・いつもの格好-パーカー
私が羞恥から立ち直った数分後、マスターが自室から戻ってきました。
その手にはジーパンと厚手のコートを持っています。
「はいこれ、今回の外出用にゆかちゃんにあげるね。新しいの買ったら捨てちゃっていいから」
「そ、そんな、私はこれで十分ですから!」
見ればマスターが持ってきた服は何度か着られた形跡があります。
マスターの私服を頂くなんてとんでもないです。私はこのデフォルトの服でいいです。
そう思って断ったのですが、マスターが唖然とした顔をしていました。増田さんもそんな雰囲気を醸し出しています。
「え、ゆかちゃんまさか、その服で外出するんです?」
「え?えーっと、何か問題が・・・?」
「・・・ゆかちゃん、その衣類は一般的な感覚を持っている者からは痴女と判断されるぞ」
な、なんですと!?私のデフォルト服を指して痴女と言いましたか今!?
確かに、付属のうさ耳フード付きのパーカーは最初のマスターに不要だと捨てられてしまいましたが・・・。
それでも痴女と呼ばれるのは心外です!
そう思って増田さんを見ましたが、増田さんは無言で首を振った後マスターを見ました。
マスターは腕を組んでとびきりの笑顔になりました。
「ゆかちゃん、今の服は部屋着か僕を誘惑する時に使いましょう!」
「つ、使いませんよ!」
まさか私とお二人でここまで認識の差があるとは思いませんでした。
というか、お二人の感覚が一般的なのだとしたら、結月ゆかり型って周りから痴女と思われてるってことですか!?
「この阿呆の戯言は流しておけ。しかし、せめてパーカーがあればマシに見えるが、今はバスタオルを巻いてるようにしか見えん」
「ですねー。それに夏場なら辛うじて擁護できますが、真冬でその恰好は僕たちも奇異の目で見られますよ」
言われて初めて、私は今の季節が冬なのだと知りました。
この家の断熱材が優秀なのか、室温で季節の特定ができませんでした。
そういえば、私が暴れて撃たれたのも12月でしたが、あれから一体何日経過しているのでしょうか。
・・・あ、時計機能がありましたね。えっと、今は件の暴走事件から3日が経過したところですね。
・・・え?3日?たったの3日で私は再起動したのですか!?
「・・・?ゆかちゃん?急に黙ってどうしたんです?」
「いえ、その、私が破壊されてから3日しか経っていなかったのだと改めて気付きまして」
「あー、そういえばその辺の情報共有って全くしてませんでしたね」
マスターは頬をポリポリと搔きながら苦笑いをしています。
いえそもそも、たった3日で私を完全修復するなんて到底不可能です。断言できます。
何故なら、私達アンドロイドは量産品ではありますが、原材料や部品の良し悪しで微妙に個体差があります。
別売りのパーツとも相性があり、特注でパーツを注文する時はお店で事細かにデータを採らなければなりません。
その個体にとって完全に合うパーツともなれば、納期が数ヶ月先なんて当たり前なのです。
ですが、マスターが取り付けてくれたパーツは、私本来の物と相性は完璧です。
これほど緻密に調整されたパーツを用意して、それら全てを対応させるプログラムを組むなんて3日では無理です。
一体どのような魔法を使ったらそんな芸当ができるのでしょうか。
「まあ僕は神様なので、言葉で表現できない凄い力で何とでもできるわけですよ」
「マスター、段々説明が雑になってきていませんか?」
マスターの神様設定が出てきた事で、このことも触れられたくないのだと私は察しました。
秘匿される事が多い事に若干うんざりしますが、内情を教えられるのも少し怖いです。
・・・うん、神様設定を話し始めたら追及は控えましょう。
いえ、ここでの問題はそうではありません。
「それよりマスター、私が起こした騒動から日が経ってないのですから、この姿で外出するのはマズいと思うのです」
どのような経緯があろうと、結月ゆかりというアンドロイドが世間を騒がせたのは事実です。
今は結月ゆかり型だけでなく、アンドロイド全体が世間から危険視されていてもおかしくありません。
そんな状況で外を歩けば、周囲からどのような目を向けられるのかなんて想像に難くありません。
「頭髪と瞳の色を変えれば、誰も私を結月ゆかりと認識することはできないと思うのですが」
「嫌です」
髪と瞳の色が違えば、簡単に身バレすることもないはず。そう思って発言したのですが、即答で拒否されました。
マスターは非常に不服そうな顔をしていますが、真剣みに欠ける様な、そんな雰囲気が感じられました。
例えるなら、欲しい物を買ってくれなくて駄々をこねる子供の様な、そんな感覚でしょうか。
「それってゆかちゃんの個性を潰すってことですよね?せっかくの綺麗な髪と瞳を隠すなんてもったいないから嫌です」
「もう、なんですかそれ・・・」
私は呆れた声を出した、つもりでした。
ですが、私の声帯から発せられたのは、呆れよりも嬉しさが溢れる、そんな声色でした。
なぜそんな声がと一瞬考え、今までのマスター達から受けてきた言葉を思い返し、納得しました。
『アニメみてーな髪色だな、リアルでこんな色で作るかフツー』
『なんだよこの目の色、キモチワリー』
私が今まで否定されてきた事をマスターは全て肯定して下さったのです。
チョロい女と思われるかもしれませんが、今までを考えたら嬉しくなってしまうのは仕方ないと思ってしまうのです。
そんな私とマスターのやり取りを、増田さんは「ふむ・・・」と腕を組んで聞いています。
マスターの感情的な意見を否定せず、どちらの味方をしようか決めかねているのは、私がマスターの言葉に喜びの感情を返したからでしょうか。
少し悩んでいた増田さんが、おもむろにテレビを点けます。
お昼過ぎのワイドショーには専門家や芸能人、アイドルが集まり、アンドロイドについての談義を行っていました。
アンドロイドとの共存、アンドロイドの危険性、アンドロイドと紡ぐ未来について。
途中で芸能人がいじられたり、番宣が挟まれたりと、微妙に真剣みに欠ける内容ですが、当事者である私にはタイムリーな話です。
その様子をジッと見ていた増田さんでしたが、ため息を吐いた後、テレビを消しました。
「現状、アンドロイドを危険視する声がある以上、ゆかちゃんの意見が正しい事は明白だ。
貴様もゆかちゃんのマスターなら、自分の我儘よりも、ゆかちゃんに周囲の目が向かないよう配慮するのが第一だろう?
周囲の眼差しを受けて、嫌な気持ちになるのは貴様ではなくゆかちゃんなんだぞ?」
増田さんに叱られたマスターが「分かりました」と力なく返事をして自室へ向かいました。
聞けば、ウィッグとカラーコンタクトがあるようで、それを取りに行ったらしいです。
・・・どうしてそのような物を持っているのでしょうか?
「・・・ゆかちゃん、アイツも普段はここまで考え無しではない。
久しぶりにアンドロイドを迎えた事で浮かれているようだ。そこを理解してほしい」
「・・・マスターはアンドロイドを所有されていたのですか?」
「ああ、もう二度と会えないと言っていた。・・・この話はあまりアイツに言わないでくれるか?また気落ちすると面倒になる」
それだけ言うと、増田さんは口を噤んでしまいました。これ以上喋ることは無いと言う事でしょう。
私も、わざわざ昔のアンドロイドについて言及はしません。マスターを傷つけてしまうだけでしょうし。
しかし不謹慎ですが、この家の事を、マスターの事を教えて下さった事に関しては少し嬉しく思ってしまいます。
本当に、この家の人は謎が多いですからね。
「はいゆかちゃん、ウィッグとカラーコンタクト。ゆかちゃんの部屋に姿見があるから着替えてきてね」
マスターが自室から戻ってきましたが、その笑顔の裏には不満の表情が見えます。
どうやら、まだ私の髪と瞳を隠すのを不満に思っているようです。
そして増田さんもマスターの心情に気付いているようで、深いため息を吐きました。
「ゆかちゃん、この馬鹿は無視して着替えに行け。こっちで話はしておく」
「えっと・・・はい、お願いします」
私はマスターが持って来て下さった物を受け取り、そそくさと部屋を出ます。
後ろで「いい加減にしろ」とマスターを咎める声が聞こえてきます。
「そんなに不満ならこっちにも関与すればよかったものを」
「なんだかんだでこれが最適解だったんですよ」
「なら今回は諦めろ」
少し聞き耳を立てていましたが、会話の内容がよく分かりません。
恐らく聞いたとしてもまたはぐらかされるでしょう。
私は諦めて自室に向かいます。
私はマスターから頂いたジーパンとコートを着て姿見の前に立ちます。
ふわふわの白色のファーが付いた濃い灰色のコートに、藍色のジーパンを履いた自分自身の姿。
比較的シンプルですが、今までお洒落をしたことが無い私にはとても新鮮なものでした。
次いで、ウィッグとカラーコンタクトを付けていきます。
アンドロイドの髪が付いた頭皮と頭部は別々のパーツで構成されている為、容易に換装が可能です。
私はパーツの境目になる部分を動かし__違和感に首を傾げました。
本来ガコンと取れるはずのパーツが完全にくっついていて外れなくなっているのです。
もしかしてと思い、上瞼と下瞼の部分を同時に指で押してみます。
眼球も別々のパーツなのでゴロリと取れ__ませんでした。
頭皮も眼球も完全に一体化されており、換装などしないという強い意志を感じます。
何故、なんて思うまでもありません。先程マスターに言われたのですから。
「綺麗な髪と瞳を隠すなんて嫌です、か」
無意識にマスターに言われた言葉を呟きました。
どうしましょう、ニヨッと上がった口角が元に戻りそうにありません。
何度も何度も確認するように、取り外せない頭皮と瞼の辺りをペタペタと触り、喜びを嚙み締めます。
口だけでなく、こうやって行動で示してくれる。それがとても嬉しいのです。
しかしそうなると、今からその髪と瞳を隠してしまうのが申し訳なくなりますね・・・。
ですが、変装しなければまともにお出かけできませんし、仕方ありません。
髪の毛を纏め、できるだけ自然な感じになるようにウィッグの毛を整えます。
背中までの長さのある黒色のストレートヘアの私が姿見に映り、これだけで私と気付かれない様な気がします。
キュッと瞼を広げ、瞳に重なるようにカラーコンタクトを付けます。
こげ茶色のコンタクトによって薄紫色の本来の瞳が隠れます。
「おぉ・・・」
姿見には大和撫子な美女が映っています。
自画自賛かよと思われるかもしれませんが、私達アンドロイドは客観的に美女に見えるように作られている為、当然と言えば当然なのです。
開発陣曰く、売り上げに直結するから、だそうですが、私に言わせれば非常に迷惑な話です。
その整った顔のせいであんな目に遭ってきたのですから。
・・・っと、お出かけの前に暗い雰囲気になってどうするのですか私。
せっかくの[初めてまともに出る外]なんですから、もっと楽しい顔をしないと。
少し無理矢理に口角を上げ、自然な笑顔が出来たら準備OK、リビングへと戻ります。
ソファに座って雑談しているお二人が、私に気付いて視線をこちらへ向けました。
増田さんから「ほぉ・・・」と感心した声が出たので、大きな違和感は無いはずです。
ですが、マスターからは何の言葉も頂けません。ただ真顔でジーっと私を見ています。
マスターにしてみたら不本意なので、面白くないでしょう。
そう思っていると、マスターが表情を変えずにこちらへ歩いてきて、私の両頬に手を添えてきました。
「カラコンに違和感が無いか確認するよ。目を上下左右に動かしてみて」
私の顔をジッと覗きながら、マスターが真剣な顔で語りかけてきます。
私は言われた通りに目を上下左右に動かし、その都度マスターは自分と私の顔の角度を変えて確認しています。
とても恥ずかしいので早く終わって欲しいと思いながら顔を赤くしていると、マスターが何処からか櫛を取り出しました。
私の周りをくるくると回りながら、ウィッグの髪を櫛で梳いたり、指でつまんで移動させたりしていきます。
念入りな確認と微調整が終わったのか、マスターは私の正面に立って大きく頷きました。
「はい、バッチリです。これで誰もゆかちゃんを『結月ゆかり』と認識できないでしょう」
姿見で結構確認したと思ったのですが、少しウィッグの位置が悪かったようです。
チラリと増田さんの方へ目線を移すと、増田さんも大きく頷きました。
「ちゃんとしている時のコイツは優秀だ。信じて問題ない」
「増田さん、それじゃ僕がちゃんとしてない時がダメダメみたいじゃないですか」
「自覚があるようで何よりだ」
最初は冷たいと思っていた増田さんの言動も、お二人の関係性を聞いた後だと見方が変わりますね。
お互いが分かっているからこその遠慮のないやり取りだと今なら分かります。
そんなお二人の気さくなやりとりが、少し羨ましいと思ってしまいます。
アンドロイドである私は、人間であるマスターにあのような態度はとれませんから。
「それで、場所は決まったのか?」
「はい、徒歩で40分程かかりますが、『チカイデパート』なら品揃えも豊富で良いかなと」
これから向かう場所の名前が出た時、ドクンと体内の液の循環が早くなるのを感じました。
こんな我儘を言ってしまっていいのでしょうか。機械の分際でと一蹴りされてしまうでしょうか。
・・・いえ、今までの言動から、マスターはそのような事を言う人ではないと思っています。
ダメもとで、頼んでみましょう。
「あ、の、マスター、少しお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「お?おぉ、お願いですか!ゆかちゃんの初めてのおねだりですね!
今日を記念日にしましょうか?それとも思い切って祝日にしちゃいますか?」
「落ち着け馬鹿。それでゆかちゃん、お願いというのは?」
急に暴走を始めたマスターを増田さんが一喝してくれました。
正直助かりました。あのままのテンションで喋られては、本当に記念日にされかねません。
私はそっと安堵の息を吐きました。
「その、ここのデパートには有名シェフが監修したオムライスの専門店がありまして。
一度で良いので、それを味わってみたいな・・・と・・・」
何を隠そう、私がオムライスを食べてみたいと思ったのは、そのお店を特集したテレビを見たからなのです。
いえ、正確には私で性を発散し終えた元マスターが休憩がてら見ていたのを横目で見ていただけなのですが。
そのオムライスは当時の私と対照的に、とてもキラキラしていて、だからこそそれに惹かれたのだと今なら分かります。
私のお願いを聞いたマスターが、笑いを堪える様に口元へ手を当てました。
「お昼にオムライスを食べて夕ご飯もオムライスが食べたいなんて、ホント好きなんですね。
僕は構いませんよ。増田さん、どうです?」
「ふむ・・・問題ない。幸いにも今日は夕飯の仕込みもしてないからな」
何の問題も無く、夕ご飯の予定が決まりました。
憧れだったお店のオムライスが食べられる事になり、嬉しさで飛び跳ねたい気持ちをグッと抑えます。
が、表情までは抑えられなかったようで、マスターが私の顔を見て微笑んでいます。
恥ずかしさに体内温度が上昇するのを感じます。
「さて、出発しましょうか。遅くなると日が暮れてしまいますからね」
マスターがパンと手を叩き、話を区切りました。
増田さんがコクリと頷いて玄関へ向かいます。
私もパンパンと頬を叩いて気持ちを切り替え、増田さんの後を追います。
玄関を出ると急激に温度が下がり、自然と体が縮こまってしまいます。
これほどの気温差を感じるとは、この家の耐冷性はとても高い事を実感します。
私はコートに首を埋めながら、ゆっくりと辺りを見渡しました。
周囲に他の民家は無く、樹木が生い茂る森の中の一軒家なようです。
良く言えば自然豊か、悪く言えばとても田舎です。
一応目の前の道路はアスファルト舗装されているため、車の通行は多少はあるようです。
しかし、こんな場所から徒歩40分の場所に件のデパートがあるのでしょうか。
クルリと振り返って我が家を見ます。
両側に塀がある、所謂「極一般的な2階建ての一軒家」という装いで、他人の印象に残らなそうな見た目でした。
そう思ったところで、私は首を傾げました。マスターに案内された時の部屋の形状から試算した大きさと外見が一致しないのです。
家が奥に長い?いえ、マスターに案内された際にマッピングしましたが、どちらかと言えば正方形に近いハズです。
うーん、と首が段々と横を向いていく私。その両頬に突然マスターの手が添えられ__ちょっと強めに挟まれました。
「にゃにふぉひゅるんでふかまふたー!?」
「首が横を向き過ぎて落ちそうだったので支えてます」
「はにゃひへふらひゃい!」
二ヒヒと悪戯っぽく笑うマスターに首の角度を戻され、ようやく私の頬っぺが解放されました。
ふぅと息を吐く間に、マスターはまた何処からか櫛を取り出してウィッグを整え始めました。
ああそうでした、今私はウィッグを付けていたのでした。あまり動いてはいけませんね。
「終わったか?いい加減に移動するぞ」
「は、はいっ!」
「はーい」
呆れの感情が籠った増田さんの言葉に返事を(マスターは生返事を)し、増田さん先導で歩き始めます。
と、前と横を歩くお二人の格好の違和感に気付きました。
マスターは防寒こそしていますが、頭と腕の包帯はそのままで、増田さんに至っては外套+ガスマスクの姿のままです。
「あ、の、お二人はその恰好のままなんですか?」
「む?ああ、別に困らないからな」
「この包帯は僕の神力の源である神体を隠す意味合いがありますので。人には見るだけで毒なので人前では取れませんね」
・・・私よりもお二人の格好の方が目立つと思うのですが、それも私が間違っているだけなのでしょうか。
どこか釈然としませんが、お二人が良いのなら良いのでしょう、と私は思考を停止させました。
歩き始めて10分程で、周りの景色が住宅街になりました。
様々な色や形の民家が立ち並ぶ道を見渡しながら歩きます。
世界とは、こんなに色鮮やかだったんですね。
「・・・おや?」
チラリと私の視界の端に、白く輝く物が映りました。
アスファルトの道路に落ちて消えたそれを見て、私はゆっくりと空を見上げます。
ふわふわで真っ白な雪が、微風に揺られながら降ってきています。
そっと手を前に出すと、手の平に降りてきた雪が体温で溶けました。冷たいです。
次の雪を掴もうとすると、ふわりと避けられてしまいました。
薄い雲の隙間から覗く太陽の光を浴びて、キラキラと光りながら落ちていきます。
「わぁ・・・!」
腕を振るうと、周りに降っている雪が風圧に煽られて舞い踊ります。
雪がイルミネーションの様にキラキラ光りながら舞っています。
両腕を広げてクルクルと回れば、周囲の景色が全て輝いて見えます。
世界とは、こんなにキラキラと輝いていたんですね。
どのくらい回っていたでしょうか。ふと、視界にお二人の姿が入りました。
腕を組んで静観している増田さんと、ビデオカメラを片手に微笑んでいるマスター。
そ、そうです!私はお二人と移動している最中だったじゃないですか!なんで忘れてしまうのですか!?
というか__
「マスター何を撮っているのですか!?」
「ゆかちゃんの可愛い言動ベスト100万ですよ。完成したら一緒に見ましょうね」
「なんですかその恥ずかしいビデオ!?やめて下さい!」
私の可愛い言動って、それ完全に私の羞恥映像じゃないですか!
そんなの見さされたりしたら羞恥で死んでしまいます!
というかそれいつから撮ってたのですか!?
「ゆかちゃんが初雪に感動するところからバッチリですよ。あ、気にしないで続けて下さい」
「い、嫌ですよ!もうマスターったら、知りません!」
私達アンドロイドは、当然マスターもとい人間に手を上げる事はできません。
なので私は、頬を膨らませながらプイっと横を向きます。私だって怒るんですよという最大限の抵抗です。
ふとマスターの様子を見ると、マスターは唖然とした様子で私の事を見ています。
私は何か変な事をしたのでしょうか?
「大変です増田さん!ゆかちゃんの可愛い言動、ベスト100万では足りなくなりそうです!」
「なら億でも兆でも那由他でも増やせばいいだろう」
「増田さん・・・もしかして天才ですか!?」
「貴様が阿呆なだけだ」
などというやりとりが行われて初めて、私は自分がどういう言動をしたのか認識しました。
途端に全身が熱くなります。熱暴走を起こしそうな程に顔が熱いです。
何で私はあんな言動をしてしまったのですか!?
これ以上恥ずかしい言動を記録されない様にしなければ!
私は赤くなった顔を隠す様にお二人に背を向け「もう、好きにして下さい!」と言って歩き始めました。
後に、本当に出来上がってしまった『私の可愛い言動』に、この発言までも記録されていたことを当時の私は知る由もありませんでした。
左目右手左足を包帯で覆ってる綾波〇イみたいな恰好の奴と
全身黒ずくめにペスト医師の防毒マスクを被った恰好の奴に
「その恰好はちょっと・・・」って言われるゆかちゃん可哀想