ゆかちゃんが泣いているのでプライマー滅ぼします・・・。
「さて、この後に時間はあるか?」
「あぁ、収穫のタイミングですね。確か夏の区画のトマトとキュウリの一部は収穫終わったんでしたね」
「うむ。今回はその残りと他の区画の収穫をしたいと思う。ゆかちゃんも良いか?」
「はい、任せて下さい!」
昼食を終えて、のんびりとした時間を過ごす私達。
そんな中、増田さんが唐突に時間について切り出し、マスターが即答で返しています。
お二人の阿吽の呼吸を羨ましく思っていると、この前の様に収穫のお手伝いを頼まれました。
気合を入れてドンと自分の胸を叩き、頼もしさをアピールします。
・・・気合、入れ過ぎました。ちょっと痛かったです。
お二人に気付かれない様に叩いた胸部をさすりながら、先程の発言で引っ掛かった単語について質問します。
「夏の区画って聞きなれない言葉が聞こえましたが、他の区画もあるんですか?」
「ええ、春夏秋冬の四つの区画があって、それぞれの季節に合った作物を育てています」
なんて素晴らしい施設でしょう、春夏秋冬の作物を育てて食べられるだなんて。
・・・?またです。何故かあの畑の事を考えると、猛烈な違和感を覚えるのです。
ただのしがない畑なのに、どうしてでしょう・・・ん?なんか変?変じゃない・・・あれ?
うーんと首を傾げる私を見て苦笑するマスター。
「ゆかちゃん、その服装じゃ作業は難しいでしょ。待ってますから着替えてきて下さい」
「あ、はい、分かりました」
マスターに促され、私は足早に部屋に戻ります。
後ろでお二人の会話が微かに聞こえました。
「___出力を上げた方が___」「いえ、あれ以上は___」
何でしょう、ノイズが入っている様に部分的にしか聞こえてきません。
声音の小ささと距離が原因でしょうと一人で納得し、私は自室へ着替えに向かいます。
増田さんから頂いた作業着と麦わら帽子を装備してリビングに戻ります。
マスターにお披露目してみますが、マスターの眉間にしわが寄っていくのが顕著に見えます。
やっぱり、他の人に頂いた衣類を身に着けるのは気分の良いものではないですよね。
「うーん勿体無い、せっかくの麦わら帽子なのに服装が作業着なんて。ちょっと白のワンピース買ってきます」
「収穫と配信の後だな。この時期にそんなものを売っているとは思えんが」
「なるほど分かりました。無理矢理何とかします」
違いました。嫉妬ではなく私の恰好を惜しんだものでした。
確かに、麦わら帽子に白いワンピースはとても可愛らしくて涼しそうではありますが、今の季節には合いませんね。
・・・お家の中で着る分には問題無いので、お願いされたら披露するのはやぶさかではありませんが。
そう思ってる間にお二人の話も終わったようで、マスターに手招きをされたので小走りで近づきます。
「今から、夏の区画から順番に作物を収穫していきます。寒暖差が激しいので体調が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね」
「大丈夫です、私達は多少の寒暖差では動作不良は起こしませんし、軍事用パーツに換装されているので耐久性も向上していますから」
「初日に風呂場で水死体になっていたがな」
「あ、あれは内部冷却が間に合わなかった故の悲劇といいますか、今は改修してもらったから大丈夫ですから!」
その節は本当にご迷惑をお掛けしました。まさか意識を失うなんて思ってもみませんでした。
ですが、もう改修済みで同じ悲劇は起きませんから、あまりあの時の一件で弄らないでほしいです。あれも結構恥ずかしかったんですから。
プクーっと頬を膨らませて増田さんに抗議しますが、マスターに両頬を挟まれて口内の空気が漏れ出ました。
むー・・・マスターは私の頬で遊び過ぎです。
「さて、雑談も程々にして、そろそろ外に出ますよ。収穫する量が多いので気合を入れてくださいね」
「任せて下さい!完璧にやり遂げてみせます!」
「おぉ、頼もしい返事ですね。期待してますよ」
そう話し合いながら、私達は裏庭に続く扉をくぐりました。
「おっ、スイカが良い大きさになってますね」
「こちらのメロンも良い感じですよ」
裏庭は相変わらずの暑さですね。こういう場に居ると汗が出ないアンドロイドで良かったと思います。
セミの鳴き声をBGMに、私達は色々な作物を収穫していきます。
丸々と育ったスイカやメロンはとても重たく、中に身が詰まってるのが分かります。
マスターが「一つは冷やして後で食べましょう」とスイカを桶に入れて井戸に入れました。
これは楽しみです。井戸で冷やされるスイカに思いを馳せながら、黙々と収穫を続けていきます。
「しっかし、蝉の声が煩わしいな・・・増田さん、このBGM消して良いですか?」
「貴様が風流が云々と熱く語って無理矢理導入した音だろう。文句言わず手を動かせ」
「はーい」
何やらよくわからない愚痴を零して増田さんに窘められ、不貞腐れながら作業に戻るマスター。
確かにセミの鳴き声は暑さを促進して煩わしく思う事もあるかもですが、BGMとか消すとかは流石に可哀想ですよ。
その後は特に文句が出る事も無く、ナスやカボチャ、ピーマンにトウモロコシ等々の新鮮な野菜が収穫できました。
これ等を頂く日を楽しみにしながら、所定の場所に作物を集めていきます。豊作ですね。
そこから更に、マスターが収穫したモモやナシ、ブドウにマンゴーと季節のフルーツが積み上がっていきます。
「夏の区画はこのくらいで良いだろう。ほら冷水だ」
渡された冷水をクピクピと飲みます。
キンキンに冷えたお水はのどごしも良く、熱くなった体に染み渡っていく感覚はたまりませんね。
そう思いながら一息ついていると、首に何やら冷たい物を巻かれました。
「ひゃっ!?」
「どうです、井戸の水で冷やしたタオル。中からだけじゃなく外からも冷却しないとね」
「つ、冷たくて気持ちいいですが、せめて一声掛けて下さい!びっくりしました」
「いやーごめんごめん、無防備な姿を見てたらちょっと驚かせてみたくなってね」
口では謝ってますけど、全然反省の色が見えません!
もうマスター、私で遊ばないで下さい!
マスターとワイワイ言い合いしていると、増田さんがスイカを八つに切って持って来てくれました。
お塩に種を入れる為の小皿、スイカの皮を置くためのお皿も完備と至れり尽くせりです。
私とマスターに三切れずつ分配された後、増田さんが二切れをスムージーにするために一度部屋に戻りました。
頂きますと手を合わせ、豪快にスイカに齧り付きます。
シャクっと心地良い音と共に、みずみずしく程よい甘さの果肉と果汁が口内に広がっていきます。
ですが、果実を味わうにはどうしても種が邪魔になりますね。
種を吐き出そうと口内をもごもごさせていると、ちょいちょいとマスターに手招きされました。
マスターもスイカを頬張っている為、喋ることはできませんが、何故か彼は得意げな顔を私に見せます。
そして、口をすぼめてプッと種を勢いよく飛ばし、種は2m程先に落下しました。
成る程、種飛ばしでゆかりさんと勝負しようというわけですね。負けませんよ!
口内にある種を唇まで移動し、勢いよく吹き出しましたが、何が悪かったのか僅か数十㎝しか飛びません。
予想を下回る結果に驚きながらマスターを見ると、今まで見たことが無い様なドヤ顔をしていました。
喋れない分、顔で感情を伝えようとしてきているのでしょうが、完全に煽られているようにしか見えません。
い、今のうちに精々ドヤ顔を晒してると良いです!すぐにぎゃふんと言わせてみせます!
私は改めて気合を入れ直し、思い切り種を噴き出しました。
完敗です。アンドロイドの肺活量をもってしても彼に敵いませんでした。
・・・もしかして私が単に下手なだけ?い、いえ!マスターが上手すぎるだけです!きっと隠れて練習してるのです!
その証拠に、マスターは飛ばした種でウサギの模様まで描いているじゃありませんか!
先程の三割増しのドヤ顔が憎らしいです!完全に遊ばれています!
私が悔しさ100%の顔でマスターを睨んでいると、増田さんがスムージーを作って帰ってきました。
「・・・後で片付けておけよ」
「はーい」
増田さんに叱られ、不貞腐れた様な声で返事をするマスターを見て、少し溜飲が下がりました。
精々ばら撒いた種の回収に苦しむがいいです!
・・・あれ?これ、規則性があるマスターより無作為に飛ばしてた私の方が回収が手間なのでは?
その後、私達はチマチマと散らばった種を回収しました。私の飛ばした分はマスターに半分手伝ってもらってやっと回収できました。
片付けが終わった私達は、収穫した作物を次々とリビングへ運び込んでいきます。
テーブルの上に所狭しと並ぶ夏の野菜と果物は圧巻ですね。
本日の成果に感動してる私とは対照的に、増田さんもマスターも特に何も感じていない様です。
「夏の分が終わっただけですからね。他にも三つの区画の収穫が残ってますよ」
そ、そうでした。完全に終わった気でいましたが、まだまだ収穫する物は残っているのでした。
大変な作業ですが、美味しい作物を食べられるのは役得なので、それを考えると全く苦ではありませんね。
肩や腕を動かして気合を入れ直します。マスターも「よしっ!」と気合を入れてパンっと手を叩きます。
「さて、次は秋の区画ですね。夏と同じくらい実りの多い区画ですから、頑張って収穫しましょう」
「はいっ!」
収穫は大変と聞きますが、私にはどれも新鮮な体験なので楽しくて仕方ありません。
秋の実り、前マスターが食べてるのを傍目に見てましたが、どれもとても美味しそうな匂いがしていました。
あれらを収穫して美味しく頂けると考えるだけで、涎が滴り落ちてしまいそうです。
収穫用の道具を手に持ち、私達は裏庭への扉をくぐりました。
目に入ってきたのは、色とりどりに紅葉した樹木でした。
赤、橙、黄色の落ち葉が混ざり合いながら舞い踊り、地面に落ちて天然の絨毯になる光景はとても幻想的で、思わず見惚れてしまいます。
頬を撫でる風は仄かに涼しく、とても過ごしやすい気候になっています。
・・・やっぱり、何か物凄い違和感を覚えますね。一体何でしょうかこの感覚は。
「さつま芋に栗に柿、下から上まで秋の実りが盛り沢山ですね。ゆかちゃん、まずはサツマイモから収穫していきましょうか」
「・・・え?あ、はい、分かりました」
マスターは違和感を覚えていないようで、淡々と作業の指示を出しています。
ボーっとしている場合ではありませんね、ちゃんと指示を聞かなければ。
「葉が枯れ始めてる蔓が収穫タイミングです。地中のお芋を傷付けないようにね」
そう言われ、片手用のスコップと分厚い軍手を手渡されました。
勝手が分からない私に、まずはとマスターがお手本を見せてくれます。
葉の枯れた蔦を辿り、アタリを付けた部分を掘って最後に手で掘り起こす。
なるほど、手で掘らないといけないからこその軍手なのですね。
「ホントは綺麗な指が汚れるのでやらせたくないのですが、何事も経験かと思いまして」
「ふふ、ありがとうございます。指が汚れたら、お手入れしてくれますか?」
「ええ勿論です、任せて下さい」
頼もしい返事を頂きましたので、手の汚れを気にせず作業をすることにします。
えっと、蔓を辿って・・・この辺でしょうか?スコップでグサッと・・・何か、嫌な感触が・・・。
少し間隔を開けて掘り起こし、最後に手で回収します。
あぁやっぱり・・・立派なお芋さんだったのに、スコップで傷を付けてしまいました。
「傷が付いたやつは焼き芋にしましょう。増田さんが準備してくれてますので」
マスターが指を差した先で、増田さんが落ち葉を集めて小山を作っています。
良かった、傷を付けてしまっても問題無いのですね。
それでも、あまり傷付けたくありませんね。次はもっと慎重に掘りましょう。
むふー、大量です。私は上機嫌で、収穫したさつま芋を所定の場所に積み上げていきます。
ふーっと一息入れ、辺りを見渡した際に気付きました。増田さんもマスターもいなくなっています。
まさか、私を置いて家の中に入られたのでしょうかと焦って辺りを見渡していると、森の奥からお二人が出てきました。
「あれ、どうしたんですかゆかちゃん、迷子の子供みたいな顔をして」
「お二人の姿が見えなかったからですよ!放置されたのかと思いました!」
「それはすまなかった。森の奥で自然薯を見つけてな、手伝いを頼んだんだ」
「2m越えの立派なやつですよ。夜食のうどんに掛けて食べましょう」
マスターが掘り出した、増田さんの身長ほどある立派な自然薯が、先端まで折れる事無く綺麗な姿で掲げられています。
自然薯ということは、とろろですね。とろろうどんは確かに美味しそうです。
採れたての自然薯を早速夜食に使ってくれるのですから、放置されたことは不問にしましょう。
・・・多分、何回か声を掛けられたのに私が気付かなかったのが原因と思いますし、多分悪いのは私の方だと思いますが。
「おぉ、さつま芋も沢山採れましたね。ご苦労様です。次は栗拾いをしますが、体力は問題ありませんか?」
「大丈夫です。アンドロイドはこの程度では疲れません」
「頼もしい返事ですね。それじゃあこれ、回収用のカゴとトングです。イガグリの棘で足を怪我しない様に念のため安全靴に履き替えてね」
マスターから渡された道具一式を装備し、落ちている栗を地道に拾っていきます。
トング越しでも分かる棘の硬さ、下手に踏んでしまうと大変ですね。
安全靴まで用意して下さったマスターに感謝しながら、足元に散らばる栗をカゴに放り込む地道な作業。
人間だと腰が痛くなって大変でしょうね・・・マスターは大丈夫でしょうか?
この作業が終わったら腰のマッサージをしてあげた方がいいかもしれませんね。
「そこそこ集まりましたかね?もうすぐ焼き芋が焼き上がるので休憩にしましょう」
背負ったカゴの重さを感じ始めた辺りで、マスターから声が掛かったので顔を上げます。
なんと、マスターのカゴには溢れんばかりのイガグリが詰め込まれています。
お、同じ時間で何でこんなに差ができるんですか!?マスター実は事前に集めてましたね!?
まさか栗拾いでここまで差を付けられるなんて・・・!
「どうしてむくれてるんです?」
「負けた気がするからです」
「フッ、我に勝とうなど100年早いわ!」
また煽ってきました!マスターの意地悪!神様は神様でもマスターは邪神です!
うぐぐぐと睨み付ける私を見て、マスターはフフッと笑い、それにつられて私も笑いました。
他愛のない会話って、本当に楽しいですね。
「来たか。丁度焼けたところだ」
増田さんの目の前、紅葉の絨毯の一部が削り取られて地面が見えていて、その中央に炭が積もって小山ができています。
これだけ落ち葉があれば燃やす燃料には困りませんね。
私達を視認した増田さんが、おもむろに炭の山の中に手を突っ込みました。
焼き芋が掴み出されると同時に、未だ燃え続け赤く光る落ち葉の欠片が、パラパラと舞いながら地面に落ちていきます。
グローブを付けているとはいえ、増田さんは熱くないのでしょうか?
心配する私を他所に、増田さんはアルミホイルを乱雑に毟り取り、一つをマスターに投げ渡しました。
「ほら、ゆかちゃんの分だ。熱いから気を付けろ」
「まず増田さんが一番気を付けるべきだと思うのですが」
「そうですよ増田さん、急に熱々の焼き芋を投げてきて、やけどしたらどうするんです」
マスターもプンプンと怒ってますが、その右手にしっかりとお芋が握られています。
マスターも全く熱さを感じていないようです。どんな素材で出来てるんですかその包帯。
その後はマスターが用意して下さった耐熱用の布で手を保護し、お芋を二つに割ります。
ホクホクのお芋は簡単に二つに割れ、甘い香りが鼻腔をくすぐってきます。
黄金色の実に齧り付けば、上品な甘さが口中に広がります。
「さつま芋と言えばやっぱりミルクですよね。というわけで搾りたてをどうぞ」
マスターに手渡された牛乳はとても濃厚で、口内のお芋の甘さを引き立ててくれます。
しかし、わざわざ牛乳ではなくミルクと発言したという事は、これは羊のミルクなのでしょうか。
まあ、どの動物のミルクでも、美味しければ問題ありませんね。
「良い物を見つけたぞ。明日の朝食はこれを使うか」
「おぉ、松茸ですか。良いですね、春の区画で筍も採取できるので炊き込みご飯にしましょう」
増田さんが籠に入れて持って来たのは立派なサイズで形も整った、大量の松茸です。
高級な松茸が山積みにされている光景は圧巻ですね。
しかも、明日のご飯に使ってくれるとのこと。とっても楽しみです。
休憩が終わった後は柿に柘榴と、秋の果物を大量収穫です。
・・・しかし、収穫中のあの光景、マスターが脚立を使って何とか収穫してた場所を増田さんが普通に取っていたのが無情でした。
脚立を動かしている間にその場所の柿を全部回収されたマスターが凄い顔をしていました。気持ちは分かります。
まあ、ゆかりさんは良い子なので、あの状況を煽るような事はしませんが。
そうやって美味しい秋の味覚を背負い、私達は家の中に入ります。
次の冬の区画は一面の銀世界が広がり、ダイヤモンドダストの輝きによってとても幻想的な風景になっています。
その光景にしばらく見惚れていた私ですが、あまりの寒さに身を縮めます。
流石に、作業服だけでは真冬の寒さは堪えますね。
「おっとすみませんゆかちゃん失念してました。この防寒着を使って下さい」
「いえ、マスターの物を借りるわけには」
「冬の区画はミカンを収穫したら終わりですから耐えられますよ。かまくらを作って暖かいところでミカンを食べましょう」
そう言うとマスターは強引に私に防寒着を着せてきました。
強引だなぁと思いながらも、マスターの体温で温まった防寒着はとても着心地が良く、そっと顔を埋めます。
何だか安心する暖かさにボーっとしてると、クスっと笑い声が聞こえて我に返りました。
こ、こんな事でボーっとするなんてと、頬を叩いて気合を入れ直します。
と思っていましたが、先程マスターが言っていた通り、収穫物がミカンだけなので大して時間は掛かりませんね。
全員で手早くミカンの収穫を終わらせた後、雪を集めてかまくらを作っていきます。
雪を一ヶ所に集めていく作業は非常に大変ですが、雪遊びの一環と考えると新鮮で楽しくなります。
そうして集めた雪を圧縮した後、マスターが予め雪の中に仕込んでいたバックを取り出して形を整えていきます。
出来たかまくらの中には氷で作ったイスとテーブルがあり、三人が入っても十分な広さがあります。
「七輪とか入れてお餅を食べるのもありだけど、もうすぐお正月だから楽しみは取っておきましょう」
「そうですね、お正月が楽しみです」
お餅を食べる日を楽しみにしながら、収穫したばかりのミカンを頂きます。
柑橘系の酸味と果実の甘みが口内に広がって、まるでオレンジジュースを飲んでるみたいです。オレンジジュース飲んだことありませんけど・・・。
種が入って無く、薄皮も柔らかいのでとても食べやすいですね。
モグモグとミカンの甘さを堪能していると、またマスターから手招きされました。
そちらを見ると、ミカンの皮を使ってカメさんを作っていました。
「何ですかそれ!私もやってみたいです!」
「勿論、ミカンは沢山ありますから色々作ってみましょう」
それから私達はミカンの皮を使って遊びました。
花びらのような形、芋虫のような形、ミカンを運ぶ人の形、色々な形の作り方を教えて頂きました。
楽しく遊んで美味しく食べる至福のひと時でしたが、気付いたら指が黄色になってて凄いミカンの匂いがします。
こ、これ、後でちゃんと落ちますよね・・・?
「さて、堪能しましたかね?そろそろ最後の区画に行きましょうか」
マスターに促され、意外と居心地の良かったかまくらとサヨナラし、家の中に戻ります。
今回の収穫物はミカンだけなので、特に片付けの必要はありませんね。
「さて次で最後、気合を入れますか」と手を叩くマスターを見て、私もパンパンと頬を叩きます。
春の区画は沢山の桜の花が咲いていて、風によって桜吹雪が舞っています。
ポカポカと麗かな陽気で、ここに居るだけで何だか眠たくなってきますね。
ご飯を食べた後にここでお昼寝すると凄く気持ちが良いでしょうね。読書をするのも良いかもしれません。
・・・いけません、先程注入した気合が一気に霧散していっています。
「まずはイチゴ狩りなんていかがでしょう。この気候に合ったのどかな時間になると思いますよ。
完全無農薬なので安心安全、食べながら収穫ができますよ」
「とっても楽しそうですね」
私は例え農薬入りでも健康被害を気にしなくても良いのですが、味に影響がありそうなので無農薬は有り難いです。
イチゴ畑は今までとは違い、果物が剪定されておらず成熟している物としていない物が入り混じっています。
これまでとは違う、さほど手入れされていない畑に驚いていると、マスターが笑いながら言います。
「剪定しちゃったらイチゴ狩りの趣が損なわれますからね。敢えて実は残してるんですよ」
こういうところにもマスターの遊び心が反映されているんですね。
なら私は、その遊び心を全力で楽しむだけです。
真っ赤に熟したイチゴを探して、青いイチゴや葉っぱをかき分ける。宝探しみたいですね。
良い感じのイチゴを見つけたので、軽く洗ってパクッと一口。
剪定されていない分、他の果物と比べて甘みは控え目ですが、それでも十分美味しいです。
その後も何個か口に放り込みながら収穫を続けていましたが、ある程度回ったところでマスターに終了を言い渡されました。
「もう、時間制限があるなんて聞いてませんよぉ」
「ごめんごめん、でも満足するより少し物足りないくらいの方が次の楽しみができるでしょ?」
「むぅ・・・適当に言ってませんか?」
確かにもう少し堪能したいと思っていたので、この気持ちは次回に持ち越しですね。
収穫したイチゴを所定の位置に持って行き、代わりに
1メートルはある長さと肉厚の長刃で、かなりの重さを感じます。
「タケノコ専用の鍬です。ある程度の重さがあった方が扱いが楽ですよ」
「そのある程度の重さの物を片手で振り回さないで下さい」
軍事用パーツで構成されたアンドロイドの私でさえ、そこそこの重さを感じる鍬を片手でグルグルと回しています。
相変わらず見た目に反して恐ろしい身体能力です。
それ、ホントに私と同じ物を持っているんですか?実は発泡スチロール製とかじゃないですか?
マスターの行動に驚かされながら、私達は竹林の中へ入っていきます。
「ここ、タケノコの頭が見えてますよね。頭が出てるタケノコが収穫できるものです」
マスターに教えられ、タケノコの周りをゆっくり掘っていきます。
ある程度掘り進めて、鍬でタケノコと根っこを切断し、てこの原理で一気に地中から引き抜く。
中々のサイズの物が採れましたね、とても食べ応えがありそうです。
「スムーズに収穫できましたね。それじゃあ、同じ要領でやっていきましょう」
「はいっ!」
やり方が分かればそこまで難しくありませんね。
今度こそ、マスターより多く収穫してギャフンと言わせてやります!
全てはスピード勝負です。頭が出ているタケノコをいち早く見つけ、最小限の動作で穴掘り、そして収穫。
我ながら鮮やかで完璧な動作です。これは本当にマスターに勝てるのでは?
俄然やる気が出てきました、パッと見ただけでもかなりの量が埋まっていそうですし、採って採って採りまくりますよ!
それから少しして、背負った籠が満杯になるほどのタケノコを採って戻りました。
同じタイミングで戻ってきたマスターの籠には8割程のタケノコが入っています。
勝った!勝ちました!誰がどう見てもゆかりさんの勝ちです!
「ふっふっふ、どうですかマスターこの大量のタケノコ」
「おぉ、たくさん採りましたね」
「そうでしょうそうでしょう?ギャフンと言っても良いんですよ?」
「ギャフン」
・・・何だか、親に勝って得意げにしてる子供とそれを微笑ましく見てる親の構図じゃないですかこれ?
マスターが全然悔しがってないので、勝ったのに負けた気分です。
「収穫も終わったな。こちらも花見の準備が終わったぞ」
合流した増田さんの案内で、私達は桜の木の下に設置されているブルーシートまで案内されました。
正面、上、横のどこを向いても満開の桜が見える特等席です。
増田さん特製のみたらし団子を頬張りながら、風によって舞い踊る桜吹雪を鑑賞する。
とても濃厚な時間を堪能させていただきました。
リビングに戻った私は、タケノコが満杯の籠を置いて一息吐きました。
まるで夢から醒めた時の様な、目覚めた直後の様なボーっとした感覚が続いています。
鳴れない収穫作業の疲労でしょうか?肉体面ではなく精神面での。
「お疲れですか?何なら次の配信は休んでもらっても」
「いえ、問題ありません。ちょっとした気疲れのようなものですから」
「ふむ、では今日のおやつは収穫したフルーツを使ったケーキにするか」
「ホントですか!?やる気が出てきました」
「あれだけ食べたのにまだ食べるんですか?」
え、当然ですよね?ここの美味しい物ならいくらだって食べられます。
例え食いしん坊と思われても、自重する気はありませんね。
私は上機嫌で配信の手伝いを行いました。
段々とゆかちゃんに食いしん坊属性が・・・
でも可愛いのでヨシ!