不知火は疲れている。   作:覚醒不知火

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第七話 提督

「いいえ」

 

しばしの沈黙の後不知火は確かにそう発言した。

 

「そうですか、なら良かったです」

 

夕張がそう返すと不知火は扉を開け部屋から退出した。

 

 

「・・・」

 

不知火が部屋から出ると夕張は不知火から採取した新しいデータと持ち込んだ古いデータを暫く見比べていた。

 

「ふふっ」

 

見比べていくうちに夕張の口角は少しずつ上がっていき、声も漏れだしていた。

表情からは喜びの感情が見えるが、何処か狂気的な物も感じられる。

 

「まさかここまで副作用が無いとは、横浜から出張して来たかいがありました」

 

夕張は笑みを浮かべながら引き出しを開け、中から書類の束を取り出す。

紙の一枚一枚には艦娘の顔写真や名前、所属している鎮守府などが書かれており、それが十数枚あった。

取り出した書類から夕張は紙をめくりある一枚を探していた。

 

めくられていく紙の中には顔写真に印鑑が二つ押された物が幾つかあったが、夕張はそれらを気にせずに紙をめくっていき、ある時めくるのを止め、紙を手に取る。

 

紙には駆逐艦不知火の文字と顔写真があり、夕張は懐から印鑑を取り出しながら呟いた。

 

「せっかく適合したんです、印鑑を二回押すことが無いように祈っていますよ?」

 

 

 

人類が艦娘を戦わせるためには艦娘を指揮する提督の存在が不可欠だ。

だが艦娘の数は膨大である。

敵である深海棲艦の戦力が殆ど無尽蔵であるためそれにつられて建造やドロップ艦などにより戦力が次々と生み出されたためだ。

結果として当初は十にも満たない数の鎮守府だったが、今となっては各地に警備府や泊地、新たな鎮守府が続々と設置され当初の数倍に膨れ上がった。

戦力が拡大したことで人類は深海棲艦の物量に対抗できるようになったがそれは多数の若い提督を生む事にも繋がった。

さらに深海棲艦の攻撃による戦死や歳による引退などで経験豊富な提督はさらに減り、大本営以外でその姿を見ることは殆どなくなっている。

だがここ呉第三鎮守府においては違った。

 

 

鎮守府の執務室にて初老の女性が書類仕事に従事していた。

女性は真っ白な海軍の軍服を着ており、机の役職表示札には提督と書かれている。

それはこの女性が鎮守府の提督であることを示していた。

 

執務室には提督以外に秘書艦などもおらず、ただ書類を書く音と時計の音だけが響いていた。

 

すると入り口の扉が開き不知火が「失礼します」とだけ言って、部屋に入って来た。

 

「ノックくらいしたらどうだい?」

 

提督が苦言を呈するが不知火がそれを気にすることはなく、さらに執務机の前のソファーに座り始める。

 

「失礼しますとは言いましたし、呼び出したのは提督ですよ?」

 

「はぁ・・・」

 

不知火の態度に提督は溜息を漏らしつつも負傷前と態度が余り変わっていない事に提督は安堵した。

 

「呼び出した理由はあんたが随分な厄介事を持ち込んだからだよ」

 

提督は険しい顔をしながら不知火の右腕に巻かれた包帯を見ながらそう言う。

 

「それに関しては申し訳ないと思っていますよ・・・」

 

提督の顔は女性とは言えかなりの威圧感があり、不知火はバツが悪そうにそう言った。

 

「・・・そう言えば他の艦娘に公表はするんですか?」

 

「今はしないよ、こんな事公表しようものなら陽炎含め何人があんたを心配するか・・」

 

「?」

 

不知火は困惑の表情を浮かべる。

 

「私の交友関係は陽炎以外殆どゼロのはずですが?」

 

「はぁ・・・前にも言ったけどねえ、ここの艦娘は皆家族みたいなもんなんだよ・¥・」

 

提督は不知火の目を見つめ諭すように言った。

 

「それは殆ど他と関係を持たないあんたも例外じゃない」

 

「・・・そうですか、納得しました」

 

不知火は言葉に詰まりながらも頷いた。

 

「まあ・・・変わってない様で安心したよ、深海棲艦の細胞を移植する何て聞いたからね」

 

それを確認すると提督は険しい表情から一転安堵したような表情になり、声も優しくなった。

それは艦娘に接していると言うよりも娘や孫に接する様であった。

 

「そう言えば、陽炎とは会ったかい?」

 

「ええ、謝罪もしました。・・・ただ・・・」

 

「何かあったのかい?」

 

提督が心配そうに聞くと

 

「お詫びに何か一つ言うことを聞くと言ったら、顔を赤くして何やら考え込んでしまって」

 

不知火は暫く提督の応答を待っていたが、何も言わないので提督を見てみると

提督は口元を抑え笑いを堪えていた。

 

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