正義の名のもとに   作:李座空

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正義の愚連隊(5)

 午後三時を回った繁華街、その一角にあるファストフード店は閑散としていた。夕方の帰宅時間前で空席が目立ち、お茶をしに来た主婦達の井戸端会議により幾ばくかの喧噪があるのみ。

 そんな店内の隅のボックス席に、気怠そうな面持ちの男子学生グループが身を沈めている。

 見覚えのある面々だった。昨日、シルクに狼藉を咎められた、喝上げ常習犯の不良連中である。本来励むべき学校での課業をサボタージュした彼らは、安いジャンクフードをツマミに時間を浪費している最中だった。

「ちぇ、ポテトもうねえや。ひとつもーらい」

「おい、勝手に食うなよ。買い足しゃいいだろ」

「持ち金、もうねえんだよ。いいだろちょっとくらい」

「ならついでに俺も」

「こらっ、お前ら! 萎びたポテトが楽しみだったのに」

「あーあ。俺たち揃って一文無しかよ」

 うだつが上がらない様子で、彼らは延々と駄弁り続ける。

 シルクにどやされ逃げ出して以降、彼らはケチが付きっぱなしだった。金欠で遊びにも繰り出せず、なし崩しに登校した学校では、長きに渡る素行悪化に痺れを切らした生徒指導から説教・修正を浴び、挙句の果てにそれを保護者にまで連絡され、帰宅後は父親から鉄拳を受け母親には泣かれたりと、散々な一日を送った。

 そんな昨日の今日で、学校に行く気など到底起きず、いつもの面子で財布に優しいファストフード店で燻ぶっていた。

「つまんねえなあ。おい。どっか行こうぜ」

「行くってどこに。カラオケもボーリングも金かかるだろ」

「俺らの手持ち全部合わせてもせいぜい一〇〇〇円。ラーメン一杯食ったら終わりだぞ」

「チクショウ、金がねえと遊びにも行けねえじゃんか!」

 一同は言い合いながら頭を抱え悶絶する。こんな不毛なやり取りが、先刻からずっと行われていた。

 直後にふと、店のガラス越しに、外の歩道を年配の老婆が歩いていくのが見えた。店の向かい側にある銀行から出てきたらしい。歩行器の手押し車を押し、ひょこひょこと歩いている。

「おい、あれ」不良の一人が顎をしゃくる。

 一同は窓の外の老婆を目に留め、すぐに意図を察した。

 老婆は銀行から出てきたばかりだ。とすれば預金を下ろした直後で高額な現金を持ち歩いている公算が高い。おまけに歩行器を使用するほどだ、非力で動きも鈍いに違いない。喝上げの常習犯である彼らからすれば、まさにネギを背負ったカモだった。

「あの婆さんからせしめようぜ」

 一人がそう発言すると、連中は各々目配せ合って頷く。

「遊べるだけの金を、ちょいとばかし戴くか」

「ぐずぐずすんな、急げっ」

 昨日こってり絞られ溜まった鬱憤の反動か。彼らは即決し行動に出た。ちょっとやそっとのことでは懲りない性分らしい。

 すぐさま店を飛び出し、老婆の後ろを早足で追い掛ける。相手の足はやはり遅く、瞬く間に背後についた。

 交差点の横断歩道で信号が赤になる。間髪入れず車道を乗用車が行き交い、足止めになった。

「おい、やらねえのか」

「バカ、この道渡ったら人通りが減る。人目につかないところでやるんだよ」

 信号を渡った先は迷路のような地形の繁華街の路地に繋がる。住宅街への近道だが、昼でも薄暗く人通りは少ない。そこで喝上げしようというのだ。

 すぐに信号は変わり、目論見通り老婆は路地に分け入っていく。

 不良達は好機と見るや即座に動いた。

「おい婆さん、こんなところで一人で歩いてちゃ危ねえなあ」

「悪ぃ奴らに喝上げされちまうよお」

「ちょいとばかし弾んでくれりゃ、お家までエスコートしてあげるぜえ」

「俺ら、老人には親切なんだよおっ」

 老婆を取り囲み、科白とは裏腹の強圧な態度で捲し立てる。まさに外道の振舞い。彼らはこのようにして自分達より非力な相手を攻略してきたのだ。

 ところが、今回も相手が悪かったらしい。

「うわっ」老婆を取り囲んだ不良の一人が、さっと蒼ざめた。威勢の良さは影を潜め、慄くように後ずさる。

(どうしたんだよ)傍らの仲間が耳打ちする。

(このババア……)怯んだ不良が応じようとしたが、それよりも早く老婆が口を開いた。

「邪魔だよクソ餓鬼ども」

 ニタァ、と歪めた顔が般若のように見え、他の不良達も思わず身を引く。不気味な畏怖を感じる。

 そして、更に驚くべきことが起こった。

 老婆が何か合図するように顎を小さく振ると、路地の影から複数人の少女が現れた。紫色の学生服に、特徴的な耳と尻尾を持つそれはなんと──トレセン学園のウマ娘ではないか。

 不良達の脳裏に、昨日のシルクとの一件がよぎる。

 ──なんだこの老婆は。気味の悪い雰囲気。それにウマ娘を従えてるだって。一体、何なんだこのババア──。

 もはや喝上げどころではない。下手に絡めば返り討ちとなる。すっかり怯んだ不良達は蛇に睨まれた蛙よろしく固まってしまった。

 それを見た老婆はフンと鼻を鳴らすと、ウマ娘を引き連れひょこひょこと路地の奥へ消えていった。

 

 

「な、何だったんだよあの婆さん!?」

「どうして、トレセンの子なんて引き連れてんだ?」

 人目のある通りにまで出戻った不良達は、汗を拭いながら口々に疑問を喚いた。

「あのババアは……」最初に老婆を目にして蒼ざめた一人がそれに答えた。「うちの近所で有名な偏屈ババアだ。なんでも、自分の屋敷に“ドレイ”を住まわせてバ車ウマみてぇにこき使ってるって噂の……。へたに関わらねえ方がいい、あの婆さんには……」

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