修羅の覇道   作:せご曇(せごどん)

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決意

 

スマホが振動するのを感じた。

 

「テオ!」

 

テオからの着信だった。俺は急いで電話に出る。

 

「テオ!無事なのか!?」

 

「あぁ。俺は問題無い。あの男は倒した」

 

良かった。俺たちはホッとした。もし、テオに何かあったら、俺たちは…。

 

「今、どこにいる?合流して話がしたい」

 

「あぁ、えっと…」

 

俺は今いる位置を彼に伝えた。かなり走ったから、少し遠くなったが。

 

「分かった、今から向かう。そこで待っててくれ」

 

そして、俺は電話を切った。

 

 

「テオ君、大丈夫だったみたいだね…」

 

「あぁ…本当に良かったよ」

 

あの声の感じからして、怪我も無さそうだった。やはり、しっかりと修行をしてるようだから、強いんだろう。

 

 

電話を切ってから、なんと1分程でテオはやって来た。少なくとも5分はかかると思っていたんだが。

 

「早いな…」

 

「住宅の屋根伝いに走ってきた」

 

まさか、屋根の上を走るとは。本当に彼が波動使いなのだと、改めて実感させられた。

 

「テオ君!怪我は無い?」

 

「問題無い。相手が大した使い手ではなかったから、無傷だ」

 

無傷で倒していたなんて。

 

「テオ君…私、レイくんから聞いたよ。『波動』のことも、レイくんの先生のことも…」

 

テオは一瞬俺の顔を見るが、特に驚いた様子もなくリリィに向き直った。

 

「そうか。ならば、ここで話しても問題無いな」

 

「先程俺たちを襲ってきた奴は、誰かに命じられてやって来た波動使いだ」

 

「誰かに…?」

 

テオはそのまま続けた。

 

「誰に言われてやって来たのかを聞き出そうとしたが、その前に奴の体は爆発した」

 

「爆発!?」

 

リリィは口元を押さえた。

 

「恐らく、口を割った時に発動する波動能力を体に仕掛けられていたんだろう」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。波動『能力』って…」

 

波動については知っているが、波動「能力」は初耳だった。

 

「波動能力は、修行を重ねた波動使いが会得できる超能力のようなものだ。ただ肉体を強化する通常の波動とは、少し扱いが違う。俺の場合は、自分の波動を炎に変えて操れる」

 

だから、あの時テオの拳が燃えていたのか。

 

「奴は口を割る寸前に爆死してしまった。だから、奴が何者なのかとかは分からずじまいだった。だが、これで確信が持てた」

 

「確信?」

 

「師範が言っていたんだ。聖煌流の波動使いを殺してきた者とは別に、波動使いたちを殺す者がいると」

 

「!」

 

「その者…いや、その者たちか。徒党を組み、世界中の波動使いたちを殺しているらしい。何が目的なのか、誰がトップなのかは、全く分かっていないが…」

 

まさか、そんな奴らまでいるなんて。

 

「そして、この街に波動使いがいたことが昨日の一件で分かった。だからそいつらは、他に波動使いがいないか、あの男をこの街に偵察に寄越したんだろう。あの様子だと、初めから俺たちを倒せるとは思っていなさそうだが」

 

「その…テオ君」

 

「どうした」

 

「私、波動のことはさっき聞いたばかりで、まだ全然分からないんだけど…私たちはこれからどうなるの…?」

 

「…」

 

テオは視線を俺に向けた。

 

「俺も、教えてほしい」

 

「…十数年前から、多くの波動使いを殺してきた例の波動使い。そして、今回の波動使いの親玉連中。どちらも俺たちと敵対すると思われる」

 

「…」

 

「親玉連中の方は間違い無く近い内にまたやって来るだろう。奴らの目的は分からないが、波動使いを殺すことだけは分かっている。正直、状況はまずいだろう…」

 

「テオ、明日俺も、お前の道場に連れて行ってくれ」

 

「レイくん?」

 

「俺、さっきまで迷ってたんだ。闘わなきゃだめだとは思ってたんだけど、先生の最期の姿が頭に浮かんで…。俺もそうなるかもって…。でも、もう迷ってなんていられない。奴らが何人も来るのなら、俺も闘って皆を守らなきゃだめなんだ」

 

決心がついた。これから何人もの波動使いが来るというのなら、俺も闘わなければならない。母さんや、リリィを守るためにも…。

 

「…分かった。明日、師範に会ってもらう」

 

「レイくん!」

 

リリィが、何とも言えない表情で俺を見ていた。

 

「レイくんも闘うの…?」

 

「リリィ…」

 

俺に闘って欲しくない。そう思っているのだろう。俺だって、誰かと闘いたいなんて思わない。でも…。

 

「俺はもう波動使いなんだ。もう、後には戻れない。俺も強くなって、この街を…皆を守らないとだめなんだ。先生だって、それを望んでいるんだ…」

 

「…」

 

リリィは俯いた。だが、程なくして顔を上げた。

 

「レイくん。あなたの気持ちは分かったよ。私たちを守りたいって言ってるのに、ワガママ言っちゃいけないよね…。でも、これだけは言わせて」

 

「絶対に死なないで」

 

今までに見たことのない程、真剣な顔だった。

 

「分かった…!」

 

俺を想ってくれている人がいる。だから俺は闘う。闘って、そして絶対に死んではならないんだ。

 

「レイス、お前の決意が聞けて良かった。場所は後で送る。今日はゆっくりと休むんだ」

 

「あぁ」

 

「リリィも、今日は休め」

 

「うん…」

 

そして、俺たちは帰ることにした。

 

 

 

 

 

家に帰って、俺は母さんに全てを伝えることにした。シモン先生が死んで、道場には行けなくなったこと。そして、これからテオの道場に行こうと思っていること。全てだ。

 

「…あなたも、『波動』のことを知っていたのね」

 

「…!」

 

俺は、母さんに驚かれると思っていた。だが逆に驚かされた。母さんまで波動を知っていたのか…?

 

「少し…長くなるけどね」

 

 

 

 

「私の姉さん…あなたの本当のお母さん・アリスは、12歳の時までは私と一緒に暮らしていたの。双子だから、私も同い年ね。その時、私のお父さんとお母さん…レイスのおじいちゃんとおばあちゃんは、交通事故で亡くなったの。それで、私たちはそれぞれ別の人に引き取られた。私は、親戚に。そして、姉さんは…」

 

「姉さんは聖煌流の人に引き取られた。姉さんは昔から運動神経が抜群で、私とは比べ物にならない程凄かった。それで、姉さんの中に眠っていた才能を、聖煌流の人は見抜いていたの」

俺の本当の母さんが、聖煌流に引き取られたとは。だから、俺の身体能力も高かったのか。

 

「私たちは離れ離れになっても、年に何度かは会っていた。その時、姉さんは波動を見せてくれたの」

 

だから、知っていたんだ。

 

「私たちが20歳になった時ね。姉さんと急に連絡が取れなくなった。ちょうどあなたが生まれた時。ただ、聖煌流の人がやって来て、こうとだけ言ったの。アリスは子供を産んだけど、育てることが出来なくなった。だから、妹のあなたが育ててはくれないか、と」

 

「まさか…」

 

まさか、母はその時…。

 

「理由は教えてくれなかった。何故、育てられなくなったのか。姉さんは今、無事なのかとか。ただ、あの人たちの表情は、凄く険しかった」

 

「だから、あなたには何も教えなかったの。姉さんがどういう状況にいるかは分からなかったけど、姉さんの失踪に『波動』が関係しているのは間違い無かったから。だから、あなたには普通の生活を送ってほしかった。姉さんのことも、お義兄さんのことも、亡くなったと伝えたのはそのため。波動の世界は危険だと思ったから。でも、もう知ってしまっていたのね」

 

「…」

 

俺は返す言葉が見当たらなかった。

 

「でも、この街に波動使いが来るのは止められないみたいね…」

 

母さんはため息をつく。だが、その後俺に微笑みかけた。

 

「ここまで来たなら、とことん波動を学びなさい。もう後には戻れない。だったら、やるしかないじゃない」

 

「母さん…」

 

母さんは、引き止めるどころか、俺の背中を押してくれた。

 

「大丈夫。あなたには、天才のアリス・リヒトワールの血が流れているんだから」

 

「ありがとう、母さん…」

 

例え本当の母親でなくとも、俺の母さんは母さんだ…。

 

 

 

 

 

翌朝。色々吐き出して、俺の気分はスッキリした。

もう迷わない。今日からは、心機一転。また修行の日々だ。

テオの道場には、学校が終わってから行くことになっている。

俺は、校長先生に会って、これからのことを話そうと思った。朝、偶然校内で会ったので、昼にまた話ができるか聞いて、OKを貰った。

そして、昼休み開始のチャイムが鳴った。

 

 

「失礼します」

 

二日連続で校長室に入るなんて、思ってはいなかった。

 

「リヒトワール君。重要なお話みたいですね」

 

「はい。実は昨日…」

 

昨日、幼馴染で波動使いのテオと会ったことを話した。昨日起こったこと。そして、これから起こることを説明する。

 

「!なるほど、事情はよく分かりました」

 

「俺は、これからテオの道場で波動を学ぼうと思います。この街に迫る危機を、黙って見過ごせない…」

 

「そうですねぇ…。私としては、あなたには闘って欲しくはなかったのですが、最早我関せずとはいかない状況のようですね」

 

「はい…。それで、もしかしたら学校には…」

 

「確かに、修行に専念するのであれば、学校には来られないでしょう。分かりました。事情が事情なだけに、私も特別な措置を講じます。私に波動の知識が少しはあって、良かったです」

 

本当にその通りだ。波動のことなんて、普通の人に言っても信じてはもらえない。

 

「リヒトワール君。頑張ってください」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

放課後。暫く、学校には来られない。俺は少し寂しい気もしたが、ともかく学校を後にした。

テオの道場までは、学校からそれなりに離れている。シモン先生の道場よりは離れていた。

 

「えっと…」

 

あまり来ない方面だったので、俺は少し道に迷った。

ともあれ、道場の目の前までやって来れた。道場の見た目は、シモン先生の道場のようにかなり古びていた。

扉を開き、挨拶をした。

 

「失礼します!レイス・リヒトワールです!」

 

あれ?道場の中には誰もいない…。

 

「やぁ、レイス君」

 

「!?」

 

ハッとして後ろを振り返ると、男が立っていた。

 

「僕がこの道場の師範のガルーダ・モートンだよ」

 

男もといガルーダさんは、笑みを浮べて手を振っていた。

 

「な、何故後ろに…」

 

「あー、途中から後をつけてたんだよ」

 

全く気付かなかった。気配を完全に消していたのか。

 

「結構道に迷ってたみたいだね。まぁ、こんな路地裏みたいなところにあるんじゃしょうがないかぁ…」

 

僕も本当はもっと表の方に道場を構えたかったんだけどね、とガルーダさんは眉を寄せて言った。結構長い間つけていたみたいだ。

 

「ま、ともかくだ。よろしくね、レイス君」

 

右手を差し出してきたので、俺も手を差し出して握手をした。

 

 

 

 

どこか、薄暗い場所。廃工場のような所だ。そこには、何人かの人間がいた。

 

「あ、ダントンは死にましたね」

 

桃色の髪の女が、特に感情を込めずに言った。

 

「そうか。だがこれで、ライムシティを目的地とすることが決まった」

 

女の前には、茶髪の男がいた。かなりの長身で、190cmはある。

 

「今、ここにいる波動使いは5人か。残りの者は?」

 

「全員が集結するのには、あと2週間程はかかるかと…」

 

茶髪の男に、配下と見られる男が答えた。

 

「そうか。だが、それまでは待てん。これからライムシティに向かい、波動使いを殺す」

 

男の目は、とても冷たかった。

 

「ねぇ、グレイド様…。今夜、私と一緒に寝てくださらない…?」

 

桃髪の女は、妖しげな表情で茶髪の男・グレイドの腕に手を回そうとした。

 

だが、グレイドはそれを弾いて払った。

 

「売女め。何度も言わせるな。貴様と寝る気など毛頭無い」

 

「ひどぉい…」

 

言葉とは裏腹に、女は笑っていた。

 

「あと数日の命だ。精々、楽しんでおくんだな」

 

グレイドの目は、まだ見ぬレイスとテオを見据えているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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