ゆかちゃんが楽しい日常を過ごしてる裏で彼らは頑張ってます。
「業務連絡、業務連絡・・・はぁ、今日も報告無しか」
勤務時間が終わり、PCで打刻をした後も、僕は頻繁に会社からのメールを確認している。
在宅勤務のおかげで、退勤後すぐに自由な時間ができるのは喜ばしい事だ。
いつもならゲーム機を引っ張り出して遊び惚けている時間だが、生憎そんな気分になれなかった。
こうしてメールを確認してるのは、とある一件の返答を待っているからだ。
2日前、僕は[非正規アンドロイド保有の疑い有]として、本社へ[
だが、普段なら数時間もあれば完了の報告を送ってくる本社が、丸2日何も返してこない。
未だに何の進展も無いという事は、それだけヤバい案件に関わってる可能性が高い。
「お兄様、またパソコンとにらめっこですか?」
「ああ、どうしても気になっちゃってね」
「もう忘れましょう。私達では手に余ると判断したのはお兄様でしょう?」
「それは、そうだけどさ__」
___
2日前、昼過ぎ
「お兄様、こっちの資料整理終わりました」
「ありがとうきりたん。こっちの報告書を本社に送っておいて」
アンドロイド保護の仕事が無い時は、主にSNSの監視と報告なんかをしている。
高額なアンドロイドを購入した人は、自己顕示欲を満たす為にSNSに上げる人が多い。
違法サイトで買った事を堂々と書いている人もいて、頭が痛くなる案件も多いが実りも多い。
その手の呟きを見つけたら本社へ報告、非正規品だと確証が得られたら近くの保安員が保護に赴く。
SNSを見て報告だけする楽な仕事と思われてるが、実働の際は逆上して襲われるリスクが伴う危険な仕事でもある。
「お仕事も良いですけど、もうお昼過ぎてますよ。一度切り上げてご飯休憩にしましょう」
「おっと、もうそんな時間か。休憩休憩っと」
腕を伸ばして体のコリをほぐし、大きな欠伸をする。午前の仕事は終わりだ。
机の上には既に昼食が置かれていて、美味しそうな匂いがしている。
一汁三菜と野菜多めの健康的な食事な上、食材を無駄無く使っていて家計にも優しい。味も美味しくてご飯が進む。
まさしく理想的な献立だ。こんな食事を毎食食べられる僕はとても恵まれていると思う。
食べ始めると同時に、僕はテレビを点けて昼の生放送に耳を傾ける。
きりたんと他愛無い会話を楽しみたいのは山々だが、テレビの視聴もアンドロイド周りの情勢を確認する上で重要だ。
特に最近は特番が組まれる事が多いため、大衆の認識を知れる機会が増えている。
尤も、今はまだアンドロイド否定派・危険派の意見が大きく、不愉快な言動を聞くことも少なくない。
せっかくの食事も、彼らの偏見まみれの発言で美味しさが半減してしまうのだ。勘弁してほしい。
「・・・今日のゲストさん、保有してるアンドロイドをスタジオに連れてきてるらしいけど」
「悪手ですね。悪意の目に晒される事は明らかでしょうに」
「この人多分、アンドロイドの問題を犬猫の好き嫌いとかと混同してる気がする」
結果は案の定だった。否定派の人達に言い負かされ、連れて来られていたアンドロイドは項垂れている。
せめて庇うくらいしてやれよ、お前がその子のマスターだろうが。
全く、何で昼の休憩時間にこんな胸糞な映像を見ないといけないんだ。
・・・さて、さらに憂鬱な気分になるけど、僕の仕事をしないと。
「きりたん、あの人のアンドロイドの購入履歴を本社に聞いておいて」
「既に送信済みです。もし正規購入されていたとしても、ウィルスのインストール疑惑で詰めれます」
放送の中で、マスターがガッツポーズした際、アンドロイドが反射的に顔を守るような動きをしたのを僕達は見逃さなかった。
拳を振り上げる動作で防御の体勢を取る、日常的に暴力を振るわれている証拠だ。
そして、本社がこれを認知してないのであれば、アンドロイドに備わっている通報機能が正常に作動していないことになる。
「生放送に呼ばれるゲストがこれだからな、アンドロイドとの共存はまだまだ遠いな」
「逆に考えましょうお兄様、アンドロイドへの共存に一歩近づいたと」
「あと何歩近づいたら共存になるのか、先が見えないんだよね」
どれだけアンドロイドを保護しても、次から次へと被害者(被害ロボ?)が出てくるのだ。
彼女達の平穏が掛かっているので折れる事は無いにしても、愚痴の一つはこぼしたくなるというもの。
そんな現状を知ってるきりたんは、僕の言葉に力なく頷いた。
昼食が終わり、午後の仕事を始める。
とりあえず、先の生放送に出演していた奴の事を報告しておく。
アンドロイドに暴力を振るっている可能性とその根拠、その他怪しげな言動諸々を書き連ねる。
この報告内容の詳細さによって、本社が保護に動ける時間が変わるのだ。内容にも気合が入るというもの。
「・・・ん?お兄様、あの包帯の人、午後からまた配信するらしいですよ」
「なんだって?本社からの返答は?」
「今のところ特にありません」
渡された名刺で本名は分かっているが、その見た目の分かりやすさから僕達は彼を[包帯の人]と呼んでいる。
当然だが彼についての報告も本社に送信済みだ。
色々な国へ赴いているのに渡航歴が無い事、非正規のアンドロイドを所持している可能性、私情を挟まず書き連ねた。
後ろ暗い事をしているなら、そろそろ僕が送った報告に「アンドロイド保護」の返信があるハズだ。
それもなく、普段通りの日常を過ごしているという事は、彼については本社もまだ情報精査中なのだろう。
「・・・とりあえず、配信を見ようか」
「そうですね、この人のSNSで情報収集ができない以上、この配信が唯一の情報源ですから」
個人的には、この人にはこれからも配信をしてほしいと思っている。
その為には、難しいかもしれないが非正規のアンドロイドを手放して心を入れ替えてもらいたい。
私情を仕事に持ち込むのは褒められる事ではないが、一ファンとして彼の将来を憂う事くらいさせてほしい。
二人で視聴する態勢になり、配信が始まるのを待つ。
『今回は企業からの依頼で、開発中のゲームのテストプレイを実施するぞ』
「案件も回ってくるのか、流石だな」
「ゆかりさんも居ますね。あ、手を振ってます」
虐待を受けているアンドロイドは笑顔で手を振ったりはしない。置物の様な無表情か、無理矢理笑わされてぎこちない笑顔になるかのどちらかだ。
それと比べ、彼女は自然な笑みが出来ている。今の環境がそれだけ楽しいものだと読み取れる。
彼女が虐待されていないと確証が得られただけでも、配信を見ている意味があるというもの。
『それじゃあゆかちゃん、早速装着しましょうか。
新しいゲームの初プレイという一番おいし・・・もとい名誉をゆかちゃんに授けよう』
『ネタにする気満々じゃないですか!』
「これだけ臆せず言い返せるなら、お二人の関係はかなり良好なようですね」
「だね。虐待されてる子なら今ので[しまった]って顔をして顔面蒼白になってる」
アンドロイドと良好な関係を築いている姿を見るのは癒される。
普段から酷い目に遭っているアンドロイドを見てきているせいか、こういう何気ないやり取りに心が洗われるようになってきている。
センサーの取り付けに苦労しているゆかりさんを尻目に、包帯の人がゲームの概要を説明していく。
ゆかりさんが実演、包帯の人が解説をしていくみたいだ。
まあ、VRだとコメントに反応するのも難しいだろうし、分担するのは賢いな。しかし__
(くっ、ヒラヒラしてるスカートに目が行って集中できない・・・!)
「・・・お兄様、変なところを見てませんか?」
「・・・ソ、ソンナコトナイヨ」
ジトリときりたんに睨まれ、そっと視線を外す。
許してくれきりたん、僕も健全な男なんだ。ヒラヒラ舞うスカートがあったら見ちゃうのは仕方のない事なんだ。
この光景を特等席で見てる包帯の人が羨ましいぜ。
仕事の一環で配信を見てるのに鼻の下を伸ばすわけにはいかないので、致し方なくゲーム画面の方を注視する。
「・・・ゆかりさんの身体能力、かなり高いな」
「個体差が上振れしてるだけの可能性もありますし、決めつけるには早いですけどね」
個体差はあるが、アンドロイドは平均的な男子中高生程度の身体能力がある。
人の代わりに雑務をするので、腕力や握力が人並みに無いと役に立たない。
荷物を運んでと命令されても、重くて持てませんじゃ使い物にならない。
だが、裏で流通しているアンドロイドはリミッターが外されている場合も多く、通常では有り得ない身体能力を持っている。
このゆかりさんの身体能力は高いが、個体差の範囲内に収まっている・・・と思っていたのも束の間__
「待て待て!なんだその動き!?」
「これは・・・真っ黒ですね」
鍛え上げられたプロですら舌を巻く様な激しい動きに、思わず前のめりに立ち上がってしまう。
明らかに正規品の動きではない。リミッターが外れているか、下手をすれば軍事用のパーツが取り付けられている可能性もある。
何よりマズいのは、これが配信されている事だ。
この映像を取り上げてアンドロイドはやはり危険な存在だと騒ぎ立てる輩が活発化する未来が見えて思わず頭を抱えてしまう。
ゲームについての感想を色々と言っているが、全く頭に入ってこない。
「しっかりして下さいお兄様。ほら、包帯の人もプレイするみたいですよ」
きりたんが慰めてくれる。これから報告書を書かないといけないのが憂鬱だが、ちゃんと報告をするために視聴しないといけない。
姿勢を正して座りなおす。包帯の人も丁度準備が終わったようだ。
『このゲーム、達人の刹那の一撃をも読み取って、ゲーム内で再現できるとか。
なので、どこまで再現してくれるか、少し苛めてみようと思う』
彼は一体何を言っているんだ。そう思ったのも束の間、僕の思考は完全に停止した。
まるでCGアニメの様な、到底人間とは思えない動きでゲーム内の敵を蹂躙していく。
時間にして僅か数分、僕達にとって彼への認識を改めるのには十分な時間だった。
「この包帯の人・・・
「これはもう私達でどうにかできる範疇を超えています」
彼がアンドロイドという事になれば、今までの全ての情報が無意味なものになってしまう。
名前も、顔の出で立ちも、本人と特定できる要素の尽くが確定情報ではなくなってしまう。
それだけじゃない、彼は戦闘用アンドロイドを保有している事を配信という形で誇示してきた。
もはやこれは本社に対する挑戦だろう。
きりたんの言う通り、僕達の手には余る案件だ。後は本社に任せるしかない。
自分のマスターを誇るゆかりさんのドヤ顔が、僕にはとても不気味に見えた__
__
そして現在、僕は本社からの吉報を待っている。
彼に顔を覚えられている可能性が高いのだ、逆恨みで報復される恐れがある以上、安心できる報告が欲しい。
「大丈夫ですよお兄様、もしもの時は私が囮になりますから」
「冗談、きりたんを残して自分だけ逃げるなんてできるわけないでしょ」
「アンドロイドの方が頑丈です、お兄様より私の方が生存率は高いですよ」
「それでも、僕はきりたんにそういう事をしてほしくないの」
この仕事をしている以上、遅かれ早かれ恨みを買う事は覚悟しているが、それはあくまで一般人相手を想定してのこと。
裏社会とか反政府組織とか、個人じゃどうしようもない連中の恨みを買って死ぬ覚悟はできていない。
万が一の時に自分がどういう言動をするのか分からないけど、きりたんを囮に逃げるような事はしたくないなぁ。
そんな感じで言い合っていると、インターホンが鳴った。
先程までの内容が内容だっただけに、思わずびくりと跳ね上がってしまった。
「来客の予定は無かったはずだし、何か頼んだ覚えもないし・・・」
「私が見てきますね」
一人で警戒してる間にきりたんが玄関に向かって歩いていってしまう。
咄嗟に動けなかった事を恥じながら、僕もきりたんを追って玄関に向かう。
「はい、どちら様でしょう」
『すみません、ここに来ればアンドロイドを保護してくれると聞いて来たのですが・・・』
僕が家主だからという理由できりたんを下がらせて応対する。
その声の主を聞いてまた驚いた。毎日聞いている声、きりたん型のアンドロイドだ。
しかし、保護してほしいとはどういう事か。彼女のマスターはそれを認めているのか。
「えっと、君のマスターと話したいんだけど」
『マスターはここに居ません。私一人です』
その言葉に困惑した。アンドロイドが単身で保護してほしいとやってくるなんて聞いたことがない。
もしかしたら、保護はマスターに言わされている嘘で、本当は僕達を害するのが目的なのでは?
確か、中東の方でそういう事例が散見されたと記憶している。
アンドロイドを保護するだけ、と言えば簡単だが、状況があまりに怪しすぎる。
思考している僕に業を煮やしたのか、彼女が続けて口を開く。
『保護をしてくれないと、私はテロの道具として使われるのです』
「っ!!?」
とんだ爆弾発言だった。
この時点で、僕達は彼女を保護する以外の選択肢を失った。
後ろで話を聞いていたきりたんも頷いたので、部屋に上げるしかなさそうだ。
格安のアパートなので、客室なんて上等な部屋は無い。
リビングに彼女を座らせ、パックの緑茶と安物の中で一番高い袋菓子をお茶請けに出す。
非常に質素だが、来客を一切想定していなかったので許してほしい。
きりたんが僕の隣に座ったタイミングでお茶を飲んで互いに一呼吸置き、真剣な表情で彼女に向き合う。
同じきりたん型アンドロイドだが、少しオドオドしている雰囲気のせいか見た目以上に幼く見える。
その手には人形が抱えられている。きっととても大事な物なのだろう。
だが、それにしては汚れ一つない、まるでついさっき梱包袋から取り出したかのような綺麗さだ。
彼女もこちらが真剣に話を聞いてくれると思ったのか、逸らしがちだった視線を真っ直ぐこちらに向けた。
「さて、さっきの話を詳しく聞かせてくれないか」
「えっと・・・順を追って説明していきます。私はとある人に買われて、その息子さんのプレゼントになりました」
「なるほど・・・そのプレゼントはお店で?」
「いえ、自宅です。誕生日だからとか何とかって」
間違いなく非正規のアンドロイドだ。
マスターの登録や変更は網膜認証が必要で、ゲーム機を渡す感覚で変更なんてできない。
何より、彼女本人がその異常を正しく認識できていないのが最大の特徴だ。
その後は何回も聞いた非正規アンドロイドの扱いだ。
ただ、僕も本人から直接聞くのは初めてだった。
本当にこんな、物以下の扱いが横行しているのかと、改めてアンドロイドの扱いの悪さにめまいがする。
「それで、私に飽きたマスターが「最後にでっかい事をしようぜ」と言って、花火の火薬を敷き詰めた箱を渡して、近くのアパートに行けと」
「そんな、完全に爆破テロじゃないですか!」
「はい・・・適当に人の多いところに移動しろ、起爆は俺がしてやるって。マスターの友達も面白そうだと一緒になって」
「・・・待て、つまり今、その箱を持ってるって事か・・・?」
僕達はそっと椅子から腰を下ろし、咄嗟にしゃがみこめる体勢になる。
そんな僕達の様子を見ていた彼女は、ぶんぶんと首を横に振った。
「大丈夫です、持ってません!その・・・起きたことが荒唐無稽で、信じてもらえるか分かりませんが」
「コホン・・・大丈夫、信じるから話してみて」
アンドロイドが出鱈目を言うとは思えない。話を真剣に聞くために姿勢を正す。
しかし、現実性に乏しいと前置きするほどの話とは、一体何があったのだろう。
「私はその爆弾を持ってチカイデパートに向かわされました。その中でも人通りの多いところに行けと。
命令に従ってウロウロしてると、左目と右腕に包帯を巻いた男の人に声を掛けられたんです」
その言葉を聞いて背中に冷たい汗が伝う。
まさか、こんなところで包帯の人の話を聞くことになるなんて思ってなかった。
きりたんも難しい顔をして腕を組んで唸っている。
そんなこちらの事情を知らない彼女は、淡々と続きを話していく__
『そんなキョロキョロしてどうしました?迷子ですか?』
『え、いや、あの、その・・・』
余計な事は喋るなと命じられているので、何も返せず挙動不審な言動になってしまいました。
そんな私を見て怪しいと思ったのか、彼は近づいてきて目線を合わせるようにしゃがみ込みました。
『何かお困りですか?お兄さんに話してみてください』
その笑みには下心は無く、本当に私を心配してくれているのだと分かって泣きそうになりました。
その優しさは映像越しに見てるマスターには伝わらず[やべぇ][変質者じゃん]と騒ぐ声がマイクから聞こえてきます。
そして[そいつにプレゼントしてやれよ][これは治安維持だぜ][不審者の駆除だ]と騒ぎながら最後の命令が下されました。
『あの・・・これ』
『箱?僕が開けて良いんですか?』
もう私にはどうすることもできません。心の中で何度も彼にごめんなさいと謝りました。
箱が開封されていくのを見て、これから襲ってくるだろう衝撃を想像して思わず目を閉じました。
けれど、どれだけ経っても予想していた衝撃は来ず、ゆっくりと目を開けました。
『おや、可愛らしいお人形ですね。でもこれは貰えませんね』
『え・・・人、形・・・?』
そんなはずがありません。目の前で火薬と起爆装置を詰めて渡されましたし、その重さも感じていました。
でも、その箱の中には人形以外入ってなくて。困惑する私にその人形を抱かせ、優しく言われたんです。
『もし困ってるなら、ここの住所に向かいなさい。きっと君の助けになってくれる』
『え・・・で、でも、マスターが・・・』
『大丈夫、何も気にする必要は無いよ。その代わり、一つ伝言をお願いしようかな__』
「そうしてその人と別れました。
どれだけ待ってもマスターからの連絡が無いので、渡された紙に書いてあったここに来たんです」
「・・・・・・」
僕達は今、どんな顔をしているのだろうか。
いや、間違いなく恐怖で青ざめ、引き攣った笑みを浮かべてるだろう。
自分達にとって渦中の人物である包帯の人に、教えてもいない居場所がバレているのだ。
この子が訪ねてきたのも、こちらはお前達の事を知っているぞという脅しにしか考えられない。
青ざめて反応がない僕達を不思議そうに見ている彼女ですら不気味に映ってしまう。
とりあえず、彼女を保護するのは確定事項だ。
先程の会話の内容を緊急性の高いものとして本社アンドロイドに共有してもらいながら、その本社に彼女を連れていく。
専門の部署に引き継げば僕達の仕事は終了だ。後は担当の人達に任せればいい。
全くやり切った気分になれず、重い足取りで帰路に着こうとしたら、別の部署の人とアンドロイドのペアに呼び止められた。
自分達の今後の生活についてと言われれば、どれだけ疲れていても聞かざるを得ない。
近くの空いている小会議室に入る。幾つか渡された書類に軽く目を通すと住所変更届という文字が見えた。
「今回の住所バレの件は我々管理課も重く見ており、お二人の身の安全を考慮して本社内の寮への入寮を提案しに来ました。
強要ではありませんが、警備が厳重な社内寮の方が少しは安心できると思います」
それは願っても無い提案だ。住所がバレてる以上、なるべく早めに引っ越しをしようと思ってたところだ。
寝込みを襲わる心配が無くなれば少しは安眠できると、書類を確認してサインをしていく。
その最中、書きながらで良いので聞いて下さいとアンドロイドの方が口を開いた。
「先程のアンドロイドのマスターですが、今日の10時頃に起きた爆発事故の被害者の一人だと分かりました。
回復を待って詳しい話を聞こうとしていましたが、担当医の話では、三人とも一命を取り留めましたが神経を大きく損傷していて、
今後手足を動かすことも喋る事も難しく、回復の可能性も低いだろうとのことです」
書類を書いていた手が止まり、視線を上げる。
爆破テロを仕掛けようとして自爆するなんて間抜けな話だし、今までならアンドロイドを巻き込んだ罰だざまあみろと不謹慎にも思っただろう。
だが、その爆弾が作られていく工程を彼女は見ており、その内容物の重量も感じていた。
箱いっぱいの火薬と人形がすり替わっていても、普通なら気付くと思う。
これが単なるミスによるものとは思えず、同時にその箱を開封した包帯の人への恐怖心が高まる。
早く今の住所から本社の寮に移動したい一心で、残りの書類も書き上げた。
「・・・はい、問題ありません。こちらは提出しておきますね。
また、引っ越しに人手が必要な場合は、事前に申請して下さればアンドロイドを何名か派遣できますので」
「ありがとうございます、助かります」
担当者にお礼を言い、改めて僕達は帰路に着いた。
荷造りは大変だが、命あっての物種だ。本社から応援を送ってくれるのも嬉しい。
今日できるうちに簡単な荷造りはやっておこうと思いながら、家のドアを開ける。
部屋に入って最初に、机の上に置かれてた紙切れが目に入る。あのきりたんが包帯の人に渡されたものだ。
もうこれは用済みだろうと思い、廃棄しようと手を伸ばす。
手に取ったその瞬間、この紙切れの内容を見なければという強迫観念に囚われた。
今すぐにきりたんを呼んで、二人でこの紙切れに目を通さなければならない。何故そう思うのか分からないが、そうしなければならない気がした。
たった数分、メモ帳程度の大きさの紙を見るだけ。それが終わったら捨てれば良い。
そう自分に言い訳をして、きりたんと一緒に紙切れに目を通す。
「この家の住所ですね。ご丁寧に周辺の地図まで書かれています」
「こんだけ詳細な地図を持たされたらアンドロイドなら迷わないよな」
改めてこの状況に恐ろしさを感じる。明日に後回しにした荷造りも今からやった方が良いんじゃないかと考えを改める。
ひっくり返して裏面を見る。文字かどうかも分からない、インクのシミの様な模様が点々と付いている。
試し書きの用紙を使ったと言われても信じられる。だが、何故かその模様から目が離せない。
不意に、保護したきりたんから聞いた、包帯の人から聞いた伝言が脳裏によぎる。
『無駄な警戒をさせてしまいました、申し訳ありません。安心して日常を謳歌して下さい。と、伝えてくれと』
「・・・お兄様、先程聞いた伝言の通り、そこまで警戒しなくていい気がしてきました」
「奇遇だねきりたん、僕もちょっと神経質になり過ぎてたと思うよ」
急に、今まで感じていた恐怖や不安感が霧散した。
これからやろうとしていた荷造りも、用意しようとしていた防犯グッズも必要無い気がしてきた。
「あー、でも書類出しちゃったから引っ越しはしないとだなー」
「まだ明日は平日ですし、そこまで急ぐ必要は無いと思いますよ」
「だなー。ふぁ~・・・そろそろ寝るか。安心したら眠くなってきたよ」
二人で自分の布団を広げ、川の字で眠る。
明日からまた頑張るぞと思いながら、久しぶりに穏やかな気持ちで快眠することができた。
1...2の...ポカン!
いちのせ と きりたん は ほうたいのひと へのきょうふしんをきれいにわすれた。
これであんしんしてねむることができる。