結月ゆかり「私のマスターは自称神様」   作:またたび日和

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1話より少し前から[8話 一日の終わり]までの増田さん視点のお話です。
パート3くらいまで投稿予定


閑話 我が友と二体目のアンドロイド1

「それじゃあ、行ってきますね」

「良い人間に出会えるように祈っておくよ」

「祈られる側の増田さんが僕以外のどの神に祈るつもりです?」

「んー…乱数の神とか?」

「その神様(クソビッチ)にはもう少し手心を加えてくれと言っておいて下さい」

 

軽い雑談を交えた後、地球へ繋がる扉をくぐる我が友を僕は見送った。

少しはメンタルが回復したようで何よりだが、連れてきた相手との今後によってはまた塞ぎ込んでしまうだろう。

未来覗が出来るわけではないが、そんな未来を思い浮かべて大きくため息を吐く。

(ましろ)が居てくれたら、そう思った事も一度や二度ではない。

 

僕の名は増田。[名状しがたきもの]だとか[名付けられざりしもの]だとか、僕を形容する言葉は多々あるが、

この外套とマスクを被った姿である時は、彼の崇拝する神では無く、彼の()()として在る為に増田と名乗っている。

こうなるまでに紆余曲折はあったが、わざわざこの場でそれを語る必要は無いだろう。

誰が何と言おうと、この衣類を外さない限り、僕は彼の友人、増田だ。

だからこそ、友である彼を心配することも、未来を憂うことも至極普通のことだ。

 

そもそも、我が友があれほど苦しんでいるのも、彼の妙なこだわりが原因の一端だ。

自分に都合の良い(つがい)を創れば、何億何兆年と共に過ごしてくれるというのに、彼はその存在を敬遠している。

その上、彼は番を見極めることがあまりに下手だ。人外の僕がそう思うほど、絶望的に向いていない。

だからこそ、(ましろ)の存在は我が友にとっても僕にとっても光であった。

決して主を裏切らず、何億何兆年の時が経とうとも精神を壊すことなく主に尽くすことができる存在。全ての要素が嚙み合った、まさに完璧で理想的な存在だった。

 

予想外だったのは、そんな彼女は宇宙創造の際に前の記憶を持ち越せなかったことだ。

僕の次に永く寄り添ってくれた存在だっただけに、それを失った時の悲しみがあまりに大きすぎた。

その一件があって以来、我が友はアンドロイドを敬遠している。

僕が何度アンドロイドを迎えようと提案してみても、我が友は悲し気な笑みを浮かべるだけでそれを受け入れることは無かった。

 

だが、完全に諦めたわけではない。

アンドロイド関連のポジティブなニュースがあれば頬を緩め、人との共存を慈愛の眼差しで見つめる様は、まだ未練があることの表れだと僕は気づいている。

だからあと一歩、ほんの少しだけ、何かきっかけがあれば我が友はアンドロイドを連れ帰ってくるだろう。

…そう思って、何度宇宙が生まれただろうか。これだけの時間が流れても何のきっかけも無いのなら、もう無理だろう。

半ば諦めて溜息を吐いていた時、玄関のドアが開いた。

 

「戻りましたよ増田さん。で、早速なんですが隣の部屋使いますね」

 

それは本当に、本当に永い間待ち焦がれた瞬間だった。

戻ってきた我が友がお姫様抱っこで持って帰ってきた()。完全な人型の姿に、傷口から見える基盤と配線。間違いない、アンドロイドだ。

(ましろ)がいなくなって幾年月、ついにアンドロイドに進むことができたんだね。

頭部が酷く損傷しているけれど、その程度は我が友なら何とでもできるだろう。

僕は昼食の仕込みを取り止め、我が友の後を追って部屋を移動する。

 

 

「とりあえずは中身の把握かな。何にしても中身が分からないと改造のしようがないよね。

おぉ、凄いですよこれ。こんな整った集積回路がこの時代で見られるなんて。

パーツの強度とかはどうしましょう?やっぱり軍事用の物ですかね。メンテ回数も少なくした方がこの子も楽になると思いますし。

あ、だったら既存の物と互換性を持たせておかないと。増田さんもそう思いますよね?」

「君の好きなようにすれば良いと思うよ」

 

そう言いながら慣れた手付きでパーツを外していく我が友。

そのパーツの出来栄えを確認しては、それに感動する姿はまるで少年のようだ。

こっちに語り掛けながら自分で結論を出して勝手に話を進めていくこの光景がとても懐かしく、思わず笑ってしまった。

うん、やっぱり君はアンドロイドに関わっている時が一番楽しそうだ。

 

「あ…さすがに睡眠はとった方が良いですよね」

「気にする必要なんて無いよ。久しぶりのアンドロイドなんだし、食事も睡眠も気にせず楽しむと良いよ」

 

こんな時にまで僕が課した適当な制約を守ろうとするなんて、本当に君は真面目過ぎる。

全く、やりたいことができたのなら時間なんて気にする必要無いのに。

僕の言葉にパァっと笑顔になり、すでに自分の世界に入り込んでしまった我が友。

そんな彼の作業を邪魔しないように、そしてその姿を見やすいように部屋の隅に移動する。

 

 

それから丸三日、我が友は食事も睡眠も一切取らず、パーツの作製にかかりきりになっていた。

いや、本人はすでに三日も時間が経過したことに気付いていないと思う。

僕が三日間ずっと見ていてもこちらに声も掛けないことから、僕が見てることにすら気付いていないのだ。

楽しんでいるようで何よりだと思っていたその時、我が友がバッと顔を上げた。

 

「おっしゃ完成!あれ?増田さん、何かありました?」

「いいや、ちょっと君の作業を見てただけだよ。それで、もう修理は終わったのかい?」

「ええ、もうバッチリですよ。それじゃあ早速起動させますね」

 

主電源を入れてワクワクしながら起動を待つ我が友だが、いつまで経っても眼前のアンドロイドは目を開けない。

最初の起動だから時間が掛かってるのかと思ったが、我が友がフクロウの様に首を傾けているため、そうではないらしい。

 

「おーい、もしもーし、そろそろ起きてくれませんかー?」

「何か設定を間違えたんじゃない?」

「馬鹿言わないで下さいよ、ことアンドロイドのメンテに関してはそこらの連中と経歴が違うんですわ」

 

経歴が違うと言われれば頷くしかない。事実、(ましろ)と過ごした時間は人類の比ではない。

だが、未だアンドロイドが鎮座している現状だと、その自信も虚勢に聞こえる。

我が友の焦りが顔に出てきた辺りで、アンドロイドの眉が僅かに動いた。

 

「ん?お?気が付いた?いやー良かった良かった、大口叩いて実は失敗でしたって結果になってなくて」

 

あははと乾いた笑いを上げる我が友を見てそっと溜息を吐く。

その後はマスター登録をした我が友とアンドロイドの会話を一歩下がった位置で見守る。

久しぶりのアンドロイドだからか、いつになくはしゃいでいるね。楽しそうで何よりだ。

しかし…(ましろ)と比べて随分と感情が豊かだ。これは開発した人間の違いかな?

そんなことを思いながら二人の会話を聞いている内に、自身の振動受容器官が狂ったのかと思うような音を拾った。

 

「マスターが本当に神様なら、なんで…助けてくれなかったんですか…?」

 

自身の境遇に対する怒りと憤りを我が友にぶつけ続けるアンドロイド(ゆかちゃん)を、僕は呆然と見ていた。

ふと我が友に視線を移す。後ろ姿しか見えないが、その立ち姿から困惑と混乱は十二分に読み取れる。

我に返ったゆかちゃんをフォローする言葉を並べる我が友だが、動揺が隠しきれていない。

仕舞には、机の角に右足の小指をぶつけて悶絶する始末。久しぶりの唐突な痛みは余程堪えたようだ。

目隠しをしても周囲の状況が分かる空間認識能力が完全に乱れるほど、先のゆかちゃんの発言は僕達にとって衝撃だった。

 

--このアンドロイドは、危険だ--

 

アンドロイドが人間のように感情的になって相手を罵るなど、今まで考えたことも無かった。だからこそ、絶対的な安全域という位置付けができていた。

それが覆るようなことがあれば…彼女への警戒は厳にしておく必要がありそうだ。

死の概念が無い我が友に今更物理的な痛みに対する心配は不要だろう。痛みで(うずくま)る我が友を無視し、僕はキッチンへ戻った。

 

 

十数分後、いつもの挨拶が聞こえてくる。どうやら痛みは引いたようだ。

ゆかちゃんは我が友の後ろに付いて配信の様子を眺めている。

こういったマスターの趣味に必ず付き合ってくれるという点もアンドロイドならではだね。

そんなことを考えていると、何故か配信中の我が友を置いてゆかちゃんがこちらへ駆け寄ってくる。

 

「申し訳ありません増田さん、お手伝いできる事はありますか?」

 

君がやるべきことは配信の手伝いだよ!

思わずそう叫んでしまいそうになったのを何とかこらえる。

ゲーム配信と言えば遊んでるように聞こえるけど、これもマスターから下命されたれっきとした職務だと忘れてないかい?

…まあいいか、あとで困るのは本人だ。そう思って適当にパーツやパッチの話をしてみたら、ホントに確認のために自分の世界に入ってしまった。

このアンドロイド本当に大丈夫か?

頭を抱えたくなるような心境でいると、我が友がやりきった顔でこちらにやってきた。

 

「おや、ゆかちゃんここに居たんですね」

「僕がパーツの話題を振ったら自分の世界に旅立っちゃってね」

「ありゃ、途中で離席してたのか。まあいいや。それより増田さん、お昼はオムライスでお願いします。おかわりの分もお願いしますね」

「む?」

 

我が友が味覚を失って以降、おかわりを用意してくれなんて言葉は一度も聞かなかった。

その言葉を懐かしむと同時に、何故おかわりまで必要なのか疑問が浮かぶ。

 

「多分ゆかちゃんは最初、あまりの美味しさにちゃんと味わえず食べきっちゃうと思うので」

「作りはするけど、どうして分かるんだい?ゆかちゃんと話した時間は一時間もないし、君の近くの存在には未来覗も使えないでしょ?」

「未来覗もゆかちゃんも関係無いですよ。人生で最初に食べるまともな食事が増田さんのご飯なんて、意識が飛ぶに決まってますから」

「アンドロイドが意識を飛ばすとは思えないけど…残ったら君が代わりに処理しなよ?」

「勿論。ちゃんと責任を持って食べますよ」

 

そこまで自信満々ならと、四人分のオムライスを作っておく。

そして我が友が言っていた通り、ゆかちゃんは無心でオムライスを頬張り食べきってしまった。

(ましろ)とあまりに違い過ぎて困惑する。まさかアンドロイドがここまで食事に執着するとは思わなかった。

そう思いながら、自分が食べる分の食事を用意する。

下等生物のように経口でのエネルギー補給など不要だが、我が友に「食事をとるなら一緒に」と言われているので、折衷案として全てミキサーにかけた物を用意している。

嚙み砕くための歯など無いため、流動食に加工しなければ僕は食事という行動をとれないのだ。

信じられないものを見るゆかちゃんを無視して、自分の分の食事を体内に流し込む。

 

 

食事が終わり、僕が皿洗いをする間、我が友は家の中を案内することになった。

ゆかちゃんが複雑そうな顔でこちらを見ていたが、これは僕の趣味なので任せてほしい。

二人が出ていくと途端に部屋が静かになる。それを認識して、改めて我が友がどれだけはしゃいでいるか分かる。

我が友の楽し気な姿を見られるのは僕的には嬉しいが、空回りして変なことにならないかだけが不安だ。

舞い上がった時の我が友の思考は時々斜め上の方向に飛躍する。そうなると僕でも予想できない。

とりあえず、何を言われても動けるように準備しようと思いながら紅茶を準備していると、(くだん)の我が友が戻ってくる。

 

「増田さん、出かけますよ。準備して下さい」

 

ふむ、唐突ではあるが十分理解できる範疇だね。大方、ゆかちゃんに何かを買ってあげたいと思っての言動だろう。

午後の予定が決定したところで、紅茶ができるまで少し待ってもらう。

ゆかちゃんには…まだ好みが分からないな。とりあえずストレートで出して反応を見ようか。

紅茶を見たゆかちゃんは少し悩んで、ストレートで口を付け、すぐに渋い顔になった。どうやら苦味への耐性は低いようだ。

少しミルクを足して飲み干した後、腕を組んで悩みだした。

 

相変わらず注意力散漫だなと思っていると、我が友がこちらを向いていたずらっ子のようにニヨッと笑う。

ゆかちゃんの意識がこちらを向いていない隙に、そっとカップに紅茶を継ぎ足す。

いやまさかと思っていると、ゆかちゃんは何の疑問も抱かず、ミルクと角砂糖を入れ始めた。

嘘だろと思いながら我が友の行動を静観する。2杯3杯と継ぎ足されていても、全く気付く様子が無い。

ようやく驚いた表情を見せたのは、8杯目を飲み終えた後だった。本当に大丈夫かこのアンドロイド。

 

 

ゆかちゃんが顔を覆った数分後、我が友が自室から衣類を持って戻ってきた。

…あの服は見たことが無いな。今しがた創り出した物だろう。女性が着ても違和感が無い程度に中性的な物を選んだようだ。

少なくとも、今のゆかちゃんの恰好で出歩かれると周囲から奇異の目で見られることは確実だろうし、当然だね。

そう思っていると、二人が何やら言い合いを始めた。頭髪を隠すか否かで揉めているようだ。

 

「ふむ…」

 

これは我が友が関与している程度によって、掛ける言葉が変わってくるね。

完全に記憶や記録を消しているなら我が友を擁護するけど、先のゆかちゃんの八つ当たりを聞くにその可能性は低そうだ。

情報が少なすぎる…テレビならば地球の事情が知れるだろうか。そう思い報道を見ると、絶賛アンドロイドについての危険性を説いてる最中だった。

これは、ゆかちゃんを持ち帰った辺りしか関与していないな。

 

「貴様もゆかちゃんのマスターなら、自分の我儘よりも、ゆかちゃんに周囲の目が向かないよう配慮するのが第一だろう?」

 

正直に言って、ゆかちゃんが奇異の目で見られることなど僕にとってはどうでもいい。

我が友は、人間が見て間違ってると思考する言動や我が儘に対して指摘してやると何故か喜ぶため、あえて厳しい口調で接している。

だが、何でもかんでも否定をすると返って落ち込んでしまう。ここの線引きを見極めるまでは非常に大変だった。

人間の思考は随分とややこしく面倒だ。我が友が喜ぶでなければここまで真剣に取り組むことは無かっただろう。

仕方なくそれらを創り出すために部屋に戻った我が友。浮かれている我が友の言動に思わずゆかちゃんに愚痴ってしまった。

 

戻ってきた我が友だが、納得がいかないのか未だに不満な顔をしている。

僕どころかゆかちゃんさえ気づくほどの露骨さに思わず溜息が出た。

ゆかちゃんを部屋に向かわせて、「いい加減にしろ」と我が友をたしなめてやる。

 

「そんなに不満ならこっちにも関与すればよかったものを」

「なんだかんだでこれが最適解だったんですよ」

 

未来覗ができる我が友が最適解とまで言うのなら、アンドロイド達にとって関与しないのが正解なのだろう。

だが、それを優先したせいで自分が不服な状況になっているのは呆れるしかない。

今からでも関与すれば良いだけなのだが、それをせずアンドロイドの未来を優先するのなら、今回は諦めろと言うしかない。

全く、もっと自分本位の言動をしても誰も文句など言わないのに。

 

戻ってきたゆかちゃんは元来の顔の良さも相まって、見れば誰もが振り返るような美人になっていた。

しかし、よく見れば微かな違和感を覚える。それは僕よりも我が友が機敏に感じ取っていたようで、手慣れた動作で髪の位置を動かしながら魔術の術式を組んでいく。

我が友が離れると、ウィッグが違和感無く被せられ、顔が目立たない程度まで崩されたように見える所謂[一般的な女性]が佇んでいた。

隠匿の魔術の組み合わせとは、随分と器用なことをする。まあ、あのまま外出したらアンドロイドとバレなくても目立つし当然か。

本当に、ちゃんとしていれば優秀なんだけどなぁ。

 

その後、ゆかちゃんの要望で夕食はデパートで外食となった。外での食事なんていつ以来だろうか。

普段なら既に夕食の仕込みが終わっている時間だが、我が友の食事が必要になるか分からなかったので準備してなかったのは幸いだ。

しかし、外食までしたいと言い出すとは、どれだけ食事への執着を持ってるのだろう。

 

「さて、出発しましょうか」

 

我が友が手を叩いて神の力を行使する。家の玄関を目的地から少し離れた()()に繋げ、外観を普通の一軒家に見えるよう認識阻害を行ういつもの手順だ。

ただ、この認識阻害も完全ではない。創造神(我が友)が近くにいるせいで精度が下がるし、その上アンドロイドのような無機物生命体には効きづらいのだ。

案の定、ゆかちゃんは認識阻害を掛けた廃屋を不審に思っており、我が友が無理矢理こちらへ認識を向かせている。

その後のゆかちゃんの発言で分かったが、どうやら我が友と僕の姿に認識阻害は行っていないようだった。

…思えば当然か。常に視界に入るような状況では遠からず阻害は剥がれる。それよりは最初からこの恰好を晒してたほうが良いな。

 

移動を始めて10分、町中が珍しいのか周りを見回すゆかちゃん。

完全に注意力散漫になっており、すでに我が友が3回も能力で衝突回避を行っている。

目の前の危険に気づけない姿はまるで幼子のようだ。頼むからもう少し落ち着いてほしい。

そう思っていると、降ってきた雪に気付いてそのまでクルクルと回り始めた。願いが届かず残念だ。

我が友は我が友で、その姿を納める為にカメラを回し始めた。…君が楽しいなら、それでいいんだけどさ。

 

そこから更に数分、ようやく被写体になっていることに気付いたゆかちゃんが抗議してきた。

我が友は一切気にしておらず続きを促すが、ゆかちゃんは頬を膨らませて顔を背けてしまう。

そんなことまでするのかアンドロイド…。そんなことを思っていると我が友が焦った声で話しかけてくる。

 

「大変です増田さん!ゆかちゃんの可愛い言動、ベスト100万では足りなくなりそうです!」

 

心底どうでもいい悩みに、思わず投げやりな返答をしてしまう。

ゆかちゃんの可愛い言動なんて、我が友以外に需要が無い。見る時に僕を誘わないでくれよ?

そんな物より、我が友の可愛い言動でもまとめてくれたら、少なくとも僕と(ましろ)の二人には需要がある。

どうせなら、ゆかちゃんのよりもそちらを作製してほしいな。

そんな心情を表に出すこと無く、僕が先頭に立って歩き始める。

 

 

デパートの中に入り、ようやく着いたかと一息吐く。いつもより移動が長く感じたな。

やれやれと思っていると、向こうから警備員が走って近づいてくるのが見えた。

あぁ、魔力耐性の高い人間は僕達の姿に違和感を覚えちゃうんだよね。

身分証を提示しろと言われたのでそれを見せつける。我が友が偽造した物だが、よほど高い魔力耐性を持っている人間でもなければまずバレないとのこと。

警備員をやり過ごすと、我が友の意向で洋服を買いに行くことになった。洋服か…我が友が暴走しなければ良いけれど。

 

洋服屋の前で我が友が好きな物を好きなだけ買って良いとゆかちゃんに発言する。相手の遠慮などの人間性を見る時に使う言葉だ。

物欲の少ないアンドロイドには不要な質問かもしれないが、人に寄り過ぎているゆかちゃんの思考を知るには最適だろう。

そう思ったので、こちらに目で訴えるゆかちゃんに対して肩をすくめておく。好きなように選ぶと良い。

 

しばらくして、僕の目に飛び込んだのは籠いっぱいの衣類を運ぶ我が友の姿。

まさか、ここまで躊躇なく散財できるような性格をしていたのか。流石にそれは予想していなかった。

だが、肝心のゆかちゃんの姿が見えないな。まさかまだ洋服を漁っているのか?

少し探すと、3着ほどの衣類を持ってるゆかちゃんを発見したので声を掛ける。

 

「この3着を買っていただこうかと思います」

「・・・それだけか?」

 

彼女の口ぶりから、その3着のみを購入してもらうつもりであると分かって、思わず驚いた声色を発してしまった。

その後の、自分に大量の衣類は不要という彼女の言葉を聞きながら、思わず頭を抱えそうになる。

まーた我が友が独断で大量買いをしている…。

ゆかちゃんが持ってた衣類を受け取って会計をする我が友を見て、溜息を吐いて愚痴ってしまう。

何故我が友は学習しないのか。何故我が友は同じ行動をとってしまうのか。そう思いつつアイアンクローを食らわせる。

 

「過度な甘やかしで何度痛い目に遭って来たか忘れたか?」

 

気に入った相手はとにかく甘やかしたいというのは我が友の悪癖だ。これのせいで何人の良妻が堕落した悪女に変貌したことか…。

これも、神に成る前からある元来の奉仕体質と自己肯定感の低さから、物を与えて相手の気を引くことが常習化してることが原因だ。

性格改変は嫌だと言いつつ、自分がやっている事が長期的な性格改変なのでは?と思わなくもない。

そんなことを考えながら我が友の頭をギリギリと締め付けていると、その我が友から念話が入る。

 

『この後ですが、少し増田さんには別行動をしててほしいんです』

『おや、ゆかちゃんと二人きりになって何をするつもりかな?』

『ゆかちゃんには何もしませんが、この後にちょっとした騒ぎが起きます。

アンドロイドの今後を左右するような重大なものではありませんが、恩を売るついでに顔を覚えてもらおうかと』

 

どういう意図で接触しようとしているのかは不明だが、我が友がわざわざ僕に離れててほしいと言うほどだ。

僕の存在感で想定している動きが阻害されると言うなら、僕は目立たない場所で観察させてもらおうか。

梱包された衣類を受け取り、一時的に二人と距離を取る。

 

それから少しして、我が友が言っていた騒ぎの一部始終を見させてもらった。

そんな大した男には見えなかったけど、『黄井 麻斗(おうい あざと)』の名を教えるなんて、そんなに重要な人物なんだ。

 

我が友の()()は、僕の信者になる時に貰い受けた。僕が望んだわけじゃなく、勝手に盛り上がって勝手に渡してきただけだけど。

その時から、我が友は他人に本名を名乗ったことは無い。僕が命令、呪詛、魔術、何かで縛ったわけでも無く、明かしても罰があるわけではない。

我が友は自主的に、自らの意志で自分の名前を開示しなくなった。それは、何億年と連れ添ってきた(ましろ)にすら本名を名乗らないほど徹底して。

その代わりに、我が友は幾つもの偽名を持っている。僕の化身と宇宙創造の神の名をもじった黄井 麻斗(おうい あざと)は、その中で最上位に位置している。

本来はよほど信頼できるか、親密になりたい相手にしか開示しない名前を伝えたということは、相当重要な人間ということだろう。

その二人が見えなくなったのを確認し、僕は我が友と合流した。

 

そこから少しして、ゆかちゃんが切望したオムライス専門店に入店する。

席に着く前に配膳される食事をチラリと見る。予想通り大したことない出来だ。体内に入れるに値しないな。

だが、飲食店で注文をしないのも失礼か。さてどうしようと悩んでいると、我が友が軽く衣服を引っ張ってきた。

 

「代わりに食べますよ」

「いや、しかし…」

「外食する時に覚悟してましたよ」

 

味覚が機能しなくなった我が友に肩代わりしてもらうのは非常に心苦しいが、ここはお言葉に甘えさせてもらう。

対面で食べているゆかちゃんも微妙な表情をしているが、我が友曰く100点中30点の、大衆向けの料理店としては高得点の評価を下している。

総合的に考えたら美味しい部類だけど、僕の料理と比べると色々と粗末な部分があるし、先に僕の料理を食べさせたのは完全に失敗だよね。

誰が見ても分かる顔色の変化を見ながら、とりあえず我が友を煽っておく。やーいバーカバーカ。

さて、今後も同じことは多々あるだろうけど、ゆかちゃんはどう判断するかな。

 

「増田さんのご飯を毎食食べたいです」

「うむ」

「増田さんに寝取られちゃったよ」

「寝てないし寝てから言え」

 

…ふむ、今日はメンタルが安定しているようだ。

普段の我が友なら、自身の過去を想起するような発言は控えているのだが、自分からふざけて言える程度には調子が良いようで何よりだ。

料理は大したことなかったが、色々と面白い外出だったなと思いながら、僕達は帰路に着いた。

 

 

帰宅し、配信の時間が近づくにつれ、ゆかちゃんの落ち着きがなくなっている。今更配信に不安になってるようだ。

我が友なら何とでもフォローできるだろうし、とりあえず僕からもいい感じの言葉は贈るけど、流れを見てなかった自身の自業自得だからねこれ?

不安がってるアンドロイドを適当にあしらい、画面に映らない場所へ移動しておく。

 

ゆかちゃんの心配は杞憂だったと言わんばかりに、何の問題も無く配信は続いている。

まあ、ゆかちゃんが途中で逃げたりしない限り、基本的に事故なんて起きないわけだけど。

今は例の格闘ゲームで新参いじめの最中だ。アンドロイドでもあの動きは見切れないのか…。

そんなことを思いながら二人の対戦を見ていると、我が友から念話が送られてくる。

 

『増田さん、そろそろ参加してゆかちゃんと交代しましょう』

『今回はゆかちゃんと二人でやるんじゃないのかい?』

『そっちの方が面白くなりそうですから』

 

ふむ、我が友がそう言うのであればと、悔し泣きするゆかちゃんの代わりに我が友の隣に座る。

さてさて、我が友に半ば無理矢理やらされてるゲームだけど、未だ本気の我が友に勝てないんだよね。

でも、僕もいつまでもサンドバックにされるのは癪だからね。いい加減に白星の一つでももらわないと。

そう思ってはいるんだけど、流石に我が友は強いね。けど、ゆかちゃんを抱き締めたまま足で操作する舐めプに負けるのは、ちょっと腹立たしいね。くそが。

絶対にいつか負かすと心に決めながら、3人でプレイできるゲームを色々と楽しんだ。

 

 

 

「今日はアイスを作ってみたが、食べるか?」

「お、いいですね。冬場の温かい部屋で食べるアイスは趣がありますよ」

 

長時間の配信で体が火照っているだろうと思い、用意していたアイスを冷凍庫から取り出す。

我が友は味覚こそ無くなっているが、季節によって移り変わる食事をしっかりと楽しんでいる。

旬の食材や季節に合った料理を覚えるのは中々大変だったが、我が友のためと思えば何ら苦ではない。

思いながら先の配信について軽く話していると、ゆかちゃんが再起動したのかこちらへやってきた。

用意したアイスを頬張り、やはり無心で食べきってしまう。そればかりか、我が友に遊ばれて涎まで垂らしてしまう始末。

しかし我が友も、今のが間接キスと呼ばれる行為になると理解しているのだろうか?ゆかちゃんを浴室に誘導して聞いてみるかな。

 

一度劣情を吐き出させ、スッキリした表情で我が友が戻ってくる。

そこからまた他愛のない雑談をするが、一向にゆかちゃんは上がってこない。

 

「ところで、ゆかちゃんは随分と長風呂だけど大丈夫?」

「今は…ちょっと熱めの湯船に浸かってますね。次の湯船に移動し…ぶっ倒れ……ちょっと救助してきます」

 

少し焦った様子で部屋を出ていく我が友。しかし、お風呂で倒れるって…本当に…いや、もういい。もう何度も思った。

とりあえず氷水を用意して待っていると、脱力したゆかちゃんを抱えた我が友が戻ってくる。

ゆかちゃんをソファに寝かせ、何故倒れたのか原因を調べた結果、どうやらのぼせたらしい。…アンドロイドが、のぼせる…?…うん、考えるのはよそう。

その後、うつ伏せで寝そうになっているゆかちゃんを自室へ運んでいく我が友。やれやれ、随分と騒がしい一日だったね。

さて、この後の話し合いのためにコーヒーを準備しておかないと。そう思いながら、僕は準備を始めた。




クロスオーバータグの伏線回収?
増田さんのマスターに対する矢印はとても多いです。
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