咲-Side Story-B【凍結】 作:松実宥
Ep.3「真価」一本場
ひとりぼっちがこんなに寂しいだなんて思わなかったのです。お母さんがいなくなった時の事はまだ鮮明に覚えてます、わんわんと泣いて収まりがつかない私を慰め続けてくれたお姉ちゃん。泣き過ぎて疲れて眠ってしまった私の横に、また起きるまで頭を撫で続けてくれてたお姉ちゃん。そのお姉ちゃんも遠くへ行ってしまったのです。いずれは来る別れだとは知ってましたけど、辛く悲しいのです。
憧「玄!いつまで悲劇のヒロインごっこやってんの、人数足りないんだから卓に着きなさいよ」
穏「玄さん!麻雀しましょうよ!」
いつの間にか、五人は三人に減っていた。灼ちゃんは赤土さんがプロへ転向したのを機に、赤土さんのファンへと戻った。プレイヤーでいたのは赤土さんがいたからだと、強い口調で明確な意思を示して麻雀部を辞めた。赤土さんは何も言わなかった。赤土さんはそうなるかもと、思っていたのかもしれない。
「麻雀をしてどうするの?私は皆で打って、皆で支え合う麻雀部にいたかったの。それを待ち続けて、去年それが叶って全国にまで出て、決勝の卓にまで座れた。けど、私のしたかった活動はそこで終わってたんだよ。憧ちゃんと穏乃ちゃんは個人での目標があるかもしれないけど、私にはもう……ないんだよ」
言い終わって気付く。泥沼で出来た壁に亀裂が入っていたのを知りながら、それをハンマーで叩き粉々にしたことに。空気が重い、沈黙は破られない。どうしたら良いのだろう。
憧「玄、確かに私達は晴絵や灼や宥姉がいたからこそ麻雀を打ってたのかもしれない。けれど、始まりを作ったのは玄でしょ。玄がここで、あたし達を待っていてくれたから私もシズも団体でなくても良いから頑張ろうとしてるのよ」
穏「憧……玄さん?」
貴方の為に打ってますと言われて、素直に喜べる人がどれだけいるのだろう。恩着せがましい様にしか聞こえないし、私の団体への想いってなんだったのかとも考えてしまう。違う、そうだ今の私には麻雀をする資格なんてないのかもしれない。私の所為で麻雀部に入って、まだ続けるというなら…。
玄「私に麻雀を続け「玄!」…え?」
憧「その先は絶対に言わせないし、言ったとしてもあたし達の耳には届かないからね。今日…いえ、当分は活動を休止しましょう」
穏「えー、麻雀出来ないじゃん。憧ー」
憧「シズ、流石に空気を読んでとしか言えないわ。こればかりは、あたし達ではもうどうにも出来ないのよ。玄が決めるしかないの、けど、今みたいに淀んだ眼をして、生気のない表情で言われてもあたしは納得なんてしない。だから、玄の答えを期待して待ってるよ、じゃあまたね」
期待されても無駄だよ、と言う前に部室から二人して出て行く。今もひとりぼっち、けど誰かに触れようとすれば触れられる距離にいてくれる。それは、私の求めてる相手じゃないのが悲しく、現実だけど。
帰路について思う。私は、何の為に麻雀を打っていたのだろう。去年、ただ昔馴染みの皆が集まって、それが嬉しくて衝動的に、考えなしに日々を積み、今を後悔している。確かに、皆で麻雀をしていたのは凄く楽しかったし、今もまだ、あの会場の熱気を忘れられない。でも、それらを味わったのを後悔する程、私はもう孤独が嫌なのです。
宥『玄ちゃん?声に元気がないみたいだけど、大丈夫?』
玄『大丈夫なのです!お姉ちゃんも大学がもうすぐ始まるけど、大丈夫?』
宥『うん、夜は冷え込むからシーズン外で安くなってたコタツを買ったから大丈夫。後は、大学の中で探り探り頑張るよ』
玄『コタツだけで足りなくなったら、すぐに言ってね。こっちにある、お姉ちゃんの暖房器具とか冬物の服送るから』
宥『うん、ありがとう。あ、そろそろ寮の消灯時間だからまた今度ね。玄ちゃん、おやすみなさい』
玄『おやすみなさいなのです、お姉ちゃん』
姉妹の他愛ない電話口での会話、それは普通の人では涙腺に雫を垂らさせるものではないだろう。然し、姉の声を聞いた玄の頬には涙がとめどなく溢れていた。
玄「本当は大丈夫じゃないんだ…、けれどお姉ちゃんに迷惑掛けたくなんてないから」
回線が切れた受話器に向けて、独り言ちる。
松実館は忙しい、玄も昔から手伝っているとはいえ春の繁忙期では疲れを隠せない。布団に入ると、すぐに寝息を立てる。
玄「おねえ、ちゃん…そば……い、て……」
孤独という寂しさは寝言に体現され、睡眠中も涙を零していた。眠りは更に深く、深く。