咲-Side Story-B【凍結】 作:松実宥
松実玄の深い眠りの中での物語-。
それは、原村和が聞けば…「そんなオカルトありえません!」と一蹴して終わりそうな、眉唾なお話。
辺り一面が真白、ただ恐らくは中央に雀卓と牌、一人の女性が椅子に座っていた。その女性の容姿に玄は見覚えがあった。
玄「おかぁさん、なの?」
女性が椅子を回転させて、顔を合わせ返事する。
露子「久しぶりね、玄。元気に大きくなってくれたみたいで、少し安心したわ」
上品に笑い、物腰の柔らかさや全てを包んでくれそうな暖かい雰囲気。それは玄の記憶にあった、母そのものであった。
玄「玄は元気に過ごしてます、お母さんは息災なのですか?」
露子「ふふ、面白いこと言うわね。息災ではないけど、今貴方と会えてとても嬉しい気分よ」
玄は元気と言ったが、元気ではない。ただ、久しぶりの母に会えてそれを忘れていた。だが、思い出してしまう。今の自分の状況を、麻雀を打っているのが辛かった事を。
玄「…ごめんなさいなのです」
露子「どうしたの?急に」
玄「実は、全然これっぽっちも元気じゃなかったのです。麻雀を打っていては辛いし、お姉ちゃんとも離れて苦しいのです」
露子「………………」
玄「お母さんとの約束を守って、大事に大事にドラさんを使っても勝てなかったのです。それどころか、利用されたみたいにボロボロにされたのです、お姉ちゃんや他の人が頑張ってくれたから勝ち進めましたけど、足を引っ張ってばっかだったのです……」
その言葉は、玄の本当の麻雀が辛いという理由。強大な支配力を持つ玄は、母との約束(制約)を基に能力を得たようなものである。然し、それがいとも簡単に看破され利用されて仲間に迷惑を掛けた。そして、自分の失点を取り返してくれた凄い姉はそばにいない。
玄「今の私に皆と麻雀を打つ資格なんてないのです……」
露子「……。嬉しいね、私との約束をそれだけ大事にしてくれたんだね。でも、私は玄の足枷になる為の約束なら破ってくれても良いんだよ?玄には玄の生き方があるんだもの、私との約束はただの礎にしてくれればいい。今が辛いのは、それだけ玄が麻雀に真剣に向き合って、本気だって事でしょう?躓いてる場合じゃないのなら、今がもっと麻雀を好きになれるチャンスなのよ」
玄「チャンス?」
露子「敗北を知らない人は強くはなれないし、ただ好きだと適当に打っている人よりも正しいと、私は思う。好きなんでしょう、麻雀が」
玄「わたし、は…」
露子「好きで好きで、堪らないから今苦しくて辛くて自分を迷惑だと考えてるのでしょう?なら、もっと大好きになって強くなれば良いのよ。ね?そうでしょう」
玄「うん、ゔん…お母さんありがとうなのです」
露子は微笑みながら玄を抱き寄せる。久しぶりに会った我が子は、昔と変わらず責任感の強い泣き虫さんだなと、想い更けながら。そして-。
露子「さて、卓があって牌があって人も二人いる。ならやりましょう、二人麻雀を」
玄「うん!」
今が僅かな事でも、儚くて消えやすい世界の中だろうと……大好きな母と麻雀が打てる、涙なんて流している場合じゃない。成長した、私の姿を見せて安心させてあげるのです。
東南戦-東三局-8順目
親・松実露子(二回目) ドラ表示牌・⑦
露子手牌
一一一四四四⑤⑤⑤⑥⑥⑦ⅸ ツモⅸ
(支配力の面で玄のドラ抱えは本当に強いみたいね、今の苦しい手牌が玄の想いのおかげだと思えば嬉しいぐらいね)
打牌→⑤ (テンパイ→④-⑦待ち)
玄手牌
四五(赤)六八八③④⑤(赤)⑧⑧⑧ⅲⅴ(赤) ツモ⑧
(四枚目が来てしまったのです、私の感覚ではカンをすれば手牌のどれか、いえ山に眠っている私が持つべき牌がドラになるはず。…でも、⑧はドラだから捨てられない、どうすれば良いんだろう)
露子(ドラ四枚目を引いたけど、牌姿が悪くてどうしようって顔に書いてあるわよ、玄。母との最後の約束、してくれるかしら)
露子「玄?少し前に言ったと思うけど、約束が足枷になっているのなら破ってしまいなさい。想いは薄れも消えもしないから」
玄「でも、私は捨てたくないしお母さんとの最後の約束を守って、皆とまた楽しく麻雀をしたいのです」
露子「(最後はもう迎えてた、わね)……なら、玄。貴方がしたいようになさい、牌は信じてくれた者の打牌に応えてくれるから、ね」
玄「うん、分かったのです。迷うことなんてなかったのです、だってドラさんはいつもこんな私の為に頑張ってくれていたのですから、私も信じきるだけだったのです!」ゴッ!!
玄「カン!」ゴッ!! ⑧をカン 新ドラ表示・⑦
ツモ牌→三
玄「今の私の最大限の頑張った結果なのです、見てて下さいお母さん……リーチ!」打牌→六
露子(もっと一緒にいてあげたかったけど、強い子になってるじゃない。きっと、私がいなくても一人で立ち直れたのかもね)
ツモ牌→⑨ 打牌→⑨
露子「超えて行きなさい、想いの力で。リーチ!」ゴッ!!
玄「ありがとう、お母さん。松実玄はこれからもドラさんや想い・約束、仲間の皆と楽しく麻雀を打っていきます。だから……」
玄「ツモ。リーチ一発ツモタンヤオ三色赤三ドラ、裏も⑦がいたので12の32000です」ゴッー!!!
玄「天国でも健やかにお過ごしください」
瞳を閉じる。世界が暗転し、終わりを告げる。そこに、すでに露子の気配はない。ただ、玄の表情は穏やかに暖かい笑顔であった。