咲-Side Story-B【凍結】 作:松実宥
奈良へと向かう新幹線の中、やえと照、そして京太郎は会話を楽しんでいた。やえは、久方振りの帰郷ともあり少し機嫌が良い。弁の舌の回りが普段より格段も増して良かった。
やえ「京太郎はハウスメイドになれそうなぐらい、家事が得意そうだな。なんなら、私のメイドになるか?冗談だ、苦々しい顔をするな。だが、それぐらいこのカップケーキは美味しいぞ」
京太郎「喜んで頂けて幸いです。照さんは……夢中で食べてくれているようで、嬉しい限りですよ」
照「んむ、んむ」
やえ「京太郎は然し、本当に良かったのか?学校は別に今の時期休みじゃないのだろう?」
6月の上旬、それは梅雨時ではあるも学校というものは休みを覚えたりしない。そんな中で、京太郎は休みを取り同行している。
京太郎「良いんですよ、学校の勉強が大事ではないとは言いませんが、この旅行の方が優先度が高いって事ですから。今は、麻雀で強く上手くなりたいんです」
やえは弟子である京太郎の顔をまじまじと眺め、思う。まぁ、勉強ぐらい私が見れる範囲であれば教えてあげれば良いかと。
照「んむ、んむ」
やえ「麻雀はどうだ?少しは同部員と肩を並べるようにはなってきたか?私の教えが少しでも役に立っていると良いんだが」
この人はずるいなと京太郎は思案する。普段はしっかり者の癖に、人を思い遣る所では不安が募り、可愛く見える。いや、可愛いのだけど。
京太郎「はい、オカルトの対応策はまず知る事からとの教えを賜り、研究と対策を練り、その間アナログ技術の向上を目指してコツコツとやえさんに言われた通り練習しています。おかけで、去年より少しは強くなっていますよ」
やえ「急激には強くも上手くもなれないけど、壁に当たって前進しているか分からない時でも決して諦めて止まる事だけはするなよ?止まらなければ、私は京太郎の師として協力は惜しまない」
照「んむんむ、ふぅ」
京太郎「やえさん……本当にありがとうございます。俺、やえさんに出会えて本当に良かったです」
照「私には?」
やえ「照、口元にチョコレが付いてるぞ。ほら、これで拭け」
京太郎は窓から見える景色を見て、溜息を漏らす。あぁ、俺のこんな感じに流される空気感は何処に行っても変わらないんだな、と。
やえ「京太郎。照れくさくてあまり言葉にはしたくはないんだがな、私も京太郎が弟子になってくれて嬉しく思っているよ。晩成で部長をしていた時よりも厳しい指導をしているつもりだ、それにめげずに諦めずに着いてきてくれている。そんな、京太郎は私の誇れる弟子さ」
京太郎「やえさん……」
照「むー。京太郎は私にも感謝するべき」
照れくさくてやえは頬をかき、京太郎は感動のあまり余韻が収まらずぼけっとしている。そんな二人を見て、疎外感を感じた照が頬を膨らましていた。