謎食いの探偵 作:火西善二郎
「やっぱり私、呪われてるかも………」
米原桜子はそう言ってはぁ、とため息を吐いた。
「ほう? 何故呪われていると?」
「だって三度目だよ!? 殺人事件に巻き込まれるの!」
しかも今回は密室殺人。前回も前々回も何らかのトリックが使われた殺人だった。
殺人事件に3回も巻き込まれた女。もう次の働き口は見つけられないかも。
「それは素晴らしい」
「何が───あれ?」
不謹慎な発言に思わず叫ぶも、ふと気付く。今の自分は少し一人にして欲しいと通路の端に居たはず。人影は、ない。
「何が? おかしな事を聞く。時が廻転し謎の気配で溢れたこの世界でも、砂の数ほど居る人が事件に出会える確率はどうしたって下がる。だというのに三度も巡り会えるのは、この上ない祝福ではないか」
「────!!」
声は上から。上を見て、固まる。
その男は寝そべっていた。手を後頭部で組み枕代わりにし足を組んで……
「働き口が見つからないといったな? なら俺が与えてやろう」
左右異なる色の瞳を細め笑みを作る黒尽くめの男は天井で立ち上がり桜子の頬に手を添える。
「!?!!!?」
「この謎に溢れた世界で
「な、な……何ですか貴方!? い、今、天井に…………!!」
「何、と言われると………そうだな。俺の名前はミミングス。人としての名もあったが忘れた。どうでもいいしな」
「わ、忘れ………?」
「とはいえお前が聞きたいのはそうではないか。俺は神に呪われた人間。どうぞよろしく」
「あ、あの〜」
「ああ米原さん、戻りましたか。おや、その方は?」
目暮警部が戻ってきた桜子に声をかけると隣の男に気付く。中々背の高い黒尽くめの男だ。片目の色が違う………義眼?
「あ、えっと………この人は」
「はじめまして! 僕は泉と申します。先生の弟子です」
「せ、先生……?」
「実は先生はネットではそこそこ名の知れた推理マニアでして。今回の密室事件の謎を是非解きたいと」
「は、はぁ………しかしですな。これは我々警察の仕事でして」
「あ、ですよ──もごぉ!?」
ぱぁ、と笑顔になった桜子の口に泉が手を突っ込んだ。
「しかし先生は前にも二度事件に巻き込まれ、それを解いたのは警察ではなく探偵。警察なんかに任せていたら彼女のマネージャーをしていた自分に疑いが向くかもしれないと不安なのです!」
「う、む………」
事実としてその事件を外部の者に任せる結果となった警察達。しかし一見大人しそうに見えてそんなに内心不満が溜まっていたのか。
「何、現場は荒らしません。彼女のマネージャーをしていた先生だけに気づける何かがあるかもしれませんよ」
「うむ………まあ、現場を荒らさぬなら………まあ」
「どういうつもりなんですか!? なんで、私が探偵なんかに………!」
一通り探り終え場所を変えたミミングスに掴みかかる桜子。何だって事件に突っ込まなくてはならないのか。
「そこに『謎』があるからだ」
「な、謎?」
「神に呪われた俺の食料は謎。それ以外も喰えないことはないが、栄養としては米一粒にも劣る。生き続けるためには謎を喰らわねばならない」
「で、でもそれなら警察の人が解くのを待てば良いんじゃないですか?」
わざわざ自分で謎を解かなくても、いずれ謎は解かれるはずだ。
「確かに自分で解いた謎のみという縛りはないが、お前が言っていただろう? 警察より探偵の方が謎を解くと。何より、檻に繋がれた獅子でもあるまいし他者の解いた謎など喰う気にもなれん」
プライド………それとも信念?
解らない。多分、桜子達とは根本的な部分で価値観が違う。
「でも、わざわざ私に探偵役やらせなくても」
「戸籍の存在しない俺が不用意に目立つわけにもいかん。脚光を浴び名声を得るのはお前に譲ってやる」
その偉そうな態度にむっと顔をしかめる桜子。
「とにかく、私はやりません! 探偵なんて!」
「………駄目か?」
「駄目です! 携帯返してください!」
と、ミミングスが触っていた携帯を取り返す桜子。殺された庄野杏奈と、彼女と言い争っている現場を目撃されたからか北見沙弥のページを開いている。
「私は沙弥さんの部屋に戻ります! 本当はそこで大人しくしてなきゃいけないんだから!」
「………………」
去っていく桜子の背中を見つめミミングスは笑みを浮かべた。
「あ、おかえりなさい桜子さん」
「ただいま」
「遅かったわね?」
沙弥の借りたホテルの一室。出迎えた江戸川コナンと沙弥にあはは、と笑って誤魔化す桜子。あんな妙な存在に絡まれたなど、どう説明すればいいのかさっぱりだ。
「あ、あの………米原さん?」
「はい、どうしまし………あれ?」
と、困惑したような沙弥の言葉にハッと現実に戻る桜子。
「どうして私を指さしてるのかしら?」
「…………え?」
そこで気付く。自分がまっすぐ沙弥を指差している事に。すぐに戻そうとするも、動かない!?
「おおい米原さん、密室のトリックが解ったって本当かね?」
「え? え!?」
そして入ってくる目暮警部。コナンも困惑している。
「密室のトリック?」
「ああ、米原さんが解いたって彼女の助手が」
「助手………!?」
女のように長い髪に、左右の異なる色の瞳!?
「やあコナン君。はじめまして、君の話は先生からかねがね」
「あ、うん………か、変わった目だね」
「昔クソヤローに奪われてね」
つまり、義眼?
黒尽くめの格好と言い、まさか。
「あ、あの………密室のトリックって…………」
と、沙弥が恐る恐る尋ねる。
「ええ、先生は解けたと言ってます」
「………ぁ、くう………は……」
口が、勝手に開く。これは、あの男の仕業!?
「は…ん…………犯人は、お前だ」
咎人ミミングス
神々の気まぐれで『謎』を食わねば餓死する呪いを受けた人間。代わりに腹が満ちている限り不死の神々に近い身体能力を誇る。
神界で頭を鍛えている間に人間としての価値観が大きく狂った。
知識を与える水を飲もうとして、不正を神々に咎められ片目を失った。長い年月をかけ力が魂に定着したため神々に力を奪われることはないが逆に言えばもう二度と人には戻れない。
名の由来は泉の管理人ミーミルの別名。