スタコラサッサと言った感じに走り、その場から退散した。住宅街の方へと走って行き、姿は見えなくなる。

 

「何だ?あの男は……」

 

テオの目の前には、誰もいない。“The Gunman”などと言っておきながら、結局何もそれらしい事はせずに、無様に背を向けて逃げて行った。彼は困惑さえした。

 

だが、そんな事はどうでもいい。今は、リリィを取り戻さなければ。彼は気持ちを切り替え、白髪の男が跳んでいった方向へと向かうべく、跳んだ。

 

 

 

その時、彼の右腕から微かに血が飛んだ。

 

「何っ……」

 

右腕には傷がついていた。傷自体は、大した事のないかすり傷だ。だが、彼には何が起きたのか分からなかった。

 

「今のは……」

 

ダメージは皆無に等しい。彼は思考を止め、リリィの救出へ向かおうとする。

 

しかし、今度は彼の左腕から血が飛んだ。先程のようなかすり傷ではない。肉の一部が貫かれ、少なくない血が流れた。

 

「これは!?」

 

そこで彼は、事態の異常性に気付き、その場で構えをとった。血が地面に滴り落ちる。

 

「何者からか攻撃を受けている……一体これは」

 

彼は波動を身に纏い、防御の体勢となった。穏やかな冬の空とは対照的に、彼からは殺伐とした雰囲気が漂っている。

 

「先程の男か……だが、どこから」

 

テオは全集の感覚を研ぎ澄ますべく、周囲のあらゆるものへと意識を配る。その集中力は凄まじく、周囲の雑音が一切聞こえなくなる程であった。

 

「……………!」

 

その彼が、反応を示した。彼が視線を移すと、彼の右肩の前に何かが現れた。時が止まったと思える程の集中でそれを見る。

 

「銃弾………?」

 

現れたのは、金色の弾丸であった。前から飛んできたのではなく、突如姿を現したのだ。その弾丸は、その場から発射されたかのように、彼の肩へと向っていた。

 

「くっ!」

 

テオは身体を反らし、辛うじてそれを避けた。だが、本当に間一髪といったところだ。

 

「これが、奴の能力……!!“The Gunman”……!」

 

 

 

 

「ヒュー!もう気付いたか。やるねぇ」

 

住宅街のはずれで、ライフル銃を構えているのは、ディヴァイン。口笛を吹き、口端を歪める。

 

彼がスコープを覗くと、そこには波動で身体をガードするテオの姿が映っていた。だが、目の前には住宅地が広がっている。彼のスコープにのみ、テオが見えた。

 

ディヴァインの波動能力は「黄金の弾丸(フェイタリティ)」。スコープで対象を覗き、弾丸を放つと、対象の眼前に突如弾丸が現れ、貫く。

 

極めて凶悪な能力であるが、それだけに能力の発動には「条件」が存在していた。それは………。

 

 

「掌底か…!」

 

テオはあの時、ディヴァインが肉弾戦を仕掛けた理由を悟った。能力の発動条件。それは、対象に対して、直接手で触れる事でマーキングを行う事。ただ触れるのではなく、波動を込めて衝撃を与える必要がある。

 

「大した突きではないと思っていたが、能力発動の条件だったとは……不覚を取った……!」

 

テオは苦虫を噛み潰したような面持ちとなる。

 

 

 

「さぁ、まだまだいくぜ」

 

ディヴァインはライフル弾を装填し、スコープを覗く。照準は、テオの右太ももへと合わせられる。

 

「今度は、どう出る?」

 

そして、引き金に指をかけた。

 

 

 

「…来る!」

 

テオは再び、全身に波動を纏った。弾丸は、命中の直前でなければ現れない。そして、センサーのようなものも現れないので、どこを狙っているかは直前にならなければ分からなかった。故に、全身を満遍なくガードするしかない。

 

1秒、2秒、3秒。少しずつだが、時が過ぎてゆく。彼には1秒1秒が、とてつもなく長く感じられた。

 

「……!」

 

そして、攻撃の時が訪れる。彼の右太もものすぐ前に、金の弾丸が現れた。

 

「間に合わない…!」

 

回避は間に合わない。テオは、ほんの少しだけ脚を動かす。弾丸は、彼の太ももの肉を抉り、貫いていく。テオは、骨だけには当たらないよう出来た。だが、腕の時よりも大量の血が、右脚から流れる。

 

「ぐ…」

 

少し力が抜け、片膝をつきそうになるが、なんとか踏みとどまった。

 

波動でのガードでは、防ぎ切れなかった。そして、彼が注目したのは、弾丸に波動が込められていた事であった。

 

「奴の波動が感じられない…『(くう)』を使っているな。住宅街のどこかに隠れているのか」

 

テオは視線を住宅街へと移す。マンションも複数軒あり、隠れ所は多い。自身の置かれている状況の悪さに眉をひそめる。

 

「弾丸には波動が込められていた。奴は、弾丸を発射する瞬間に、一瞬だけ波動を放つ。それを察知し、直接仕留めなければ……」

 

テオは再び構えると、波動を全身から放出する。その波動は、すぐにギラギラと煌めく炎へと変わっていく。

炎の波動による防御であった。

 

 

 

 

 

「…!波動が変わった……」

 

ディヴァインは少し目を見開き、スコープを注意深く覗く。確かに、テオの身体からは、炎が燃え盛っていた。

 

「なるほど、テオは炎を操る波動能力者ってワケか」

 

クククと笑い、彼は弾丸を装填する。

 

「弾丸の残り数はまだまだあるぜ。もう居場所の突き止め方は分かったんだろ?」

 

ディヴァインは口を更に歪める。

 

「俺が殺るのが先か、お前が殺るのが先か……競走といこうじゃねぇか」

 

 

 

「フゥゥゥ………」

 

テオは呼吸を整え、構える。炎の波動は、メラメラと音をたてて燃えている。

 

「奴の弾丸は、一発撃てば、その後に何呼吸か間が空く。そして、胸や頭などを狙わないのにも、何か理由があるはずだ。それらを暴きつつ、奴の居場所を掴む…!」

 

テオは目を瞑る。

 

「ん……?目を瞑ったな。何のつもりだ?」

 

ディヴァインは、突如目を閉じたテオを不思議に思った。彼の「黄金の弾丸(フェイタリティ)」は強力だが、使い勝手が良い訳では無い。テオの見立て通り、能力の使用には様々な条件が求められる。

だが、弾丸の威力は高いし、避ける事は決して容易ではない。先程のテオのように、異常な集中力で弾丸を察知し、躱す事が唯一の避け方とも言える。彼はそう考えている。

 

「諦めた……って事はねぇな。何か企んでやがる」

 

彼は引き金に指を引っ掛けた。

 

「面白い。お前の策を見せてみろ…!」

 

ディヴァインの指が、引き金を引いた。

 

 

 

「テオ、君なら出来るさ」

 

 

「………!」

 

テオの眼前に弾丸が現れる。今度は、彼の左肩を狙っていた。

 

だが、その弾丸が彼の肩を貫くことはなかった。肩の前で、炎の波動が弾丸を包み込み、焼き尽くした。

 

「何っ!」

 

ディヴァインは目を大きく見開いた。弾丸が黒焦げになり、塵と消えていくのを見た。

 

「今のは一体……?」

 

 

 

「……成功したな」

 

聖煌流秘伝「(あかつき)」。波動を全身に展開し、敵からの攻撃を波動が反射で防ぐ、聖煌流の秘技である。

彼は師であるガルーダに、この技を授けられていた。類稀なる才能を持つテオでも、習得は困難を極め、未完成のままでいた。

 

だが、リリィが攫われた目下の状況。そして、敵の攻撃が強力で、防ぎようのない、まさに八方塞がりの現実が、彼に通常よりも遥かに研ぎ澄まされた集中力をもたらした。逆境に打ち勝つ、テオの強き心が、秘伝を会得させたのだ。

 

テオは土手を離れ、住宅街へと入り込んだ。

 

「奴の居場所を特定するには、まだ攻撃を受ける必要がある……」

 

険しい表情で、周囲の波動の存在を確かめる。

 

「男の波動は依然感じられない……。…これは!レイスたちの方向から、強烈な波動を感じられる……あちらも苦戦しているという事か」

 

レイスたちの事は気がかりだが、今は自身の敵に集中しなくてはならない。彼はディヴァインの位置の特定に、全神経を注ぐ事にした。

 

「………………」

 

そして、次の弾丸が現れた。今度は、彼の腹部を目掛けて撃たれた。

 

その弾丸は、またしても「暁」によって黒焦げにされた。だが、燃え尽きるまでの時間が、ほんの僅かだが遅くなっていた。ディヴァインの波動が、より強く込められていたのだ。

 

「……!一瞬、波動が爆ぜるのを感じた……。そして、威力が増している。そう何度もチャンスはやって来ないという事か」

 

ディヴァインの波動を僅かに感じ取る。だが同時に、ディヴァインの攻撃が激しくなっていると悟り、警戒心は更に高まった。

 

そして、それから10秒が経過する。次なる弾丸が出現。今度は、テオの脇腹を狙って発射された。

 

「半径300メートル以内……!」

 

そこでテオは、はじめてディヴァインとの距離を理解した。これは大きな進展であった。

 

「ぐっ…!」

 

だが、敵の攻撃もまた威力を増している。今度は、脇腹に命中し、そこで燃え尽きていた。貫通はしていない。外傷は無だ。しかし、衝撃は残っていた。彼の内部に、鈍い痛みを与えつつある。

 

「どうせこのまま()り続けてたら、俺の居場所は分かる……なら、出し惜しみは無しだぜ」

 

ディヴァインは弾丸を装填し、波動を込めて引き金を引いた。彼の手元には、まだまだ大量の弾丸が残っている。

 

 

「…!方角は北北西、距離は280……!」

 

ディヴァインの波動を感知し、距離と方角までかなり絞った。だが、同時に弾丸が出現。彼の右耳を狙っていた。かなりの波動が込められており、威力の高さを瞬時に理解できた。

 

「これはッ…!」

 

炎の波動のガードを貫通し、彼の右耳を貫く一歩手前に来ていた。だが、威力は少し殺されており、それを手で掴むことで直接焼き尽くす。

 

「『暁』のガードを上回り始めている……最早猶予は無い」

 

テオは北北西に向けて走り出した。方角と距離は掴めても、具体的にどの建物に隠れているのかまでは分からない。近くに行き、そこでまた攻撃を受ける必要がある。

 

「……何っ!?」

 

そんな彼の頭上には、5発の弾丸が出現していた。

 

「一発ずつではないのか…!!」

 

波動をより強く展開し、5発のうち4発は反射でガードし、焼き尽くした。だが、一発は命中・貫通してしまった。彼の左腕に穴をこじ開け、痛々しく血が流れ落ちる。

 

「防ぎ切れなかった…!」

 

 

「近付けば近付く程、『黄金の弾丸(フェイタリティ)』は強くなるぜ?」

 

ディヴァインの波動能力「黄金の弾丸(フェイタリティ)」の波動・使用には、いくつかの条件がある。

 

まず発動条件として、対象に波動を込めた衝撃を一度浴びせる。

 

そして、能力の発動範囲内300メートルの内、どこからかライフルを構え、弾丸を撃つ。すると、彼の弾丸は対象の眼前に突如として現れる。

 

だが、はじめから頭や胸などの急所を撃つ事は出来ない。まずは、対象が死なない程度の部位に弾丸を撃ち込み、対象がそれにより傷つき、波動の強さが自身の1/3以下になった場合にのみ、急所を撃てるようになる。

 

そして、弾丸は5〜10秒に一度しか撃てない。その微妙な差分には法則性がある訳ではないが、連続して撃つ事はは出来ないのである。

 

この為、能力の使用は決して快適なものとは言えず、様々な手順を踏まねばならない。

 

だが、この能力が強化される場面がある。それは、対象が自身と近い距離にまで移動してくる事である。

対象が自身に近付けば近付く程、弾丸の威力は増す。更に、弾丸を連射が可能になる。急所への発射の条件は依然として変わらないが、対象のダメージが増えれば必然的に急所を射抜けるようになる。

 

彼にとって、近付かれる事により身の危険が増す一方、攻撃の威力も増す。正に、条件に裏打ちされた能力である。

 

「あと数回…」

 

あと数回で、位置の特定は済む。だが、それまで激しさを増す弾丸に耐えねばならない。

 

テオは流れる血を顧みず、ディヴァインがいる方角へと足を走らせる。

 

そんなテオに、容赦の無い追撃。弾丸の数は7に増えていた。

 

「…………」

 

そこでテオは、刀を構えた。銀色の刃が、紅い炎を纏う。弾丸が現れてからテオへと向かうその一瞬。彼は刀を振り、全ての弾丸を真っ二つにして消し炭にした。

 

「む!!」

 

ディヴァインはその一連の動きを見て、視線を釘付けにされた。

 

 

聖煌流秘伝「暁・流転の型」。先程までテオが見せたのは、「暁・無常の型」。

「無常」は、波動のみが肉体を防御する、言わば「盾」の役割を果たす。

一方、今回テオが見せたのは「流転」。「流転」は、波動による反射防御という点は同じだが、肉体を用いることで脅威を排除するという点で異なる。こちらは、「矛」の役割を果たすと言える。

 

「無常」は、体力の消耗が比較的少ない。波動を全身に纏い、意識を集中させる。神経は使うが、熟練の波動使いならば、さほど問題にはならない。

 

一方で「流転」は、肉体を無理矢理動かす技。脳による神経伝達を経ずに、肉体がオートで反応する離れ業。それ故に、体力の消耗は激しい。ただでさえ傷ついているテオの身体は、無理矢理動かされた事で鋭い痛みを覚えていた。

 

「あと数回の『流転』が限界だ」

 

「驚かされたぜ……同い年の時に闘り合ってたら、間違いなく負けてたな」

 

ディヴァインは少し汗を流すが、満更でもない表情だ。

 

「お互い、もう後がねぇってワケだ。クライマックスといこうか!」

 

引き金が勢い良く引かれた。

 

 

「!!」

 

テオの前に、10発の弾丸が現れた。頭と胸以外の全身を満遍なく狙っている。

 

「位置……53メートル……」

 

テオは再び刀を構え、それらの弾を全て一刀両断。同時に、傷口から血が大量に流れる。限界の一歩手前に来ていた。

 

「くっ……!だが、奴の場所は特定した。あの廃ビルの、5階……!」

 

テオが睨んだ先には、人気の無い無骨なビルがあった。6階建てのビルだが、その5階にいるとテオは把握した。

 

住宅街のはずれにあり、他の建物はあまりない。多少威力の高い技を使っても問題は無い。そう判断したテオは、守りの姿勢から一転、攻めの姿勢に転じた。

 

全身からマグマのように燃え滾る波動を放つ。ゴウゴウと燃えるテオは、それらを刀に一点集中させ、廃ビルへと全速力で向かった。身体は痛む。だが、これで終わりだ。一撃でディヴァインを仕留め、リリィを追う。

 

 

 

 

 

「おっ!」

 

ディヴァインはスコープから顔を離し、窓を見た。そこには、地上から跳び上がってきた、目をカッと見開いた黒髪の青年、テオの姿があった。両手に炎の刀を握っており、完全に止めを刺しに来ている。

 

「───」

 

テオの口が動いた。窓越しなので何を言っているのかは聞こえないが、何を言っているのかは分かった。

 

「終わりだ」

 

テオの凄まじい波動は、窓ガラスにヒビを入れた。そして、すぐにガラスは割れ、ディヴァインは両断にされる。

 

「………と思ってんだろ?」

 

ディヴァインはニヤリと笑うと、指を銃の形にし、テオへと向けた。

 

「バキュン!!!」

 

すると、彼の指から閃光が放たれた。

 

「何っ!?」

 

テオは完全に反応が遅れ、ディヴァインの指から放たれたものを避けられなかった。

 

 

閃光は、テオの胸を貫いた。テオは驚愕の表情のまま、地へと落ちていった。

 

 

 

 

「油断したなぁ、テオ」

 

ディヴァインは指から立ち込める薄い煙をフッと息を吹きかけて消した。

 

波動の応用技「(せん)」。

 

クレアとの闘いで、テオとクレアの両者が使った、波動を球状に練って放つ技を「(だん)」という。

「弾」は、比較的使い手が多い技である。自らの波動を炎や水、電気などに変えられる波動使いならば、それらの性質を持つ「弾」を使え、戦術が広がる。

 

「閃」は、「弾」の応用技術である。球状に波動を凝縮する「弾」を、更に凝縮し、レーザーのようにして放つ技だ。被弾面積は狭いが、その分極めて高出力な技で、防ぐ事はほぼ不可能。避けるのが最善手の技である。だが、塞き止められたダムが決壊するが如く、圧縮し、抑え込まれた波動は、閃光のように解き放たれる。そのスピードは、音速を凌駕しており、避ける事も困難を極める。

 

極限まで波動を凝縮させねばならない為、高度の波動練磨技術が求められ、なおかつ発動には溜めが必要である。

 

ディヴァインは、「閃」を会得していた。それも、他の使用者よりも素早く放つことが出来る。能力の方にばかり気を取られていたテオは、ディヴァインの隠し玉に気付けなかった。

 

 

「楽しかったぜ。フツーは弾丸に対処できず、すぐに死ぬもんだ」

 

ディヴァインは窓から、落ちていくテオを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

「テオ、戦闘中に傷ついたら、どうする?」

 

「……不利になるのは確実ですが、どうしようもないのでは?」

 

ガルーダは「そうだね」と笑った。

 

「でも、実は違う」

 

「違う?」

 

ガルーダは目を光らせて言った。

 

「波動には、身体を休める効果がある。身体のあらゆる所を活性化させるのが、生命エネルギーである波動だからね」

 

ガルーダはコツコツと歩きながら語る。

 

「そして、『治癒』『活性化』といった作用に注目し、それを極限まで高める事で、傷ついた身体を治す技があるんだよ」

 

「そんなものが…」

 

「でも、これが物凄ーーく難しい。実際、僕も会得できてないからね」

 

ガルーダは苦笑いしながら、頭を掻いた。

 

「でも、何らかの要因で波動の真髄に触れられた、才能のある波動使いならば、会得できるはずだよ。君にならいつか、きっと出来る」

 

そう語るガルーダの目は、真剣なものであった。

 

「師範、その技は…」

 

「そうだね、その技の名前は………」

 

 

 

 

 

 

薄れゆくテオの意識。そこに、ガルーダの言葉が蘇った。暗闇の中に、輝く光が灯った気がした。

 

目をカッと見開く。彼は、穴が空いた胸に手を当てると、波動を送り込んだ。

 

「何っ!?」

 

ディヴァインは、突如動き出したテオを見て離さなかった。完全に心臓に命中した。致命傷だ。このまま地に落ち、死んでいくだけだと思っていた。

 

テオは逆さまになっていた身体を立て直し、着地した。胸の方を見てみると、空いた穴が塞がっていた。

 

「馬鹿な……!?一体何を……」

 

少し固まったディヴァインは、顔を上げた。

 

「まさか、あれは……」

 

 

    「その技の名前は『転禍為福(てんかいふく)の術』」

 

 

 

テオは胸に触れ、傷が無い事を確認した。

 

「まさか、あの場面で出来るとは……」

 

致命の一撃。まさに絶体絶命。その状況の中、テオは死に最も近付いた。

それが逆境となった。死に最も近いからこそ、「生」を意識させられた。それにより、彼は波動の真髄に一歩近づいたのだった。

今の彼は、何とも言い難い全能感に包まれていた。他の部分は依然傷ついているが、高揚し続ける気分は、彼に痛みを忘れさせた。

 

 

「噂に聞いていた技だが、使える奴がいたとは……しかもあんなガキがな。末恐ろしい奴だ……」

 

「もう小細工は通用しねぇよなぁ。んじゃ、エンドロールを飾りに行くか」

 

何度も驚かされてきたディヴァインだが、その瞳には未だ燃えるものがあった。彼はまだ、敗北していない。

 

彼は窓から飛び降りると、空中でテオに向けて指を突き出した。「閃」だ。

 

「あの技は消耗が激しいと聞く。何度も使えねぇはずだ。今後こそ決めるぜ、テオ」

 

 

「今の俺なら……出来るかもしれん」

 

すると、テオの身体から、静かに波動が湧き上がった。小さな炎であったのも束の間、一気に爆炎となり、空高く燃え上がる。

 

「これは……」

 

ディヴァインの溜めが、一瞬止まる。それ程の波動の高まり。

 

テオは両手を開き、空中にいるディヴァインに向けて突き出した。左右の手に、信じられない程に強い波動が込められる。高まりが最高潮に達した炎の波動は、龍の形となっていた。

 

 

 

 

         「極果(きょくが)龍煌閃(りゅうおうせん)』」

 

 

 

 

「極果………だと……!?」

 

 

ディヴァインの動きが止まった。

テオの両手から放たれたのは、紅蓮の龍。大口を開け、ディヴァインを喰らわんとしている。

 

「しまっ……」

 

龍はディヴァインに噛みつき、口を閉じようとしている。だが、ディヴァインは全力で波動を身に纏い、閉じさせまいとしていた。そのまま龍は空高く飛んでいき、徐々に小さく見えていく。

 

 

 

ディヴァインは、かなり持ちこたえている。

 

だが、忘れるなかれ。龍は二頭いるのだ。

 

 

咆哮と共に、ディヴァインの背後からもう一頭の炎の龍が大口を開け、鋭い牙を覗かせた。

 

「まずいっ!!」

 

だが、ディヴァインは身動きが取れない。そのままもう一頭の龍に、彼に噛み付いている龍の頭ごと噛み砕かれる。龍の煌めきが、一層凄まじいものになると、空中で大爆発を起こした。

 

地上からそれを眺めるテオ。爆風がここまで届く。髪が風に揺れる。

 

 

 

「……しぶといな」

 

彼の前には、ボロボロになったディヴァインがいた。少し焼け焦げていたが、まだ死んでいない。満身創痍になりつつも、立ち上がった。

 

龍に呑まれた直後、ディヴァインは全力の「閃」を放った。それによる衝撃を生かし、彼は強引に龍から抜け出て、爆発から何とか逃れたのだ。

 

ただでは済まなかったが、命は助かった。

 

「へ、へへ……ここまでとはなぁ……最早ガキのレベルじゃねぇぜ……」

 

それでもなお、ディヴァインは笑っていた。

 

「もう貴様に波動は残されていない。俺たちから手を引くのならば命までは奪わないでやる」

 

「は、ははっ……殺る側が…殺られる側になるとはな……だが、波動が無いのはお互い様だ。互いに……『閃』一発分…ってとこか?」

 

「………」

 

「最後は、撃ち合い勝負といこうじゃねぇか。時代劇みたいによ……」

 

「…何故、そこまでやる」

 

「ガンマンとしての…プライドさ。と言っても、俺の能力は……スナイパー、か?まぁでも…これからやるのは早撃ち勝負……正真正銘、ガンマンさ」

 

ディヴァインは指を銃の形にして、指先に波動を込めた。

 

「『閃』の感覚は先程掴んだ。あとは、命中の精度だ……」

 

テオもまた、指先に波動を込めた。紅い、炎の波動だ。

 

「最後に、名乗っとくぜ…。俺はディヴァイン・メーゲル。しがないガンマンさ……」

 

 

勝負は一瞬で決まる。互いに、いつ撃つか伺っている、緊張状態。

 

 

 

そして、決着の時は訪れた。

 

ディヴァインが、「閃」を放つ。テオも同時に、「閃」を放った。

一直線に相手へと向かう2つの「閃」。

テオの頬を、ディヴァインの「閃」が掠めた。傷口から、血が流れる。

 

「……ハッ、ハハハハハッ!!」

 

突如、ディヴァインの高笑いが響いた。彼の勝利か。

 

 

彼の右肩には、穴が空いていた。向こうの景色が見えそうな、綺麗な穴が空いていた。

 

ディヴァインの「閃」は、テオの額に向けられていた。

テオはには、その「閃」を避けるだけの瞬発力は残されていない。そこで彼は、ディヴァインの「閃」に自身の「閃」をぶつかり合わせる事で軌道を反らし、致命傷を避けたのだ。

パワーで勝っていたテオの「閃」は、軌道を少し反らされたが、ディヴァインに命中する事が出来た。

 

 

「完敗だ……悔いは、無いぜ……」

 

ディヴァインは満足げに笑うと、そのまま静かに目を閉じ、地面へと倒れ込んだ。

 

「………」

 

テオはその場で片膝をついた。彼の体力も、限界に近かった。

 

「ディヴァイン・メーゲル……強敵だった………」

 

眼前に倒れる男を見て、テオはそう思った。

 

「リリィを………リリィを助けなければ……!」

 

彼に安息の時はない。ゆっくり、ゆっくりと、テオは白髪の男が向かっていった方角へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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