修羅の覇道   作:三井孝輝

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再会

「もしもし…」

 

俺はテオからの電話に応じた。

 

「もしもし…聞こえるか、レイス」

 

テオの声だった。いつぶりだろうか。中学までは同じだったけど、高校で離れてから、会ってなかった。

 

「久しぶりだな、テオ。もう随分声を聞いてない気がするよ」

 

「あぁ。俺も剣術の稽古で忙しかったからな」

 

テオも俺同様に、高校に入ってから武道を習い始めた。始めたのはテオの方が先立った。あいつが始めたと聞いて、俺も先生の道場に入門することを決めたんだ。ある意味で、俺が修行を始めた切っ掛けとなる男だ。

 

「それで、今日はどうしたんだ?お前の方からかけてくるなんて珍しいよな」

 

「…久しぶりに会って話がしたい。出来れば、今日か明日が良い」

 

「話?」

 

改まって何だろうか。しかも、結構急ぎのようだ。

 

「それは良いが…何でまた急に?」

 

「それは会って直接話す」

 

テオは、クールで真面目な男だ。そして、今日のあいつの声からは、いつも以上に真剣そうな雰囲気が感じられた。

 

「じゃあ…今日で良いか?」

 

俺は、傷ついた心を癒やしたいと思っていた。幼馴染で親友のテオと久々に会えば、少しでも痛みが和らぐかと思った。

 

「分かった」

 

すると、リリィが肩を叩いてきた。ジェスチャーで、自分に電話を変わってほしいと言っているようだった。テオとリリィもまた、幼馴染だ。久々に話してみたくなったのだろう。俺は彼女にスマホを渡した。

 

「もしもし、テオ君…?」

 

「ん……その声、リリィか?」

 

「うん!レイくんの隣にいたの」

 

「そうだったのか」

 

リリィは、久しぶりにテオと話せて嬉しそうだった。

 

「こうして話すのも本当に久しぶりだね」

 

「そうだな。テニスはまだ続けているのか」

 

「うん。高校でもテニス部に入ったんだ」

 

電話越しに、テオの声も少し和やかになっているのが伝わってきた。あいつも、リリィと話せたのは嬉しかったのだろう。

 

「テオ君、これからレイくんと会うの?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「私も、一緒に行って良いかな?久しぶりに3人で集まりたいな」

 

「……分かった。3人で集まろう。場所は…」

 

場所は、ライム駅近くのファミレスとなった。時間が時間だけに、夕食もそこで済ますことになった。

 

「じゃあ、また後でねー」

 

「あぁ。また…」

 

 

「まさか、テオ君から電話が来るなんて思わなかったよ」

 

「俺もだ。まさか、今日会うことになるなんてな」

 

「私、お母さんに連絡しとくね」

 

「俺もしておく」

 

母さんには、今日は久々にテオと会うことになるから、夕食はいらないと伝えておいた。

約束の時刻までは、まだ40分以上あった。結構暇だ。駅までは歩いて20分って所か。少し早く着いたなら、店内で待てばいい。ゆっくり歩けば、時間を潰せるかもしれない。

だが、駅へ向かう途中で、リリィが公園に寄りたいと言った。特に断る理由も無いので、俺たち公園に入った。

 

「覚えてるかな、レイくん。私たち3人、ここでよく遊んだよね」

 

長い間公園には入っていなかったが、目の前に広がる景色は、小学生の俺たちの姿を思い浮かばせた。

 

「懐かしいな…。テオも、俺に負けないくらい動けて」

 

テオと初めて会ったのは、小学校に入学した時だった。俺と同じで、テオもとても高い身体能力を持っていた。俺たちは自然に、一緒に遊ぶ時間も増えていき、そして親友と呼べる仲になった。

 

「別々の高校に行っちゃって、会えなくなっちゃったけど…。また昔みたいに楽しめたら良いね」

 

「…俺もそう思うよ」

 

俺たちの目の前では、、幼き日の俺たちが無邪気に遊んでいた。

 

 

 

 

公園を少しぶらつき、昔の思い出に浸った俺たちは、公園を後にした。良い感じに時間を潰せた。レストランに着いた時には、待ち合わせまでは残り10分と少し程になっていた。

 

「いらっしゃいませ〜。何名様でしょうか?」

 

「3名です……ん?」

 

窓際の席を見ると、黒髪で目つきが少し悪い男が。テオだ。相変わらず時間にはしっかりしていて、待ち合わせ時刻よりも早く来ていたみたいだ。

 

俺はテオの席に行くことを店員さんに告げ、リリィと共に向かった。

 

「テオ!」

 

テオは窓の方を頬杖をついて向いていたが、俺の声に反応してこちらに振り向いた。

 

「レイス、リリィ」

 

「お久しぶりだね、テオ君!」

 

テオ=クランゼル。数年ぶりに、3人は再会した。

 

 

 

「テオ君、随分背が伸びたんじゃない?」

 

テオの背は、俺より少し高かった。中学を卒業する頃にはまだ、俺たち3人は同じくらいの身長だった。

 

「180cmだ」

 

なら、あれから20cmぐらいは伸びたことになる。俺より5cm高いみたいだ。

 

「今は確か、剣道のお稽古をやってるんだよね?部活…とは違うのかな?」

 

今も、テオの隣には竹刀のような物を入れた長物が置いてあった。

 

「部活ではない。学校が終わったら道場に通ってるんだ」

 

テオと俺は、同じような生活を送っていたようだ。

 

「道場って、他に門下生はいるのか?」

 

「いや、俺の他にはいない。入った時から、一人だった」

 

そこまで俺と同じなのか。

 

「リリィはどうなんだ。高校のテニス部は」

 

「うん!すごく楽しいよ!」

 

リリィは中学からテニス部に入り、頑張っていた。中学から高校も同じっていう人も多く、彼女はテニス部内でも知り合いが多く、慕われているようだった。

 

「それは良かった」

 

それからは、リリィが主導で会話は続いた。テオは元々、自分から話すようなタイプではなかったので、それによって会話に花が咲くこととなった。

だが、何故かテオは俺の道場のことについては聞いてこなかった。何と言うか、俺のことについては言及を避けているような雰囲気であった。そもそも、テオは俺に何の話があるのだろうか?

俺がそのことについて切り出そうとすると、テオが意味ありげな目配せをしてきたので、結局切り出すことはできなかった。

そして、料理が運ばれてきた。俺はハンバーグステーキを注文し、リリィはパスタ、テオはピラフを頼んでいた。この店に来たのは久々だが、味は変わっていなかった。

 

 

 

「じゃあ俺、ちょっと便所行ってくる」

 

食事を終えた俺は、席を立ってトイレに向かおうとした。

 

「俺も行く」

 

テオも立ち上がり、俺の後に続いた。

 

「レイス、2人きりの今なら話せる」

 

そして、ようやくテオが本題に入ろうとした。リリィには聞かれたくない話だったのだろうか。

 

「おう。で、どうしたんだ」

 

「昨日の戦闘についてだ」

 

「!」

 

俺は一瞬、呼吸が止まった。目は見開かれ、明らかに驚いてますってような顔になっていた。トイレに他に人がいなくて良かった。

 

「そっちの聖煌流師範・シモンさんと他の波動使いとの戦闘があったようだな。そしてその結果、シモンさんは…」

 

「ちょっと待てよ、何でお前が…!それに、そっちのって…」

 

「俺も聖煌流で修行をしている。俺の方は剣術主体だがな」

 

「じゃあ、お前も『波動』について…」

 

「知っている。入門してから、波動の使い方も剣術と並行して学んでいた」

 

まさか、テオも聖煌流だったなんて。それに、聖煌流は剣術まで扱っているのか。

 

「聖煌流は、武芸百般に通じている。己の肉体のみならず、あらゆる武器を扱う。シモンさんは、拳法主体。俺の師範は、剣術主体なんだ」

 

少しずつ、落ち着きが戻ってきた。

 

「話ってのは、それだけじゃないんだろ?」

 

「……そうだ」

 

テオが聖煌流なのには驚いたが、話は他にもあるはずだ。テオとの付き合いは長いから、その辺は分かっていた。

 

「聖煌流が今、どういう状況にあるかは分かるか?」

 

「あぁ。今は門下生が殆ど生きていないって聞いた」

 

校長先生が教えてくれたことだ。

 

「そうだ。一人の波動使いによって、門下生は殺されていった。そいつの正体は分からないが、そいつは聖煌流のみならず、世界中の波動使いも殺していっているようだ」

 

「それも聞いた。結局、誰がやったのかは分からないままだって」

 

「そして、昨日の闘いで、波動使いがこの街にいることが明るみになった。一般人には何が原因か分からないだろうが、波動使いならばすぐに分かる。もしかしたらそいつが、この街にやって来るかもしれない…!」

 

「…!」

 

先生たちの闘いは、そいつを呼び寄せる起爆剤となっていたのか。

 

「そいつは、波動使いだけでなく民間人も殺している。もし、俺たちを殺しに来るのならば、俺たちの家族や友人たちまでもが犠牲になる可能性もある」

 

「何だって…!」

 

そいつが、母さんやリリィを殺すかもしれない。想像しただけで恐ろしい。

 

「レイス、お前は波動については最近見知ったようだが、気配で分かる。お前も波動使いなのだと」

 

「分かる…のか」

 

俺は、テオが波動使いだとは気づかなかった。俺がまだ未熟だからか。分かる人には、分かるのか。

 

「奴がこの街に来れば、俺もお前も殺すだろう。奴は聖煌流に何らかの因縁があるようだから、尚更だ」

 

「…」

 

「シモンさんのことは、分かっている。お前が今、とても辛いこともだ。だが、もうお前は波動使いだ。後には退けない。俺と共に修行してくれ。皆を守るためにも…」

 

テオの目が、俺の眼をガッチリと捉えていた。真剣な目だ。いつもテオは、人の目を見て話す。混じり気のない、純粋な意志を感じる。

 

「俺は…」

 

シモン先生は、俺に波動を極めろと言い残した。自分を恨んでも構わないというのは、俺がその波動使いに殺される日が来るかもしれないと思ったからか。

 

校長先生は、俺に波動の世界に足を踏み入れないで欲しいと言っていた。生徒が危険な目に遭うことは、教師としては認められないと。

 

でも、テオの話通りならば、俺は既に波動使いだ。とっくに波動の世界に入門してしまっている。

もう、前までの生活には戻れないのだろうか。俺もまた、いつそいつが俺を殺しにくるのか、怯えながら過ごさなければならないのだろうか。

俺は、テオに何と答えれば良いのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 


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