修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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The Gambler② ─幾千年ぶりに─

 

「我々の彼に対する仕打ちは、あまりにも残酷で、あまりにも身勝手であった。無力で、何も出来ないというのに、彼に期待ばかりした。その結果、彼は人を恨み、世界を恨んだ。今、世界に安寧が訪れたのは、そんな彼が最後に見せた優しさのおかげである。我々は、最後の最後まで彼に頼り切りであった。許して欲しいなどとは言わない。どれ程呪ってくれても構わない。だが、最後にこれだけは言わせて欲しい。我々に、未来をくれてありがとう。人間を、世界を救ってくれてありがとう。勇者とその4人の仲間たちに、心より敬意を表する」

 

聖暦(せいれき)1997年、歴史学上「古アルデニア王国」とされる国の国王、アルデニア三世の手記が見つかった。

 

アルデニア文字の解読は進んでおり、その内容も概ね研究者たちは解読出来ていた。

 

しかし、手記の最後に書かれていたこの一節。これだけは、研究者たちも何を意味しているのか理解出来ずにいた。「勇者」とは誰か、彼らが何をやったのか。それらは、過去の文献を参照しても全く分からない。そもそも、「世界を救う」などという大それた事態に、当時のアルデニアや他の国々が陥っていたという研究結果は無かった。

 

アルデニア王は何を言わんとしていたのか。遥か昔、世界に何があったのか。

現代の人間は知る由もない。

 

 

 

 

時は流れ、聖暦2017年11月29日。

 

レイスとフィーリアは、仕向けられた殺し屋、セブンス・ラックと闘い、窮地に陥っていた。

レイスは波動を使い果たし、フィーリアもまた、御三家相伝の大技を放った反動で身動きが取れずにいる。

 

セブンスはレイスの首を鷲掴みにし、持ち上げている。掴む力は徐々に強くなり、レイスの意識は朦朧としていく。

 

「やめて………!レイスを殺さないで……!」

 

「これも運命ってやつさ。お前らは、自分の『運』の無さを呪うことだ」

 

フィーリアの懇願を聞き流し、セブンスは勝利を確信した。

 

「じゃあな。お前らとの闘い、楽しめたぜ」

 

そして、レイスの首は音を立て、砕ける。

 

セブンスはそう思った。

 

 

 

 

「邪魔だよ、君」

 

「!?」

 

「えっ…!?」

 

突如、光を失いかけていたレイスが目をギョロリと動き、セブンスの目と合った。先程までは紅かった瞳が、どういう訳か蒼く染まっている。その目は、普段レイスが見せるものとは異なり、とても冷たく、威圧感のあるものであった。

 

「何っ…!?」

 

セブンスはレイスの眼光に気圧され、手を放して彼と距離をとってしまう。

 

「……?」

 

自分が手を放した事に今気付いた様子である。気迫に負け、後退してしまった自分も含めて、状況に違和感を覚えていた。

 

「レイス…?」

 

フィーリアも同様であった。突然のレイスの様子の変化に、戸惑いを隠せずにいる。

 

「レイス……なるほど。僕は、レイス=リヒトワールというのか」

 

レイスは辺りを少し見回しながら呟いた。

 

「…折れているな」

 

レイスは、自身のあばら骨が折れている事に気付く。すると、レイスは右手に波動を込めた。その波動は、仄かに光り輝いており、それを腹部にかざす。

 

「『廻禍(かいか)の術』も使える」

 

「……!? 転禍為福の術!? レイスに使えたの……?」

 

フィーリアは、レイスが自己治癒を始めた事に驚愕した。彼が使っていたのは、御三家でも一部の人間しか会得していない波動の高等技術「転禍為福の術」であった。

 

「『転禍為福』? ああ、そういう事か」

 

「…!まさか、奴が噂のあの術を使うとは…」

 

セブンスもまた、レイスの隠された技に驚いていた。

 

「レイス…一体どうしたの?」

 

「……」

 

治癒はすぐに終わった。彼の肉体の傷は全て治っており、先程までの痛々しさは消え失せていた。

 

レイスはその場で何度か拳を突き始めた。左右、交互に何もない所へと突きを放つ。

 

「まぁ、今はこんな所か」

 

「ヘイ、レイス!とんでもない隠し技を持ってたようだな!」

 

レイスが視線を移した先には、セブンスがいた。彼を見据える目は、依然として冷たい。

 

(雰囲気ががらりと変わってやがる……こいつ、何をした?)

 

セブンスはレイスを注意深く観察する。先程までとは波動の流れがかなり違う。彼の身に何が起きたのか、セブンスも理解できていなかった。

 

「君は……随分といたぶってくれたようだね。中々に痛かったよ」

 

「ハッ!その割には元気そうだな!」

 

互いに笑みを浮かべている。だが、セブンスの額から薄っすらと汗が流れ落ちていた。レイスから放たれる、形容し難い威圧感が堪えているようだった。

 

「調度良い、眠気覚ましといこうか…」

 

レイスの波動が高まる。

 

「……」

 

その波動の高まりを眺めるセブンスの顔からは、いつしか笑みが消えていた。

 

レイスは不敵な笑みを浮かべると、口を動かした。

 

 

 

 

 

 

         「ゲルガ・ザーク」

 

 

 

 

 

「ん…?」

 

「え…?」

 

レイスが呟くと、彼の波動がこれまでとは比にならない程に高まっていった。それは、先程のセブンスとの闘いで見せた波動の、10倍を遥かに凌いでいた。

 

そして、何よりも彼らの目を引いたのは、光。レイスの波動が、グレイドが見せたそれの如くに、眩いばかりの輝きを放っていたのだ。

 

「これは……!」

 

「光の波動……!?」

 

フィーリアもセブンスも、眩しさに目を細めた。

 

「フフフフ……」

 

レイスは静かに笑っている。

そのレイスの周りに、風が吹き始めた。風の勢いは次第に強くなっていき、レイスの身体はゆっくりと宙へと浮いていく。

 

(馬鹿な…!奴の能力は「電気」のはず…。複数の能力を使えたのか…?)

 

(レイスが風を…?いえ、彼は電気しか使えないはず…!)

 

「子供の頃、ヒーローみたいに飛んでみたかったんだっけ?叶ったじゃないか……」

 

レイスは宙で足を組みながら、辺りの景色を眺めていた。

 

「ふーん…」

 

そして、地上にいるセブンスに目を向ける。

 

「君も空の旅に招待しよう」

 

レイスは指をパチンと鳴らした。すると、セブンスの足元からが揺れ始める。

 

「何だ…!?」

 

異変に気付き、その場から離れようと身を屈めた瞬間。

彼の足元から、風が地を突き破り、竜巻となって激しい旋風を巻き起こしていた。

 

「うおおっ!?」

 

「フフフ……」

 

空高く舞い上がるセブンス。

 

レイスは腕を組みながら、竜巻の側まで寄った。

 

「君、『運』を操るんだってね? よく覚えておくといい。『運』だけで生きていける程、現実は甘くないという事を…」

 

竜巻は、風の節々が刃のように鋭かった。セブンスの身体は、一秒、いや一瞬ごとに高速で斬り刻まれている。

 

「ぐぅぅぅ!?」

 

地上でレイスたちの様子を見ていたフィーリアは、状況に理解が追いついていないままであった。

 

「何なのよ、これ……」

 

ただ一つ言えることがあった。

 

あれは、レイスではない。

あの冷酷な笑みは、レイスのものではない。

誰だ。

 

竜巻は次第に失せていき、セブンスは地上に落下した。全身切り傷で血だらけであった。

 

「くっ………ははっ、とんでもねぇ…ヤローだぜ…」

 

まだ生きている。あれ程の攻撃を喰らってまだ生きているのは、まさに「幸運」であった。

だが…。

 

「さて…」

 

レイスも地上に降り立った。その様相は、「舞い降りた」と言った方が正しいかもしれない。

 

「まだ……やれるぜ……」

 

セブンスは力を振り絞り、立ち上がろうとした。

そのセブンスが、突如膝から崩れ落ち、再び地に伏せる。

 

「ぐっ……!?こ、これは……」

 

「!?」

 

セブンスはただ倒れた訳ではなかった。地面に叩きつけられている感覚であった。地面には、少しずつヒビが入っていくのが見える。

 

「重力……!?」

 

フィーリアは、開いた口がふさがらないといった様子だ。立て続けに、レイスの能力が変わっていった。

 

「どうしたの?起き上がってきなよ」

 

レイスは腕を組み、セブンスを見下ろしていた。

 

「くそっ……!」

 

どれだけ力を込めても、セブンスの身体はピクリとも動かなかった。

 

「まさに『命運尽きた』かい?」

 

レイスはゆっくりとセブンスに近付くと、彼の頭を足で勢いよく踏んだ。

 

「ごわぁ…!?」

 

「無様だね」

 

グリグリと足を動かし、セブンスの頭を踏みにじる。先程とは、立場が逆転していた。

 

「レイス!!!」

 

フィーリアがレイスの名を叫んだ。レイスが振り向くと、何かを言おうとしているが、言葉が出ないフィーリアがいた。

 

「君は……フィーリア=ゼルフォードっていうのか」

 

「レイス…あなたは…!」

 

「こいつ、君と因縁があるんだってね」

 

「!! それは……」

 

「止めは私に刺させろと?」

 

「……」

 

フィーリアは服の裾を掴み、レイスから目を逸らした。

確かに、セブンスは彼女の叔母の仇であり、憎むべき敵だ。

だが、フィーリアが言いたいのは、自分が止めを刺したいなどという事ではない。

なのに、言葉が上手く出てこなかった。

 

「フフフ…」

 

レイスはセブンスの頭から足を離すと、少し離れた。そして、手を前に突き出す。

すると、セブンスがひとりでに立ち上がった。いや、立ち上がらされた。首元を摘まれた人形のように、手足がぷらんと垂れ下がっている。

 

「見てるといいよ」

 

「え…?」

 

「本当の氷の使い方を教えてあげる…」

 

レイスがニヤリと笑うと、セブンスの足元から異様な冷気が生じた。

 

「何を……」

 

そして、徐々に彼の足元から身体を凍らせていく。セブンスは、自身の肉体が凍りついていく様を見させられていた。

 

「く、くそっ、動けね……」

 

「レイス……何を……」

 

そして、遂にセブンスの顔も凍りつき、全身がカチコチになったセブンスが、レイスの目の前にあった。

 

「これが、氷の真髄さ…」

 

レイスは凍ったセブンスに近付くと、手を当てた。

 

 

「さようなら」

 

 

そして、波動を氷に送り込んだ。

 

ガラスのように、凍ったセブンスは粉々になった。

 

「!?」

 

フィーリアは口を手で覆った。

 

粉々になった氷は、粉雪のように風に舞い、やがて見えなくなった。

 

「レイス……!」

 

一連のレイスの残酷な闘い方、冷酷な笑み。それらは、フィーリアの心に恐怖を植え付けた。

 

そのレイスが、フィーリアの方を向いた。

 

「ひっ…」

 

フィーリアは思わず後退りする。

 

「……ん?もしかして、君はバジルの…」

 

「……?」

 

「そうか…なるほどね」

 

 

 

「………?フィーリア?」

 

「え………レイス…?」

 

しかし、先程までの異常な波動が急に消えてなくなり、レイスの雰囲気はいつものものに戻っていた。

 

「俺、一体……」

 

「……あなた、今まで…!」

 

「今まで…? …! そうだ、あいつは!? あいつはどこに!?」

 

レイスは険しい表情となると、辺りを見回した。「あいつ」とは、たった今、彼が粉々にしたセブンスであった。

 

「何も、覚えてないの………?」

 

フィーリアは恐る恐る彼に近寄る。

 

「…?覚えてないって、何を…?」

 

「………」

 

やはり、あれはレイスではなかった。

 

(一体、誰だったの……?)

 

「フィーリア、あいつは…」

 

「…あの男は、私が倒したわ」

 

「え……でも俺、あいつに首を掴まれて……あれ?」

 

彼は、今になって自分の身体の傷が治っている事に気付いた。

 

「骨が折れてたはずなんだけど……」

 

「……とにかく、危機は去ったわ。リリィを追いましょう。もう、私たちには時間が無い……!」

 

「…!! そうだ…リリィを追わないと!」

 

フィーリアは依然として体力が残っていない。レイスは、彼女を背負い、リリィの元へ向かう事にした。

 

「リリィは、どこにいるんだ…!!」

 

「………」

 

叔母の仇が討たれたというのに、彼女の顔は浮かれない。全てを見てしまったフィーリアは一人、複雑な気持ちとなるのであった。

 

 

 

 

 

 




セブンス・ラック

37歳。“The Gambler”の異名を持つ。
波動使い専門の殺し屋として活動していた。経験豊富な波動使いで、能力の効果もあるとはいえ、御三家の人間を殺せる実力がある。
殺し屋であって、暗殺者ではないと自負しており、死闘の末に掴み取る勝利を楽しむ。
自らの死すらもギャンブルと捉える、スリルに目がない男である。


ディヴァイン・メーゲル

38歳。“The Gunman”の異名を持つ。
セブンスとコンビで、波動使い専門の殺し屋として活動していた。
能力は、ガンマンというよりはスナイパーの様式である。
だが、波動の高等技術「閃」を会得しており、それを放つ彼の様子は、まさに「ガンマン」である。
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