咲-Side Story-B【凍結】   作:松実宥

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Ep.3 「真価」 四本場

校舎の窓に水滴が滴るのをやめない季節、梅雨。阿知賀女子麻雀部はインターハイへと向けて練習に励んでいたが、自分達の練習が正しいのか不安が募り、気持ちに翳りが生じていた。

 

灼「久しぶり。どうしたの?」

 

やえ「聞いたぞ、鷺森。赤土プロのマネージャーになったらしいじゃないか」

 

灼「うん、そう」

 

やえ「……。プレイングに未練はないのか?」

 

灼「ない、けど……」

 

やえ「けど?」

 

灼「残してしまったチームメイトの皆が心配」

 

やえ「練習ぐらい見に行けば良いだろう」

 

灼「それは出来ないとおも」

 

ふと、小走やえに光明が差す。電話口の為にやえの顔は見えないが、やえは含みのある悪そうな笑みを浮かべていた。

 

やえ「王者の私に任せろ」

 

灼「……?あぁ、この前の新人プロの大会では優勝おめでと」

 

やえ「それではない、けど……ありがとう。あと、うちの弟子も連れて、阿知賀に練習に行かせてもらう」

 

灼「弟子?練習に来てもらえるのは、玄達も喜ぶとおも。分かった、日程とかはそっちの都合もあるだろうから、連絡取り合って決める事にしよ」

 

やえ「あぁ、宜しく」

 

灼「こちらこそ。じゃあ、また」

 

やえ「ん、また」

 

やえが携帯の電源ボタンを押して、通話を終えると背後に人の気配を感じて振り返る。特徴的な髪型、主張の弱い胸部をおもちの女性ー宮永照がそこにはいた。

 

照「奈良に行くの?」

 

やえ「あぁ、困ってるみたいだし。それに弟子の育成もあるしな」

 

照「弟子……、ふむ。その遠征、私も同行しよう」

 

やえ「一応言っておくが、楽しい事は多分ないからな?」

 

照「お菓子があれば良い」

 

やえ「はぁ……京太郎に何か作っておいて貰うか。それの対価として、指導という名目で奈良に連れて行くか」

 

照「泊まる場所はやえの実家で良い?」

 

やえ「いや、そうすると京太郎が一緒なのは困る。そんな話が表に出ようものなら、はは…先輩プロに文字通りハコにされてしまう」

 

照「そう……それは残念」

 

やえと照はお互いのスケジュールを確認し、須賀京太郎に日程の都合を確認調整させて、灼に伝える。

 

玄「そうなのです、ドラさんのコントロールが出来るようになったのです」

 

松実玄復活より、数十数日経った阿知賀女子麻雀部の部室での事。玄が能力について仲間に説明していた。

 

憧「なにそれ、ずっこい。でも、制限とかきつくなってたりしないわけ?」

 

玄「ふふん、制限なくなったのです」ドヤァ

 

穏乃「だからドラを切った次局でも、玄さんの手牌にドラがあったんですね」

 

憧「ちょちょ、ちょっと!それ、反則みたいなものじゃない」

 

部室の扉の窓に人影が映る。鷺森灼はドアを開けられずにいた、贖罪なのかお節介なのかも分からず、ただ拒絶されるのだけは不安で。赤土晴絵の名前を呟く、勇気を貰う。

 

穏「あら、たさん?」

 

灼「皆、久しぶり」

 

憧「どうしたの、灼。ほんとに久しぶりだし」

 

灼「今日は良い話を持ってきた、正直私が関わって良いかも分からなかったし、贖罪って訳でもないんだけどね。……、小走プロとその弟子が阿知賀に練習しに来てくれる事になった。お節介だとか迷惑だと思うかもしれない、けど何か、何かしたいって思ったから」

 

言葉が所々詰まる。プレイングに未練がある訳ではない、けれどたった一年間といえど、想いや苦楽を共にしたチームメイトに後ろめたさがなかった訳ではない、大切なチームメイトだったのである。

 

玄「灼ちゃん。誰も怒ってなんてないよ。だから、辛そうな顔はやめよう?はい、ハンカチ」

 

灼「玄……。玄が一番怒ってると、苦しんでると思ってたのに」

 

玄「私はひとりぼっちじゃなかったのです、いつも周りに誰かいてくれたのです。だから、今はもう大丈夫なの。今の私には味方しかいないから」

 

憧「玄……」

穏乃「玄さん……」

 

灼「ありがとう、玄。でも、ちょっとだけハンカチ借りるね。憧も穏乃もありがとう」

 

ハンカチで頬に流れた涙を拭う。玄が卓上の牌から四枚裏返して、軽くシャッフルする。穏乃が一枚引き、続いて憧も引く。

 

玄「灼ちゃん、麻雀しよう!」

 

残りの二牌から一枚、灼が選び取る。そして、玄が最後の一枚を掴み、表にする。『東』、と描かれているのを掴んだのは玄だった。

 

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