投稿が遅れてすみません。
不知火にとってイ級二隻を沈める事はそう難しい事では無かった。
集団での戦闘や連携などは、訓練を殆ど行っていない不知火には難しかったが、一人での戦闘なら不知火には自信がある。
それは他人を気にせず自分の思うように戦えるからだ。
そして何よりeliteでもないただのイ級に負ける事など建造まじかの駆逐艦でも早々ないからである。
事実、不知火は戦闘開始前の不安が嘘のように完全勝利した。
一隻は砲弾によって幾つもの穴を穿たれて沈み、もう一隻は酸素魚雷によって船体が二つに割れて轟沈した。
対して不知火にはこれといった傷は無く開始前との違いは精々魚雷発射管の酸素魚雷が一本減っている程度だろう。
『殆ど訓練をサボっているのに、かなり手際がいいですね、少し関心しましたよ』
夕張がその手際を褒めるが不知火は特に気にせず、沈んでいくイ級を見ながら目をつぶり手を合わせていた。
『深海棲艦に合掌するなんてやっぱり変人ですね貴方』
「ただの癖です、それに貴方だって十分変人じゃないですか」
『貴方ほどじゃないですよ、まあなんにせよデータは十分得られたので早く帰還してください』
そう言って夕張は通信を締めくくった。
不知火は
「・・・」
しかし不知火には一つだけ気になることがあった。
それは戦闘が終わったにもかかわらず、戦闘前にも感じていた不安が未だ消えていない事だ。
まだ何かあるかも知れない
そんな言葉が頭に浮かんだが、不知火はそれが自分の妄想や憶測にすぎない事も理解していた。
水上を走りながら、頭の中で色々な考えが飛び交うが、結局はただの妄想に過ぎないと不知火は結論づけようとした。
そんな時だった。
ピー!ピー!ピー!
けたたましい音と共に艤装が通信を受信する。
それはよほど緊急性が高いのか暗号化されておらずただ平文で同じ文言を繰り返していた。
「救援を求む」
しばらくして通信の発進場所に不知火が到着した時、不知火が感じたのは、もう手遅れだと言う、感想だった。
深海棲艦の数は四隻で重巡リ級が二隻、戦艦ル級が二隻であり、通常ならば主力艦隊か精鋭の水雷戦隊で相手をするような相手だ。
対して艦娘は大破した軽巡洋艦が一隻、改にも成っていない駆逐艦が加わった所で焼け石に水だろう。
鎮守府に連絡しても到底、間に合う距離ではない。
不知火に残された選択肢は艦娘を見捨てて逃げるか、圧倒的戦力差の中で艦娘を救援するかの二択であった。
選ぶべきは逃げ一択だ。
味方の救援は艦娘の義務とは言え、私が介入したところであの艦娘を助けられる可能性は低い。
更に自分は一応とはいえ極秘任務をやらされている以上バレる訳にはいかない、それにあの艦娘を助ける義理も私にはな・・・
『ここの艦娘は皆家族みたいなもんなんだよ・・』
ふと提督の言葉が頭に浮かぶ
提督にとってあの鎮守府の艦娘は全員大切だ。
更に艦娘同士も恐らく私を除いてそうなのだ。
私には、拾ってくれたくれた陽炎、そして鎮守府に受け入れてくれた提督に恩がある。
あの艦娘は距離的におそらくうちの遠征艦隊の一人だ。
つまり提督にとって大切な存在の一人と言う事だ。
それならば私のやるべき事は一つしかない。
私は手袋をはめ直し速力を上げた。
「大丈夫ですか?」
この場の全員が不知火へ視線を向けた。
主砲の砲撃を受けたル級は木曽への砲撃を止めたがその体に傷は殆どなく、不知火を見ると少し怒りの感情を見せたが自分の優位を確信しているせいか薄ら笑いを未だやめていなかった。
他の深海棲艦も一瞬だけ怯んだが相手が駆逐艦一人と見ると余裕を見せ始める。
だが圧倒的劣勢の中で追い詰められて神経が研ぎ澄まされていた木曽は不知火の方向から薄い三本の雷跡が近づいている事に気が付いた。
「魚雷・・・」
その呟きと同時に一隻のル級が爆発する。
「ッ!」
辺りを爆発による衝撃と煙が包む中、薄ら笑いを浮かべていたル級の顔からは余裕が一瞬で無くなり、主砲を不知火に向けようとしたが、爆発による水しぶきや煙などによって完全に見失った。
対して不知火はそのすきに煙幕を炊きながら深海棲艦へと大きく接近し煙の合間から敵の状況を確認していた。
「ル級一隻は完全に撃沈・・・あの艦娘もまだ無事・・・」
ル級の爆発は不知火が砲撃する直前に放たれた酸素魚雷によるものである。
酸素魚雷は通常の魚雷よりも雷速、威力、射程、その全てにおいて勝っていた。
更に排気ガスが水によく溶けるため、雷跡を発見するのは困難である。
更に今回は深海棲艦が完全に油断して、停止していたため魚雷は面ではなく線で発射され、目標に命中したことにより深海棲艦の戦力は半減した。
だが半減したとは言っても、未だリ級二隻、ル級一隻と言う戦力は通常の駆逐艦一隻に対処できる戦力では無かった。
不知火が炊いた煙幕の中でル級は焦りを感じながらも、余裕を崩していなかった。
理由は不知火には、もう効果的な攻撃手段がないと考えたからだ。
見失う前の姿を思い出せば魚雷発射管にはもう一本も魚雷が装填されておらず、主砲は自分に有効打を与える威力では無い、そう考えたからこその余裕であった。
そしてそれは正解であり、不正解でもあった。
何故なら確かに不知火にはもう魚雷は残されておらず、主砲も威力不足だが、不知火にはもしもの為にと持ってきていた、隠し球があったのだ。
「ッ!?」
その時ル級の首筋に背後から軍用ナイフが不知火によって突き立てられる。
背後の不知火を攻撃するためにル級が振り返るが、ナイフを刺した直後に不知火はまた煙幕の中に隠れていた。
ル級の首筋からは溢れんばかりのドス黒い血が噴き出す。
明らかな致命傷を受けたル級の顔からは余裕の色がすっかり失せていた。
代わりにル級の顔に浮かんでいたのは怒りや驚愕、恐怖と言った感情である。
「タダノクチクカンゴトキガ!!」
煙幕により遮られる視界に背後からの致命傷など、これらの要因によりル級flagshipは半ば恐慌状態となり、既に冷静さを欠いていた。
するとル級は主砲と副砲を周囲に無差別に撃ち出し始めた。
冷静さを欠いた攻撃ではあったが、それは煙幕をある程度、晴らす効果もあったようでけたたましい爆音と共に周囲の煙幕は少しずつ晴れ始める。
そんな中、ル級は煙幕の中に一つの影を見つけた。
「ソコカ!!」
ル級がその影に主砲を向け砲撃しようとした瞬間、その影から砲撃音が聞こえたが、ル級は不知火の主砲が大した威力ではない事を知っていたため、回避行動を取らずにそのまま砲撃した。
勝利を確信し口元に笑みを浮かべながら。
だが次の瞬間、大きな衝撃と爆発がル級を襲った。
それは駆逐艦の主砲よりも明らかに大口径であり、ル級は首筋の傷と合わせて大破レベルの損傷を負う。
ル級が恐怖と困惑を感じる中、煙幕が晴れ影の正体が暴かれた。
「ナッ!?」
それは自身の砲撃によって沈みゆく僚艦のリ級であった。
大口径の砲撃は不知火によるものではなくリ級によるものだったのだ。
煙幕が晴れ始めるが周りの海面に浮かんでいるのは深海棲艦の残骸ばかりであり、ル級の顔にはもはや恐怖以外の感情は浮かんでいなかった。
さらに追い打ちをかける様に背後で叫び声が聞こえた。
ル級が恐る恐る振り返るとそこにはリ級の首を後ろからナイフで刺し貫いた不知火がいたのである。
「ウワァァァァ!」
それを見たル級は好機と見て、この世の者とは思えない叫び声えを上げながらリ級ごと不知火を砲撃した。
「っ!」
それに気が付いた不知火は冷静にナイフを引き抜き、リ級から離れる。
不知火が離れた直後、砲撃が命中し大きな爆発と共にリ級は爆沈し、衝撃と爆炎が再び戦場を支配した。
それはル級にとって一瞬ではあるが再び不知火を見失う事を意味する。
ル級は電探を使い不知火を探そうとするが、それは叶わなかった。
なぜなら
「!?」
不知火が爆炎を突き破りル級の正面に現れたのである。
ル級が呆気に取られるなか、不知火はその隙を突き、右肩の主砲を連射しながら一気に接近した。
ル級はそれに対処しようとするが不知火の砲撃が目眩ましとなり、砲撃を行う事が出来ず不知火はル級の懐に潜り込むとナイフで太ももや脇を素早くナイフで刺し始めた。
次々と身体の急所に撃ち込まれるナイフによってル級は大量に出血し、元々首に致命傷を受けていた事も相まって大量出血によってル級は体に力が入らなくなり、まともな反撃も出来ずに体勢を崩した。
不知火はその隙を見逃さず、ル級の首にもう一度ナイフを突き立て、そのまま一気に首を掻き切る。
するとル級は遂に水面へと倒れ伏した。
瞳は光を失い、顔には恐怖の表情を浮かべたままル級は少しずつ沈んでいく。
体から流れ出る血で海を染めながら。
沈みゆくル級を見ながら私はふと自分の手を見た。
白手袋をしたその手、特にナイフを持つ右手にはべったりと深海棲艦の血がこべりついていた。
私は深海棲艦を殺した。
沈めたのではない、殺したのだ。
艤装を壊し沈めるのではなく、直接相手の命を奪ったのだ。
普通なら怯えるのだろうか?それとも敵を倒した事を喜ぶのだろうか?
わからない。
唯一わかる事は水面に映る私の顔はそのどちらも映していない事だ。
軍用ナイフ
一見ただのナイフに見えるが、刃には艦娘の艤装が使われており、その刃は銃弾を通さぬ深海棲艦の体を傷つける事が出来る。
海軍が製造した人類でも扱える対深海棲艦用の装備であるが実際に深海棲艦に対して用いる事は少ない。