結月ゆかり「私のマスターは自称神様」   作:またたび日和

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探せば実際にありそうなゲーム


10話 「VR_SAMURAI」

配信の時間が近付く中、私達はいそいそと準備を進めます。

増田さんがネックレスを握ったまま固まってしまっているので、準備をしているのは私とマスターの二人です。

今回のゲームはVR(バーチャルリアリティー)、それもモーションセンサーを用いた物だそうです。

そのため、十分なスペースを確保するため、リビングのテーブルやソファを移動させます。

カメラに映らないような場所へ移動させたため、ダイニングがまるで引っ越しの最中の様な有様になっています。

動けるスペースが確保できると、マスターがその真ん中に段ボールをドサッと置きました。

 

「それは何ですか?」

「向こうから送られてきたモーションセンサー一式です。配信が始まったら開封していきます」

「配信前に準備しないんですか?」

「新しいゲームですよ?開封するところからワクワクが始まるんです」

 

マスターがワクワクしているというのは、その声から察せられます。

曰く、「ダウンロードが主流になっても、朝早くからお店に並んで買ったゲームソフトを抱えて帰る時の高揚感を忘れちゃいけない」とのことですが、

残念ながら、私達アンドロイドにそのような幼少期の記憶なんてありませんので、マスターの言葉に今一つ共感できません。

何より、ダウンロードが主流になったのは何十年も前の事ですよ?マスターは一体何歳なんですか?

 

そんなやりとりをしていると、もうすぐ配信が始まる時間です。

昨日に比べて色々と事前情報があるので、適度な緊張感で配信に臨めます。

 

 

 

「さあ下々の民よ、神の戯れゲーム配信の時間だ。

今回は企業からの依頼で、開発中のゲームのテストプレイを実施するぞ」

 

『おぉ、とうとう企業からお声が掛ったか』

『流石神様』

『さす神』

『ちゃんとゆかちゃんもいるな』

『ゆかちゃん可愛いよゆかちゃん』

 

私に触れるコメントが幾つか流れていますが、マスターの会話を遮って返答をするわけにもいきません。

とりあえず笑顔で手を振って誤魔化しておきます。

・・・わぁ、凄い量の「かわいい」コメントが流れています。

 

「はい、かわいいゆかちゃんを堪能した事だし、早速開封の議を行っていくぞ」

 

そう言うと、マスターは段ボールを移動させ、封を解いていきます。

全身にセンサーを付けるタイプのようで、かなり量が多いです。中で絡まったりしないのでしょうか。

それを付ける部位ごとに並べたマスターが、こちらを一瞥しました。

 

「それじゃあゆかちゃん、早速装着しましょうか」

「え・・・?わ、私からやるんですか!?」

「新しいゲームの初プレイという一番おいし・・・もとい名誉をゆかちゃんに授けよう」

「ネタにする気満々じゃないですか!」

「当然です。グダグダ感や阿鼻叫喚が初見プレイの一番の見どころですから」

 

『お、今回はゆかちゃんが一番手か』

『アンドロイドってこういう運動系ってどうなんだろう』

『ゆかちゃんがんばえー』

 

画面の向こうでも、私が最初にプレイする事が確定しているような口ぶりです。

ぐぬぬぬ・・・いいでしょう、再生数の糧になってあげますとも!

ゆかりさんのキレッキレの体捌きに見惚れるがいいです!

半ばやけくそになりながら、私はマスターが広げたセンサー類に向かい直します。

け、結構多いですねこれ。ちゃんと片付けをしないと、いつの間にか無くなっていそうです。

 

「それじゃあゆかちゃん、頑張って付けてね。はいこれ説明書」

「あれ、てっきり手伝ってくれるものかと」

「普通のプレイだったらね。一人で取り付ける時の分かりやすさや時間も測っておきたいからさ」

 

そういうのって、開発の段階から気にするものと思っていましたが、そうではないようですね。

先程の無くしそうと思った感想も後で伝えておきましょうか。

説明書を見ながら、体の各部にセンサーを取り付けていきます。

全身の動きを検知するためか、取り付けるセンサーの量も多くて大変ですね。

 

『うっわぁ、これ見てるだけで買う気が失せるわ』

『全身にセンサー付けてる美女ってさ、何かいいよね』

『アンドロイドなら内部にセンサー仕込んで時短できないかな?』

 

「センサー付けてる美女は良いぞ。

そして内部にセンサーを仕込んだら、と提案があったが、残念ながら不採用だ。

センサーを仕込んだとして、それを活かせる事があまりに少ない。容量の無駄遣いだ」

 

コメントへの返答はマスターに任せ、私はせっせと準備を進めます。

正直、今だけ内部にセンサーを仕込む提案を受けたいと思う程度には手間で大変です。

商品化される時にはもう少し簡略化される事を切に願います。

と、そんな事を考えている間に、取り付けが完了しました。

 

「あ、ゆかちゃん取り付け終わりました?それじゃあこれ、VRゴーグルと専用コントローラーね。

プレイ前に周りに何もない事を確認してね。僕は殴っていいけどディスプレイは殴っちゃダメだよ」

「もう、マスターも殴りませんよ」

 

「さて改めて、今日やるゲームは題して[VR_SAMURAI]チャンバラや殺陣が楽しめる、侍を題材としたゲームだ。

昔傘や掃除用具でチャンバラして怒られた経験、皆にもあるだろう」

 

『あったあったw』

『巻き込まれたのに一緒に怒られたのマジ理不尽だった』

『やめてくれ、その過去話は俺に効く』

 

コメントが気になるところです、後で見返しましょうか。

配信画面には、私達が映ったリアルの映像と、ゲーム内の画面の映像の二つが二分割で表示されています。

なるほど、これなら視聴者もリアルの動きとゲーム内の動きの両方が見られますね。

ゴーグルとヘッドホンを付け、サイリウムの様なコントローラーを手に持てば準備完了です。

 

「ではマスター、始めていきますね」

 

開発途中というだけあって、背景も無いに等しく、[START]の文字がポツンと浮かんでいます。

操作主である私の右手には日本刀が浮かんでいます。左右に振れば日本刀も左右に動く。何だか楽しいですね。

ですが、これでどうやってボタンを押せば・・・あ、もしかして__

スッと日本刀を振ってみると、[START]の文字が切れ、選択されたような音が鳴りました。

 

次に難易度、[EASY][NORMAL][HARD][BERR HARD]の選択ボタンが表示されました。

全部で4つの段階があり、最高難易度に至っては文字が赤色で表示されていて、別格な感じを醸し出しています。

当然ながら私は最高難易度を__と思いましたが、まずはどのようなゲームなのかを見せる必要がありますね。

私は冷静に[NORMAL]の文字を切りました。

 

『冷静に無難な難易度選んだなー』

『最高難易度で涙目のゆかちゃんが見たかったぜ・・・』

 

「ま、今回はこのゲームの紹介も兼ねているからな。それが無かったら最高難易度選んでいたぞ間違いなく」

 

少しのロード時間の後、操作キャラがだだっ広い草原に放り出されました。

やはり開発中のゲームだからでしょうか、こちらの背景もかなり簡易的です。

二昔ほど前の簡易な背景をボーっと見ていると、周囲から草を踏み締めこちらに近づく足音が聞こえてきました。

山賊の様な風貌の男達が、こちらに刀を向けて立っています。

それに対して、私の操作キャラも刀を抜く動作を行います。

 

なるほど、このいかにも悪人面な連中を倒していけば良いわけですね。

私は何となくカッコいいポーズをとり、山賊風の男達に突っ込んでいきました。

 

大体1~3回ほどの鍔迫り合いを行った後、敵が大きく体勢を崩すので、そのタイミングで相手を両断します。

たまにこちらの攻撃を回避して斬りかかってくる強者(つわもの)もいますが、

その時はこちらもバックステップで回避し、カウンターで斬り返します。

何だか、自分がとっても強くなったと感じられて良いですね、このゲームは。

 

『くっ、スカートがヒラヒラ揺れてて集中できねぇ!』

『ゆかちゃんの太ももprpr』

『カメラさんもう少し下からお願いします!』

 

「当然却下だ。このアングルは神のみに許された特権よ」

 

『おい横になってるぞこのスケベ神様!』

『ここに変態がいるぞ!気付いてゆかちゃん!』

『お巡りさんこの人です!』

 

気持ちよく殺陣を続け、30人抜きを達成したあたりで、大柄で屈強な男が出てきました。

今まで流れていたBGMも変化して体力バーも出てきたので、この男がこのステージのボスなのでしょう。

 

ふっふっふ、この私に勝てると思ってるなんて哀れですね。身の程を教えてあげましょう!

 

今までの無双っぷりに気を大きくしていた私は、意気揚々と相手と対峙しました。

しかし、こちらの攻撃はほとんど防がれ、逆に私は相手の攻撃に反応できず手痛い一撃を貰ってしまいます。

攻撃も速く、防御も強い。ボスに相応しい実力を持った相手です。

 

な、中々やりますね。ゆかりさんを本気にさせたことを後悔させてあげましょう!

 

今まで配慮していましたが、これほどの強敵に手加減は不要でしょう。

軍事用パーツで構成されている私は、普通の人よりも遥かに素早く動くことができます。

その強さを今こそ見せる時です!

 

『連撃やべー!』

『なにこの動き・・・こわっ』

『アンドロイドってこんな機敏に動けるのかよ・・・』

 

「うむ、良い動きだ。素人では太刀打ちできないだろうな」

 

私の連撃に相手の防御も間に合わず、遂に地面に倒れ伏しました。

完全なごり押しでしたが、勝ちは勝ちです。

勝利のBGMと共に[STAGE CLEAR]の文字が金色に輝きながら浮かび上がっています。

難易度選択の画面に戻ったので、一度ゴーグルとヘッドホンを外してマスターに確認しましょう。

 

「どうでしたかマスター、私の戦いぶりは」

「中々様になっていましたよ。どんなゲームなのかを紹介するには十分な動きでした」

 

拍手をしながらおだててくるマスターに、私はドヤっと胸を張りました。

これがゆかりさんの実力なのです。今なら誰にも負ける気がしません。

 

「さて、後片付けまで通しで見てもらおうかな。ゆかちゃん、センサーを外して片づけていってくれるかな」

「はい、お任せください」

 

私は体に付けてるセンサーを丁寧に外し、箱の中に入れていきます。

付ける時よりか幾分かは楽ですが、やはり大変だという印象は変わりません。

綺麗に片付けを終えたので、マスターに声を掛けます。

 

「マスター、終わりました」

「うん、ありがとう。さて、[VR_SAMURAI]いかがだっただろうか。私は付属品が多くてその分値が張りそうという印象だったな」

「同じく付属品が多くて無くしそうという印象でしたね。ゲームプレイまでが大変だったので、もう少し簡略化してくれると助かります」

「うむ。後は、住宅が狭い日本では全身を使うセンサータイプのゲームは普及は難しそうというところか。

アパートやマンションだと動く音が原因で近所トラブルに発展しかねない」

 

『確かに、アパート暮らしのうちじゃ無理だわ』

『日本じゃ厳しいわな』

『公民館借りてイベントとかやったら面白そう』

 

色々と感想が流れていますが、日本での売り上げは厳しいものになるという結論ですね。

せめて、全身にセンサーを付けるのをやめたらと思いますね。

本当に付け外しが大変でしたから。

 

「さて、私も一介のゲーマーとしてプレイせぬわけにもいくまい。

神の実力を皆に見せつけてやろう」

 

感想もほどほどに、マスターが準備を始めます。

私の準備の工程を見ていたからか、取り付けもかなりスムーズです。

 

『神様ってこういう体感系のゲームってどうなんだろう』

『色々神業見てきたけど、所詮は指先の動きだけだしなあ』

『反射神経は良いんだし、ある程度はいけんじゃね?』

 

コメントで色々と憶測が飛び交う中、私はそれに反応することなくマスターを見ています。

お昼前に増田さんに言われた、マスターが強いという発言、その実力がどれほどなのか見れるいい機会です。

マスターの準備が終わったようですが、両手にコントローラーを持っています。所謂二刀流というやつです。

 

二刀流なんてズルいです!私もそっちでカッコよくプレイしたかったです!

 

コントローラーを2本使える事を教えてくれなかったマスターを睨みますが、当然彼には見えていません。

と、その時視界に、プラプラと揺れる落下防止用のストラップが映りました。

マスターは手首にストラップを付けるのを忘れているようです。

 

どうしましょう、教えてあげた方が良いですよね・・・?

 

このゲームはコントローラーをかなり振り回します。

手から離れたコントローラーでディスプレイを破壊なんてしたら目も当てられません。

まだゲームは始まっていないので、今ならまだ間に合います。

そう思ってマスターに近づこうとした時、マスターはストラップを指に引っ掛け、コントローラーをグルグルと回し始めました。

 

あ、あれ?まさかわざと付けていないのですか?

 

あれだけグルグルブンブンとヌンチャクの如くコントローラーを振り回して、付け忘れなわけがありません。

意図して付けていないのなら、私から何か言う必要はありませんね。

万が一手から離れた時にこちらに飛んでこないように、なるべくマスターの横にいるようにしましょう。

私がそっと移動を終えると、マスターが軽くコントローラーを振り、難易度選択の画面に進みました。

 

「さて難易度だが、当然これだろう」

 

そう言うと、マスターはその文字を斬らず、クルリと反転して後ろを見ました。

そこには[INFERNO]の文字。なんと、5つ目の隠し難易度があったのです。

そしてマスターは、躊躇なくそれを斬りました。

 

『ちょ、隠し難易度とかあったのかよw』

『なんで開発中のゲームの隠し難易度とか見つけるんだよw』

『いや、ゆかちゃんの難易度ノーマルでもボスとか結構強かったぞ。大丈夫か?』

『神様秒殺されんじゃね?w』

 

配信のコメントもヘッドホンに遮られて聞こえないので、マスターはそれに反応できません。

いつもの配信とはかなり変わったものになってしまいますが、私はマスターの様に喋り続ける事もできないので、基本は見ているだけです。

最高難易度のせいでしょうか、ステージの背景もおどろおどろしい色になっています。

プレイヤーを囲ってくる敵の姿も、人ではなく鬼の様な禍々しい姿をしています。

 

「さて、実はこのゲーム、人の動作の読み取りにかなり力を入れているという触れ込みがあってな。

なんでも、達人の刹那の一撃をも読み取って、ゲーム内で再現できるとか。

なので、どこまで再現してくれるか、少し苛めてみようと思う」

 

そう言うや否や、マスターは正面の敵に対して刺突を繰り出します。

その一撃はあまりに速く、相手は防御を行う暇もなく倒されました。

私は何とかその一撃を視認できましたが、正面から対峙してそれを見切れるか、と言われると難しいところです。

 

「・・・え?」

 

ふとゲーム画面の右上を見ると、そこには[9Hit]の文字。

つまり、今の一瞬で相手に9回攻撃が当たったということ。

いや、いやいやいや、さすがにそれはあり得ないでしょう。恐らくセンサーの誤認識で、連続で当たったような挙動をしたのだと思います。

だってそうでなければ、マスターはアンドロイドの私が視認できないレベルの連撃を放った事になってしまいます。

そんな混乱している私をよそに、「おぉー」っとマスターが関心の声を上げました。

 

「今のを読み取れるのか、中々やるな」

 

・・・今なんて言いました?

明らかに、意図した動きを読み取った事に対する感想に、思わず思考を中断し彼の動きを注視しました。

鼻歌を歌いながらコントローラーをクルクルと回す、普段と変わらないマスターの姿が、歴戦の猛者感を演出しています。

 

「よっと」

 

気合が一切感じられない軽い掛け声と共に、先の私の全力より速い速度でコントローラーが振り下ろされます。

驚愕の続く私の耳に入ってきたガギンという金属音。ゲーム画面では、敵キャラがマスターの一撃を防いでいます。

さ、最高難易度ともなると、今の攻撃すら防ぐようになるんですか・・・。

 

「なるほど、反応は上々。でも、そんな位置で防いだら胴ががら空きになるでしょう」

 

言い終わる前に、もう片方のコントローラーを払い終えました。

相手が倒れる姿すら確認することなく、マスターは次の標的に視線を移します。

同じゲームをしているハズなのに、私より高い難易度をプレイしているハズなのに、マスターはまだまだ余裕があるように見えます。

普通のゲームならともかく、運動神経が直結するタイプのゲームで私が劣っているなんて。

 

私が悔しい思いをしている間にも、マスターは敵を次々と切り伏せていきます。

私がやっていた時代劇の様な殺陣ではない、本物の達人が行う殺陣の速さ。

素人が適当に刃物を振る様な乱暴な動きではない、まるで剣舞の様な力強く美しい太刀筋。

剣術に精通しているとしても、この動きは完全に達人の域さえ超えています。

 

(・・・あっ!)

 

恐れていた通り、コントローラーがマスターの手から離れ、宙を舞います。

自分の手から離れた感覚はあるはずなのに、マスターは一切動揺していない様に見えます。

天井付近まで舞い上がったコントローラーが、回転しながらマスターの顔の前を通り過ぎました。

マスターに当たらなかった事にホッと息を吐き、回収できる位置に転がってくればいいなとコントローラーを目で追っていた時でした__

 

床から10㎝程のところまで落下していたコントローラーが、突如消えてしまったのです。

驚いて視線を上げると、マスターの右足が頭より高い位置に振り上げられた状態で止まっていました。

その右足の先端にあるコントローラーを視認してようやく、マスターがコントローラーを蹴り上げたのだと理解しました。

しかも、ちゃんと蹴り飛ばさない様に、落下防止ストラップを足の指に引っ掛けています。

 

(今の、対面で戦っていたら死んだことにも気付かないかも)

 

私は無意識に自分の首元に手を当てました。

先の一撃の直前、マスターは両手でもう一つのコントローラーを握って、振り下ろす体勢をとっていました。

つまり今のは、上側に視線を誘導しての下側からの不意打ちの一撃。

これがもし刃物だったなら、間違いなく喉に突き刺さっていた事でしょう。

 

(もしかしてマスター・・・滅茶苦茶強いのでは?)

 

一振りの速度、自然に視線誘導し不意打ちできる技量、目隠し状態で落ちてきたコントローラーを正確に蹴り上げる空間把握能力。

アンドロイドすら凌駕する運動能力に、思わず見惚れてしまいます。

もしかして、マスターは実はアンドロイドなのでは?なんて考えてしまいます。

 

そんなおバカな事を考えている間に、マスターがステージボスと戦い始めましたが、

一方的という言葉はこの状況の為に作られた言葉なのでは、と思う程ボスがボコボコにされています。

先程足の指に引っ掛けていたコントローラーもいつの間にか手に持たれており、恐ろしい程の連撃が繰り出されています。

遠目で見ていても動きに理解が追い付かず、目が回りそうになります。

必死に防御しようとするボスが何だか哀れです。ていうか、無理に防御しようとしているせいで、挙動がバグり始めています。

 

結局、一太刀も受けることなくパーフェクトゲームを達成したマスターに、私は目一杯の拍手を送ります。

そんな私の横から、『パチパチパチ』『神様スゲー』と彼を称賛する棒読みの音声が聞こえてきました。

・・・あ、そういえば配信中でしたね。すっかり忘れていました。

 

「こんなところかな。やっぱ体を動かすって良いな」

「素晴らしい動きでした。思わず見惚れてしまいましたよ」

「・・・ふむ、美女に直球に見惚れると言われると、誇らしさより先に恥ずかしさが来るな」

 

『凄すぎてコメント忘れてたわ』

『動きが人間やめてるんだよなぁ』

『神様は武神だった?』

 

コメントもマスターを称賛する書き込みで溢れています。

当然でしょう、私よりも高い技量をあれだけ見せつけたのです。

「俺だって出来る」なんて馬鹿げたコメントも、さすがにこの動画には流れてきません。

どうです?マスターは凄いでしょう!

私は最初から全部知ってましたよと言いたげなドヤ顔を、視聴する皆さんに見せました。

 

 

 

 

配信が終わった頃には増田さんも我に返ったようで、キッチンから甘い香りが漂ってきています。

後片付けでダイニングが元に戻った頃、増田さんからおやつができたと声がかかりました。

 

「マスターおやつですよ、一緒に食べましょう」

「あーごめんねゆかちゃん、この後はお金を振り込みに行く用事があるんだ」

「お金ですか?」

「そ。電気ガス水道代とかゆかちゃんの改造費とか色々ね。気にせず食べてて」

 

そう言うと、マスターは退室していきました。

用事があるのは仕方ないので、私は一人で席に着きます。

良い香りのするクッキーを片手にコーヒーを啜る。とても優雅な至福の時間です。

サクサクのクッキーもコーヒーと合いとても美味しいのですが、一人で黙々と食べるのはやっぱり寂しいですね。

そんな私の心の声を察してくれたのか、増田さんが私の対面に座りました。

 

「アイツ、強かっただろう?」

「はい、配信中の動きだけで10回以上は死んだと思います」

「あの動きを見れば、アイツの心配など不要だと分かるだろう?」

「そうですね、マスターを守ろうと考えていた自分がおこがましいと認識させられました」

 

なんでしょう、顔が見えないハズなのに、増田さんがニヤけた顔をしているというのが感覚で分かります。

確かに、マスターが強いという情報を信じようとしなかったので、「ほらね?」と言いたい気持ちは分かります。

だって、マスターがあそこまで強いだなんて思えなかったんですもの。

 

「ゆかちゃんの言いたい事も分かる。第一印象で見るなら、私よりずっと弱そうだからな。

実際、妙な連中に絡まれた事は一度や二度ではない。まあ、結果は言わずもがなだが」

「絡まれやすそう、と言われれば納得してしまいますね」

「見た目がアレだからな」

 

そんな感じで雑談していると、マスターが帰ってきました。

上着を椅子に掛け、腰を下ろすと同時に、ペチャーっと机に突っ伏します。

 

「だ、大丈夫ですかマスター?」

「お外寒い、あったまりたい」

「すぐにコーヒーを淹れてやるから姿勢を正せ、行儀が悪い」

 

増田さんの言葉に、マスターはむすーと頬を膨らませながら椅子に座り直しました。

 

「ところで、二人して何の話をしてたんです?」

「へっ・・・いや、その・・・」

 

流石に面と向かって、マスターが弱そうと思ってました、とは言えません。

私は頬を搔きながら、増田さんの方へ視線を移動させ、マスターから視線を外します。

 

「むー、二人で内緒の話ですかー」

「何だ、嫉妬か?」

「そうですね、嫉妬で狂ってしまいそうです。僕のゆかちゃんですよ増田さん」

「それは恐ろしいな。安心しろ、お前の物に手は出さん」

「ええ、知ってます」

 

お二人が軽口を言い合っているのを、私は対面で寂しく見ています。

仲が良いのも、お二人と私では立場が違う事も重々承知していますが、それでも疎外感は感じてしまいます。

・・・お二人と同じような事を言ってみたら、どんな言葉が返ってきますかね?

真顔で「何言ってんの?」なんて返された日には立ち直れないかもしれません。

そんな事は言われませんよね?と不安に心臓をドキドキさせながら、頬を膨らませてみせます。

 

「お二人だけで楽しそうじゃないですかー?」

「何だ、ゆかちゃんまで嫉妬か?」

「そうですね、疎外感で寂しいです。ウサギは寂しいと死んじゃうんですよ」

「じゃあ、死なない様にたくさん構ってあげないとですね」

「はい、たくさん構ってください」

 

一連の流れを言い終わった後、静寂の時間が訪れました。

そのシンとしている時間が何だか可笑しくて、思わず笑ってしまいました。

そして、私と同じタイミングで、マスターも吹き出して笑い出します。

 

「うん、良いよゆかちゃん。せっかくの人生、我慢は程々にもっと素直に生きなきゃね」

「はい、これからはもう少し素直にしていこうと思います」

 

一歩踏み出した私を、マスターは肯定してくれました。

最終的には、増田さんみたいに自然と軽口を言い合える仲になれれば良いな、そう目標を心の中で立てます。

私はアンドロイドなので、そこまで気安い関係になれるかは分かりませんが、心の中で思うだけならセーフ、ですよね?

 

 

 

 

 

「ま、まままマスター!こ、これ、これー!」

「あー・・・素直に生きた結果です」

「うぅ・・・うぅー!」

 

今日の配信を見直していたら、私が気付かない間にスカートを覗かれていました。

マスターはえっちです!私が気付いていないからって、スカートを覗く為に寝転がっていたなんて!

結局、私はまた羞恥で顔を赤く染めるのでした。




ひらひら揺れるスカートがあったらそっちを凝視しちゃうよね仕方ないね
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