謎食いの探偵   作:火西善二郎

4 / 5
味わい

 ミミングスに仕方なくついていく事にした桜子。

 ミミングスの肩に担がれて屋上から別の家の屋根を飛び越えマスコミを巻いた。

 

「うぷ、お腹の中身でそう」

「内臓晒しか? ヘルヘイムでは鉄板ネタだな」

「そんな恐ろしい鉄板ネタあるの? あ、鯛焼き………」

 

 ついでにミミングスのぶんも買ってやる。こういうちょっと世話焼きの部分が彼女の人徳なのだろうか?

 

「あ、そもそも貴方って食事は必要ないの?」

「不用だがお前達だって不用でも菓子を食うしゲームをするだろ? 俺にとって人間の食事は嗜好品だ………謎解きが苦手だった頃あのクソどもに無理やりやらされてたが、今は料理の腕がついてよかったと思っている」

 

 男の人だからと3つ買われたたい焼きのうち一つを食うミミングス。

 

「だが嗜好品は嗜好品でしかない。こんなものを幾ら食っても俺の腹は満たされない」

 

 ポイと投げてきたたい焼きを慌てて受け取ろうとする桜子。しかしたい焼きが桜子の手の上でピチピチ跳ね出し、牙を生やして噛み付いてきた。

 

「痛い痛い! このたい焼き噛む!?」

「こっちだ、場所はそう遠くない」

 

 などと言いながら杯戸町まで移動する。噛むたい焼きは途中でミミングスが食った。明らかにたい焼きからするはずのない肉を食い千切る音や骨を噛み砕く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 杯戸町のとあるレストラン。

 

「た、高そう………」

「心配するな。金ならいくらで持っている」

 

 と、財布を取り出すミミングス。なんでもこっちに来た際持っていた宝石などを売って手に入れたらしい。

 

「それで、この店に来たのはなんで?」

「『謎』の気配がする。もうすぐここで殺人が起きるぞ」

「え!?」

 

 と思わず立ち上がりあたりを見回す桜子。何事だと視線が集まり、慌てて座る。

 

「…………妙だな。たしかに今謎の気配が強くなったんだが」

「な、何も起きてないよ?」

「ふむ……」

 

 目を細め店内を見回すミミングス。

 

「ハズレたのなら嬉しいけど……」

「あれれ〜?」

 

 と、不意に声をかけられる。子供の声だ。

 

「こ、コナン君?」

「こんにちは桜子さん、泉さん! 二人して、デート?」

 

 江戸川コナンだった。一見顔見知りを見つけ駆け寄ってきた無邪気な少年を装うコナンに、泉は興味なさそうに酒を頼んでいた。

 

「こら何やってんだ坊主! すいませんねぇ………って、米原さん? お久しぶりです!」

 

 と、さらにやってくるのは今名探偵と検索すれば真っ先出てくる毛利小五郎。目を閉じ俯くという眠ったような姿勢で推理することから、その別名は眠りの小五郎。

 

「あちらのお子さんは放っておいても?」

 

 ミミングスはコナン達が座っていた席に残った茶髪の少女を見る。少女が肩を震わせると、コナンが慌てて戻っていった。

 

 

 

 

「おい灰原、まさか彼奴…………」

「いえ………多分、組織の人間じゃないわ」

 

 組織の人間を直感的にわかるという灰原の態度に思わず尋ねるも、否定された。

 

「じゃあなんでそんな怯えてんだよ」

「目よ」

「ああ、たしかにラムと同じ………」

「そうじゃなくて、あの人が周りを見る目…………人を見る時も風景を見る時も全然変わらないのよ」

 

 その辺に落ちている変わった形の石と人を同程度の存在としてみている。見下しているのではない、そもそもそこまで興味がないのだ。

 

 

 

「毛利さん達もこういう店に来るのね」

「毛利小五郎………沖野ヨーコのファンとしても有名だな。比護隆介との熱愛疑惑を調べに来たんだろ」

 

 席に戻った小五郎達の視線を追えば、確かに沖野ヨーコと比護隆介の姿があった。

 

「え、え!? 熱愛!? 本当に!?」

 

 興味津々と目を輝かせるのは女性らしい。ミミングスからすればどうでもいいことだが。と、太った男に連れられヨーコと比護が店の奥に消えていく。

 ここのオーナーは比護の高校時代の先輩らしいから、オーナーに呼ばれたのだろう。

 ワインを飲みミミングスは眉根を顰める。

 と…………

 

「きゃあああああああああ!?」

 

 悲鳴が聞こえてきた。

 

「ふむ、どうやら俺の食指は間違っていなかったようだな」

 

 レストランに来て食事を少しは取っていたミミングス。しかし彼にとってそれは栄養にはならない。ここからが、彼の本当の食事の時間だ。

 悲鳴に反応してかけていく小五郎の後を追い地下倉庫に向かっていく。

 地下倉庫では、首から血を流して死んでいる男に比護が呼びかけていた。

 

「おい飛鳥さん! しっかりしろ! 飛鳥さん!?」

 

 

 

 

 

 殺されたのは店のオーナー飛鳥悌耶31歳。

 死亡推定時刻午後7時から8時の一時間。死因は頸動脈切断の失血死。

 凶器は遺体のそばに落ちていたカッターナイフ。店のバックヤードにあったカッターナイフが一本なくなっているのでそれだと思われる。

 死体の第一発見者は沖野ヨーコと比護隆介。客ではあるがウェイターに連れられ地下倉庫に訪れた。飛鳥からメールで彼等を連れてきてくれとメールがあったらしい。

 比護と飛鳥は同じ高校のサッカー部。ヨーコも同じ高校出身らしい。

 因みにウェイターにメールが来たのはヨーコはそこまで親しくなく、比護は携帯を忘れたかららしい。

 

「あの、もう一つお聞きしたいんですが………お二人は付き合っているんですか?」

 

 と、高木が聞く。ワイドショーで話題になっていると。毛利小五郎と灰原哀もそれぞれに詰め寄っていた。

 

「毛利君に加え…………君達もか」

「はい。先日の事件を見事に解決し有名になった記念に先生と食事を取りに来ていたのですが…………まさか、こんなことになるなんて」

 

 どの口が言うのか、とジト目で睨む桜子を無視してミミングスはニコニコ笑っていた。

 

「それより聞き込みをしませんか? 死体発見前から何やらバタバタしていたようですよ?」

 

 

 

 スタッフはソムリエ山田晃道(43)、ウェイター鴻江保人(28)、ウェイトレスにして飛鳥の恋人の伴場嶺子(27)。

 バタバタしていのは店長を探していたらしい。

 夜七時ごろ、山田と鴻江でバックヤードを探し伴場が倉庫を探した。

 最初にバックヤードに来た時はソファーには毛布がかけてあるだけで、倉庫にもいなかった。10分後ぐらいに向かうとバックヤードに頭まで毛布を被ったオーナーがいたのを伴場が見つける。靴もソファーの近くに置かれていた。

 しかし倉庫に飛鳥の姿はなく、バックヤードに戻ったのかと思い探したが山田がいただけ。

 オーナーはどこに行ったのかと話しているとヨーコの悲鳴が聞こえ小五郎達が飛び込んできたというわけだ。

 

「米原さんまで」

「先生は事件に目がありませんから」

「工藤君みたいだな」

 

 高校生探偵の名だ。まだ高校生だが頭が良いので殺人現場に駆り出されていたらしい。本人も殺人事件が大好きのようだし。

 

 

 

 

 聞き込みをして新たに得た情報は、倉庫には常に鍵がかかっており、鍵は以前バックヤードで煙草を吸っていたスタッフが居たため勝手に持ち出されないようにスタッフが目にできる廊下の入り口にあるらしい。

 部屋には何時も鍵がかかっている。裏口もだ。合鍵はオーナーの飛鳥しか持っていないし、遺体が持っていた。

 他にも山田と飛鳥が言い争っている姿を見たらしい。山田いわく、ワインを安価なものに変えたい飛鳥と本格的イタリアンレストランを目指しているのにそれはいかがなものかとモメていたらしい。

 

「時に山田さん、この毛布は何時もここに一枚だけですか?」

「え、ええ………ここで仮眠を取るのはオーナーぐらいですから」

「なるほど」

 

 と、ロッカーを開けるミミングス。目を細め、部屋から出ていった。

 

「おや、それは?」

「あ、ああ………トイレで見つかった吸い殻で………」

 

 部屋の外で警部に届けに持ってきたであろう袋の中身を確認し、ミミングスは成る程、と頷く。

 

 

 

 

「あの、ミミングス……解ったの? 犯人が」

「何故?」

「刑事さんになにか頼んでたから」

 

 コソコソと耳打ちしてくる桜子に、ミミングスはくく、と喉を鳴らす。

 

「ただの奴隷人ぎょ………基探偵役のつもりだったが、なかなか見ているな」

「え、いま奴れ………え?」

 

 なんか聴き逃がせない単語が聞こえた。と、息を切らした高木がやってくる。

 

「よ、米原さん! 買って、来ました」

「え?」

「さて先生! それでは、早速推理をお披露目しましょう!」

「と………解けた、の?」

「不安がるな。顔を上げ、俺が操るままに手を動かせ。前回は口も操ったが、今回はお前が、自信のある態度で叫べばいい」

 

 そういうミミングスに従い、容疑者達の集まったバックヤードに向かう。

 

「犯行が可能なのはもう、倉庫で待っていた比護さんとヨーコさんしかいませんな」

「ええ!?」

「ちょっとまってくださいよ警部殿! あのサッカー野郎はともかく……あんな可憐なヨーコちゃんが人殺しなんかするはずないでしょう」

 

 と、バックヤードを開けた途端聞こえた声に小五郎が根拠にならない根拠を言っていた。

 

「だが状況は……」

「だーかーらー、オーナーが実はヨーコちゃんのファンで、倉庫に潜み………」

「ああ、駄目です先生!」

「へ? ぎゃあ!?」

「ぶへ!!」

 

 ミミングスは桜子の首根っこを掴むと小五郎に向かってぶん投げた。壁と桜子に挟まれうめき声を上げる小五郎を踏みつけながら桜子に手を貸し起こすミミングス。

 

「全く先生、自分が推理したいからって他の探偵をぶちのめすなんて相変わらず乱暴なんですから」

「ゴ、ゴメンナサーイ」

 

 怒りで震えながら頑張って力一杯手を握り締めるも答えた様子はない。気絶した小五郎を見て蓋を開けた腕時計をしまうコナン。、

 

「しかし推理とは、犯人が解ったのかね?」

「ええ、先生の手にかかればこの程度のアリバイトリックなど前菜にもなりません」

「…………っ」

 

 手が、勝手に動く。口は、自分の意志で動かす。

 

「犯人は、お前だ」

 

 果たして、指さした先にいたのは…………山田晃道であった。

 

「え? な………わ、私!?」

「山田さん、最初にバックヤードを二人で探そうと言ったのは貴方でしたね? 倉庫のほうが広く、死角も多いのにわざわざ」

 

 その理由は簡単。この部屋にはこの瞬間、誰もいないと見せ付けるため。

 

「こ、この部屋にはロッカーや戸棚もあるからですよ!」

「そんなところ、自分から隠れない限り居ないでしょう?」

「万が一ということもあるでしょう!? それに、オーナーがこの部屋に居ないを確認させてどうしようっていうんです! あの時、私と彼がいたのはほんの数分ですよ?」

「問題ありません。事前に準備しておけば、最後の仕上げは一瞬ですから」

 

 そう言うとミミングスは高木が持ってきた袋から布団圧縮袋と厚手の服を用意する。

 

「先ずは袋の中に服を入れ、空気を抜き潰す。後はソファーの上に毛布を被せれば準備完了。まずはこの光景を誰かに見せればいい」

 

 それで、少なくとも一見何もない毛布とソファーの出来上がり。

 

「後は部屋から出る際に穴を開けソファーの下から口を出せば」

「………あ!」

 

 空気の入った袋が中の服によって膨らみ、まるで毛布の中に人が居るかのように見えた。そこに靴まであれば、そこに眠っているのは飛鳥だと思ってしまうだろう。

 

「し、しかし………そのトリックは私じゃなくても鴻江君でも」

「ワイン」

「…………え?」

「毛布やロッカーの服に空いていた穴の付近についていたんですよ。穴を開ける時に使ったのは、ソムリエナイフ………コルクに捻じ入れるスクリューの先端は尖ってますからね」

「だがねぇ、米原さん………」

 

 と、目暮警部が戸惑うように尋ねる。

 

「私の知り合いのソムリエに聞いた話だが、スクリューはコルクを突き抜けない位置までしか入れないと言っておったよ。突き抜けるとコルクのカスがワインに入るから………コルクが古くなった年代物の超高級ワインなら突き抜けてしまう事もあるようだがこの店には…………」

「あ、ありませんよ! 三ツ星レストランでもあるまいし!」

 

 そう言って、これは誰かが自分に罪を着せるための罠だと言い張る山田に、ミミングスは何処から取り出したのか店のワイン瓶のコルクを抜く。

 

「確かにここは三ツ星レストランではない。だが、こんな安物を出しておいてソムリエとは笑わせる、と先生は憤っています」

「や、安物?」

「コルクの匂い、あなた確認してませんよね? それに、トイレで見つかったタバコは銘柄は同じですが長くフィルターに噛み跡があるものと根本まで吸ってもみ消した2種類。これ、片方は貴方ですよね?」

 

 味覚が命のソムリエは、普通煙草を吸わない。

 

「貴方は先程、ワインを安価にしようとしたオーナーとモメたと仰っていましたが、ワインの味も分からぬあなたに高いも安いもないでしょう。偽ソムリエであることがバレ、クビにでもされそうになりましたか?」

「しょ、証拠は…………貴方の言ってることはただの推測だ! わ、私に罪を着せるためにワインをつけた可能性も………!」

「厨房のゴミ箱」

 

 ミミングスの言葉に目を見開き固まる山田。

 

「そこに携帯と圧縮袋が見つかったようですよ? 貴方の指紋もすぐに見つかるでしょう」

「…………………」

 

 ぐっと俯く山田。謎が完全に解かれ、溢れ出すエネルギー。舌舐めずりしながら口を開き、余さず食らう。

 

「やはり今の俺には謎こそが至高品だな」

 

 よく味わい、飲み込む。これで山田に対する興味の殆どが失われた。

 

「や、山田さん………?」

「嘘、本当に? な、なんで…………」

 

 反論しなくなった山田を見て、疑念と恐怖を目に宿し距離を取る鴻江と伴場………。

 

「一杯、良いですか?」

 

 と、山田はワイングラスにミミングスが持ってきたワインを注ぐと………ワイングラスを投げ捨て瓶をラッパ飲みする。

 

「ぶっはぁ〜〜…………ああ、うめぇ! うめぇよ、安物なんか知るか!!」

 

 そのままネクタイを取り出し頭にハチマキのように巻きつける。

 

「ここに来る客だってそうさ! 元Jリーガーの店に来る客なんてたかが知れてワインの味なんてわからない! 現にこれまでも安物の酒のんで満足して帰ってんだ! だから言ったんだ、浮いた金で儲けて店を大きくしようってなぁ!」

「ほう? しかしバレれば損害を被るだけでしょう?」

「バレるもんかよ! いいか!? 食事には格がある、口にすべき格が! それを超えねえ奴等は、味の違いなんてわからねえ!」

 

 そこまで叫び、ふぅと息を吐いて再び残りのワインを飲んでいく山田。

 

「格の低い口にとって格上の料理全てが同じ! 客は満足して、俺達は儲ける! 俺はこの店を大きくしてやろってのに、あの野郎は聞き入れず詐欺で訴えると言い出した! だから黙らせてやったのさ! 格の違いって奴だ」

「お前の口も格が低いだろう」

「ああ!?」

「金目当てに有名人の店にやってくる………この店の客と何が違う? ああ、違いますね。お前の口にぴったりなのは生ゴミだからごみ処理係にでも転職しろと、心優しい先生からのアドバイスです」

「え?」

 

 ニコニコ笑顔でとんでもねぇ毒を吐くミミングス。それを桜子がいったと信じ込んだ山田は真っ赤な顔で震えながらワインボトルを持つ手に力を込める。

 

「格下がぁぁぁぉ!」

「!!」

 

 コナンが咄嗟に靴についているダイヤルを回すが、間に合わない!

 ワインボトルを振り上げた山田は………すっ転んで転がり壁に激突した。

 

「おやおや、足が折れてますよ? 派手に転びましたからね。酒のおかげで痛みが少なくすんだようだ」

「な、なに………が………」

 

 汚れでもついたのか靴の爪先を山田の服で拭い、口元を掴み顔を持ち上げる。

 

「さて折角の助言だ。口の格にあった食事を取りたくなるよう手伝ってやろう」

 

魔界777ツ能力(どうぐ)荒廃する堆肥箱(イビル・コンポスター)

 

「お、ご………」

 

 口の中に足の生えた樽のようなものが入り込み、そのまま喉まで滑り落ちていく。

 

「ご、お…………め、めし…………飯!!」

 

 酒で鈍くなっているとはいえ、折れた足の痛みを無視してキッチンに向かって走る山田。目暮警部達も慌てた後を追う。

 

「あ、桜子ちゃん! すごい推理だったよ!」

「あ、うん。ありがとう千葉っち」

「では帰りましょう先生」

「………………」

 

 桜子は少し気になりキッチンを除く。ゴミ箱を漁る山田をなんとか止めようとする刑事達の姿。

 

「臭い、汚いぃ…………でも、美味い! やめられないとまらない!!」

「先生の説得が通じたようですね! 流石です!」

 

 そのドSな部分までこっちに押し付ける気か。やめてほしい、子供達に変なふうに覚えられたらどうする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。