波動修行2日目。
朝6時に起きることは慣れている。
寝覚めはとても良い。昨日は久々に、ぐっすりと眠れた。波動を使うと体が疲れるけど、同時に体が気持ち良くもある。
テオも目を覚ましており、布団を畳んでいた。
「おはよう、2人とも!」
ガルーダさんが、寝室のドアを開けた。朝から元気がいい人だな、と思った。
「おはようございます」
俺たちも、朝の挨拶をした。
「昨日はぐっすり眠れたかな?」
「はい、こんなによく眠れたのは久しぶりです」
「それは良かった。波動には、俗に言う健康促進効果みたいなのもあるからね。達人の波動使いは、肉体の年齢が若い期間が長くなるから、100歳を超えても闘えるって話だよ」
そこまで凄いのか。やはり「生命エネルギー」というのは正しいようだ。
「じゃあ今日も張り切っていこうか」
「はい!」
「早速だけどレイス君、波動集中をやってみてくれるかな。昨日みたいに、僕が言った場所に波動を集中させてみて」
「分かりました」
「じゃあいくよ。左手」
俺は、すぐさま左手に波動を集めた。
「2秒!かなり早くなったね。右手」
次は、右手に集中。同じく2秒ぐらいで集中させられた。
「中々良いね。じゃあ次は右膝」
昨日は練習しなかった部分だ。だが、やってみる。右膝に意識を集中させるんだ。
「おお!練習してないのにこれも2秒か!本当に飲み込みが早いね〜」
「ありがとうございます」
素直に嬉しかった。修行の成果が、しっかりと表れていた。
「素晴らしいよ。ここまで上達が早いとは、正直思ってなかった。ただ、もう少しスピードを上げたいね。実際の闘いでは、瞬時に波動を集中させる必要がある。それこそ、0.1秒未満の凄く短い時間で、瞬時にやることが、高レベルの戦闘での条件だ」
そんなに素早くやらなきゃだめなのか。でも確かに、一般人との闘いではなく、超人的な力を操る波動使いとの戦闘。それぐらいは当然なのかもしれない。
「心配する必要は無いよ。一日でここまで出来たんだ。今日も同じ修行を積めば、明日には君もそのレベルに到達できる」
ガルーダさんは、昨日のように、俺の前にホワイトボードを引っ張ってきた。昨日は、4つの部分に波動を集中させる修行だった。ガルーダさんは、ボード消しで昨日描いた丸を消すと、今度は腕や脚全体に丸を付け、最後には胴体部分にも丸を付けた。
「昨日みたいに、時計回りに集中させていくんだ。昨日との違いは、手や足だけでなく、付け根まで意識して集中させること。この修行のもう一つの目的は、長時間波動を展開させることによって、君の中の波動の総量自体を底上げすることにもあるんだ。集中させる部分が小さいほど、必要な体力も少ない。だから、昨日よりも少しキツめに、腕全体と脚全体にまで波動の集中部分を広げる。そして、右腕が終わったら、今度は胴体。胸から腹にかけて、波動を集中させる。これで、かなりレベルアップ出来るはずだよ。各部分15分の、1セット合計75分だ。出来るかな?」
昨日よりも難易度が上がっていそうだ。だが、俺の返事はただ一つ。
「はい!やり遂げてみせます」
「良い返事だ。じゃあ、始めるよ」
1セット75分。昨日の倍くらいに増えている。40分でも相当キツかった。気合を入れなければ。
「スゥゥゥゥ……フゥゥゥゥ………」
深く息を吸い、吐く。左腕全体に、波動を集中させる。パワーがみなぎるのを感じる。
2分経過。既に少し疲れた。だが、この程度でへこたれてはだめだ。まだ13分も残っている。
「くっ…」
そして、15分が経過した。かなりしんどい。鬼のように長い15分に思えた。次は、左脚全体だ。
腕、脚の修行はキツかった。昨日の手だけ、足だけの修行はかなり楽だったように思える。あれもかなり辛かったはずなのに、今回のに比べたら楽に思えてしまう。
そして、最後に残った胴体。他の4部位と比べても、かなりの体力を消費する。
75分経過。タイマーの音が鳴ると同時に、波動が解けた。本当に疲れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
呼吸がとても荒くなる。もう立ち上がる力も残っていない。
「はーい、お疲れ様〜。かなりしんどそうだね〜」
「これは…想像以上でした」
「流石のレイス君でも、これにはお手上げかな?」
「いえ、まだです…!」
「うんうん。その調子だよ。今日は夜まで、ずっとこの修行をやってもらう。他のことは考えなくていい、ただこれだけをやれば良いよ」
単純な内容ではある。だがその分、ハードさはかなりのものだ。
テオの方を見てみると、俺と同じような修行をやっていた。俺のように特定の部位ではなく、体全体に波動を集中させている。
「ガルーダさん、あれは…」
「あれは、波動の総量の底上げと、スタミナ向上の修行だよ。君がやってる修行の総まとめ版みたいなものかな?ああいう基礎的な修行は、どのレベルの波動使いでも必要不可欠なのさ」
「へぇ〜」
思えば、俺が修行を開始したのと同じぐらいのときにテオも波動を集中させていたのに、まだ続いている。汗もかいていないし、息切れも起こしていない。やはり、テオは凄い。俺も早く、あいつに追いつかないと…。
テオを見て、俺のやる気も刺激された。休憩時間20分を終えると、すぐに修行を再開した。また75分の地獄だ。だが、必ずやり遂げてみせる。
「いや〜!よく頑張った!」
日はすっかり暮れ、外は真っ暗になっていた。時間は20時ぐらいだろうか。
俺は、ぶっ倒れていた。体が動かない。本当に、もう限界だった。
「これから夕飯だから、まだ寝ないでね」
そのままだと、眠ってしまいそうだった。テオは俺に肩を貸してくれ、辛うじて立ち上がることが出来た。
「よく耐えたな」
「もう…無理…」
「これでかなりレベルアップ出来たはずだ。とにかく今は休め」
食器の用意等は、ガルーダさんとテオがやってくれた。今日の修行はもうおしまい。今はとにかく、腹が減った。
「今日はかなりエネルギーを使っただろうからね、いっぱい食べるといいよ」
「いただきます!」
ガツガツと箸が進んだ。美味い、美味すぎる。地獄の後の飯は、信じられない程に美味かった。
夕飯を食べ終えた所で、俺は気になっていたことをガルーダさんに聞いた。
「ガルーダさん、聞きたいことがあります」
「ん?何だい?」
「聖煌流の総師範…他の達人たちも、今は行方不明なんですよね?」
「うーん、そうだねぇ」
「その人たちって、どんな人たちなんですか?」
「なるほど、それが知りたいわけね。まぁ、僕もあの時は子供で、彼らに会ったことはあまりないんだけどね」
見れば、テオもガルーダさんの話に注目していた。
「聖煌流の創始者で、総師範のゴルド・レギレウスは、気前のいいおじいちゃんだったよ」
「気前のいい…おじいちゃん?」
何だか、イメージとは違った。凄く厳しい人だと思っていた。
「『神拳』の使い手で、あの人の拳は誰にも見えないって話だよ。実際に手合わせをしたことはないから、噂話でしかないけどね」
「へぇ〜…」
「神拳」の使い手、か。とても強そうな感じだな。
「で、総師範に次ぐ波動使いで、『万能の天才』って呼ばれていた人がいたんだけどね」
「万能の天才」…。凄い異名だ。
「アリス・リヒトワールっていう女の人なんだ」
「え!?」
アリス・リヒトワール…?俺の実の母親の名前じゃないか。天才だとは言っていたけど、聖煌流の中でそんなに有名な人だったなんて。
「君も、『リヒトワール』だよね?何か関係があるのかな?」
「それ、俺の母の名前です…」
「あ、そうだったの?」
「は、はい…。育ての親は別なんですけど…」
「道理でねぇ。君のあの才能は、母親譲りだったわけかぁ」
ガルーダさんは納得がいったように頷いた。結構、リアクションが薄い。
「そ、それで、母はどんな人だったんですか…?」
「うーん、これもまた手合わせをしたとかってわけじゃないんだけどね、近くで見たら凄かったね。何というか、波動の量も凄く多そうだったし、立ち姿を見ただけでも隙が無くて、本当に強いんだなぁって思ったよ。あと、美人さんだったね」
「び、美人ですか…?」
「うん。あと10年早く生まれてたら、恋してた…かも?」
「え、えーと…」
「冗談だよ冗談!」
ガルーダさんは笑ったけど、俺は反応に困った。なんかむず痒い気分だ。
それにしても、母がそんなに強い人だったとは。「万能の天才」なんて、相当な人だったんだろう。
「その、実際に話してみたりとかはしましたか?」
「んー?少し話したかな。優しい女の人、って感じだったね」
「なるほど…。それで、その2人が今どうしているのか、本当に分からないんですか?」
「それがねー、さっぱりなんだよねぇ…。あの聖煌流殺しが現れたぐらいから、そういう人たちの居場所も聞かなくなっちゃってさ」
「それって、まさか殺されたりとか…?」
「…は流石に無いんじゃないかなぁと思いたいね。2人とも滅茶苦茶な強さだったみたいだし、そんな人たちを殺すことができる奴なら、僕たちの敵は相当ヤバいってことになるよ」
確かに。「神拳使い」に「万能の天才」。この2人を殺せるレベルの相手だとは考えたくない。でも、ただでさえ強力な波動使いを何百人も殺しているんだ。どの道、一筋縄でいく相手ではないだろう。
「まぁ、君のお母さんはどこかで生きてると思うよ。出来れば、僕たちと一緒に闘って欲しいけど、何か理由があるんだろうね。約20年も姿をくらますなんて」
ガルーダさんは、俺への気遣いなのか、「死んだ」とは言わなかった。俺も、生きてて欲しいと思う。生きて、いつか会ってみたい。
「もう一つ気になることがあります」
「なになに?」
「ガルーダさんは、どうやって生き延びたんですか?その時は、確か子供だったって言ってましたよね」
「うーん…」
ガルーダさんは、少し考え込むような仕草を見せた。
「こればっかりは、運が良かった…としか言えないかな。あの時の僕は、当然今よりも弱かったし。聖煌流殺しと、奇跡的に出会わなかったのが、僕が生き残れた理由だと思う」
ガルーダさんの表情に、一瞬陰りが見えた気がする。もしかして、ガルーダさんのかつての修行仲間は…。これ以上聞くのは止めておこう。
「本当は、そのまま波動の世界とサヨナラした方が良かったんだろうけどね。でも、僕は数少ない生き残った聖煌流の人間だ。どうにかして、次の世代に技を伝えたかったんだ」
珍しく、真剣な表情を見せた。シモン先生も、きっと同じ気持ちだったんだろう。新世代への聖煌流の継承。先生やガルーダさんの気持ちに応える為にも、一層修行に精を出さなければならないと思った。
3日目の朝になった。
「じゃあ、レイス君。昨日の修行の成果を見せてくれるかな?」
「はい」
俺は、体の様々な部分に波動を集中させてみた。要した時間は、1秒より少し早いぐらい。始めたときと比べると、かなりスムーズに出来た。
「うんうん。かなり良いよ。この修行は、ひとまず合格かな!」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次の修行に移るよ」
次は一体、どんな修行なのだろうか。
「次の修行…まぁこれからはずっとこの修行だ。模擬戦をやっていく」
「模擬戦ですか?」
「そうだよ。昨日までやっていたのは、波動技術の基礎。今日からは、それを実際に応用して模擬戦をやるんだ。と、その前に…テオ」
「はい」
テオが、俺の隣に来た。
「君の波動能力を、レイス君に見せてあげて」
「はい」
すると、テオの右腕から波動が放出された。それは、程なくして炎へと変化する。3日前に、一瞬だけ見たものだ。
「これが、波動能力だよ。波動ってのは、肉体強化だけが役割じゃない。こんな感じに、超能力みたいなのを操ることも出来るんだ」
「超能力…」
「そう。どんな能力かは、人によって違う。その人の性格だったり好みだったりが反映されることが多いかな」
「そうなんですか」
テオは、冷静な男だ。そのテオが、炎を操っている。テオの心の中では、熱く燃えるものがあるということか。
「俺も、能力を使えますか?」
「うん。使えるようになると思うよ。でも、これが少し難しい。波動能力は、物凄くじっくりとイメージを練って、それから使えるように修行を重ねるってパターンもあるんだけど、大体の人はそうじゃない」
「じゃあ、どうするんですか?」
「突発的に目覚めることが多いんだ。例えば、命の危機に陥って、急に覚醒したり。何かにとてつもない感動だったり怒りを覚えて、頭の中に能力の使い方がすぅぅっと入ってきたりする。だから、そういった経験をしてないって人は、波動は使えても波動能力は使えない、ってことも多いんだよ」
話を聞く感じだと、ただ修行すればいいわけではないようだ。
「そこで、この模擬戦さ。闘いの中で、何らかのビジョンが浮かんだりすることもよくある。波動を使った闘い方を学ぶと同時に、波動能力を発現させる切っ掛けに、この修行がなれば文句無しだ」
何だか、運も絡んでいるように思える。果たして俺に、能力が使えるようになるんだろうか。
「ま、あれこれ頭で考えるより、実際にやってみよう。まずは、僕の顔面に一発当てられるか、だ。どうかな?僕も適度に反撃していくよ」
「お願いします!」
ガルーダさんに、一発ぶちかませってことか。
「シモンさんに教わった、聖煌流拳法。存分に使ってっよ!」
俺は構えを取り、足に力を込めて、ガルーダさんへと飛び立っていった。
波動能力
波動使いたちは、自身の波動を消費することで、何らかの能力を用いることが可能である。それらは、一般的には超能力と呼ばれる力である。
波動使いであっても、能力が発現しているとは限らない。むしろ、発現していない者が6割程である。これは、能力の発現には衝撃的な経験が求めらることが多いからである。その為、多くの波動使いは、「ただ波動を操れて身体能力がずば抜けて高い人間」止まりとも言える。
これにも例外があり、波動使いとしての練度が低い、あるいは波動使いですらないのに、特別な経験によって波動能力に目覚めることがある。そうした者は、能力は使えるが、戦闘力は低い。修行を積めば戦闘力の向上は見込める。