Fate/Lost imaginary   作:川内かまぼこ

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真名当てクイズ


第1話

おかしな家にて

 

近所にある古い武家屋敷に高校三年生の藤村頼河(ふじむららいが)は遊びに来ていた。昔、ここには頼河にとって憧れのおじさんが住んでいたが今は無人の家となっている。おじさんが遠くへといってしまう前に幼い頼河が泣きついて貰ったのがこの家の鍵だった。と言ってもそもそもこの家自体が元々頼河の親戚が管理していた家なので、返して貰ったという方が正しいだろう。頼河は週に1回はこうやって、武家屋敷に赴き部屋の掃除などをしてもう帰って来ないであろうおじさんの事を考える。今日は蔵の整理をしていた頼河はとある日記のような古びた手帳を発見し、中に書いてあるよくわからない言葉の羅列を言葉にしていた。

 

「みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、くりかえすつどにごど。ただ、満たされるときをはきゃくする?」

 

よくわからない言葉を読み上げるのは、もしかしたら憧れのおじさんが書いたポエム的なものかもしれないというちょっとした悪戯心からだった。

 

「なんじさんだいのことだまをまとうしちてんよくしのわよりきたれてんりんのまもりてよ?どういう意味だろこれ?」

 

読み終えた瞬間にズキッと右手の甲が痛みを発し、「いたッ」と小さい悲鳴をあげ手帳を落とす頼河。右手の甲には身に覚えのない虎の頭部をかたどったようなアザが浮かび上がっていた。不気味に思ったのも束の間、蔵の奥から突然光が発し、風が巻き起こる。風が吹く方へと頼河は視線を移すとそこには先ほどまでいなかったはずの人影が“2つ”ある事に気がついた。頼河が驚いているとその2人は声を発する。

 

「呼ばれて!」

 

「飛び出て!」

 

「「ジャジャジャジャーーーーン!!!!!」」

 

警戒していた頼河はその2人の年端も行かない少年と少女の2人組の第一声に唖然としていた。茶緑の半ズボンにサスペンダーと白シャツの少年と同じく茶緑のスカートにサスペンダーと白シャツ頭には白いスカーフを巻きつけた三つ編みの少女。2人とも茶髪で、深緑の瞳をしている。

 

「オイラたちを引くなんて姐さんねえ、幸先悪いなぁー。オイラたち戦いとかむいてへんでー」

 

「せやかて兄ちゃん、呼ばれたからにはウチらも気張らんとあきまへんでー」

 

「まかっとるがな!兄ちゃんにまかせとき!」

 

「ほんまに大丈夫なん?」

 

そんな息のあった漫才の出だしのようなやり時に頼河は正気に戻り、心底考えていた事を口にする。

 

「あんたたちいったいだれなの!」

 

それを聞いた少年少女はお互いに顔を見合わせて「あははッ」と笑いだす。

 

「だれ言われましてもオイラたちは姐さんに呼ばれてきたんやで」

 

「そうですよーウチらを呼んだんは姐さんの方ですわ」

 

「言ってることがわからないんだけど」

 

頼河の困惑の声に今度はお互いに顔を寄せ合ってひそひそ話を始める2人。

 

(えっこれマジでわかってへんみたいやで。奴さん、てんで素人みたいやわ)

 

(まさか、ハズレ引いたんはウチらの方やったん。どうする兄ちゃん?)

 

(どうするもこうするも呼ばれたからには仕事せなあかん言うたんは自分やで)

 

(ほんまや、どないしよ)

 

(どないしよって、まあまずは自己紹介からした方がええんとちゃう?)

 

(さすがは兄ちゃんや!それで行こう!)

 

ひそひそ話が終わると2人は頼河に向き直り、咳払いをして改めて名乗りだす。

 

「お初お目にかかります!オイラはヘンゼル!」

 

「ウチは妹のグレーテル!クラスはキャスターとして呼ばれました!」

 

「これから始まる聖杯戦争、優勝目指して頑張りましょう姐さん!」

 

「姐さんの立派な寝物語を見せてください!」

 

そう言って、2人は頼河の前で決めポーズをして見せた。それを見た頼河はなお一層訳が分からなくなる。とりあえず、頼河が言えることは一つだけだった。

 

「あの、出て行ってもらえませんか」

 

「姐さん冗談キツわー」

 

「ほんまやで!」

 

「いや、本当に」

 

2人がまたもや「あはははッ」と笑う中、頼河だけは真顔であった。それを見て何かを察したのか、ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせる。

 

「兄ちゃんここはいったんお暇した方がええんとちゃう?」

 

「ほんまやな、じゃあ姐さん。オイラたちはいったん消えるんでようあったら読んでください」

 

そう言うとヘンゼルとグレーテルは頼河の前で光の粒子となって消えた。それを見た頼河は目が飛び出るほど驚く。

 

「え?エッ⁉︎なに?どういうこと⁉︎」

 

冷や汗をかく頼河、目の前にいて話していた人間が突然消えていなくなった。これはもしかすると、と頼河は嫌な予感を募らせる。

 

「どうしました姐さん?」

 

突然背後から声がして恐る恐る振り返る頼河。案の定、あの少年と少女が自分を見上げていた。

 

「きゃあああ!!!!!幽霊だ!!!!!」

 

頼河はそう叫ぶと泡を吹いてその場に気絶してしまった。その姿を見てヘンゼルとグレーテルはまたもやお互いの顔を見合わせる。

 

「兄ちゃん」

 

「ああ、ばめだこりゃ」

 

藤村頼河の受難はここから始まった。

 

******

 

○○(かみ)の子

 

「素に銀と鉄」

 

薄暗い地下室で陣を前に裸の少女が令呪の宿った右手をかざし、詠唱を開始する。陣は震えだし、輝きを放つ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

光は次第にまし、さらに陣を中心に強風が巻き起こる。令呪を介して魔術回路が暴走し、痛みを発していた。祭壇に収められていた古代ローマの月桂冠が風に煽られて空中へと舞い上がる。

 

「――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

暴風が巻き起こり、陣の中心に今まではいなかった人物の人影が現れる。全身をボロ布で覆っているが、とても背が高くガタイのいい人物だということがわかる。男は低い声で少女に尋ねた。

 

「召喚に応じて参上した。我がクラスはライダー。貴殿が私を召喚し、使い潰す主人(ドミヌス)か?」

 

男の声に少女はビクッと体を震わせたが、すぐに恐る恐るというかたちで頷いた。男はそれを確認すると少女の前に跪き、さらに言葉を口にする。

 

「…契約は完了した。これより私は貴殿の奴隷(セルウス)。存分に使い潰してくれ」

 

少女はその右手に宿った桜の花弁のような字を握りつぶすかのように握りしめている。男は立ち上がるとそのボロ布を脱いで、裸の少女へと羽織らせた。

 

「名前は何という」

 

そう尋ねる男の顔は端正な顔立ちだが隈がひどく、目つきが鋭いが何処か疲れた果てた雰囲気を醸し出していた。古代ローマの兵士のような鎧を見に纏い、腰には短剣が収められている。少女は喉から搾り出すかのように声を発した。

 

間桐(まとう)……美乃(よしの)……」

 

「そうか……」

 

男はそれ以上何も言わず、表情一つ変えない。もしかしたら怒っているのではないか、と思うほど顔が無表情だ。美乃は勇気を振り絞って、男に質問する。

 

「あなたの真名も教えて」

 

「………私の真名は○○○○○○、だ」

 

美乃はその名前に驚く、彼女が狙っていたサーヴァントではなかったからではない。彼があまりにも自身のイメージとかけ離れていたので美乃は驚いたのだ。

 

「……ドミヌス、あなたの願いはなんだ」

 

また、男からの質問に美乃はビクッと体を震わせる。彼の威圧感が彼女をそうさせていたのだ。

 

「お爺さまに、聖杯を渡すこと。あなたは?」

 

「…………わからない」

 

「?」

 

聖杯戦争に呼び出されるサーヴァントには大きく分けて2種類存在する。“聖杯に用がある英霊”と“聖杯戦争そのものに用がある英霊”だ。

 

「私は聖杯に託すほどの願いはない。かと言って、私は己が欲望のために戦うこの聖杯戦争というものに険悪を抱いているため、参加するつもりはないつもりだった……しかし」

 

「なぜか呼ばれてしまった」

 

「そうだ。もしかすれば私は自分が気づいていないだけで、他者を蹴落としてまで叶えたいという願いを抱いているのかもしれない」

 

その表情はなんとも嫌気を刺すような、嫌悪感で溢れていた。

 

「故に私は聖杯に何も求めない。私の身勝手な願いを叶える気は毛頭ないからな」

 

「え?それは戦ってくれないということですか」

 

「誰がいつそんな事を言った?」

 

なぜかわからないが、さっきから目の前の人物には恐怖や嫌悪といった負感情しか抱けない。それは彼の逸話からなのかもしれない。

 

「先ほども言ったが、私は君のセルウスだ。それに君には令呪がある。君が戦えというなら私はその指示に従うまでだ」

 

「それは……いいんですか?」

 

「いいも何もサーヴァントとはそう言うものだろ」

 

本当に史実からは考えられない人物像だ。これが後世で恐ろしきとさえ言われた人物なのだろうかと美乃は疑問に思っていた。

 

「それより、君は私を狙って呼び出したのか」

 

「いえ……あの、実は違う方を召喚しようとしていました」

 

「やはりか、いったい誰を?」

 

「ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスです」

 

「………………」

 

その名前を聞いた途端に今まで無表情だった彼の顔が目に見えて嫌な顔になった。

 

「私が呼ばれた理由がなんとなくわかった」

 

「?」

 

「あのひとは人に仕事を押し付けるのが得意だからな」

 

そう言った彼の顔はなお一層疲れて見えた。

 

******

 

穂郡原学園の高等部校舎屋上にひとりの少女が佇んでいる。彼女名は遠坂ネオン。つい最近、この学園の中等部に編入してきた中学3年生女子である。彼女は昨日自身のサーヴァントを召喚し、この聖杯戦争に参加したのだ。金髪の髪に青い瞳の美少女である。

 

「ここで昔、第5次聖杯戦争が行われた。その時に本家の人間が参加して生き残ったそうだけど、私たちは必ず聖杯を勝ち取って見せる」

 

「息巻くのはいいけどなぁ、あんまり力むなよマスター」

 

そう言って光の粒子から現れたのは10歳にも満たない見た目の少年。短髪の青髪に青いローブ、青い装飾で軽鎧をつけたその少年はネオンの側へと現界した。

 

「何よ、アーチャー。あんただって昨日絶対に勝ち残るって息巻いてじゃない」

 

「もちろんだ!オレは必ず聖杯を手にすると己が道を定めたんだぜ。オレは一度決めた道を変えたりしない」

 

そう言って自身の胸をポンッと叩いて見せた。自身よりも幼いサーヴァントを改めて眺めるネオン。サーヴァントは基本的に自身の全盛期の姿で召喚される。それが、こんな幼子の姿で召喚させたということは彼の全盛期がこの年齢だったということを指しているのだ。彼の背景に何があるのかはネオンにはわからない。昨日、召喚した際に真っ先に真名を尋ねたところ、彼は『言えない』と答えたのだ。これは何もネオンを信頼していないからではなく、彼自身の個人的な理由でいうことができないという。なのでネオンは彼の真名を未だに確認できないでいた。だが実は幼子を全盛期とし、自ら名乗ることができない英霊という情報でネオンは何となくではあるが彼の真名の予想はついているのだ。

 

「ねぇ、アーチャー…あんたって…」

 

その言葉の続きを口にする前にネオンはアーチャーによって突き飛ばされた。硬いコンクリートに尻餅をついたネオンは自身のサーヴァントに対して文句を言おうとしたが、その言葉を飲み込む。なぜなら、ネオンが先ほどまで立っていた場所に黒塗りの投擲剣(ダーク)が深々と刺さっていたからだ。あのまま、あそこにいればネオンの命はなかっただろう。アーチャーは装備していた槍を構え、暗闇にへと叫ぶ。

 

「こんな姑息な真似をするのはヤツはわかってんだよ!出てこいアサシン!」

 

その言葉に呼応するように月光が差し、今まで暗闇で見えなかった屋上の給水槽に人影があることにネオンは気づく。全身を黒衣で身を隠し、白い骸骨の面で顔を隠した人物がそこにはいた。その姿はまるで仮面のみが空に浮いているようだ。

 

「不甲斐なし、不甲斐なし。非凡なる我が身では、こんな幼子にすら殺気を悟られてしまうとは。マスターに申し訳がたたない」

 

「不甲斐なし、不甲斐なし」としわがれた老人のような声で黒衣の人物は暗殺失敗を嘆いている。

 

「オレのマスターを狙うとはいい度胸じゃねえか!アサシン」

 

アサシンのサーヴァント。それはマスターの天敵と呼ばれるクラスで、基本能力は他のサーヴァントよりも劣るもののクラススキル『気配遮断』により、隠密を得意とする。そして、聖杯戦争にてアサシンのサーヴァントとして召喚できる英霊は一人のみ。“山の翁”と呼ばれる暗殺教団の首領。ハサン・サバーハを襲名した19人のみである。

 

「マスター、舌噛むなよ!」

 

「え⁉︎きゃあああああ!!!!!」

 

アーチャーはその小柄な身体からは考えられない力で、未だ血に伏しているネオンを抱えあげ、そのままフェイスを飛び越えて運動場部分へと飛び降りた。

 

「何すんのよ!」

 

「わりぃわりぃ、あそこより広いところで戦った方がマスターを守りやすいと思ったから」

 

ならば一言言ってほしかったとネオンは考えたが、あの場面でそんな暇はなかったと考え直す。やがて、闇に紛れてアサシンが広場へと現れる。

 

「驚いたぜ。暗殺者がのこのこ見晴らしのいい場所に出てくるなんてな。正気かあんた?」

 

「我が身は暗殺者として非凡なり、ならばこその判断。……いや、そんな考えに至るからこそ我が身は非凡なのか」

 

またもやアサシンは「不甲斐なし、不甲斐なし」と己の才を嘆く。その姿にアーチャーは少し呆れた表情をしつつも、構えた槍はアサシンを狙っている。

 

「どうする、このまま去るというなら追いはしないぜ。挑むというなら、オレはすべての挑戦を受けて立つ」

 

「ならば挑ませてもらおう。幼子相手に敗走したなど、非凡なる我が身の陳腐な誇りにはいささか堪える。ああ、なんという不甲斐なきことか」

 

そう嘆きつつアサシンはノーモーションで投擲剣(ダーク)を数本投げつけてきた。ネオンには短剣がいつ取り出したかさえも見えなかったほどだ。しかし、アーチャーはその短剣を己が槍で軽く払い除ける。アサシンはその隙に接近し、アーチャーに向けて短剣を突き出す。だが、それも投げつけられた短剣を払う勢いを利用してアサシンごと蹴り飛ばした。

 

「ぐあッ‼︎」

 

強い、素直にネオンはそう感じた。アサシンは常人を逸脱した動きを見せている。しかし、アーチャーはそれを軽くいなしていた。しかも、アーチャーでるメインの武器を使わずにだ。最初に召喚した時はなんだこの偉そうなクソガキと思っていたネオンだが、評価を改めざるを得なかった。

 

「ゲホッゲホッ、ああ……やはり、非凡な我が身ではこれが限界か……ならば、やはり“これ”に頼るしかあるまいて」

 

アサシンはそういうと今まで黒衣に隠れて見えなかった左手をあらわにする。その左手に最初にネオンが感じた感想は魔獣だった。アサシンの左手はまるで猿の腕のように毛むくじゃらで、人間の倍ほどの関節の指をしている。さらには指は6本生えており、爪は禍々しい色味にくすんでいた。一言で言い表すなら醜いとしかいいようのないその左手を見たアーチャーの顔に初めて焦りの色が現れる。

 

「我が異形の指を目にしたこと_ _ 我が身を呪え」

 

アサシンの魔力が左手に集約し、何が解き放たれようとした時だった。不意に静まり返っていた広場にカランカランッという音がこだまする。音がする方を向くと、女子生徒が勢いよく校門に向かって走り去って行くのが見えた。

 

「……不甲斐なし」

 

アサシンはそういうと闇の中に溶け込み、姿を消した。アサシンの気配がなくなったことで、ふぅとひと息ついたネオンにアーチャーが叫ぶ。

 

「何してるだマスター、アイツは目撃者を始末するつもりだぜ!」

 

その言葉にハッとするネオン。そうだ、聖杯戦争は大規模な魔術儀式である。そして、魔術は神秘であり、秘匿するもの。アサシンのマスターが目撃者を殺せと指示していたのなら、あの目撃した女子生徒が危ないことに気づく。

 

「急ぐぜマスター!」

 

「わかってる!」

 

ネオンとアーチャーは目撃者とアサシンを追って校門へと走った。

 

******

 

汗を吹き出しながら全力で走る藤村頼河。先ほど目撃しまった仮面の人物と青い装飾の少年の戦いを除いていたのがバレて逃げる途中だった。

 

『姐さんいそげ、多分やけどさっきの仮面が追って来てるで』

 

「そんなにいうならあんたたちが出てきて戦いなさいよ!」

 

『無理ゆうなや姐さん。ウチたちは下手したら姐さんより弱いんやで、そんな無理やわ。なあ、兄ちゃん』

 

『せやな、ほんまやで』

 

「ほんまやでじゃなーーーい!」

 

念話でヘンゼルとグレーテルと話しながら、例の武家屋敷まで逃げる。門をあけ、蔵へと急ぐ。

 

「ほんとに蔵まで行けばなんとかなるんでしょうね」

 

『任せとき、オイラたちがなんとかして…姐さん横に避けろ!』

 

その言葉を聞くと頭で考えるよりも早く、横へと跳び地面を転がる。すると、短剣が頼河の居た場所に短剣が通り過ぎた。

 

「うああッ!!!!!」

 

見ると、短剣を振り下ろしたであろう黒衣の骸骨の仮面の人物が立っていた。

 

「不甲斐なし。まさか、ひと夜に2度も仕損じるとは……。歴代の御歴々に申し訳がたたぬ。やはり、必ず聖杯を手にし我が身の存在を消さなくては」

 

「不甲斐なし、不甲斐なし」とブツブツ呟く仮面の人物に恐怖を覚え、その地から動けなくなっている頼河にグレーテルが叫ぶ。

 

「姐さん!ボケッとしてんとちゃう!今兄ちゃんが準備してんやらから、早よこっちきいや!」

 

見るとグレーテルは既に蔵へと辿り着き、蔵の扉が開いていた。中にはヘンゼルが陣を前に何かを唱えている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

頼河はなんとか立ち上がり、蔵へと走り出す。しかし、グレーテルの悲痛の声が響く。

 

「姐さん後ろ!」

 

振り返るとまさに仮面の人物が短剣を頼河に振り下ろす瞬間だった。「やられる」。頼河の頭に走馬灯が流れ始めた瞬間、蔵から光が発せられる。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

ヘンゼルの叫びが響き渡り、今まで存在しなかった人物がその場に現れる。その人物はいち早く蔵から飛び出し、頼河を襲おう仮面の人物に対して所持している西洋剣で斬りつけ、吹き飛ばす。頼河はまた、地に伏せているが目線はその人物。凛とした空気を纏った、金髪の髪を後ろで結い上げ、紫と銀の甲冑を身につけた見目麗しい10代半ばの少年騎士は月明かりに照らされている。

 

「問おう。キミがボクのマスターか」

 

座り込む頼河に向かって、少年騎士は直立して見下ろしながら問いかける。

 

「あーちゃうちゃう。兄さんを喚びだしたんはオイラたちや」

 

ある種神秘的な雰囲気を打ち破るようにヘンゼルとグレーテルが近づいてきた。

 

「なんだって?ボクはサーヴァントに召喚されたのか。令呪はどうやって手に入れたんだよ」

 

「気前のええ兄さんに譲ってもらったんよ」

 

「ていうことで兄さんよろしゅう。ウチらがあんさんのマスターやで」

 

「うーん、まあボクを召喚したんだから普通の召喚ではないってわかってだんだけど。まあ、いいや。ボクはセイバー、よろしく」

 

少年そのままの笑顔を3人に向ける。そしてすぐさま振り返り、その手にした華美な装飾を施されたまるで式典用のような剣をアサシンに向かって振りかざす。

 

「さあ、アサシンのサーヴァントよ。ここで引くか、戦うか。選ぶがいい」

 

「…………」

 

アサシンは俯き、ブツブツと何かを呟いている。よく聞くと、「不甲斐なし、不甲斐なし」と何度も繰り返していた。

 

「不甲斐なし、まことに不甲斐なし。一夜に2度も不覚を取るとは、不甲斐なし。こうなっては貴様の命で我が汚辱を注ぐとしよう」

 

アサシンはそういう左手を掲げる。その左手は猿の腕のように毛むくじゃらで、人間の倍ほどの長い関節の指をしており、さらには指は6本生え爪は禍々しい色味にくすんだ醜いものだった。

 

「我が異形の指を目にしたこと_ _ 我が身を呪え《奇想天外(ザバーニーヤ)》」

 

アサシンの左手の指はまるで生き物のように別々に蠢く。さらにはセイバーに向かって指が伸びて四方八方から6本の指が襲い掛かる。セイバーはそれを躱すが、6本の指はセイバーを追尾しセイバーの体を穿つ。

 

「ッ⁉︎」

 

「何⁉︎」

 

しかし、攻撃を食らったセイバーよりもアサシンの方の驚いていた。

 

「セイバー……我が呪いの爪から逃れたな」

 

「アサシン、キミのその宝具は因果を逆転させているな」

 

アサシンはよほど先ほどの攻撃に自身があったのか、今までの謙虚な雰囲気から一変して声を荒らげた。セイバーはアサシンの攻撃について何かを察したようだ。

 

「キミの爪は他者を抉るという結果が先に起こり、その後にその原因をもたらすという一撃必殺の因果逆転の奥義なのだろう?だが、残念だったな。ボクの幸運と直感スキルにかかれば致命傷は避けられる」

 

と言っている強がってみせるセイバーだが、セイバーは明らかに深手を追っている。つまりは先ほどの攻撃はそれ程までに強力な技であったということだ。

 

「さあ、次はこちらの番だ」

 

「いや、今宵はこれまでだ」

 

そういうとアサシンは暗闇に消えて行く。

 

「待て!」

 

セイバーはアサシンを追うように屋敷の外へと飛び出そうとする。

 

「ちょッ⁉︎」

 

「兄さん無理やて!」

 

「ええい、せめて傷を治してからいきいや!」

 

そう言ったヘンゼルとグレーテルは虚空から古びた本を取り出す。

 

「さあ、寝物語を聞かせるで!」

 

「ラプンツェルの愛により」

 

「王子の傷は癒やされた」

 

ヘンゼルとグレーテルがそう唱えるとセイバーの傷が癒える。

 

「感謝する!」

 

そういうとセイバーは敷地内から飛び出して行った。

 

「姐さん、オイラたちも追うで」

 

「え?う、うん」

 

頼河、ヘンゼルとグレーテルは門から武家屋敷の敷地内から飛び出す。すると、そこには先ほど目撃した青い装飾の少年とセイバーが対峙している姿だった。そして、青い装飾の少年の向こうに頼河は知り合いを見つける。

 

「遠坂さん⁉︎」

 

「藤村先輩⁉︎」

 

そこにいたのはつい最近仲良くなった中等部の後輩だった。

 

「なんだマスター?知り合いか」

 

「最近知り合った先輩だけど……まさか、魔術師だったなんて」

 

「いや、私は巻き込まれただけで……」

 

「まあ、姐さん方知り合いみたいやしここは中で茶しばきながらでも話しましょうや」

 

「なんでサーヴァントが3人もいるんですか藤村先輩⁉︎」

 

「いや、これには理由が…」

 

場が混乱する中、セイバーが挙手する。その姿はその場にいる全員がセイバーに目線を集めた。

 

「聞くが、金髪のキミはこちらの茶髪のお嬢さんに危害を加えるつもりは今はないのかい?」

 

「まあ、私は目撃者が襲われそうなのを助けにきただけだから」

 

「オレをマスターが戦うつもりがないなら手を出すつもりはないぜ」

 

ネオンとアーチャーはハッキリとセイバーにいい放った。セイバーは次に頼河、ヘンゼルとグレーテルに向き直る。

 

「キミたちはどうだ?」

 

「まあ、私も戦うつもりは無いけど」

 

「姐さんが戦わへんいうならオイラも戦わへんよ」

 

「ウチも同感やでー」

 

セイバーはその言葉をうんうんとうなづく。

 

「なら、悪いんだが後は任せた」

 

そういうとセイバーは突然倒れ込んだ。「えッ」とその場の全員がセイバーに近寄って確認するとセイバー「Zzzz」と寝息を立てて眠り込んでいた。

 

「なんなのコイツ」

 

その場の全員の心境を代弁するように頼河の言葉が響いた。




キャスター
真名 ヘンゼルとグレーテル
性別 男性と女性
身長 150センチ・144センチ
体重 40キロ・33キロ
特技 魔女退治 逸話収集
好きなもの 寝物語
苦手なもの 怖い魔女、怪物
天敵 非情な大人たち
出典 史実 グリム童話
地域 ドイツ
属性 秩序・中庸
隠し属性 人
イメージカラー 茶緑
ステータス
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力EX 幸運B 宝具EX
固有スキル
無辜の怪物EX
白い石とパン屑B
お菓子の家の魔女退治B
クラススキル
陣地作成C
道具作成EX

ライダー
真名 ???
異名 テリブル
性別 男性
身長 190センチ
体重 85キロ
特技 戦車、策略、金策、人事派遣
好きなもの ワイン、きゅうり
苦手なもの コミュニケーション、女性、無能
天敵 アウグストゥス
出典 史実
地域 ローマ
属性 中立 中庸
隠し属性 人
ステータス
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具A
保有スキル
皇帝特権A-
人間不信B
クラススキル
対魔力C
騎乗A+

アーチャー
真名 ???
性別 男性
身長 130センチ
体重 27キロ
特技 射的、武芸全般
好きなもの 狩り
苦手なもの 名乗り
天敵 父、師匠
出典 ケルト神話、アルスター神話
地域 アイルランド
属性 秩序 中庸
隠し属性 天
イメージカラー 青
ステータス
筋力B+ 耐久A+ 敏捷A++ 魔力C+ 幸運C+ 宝具B
保有スキル
影郷の武練B+
武の祝福
父を超えし武才C
神性B
クラススキル
対魔力C
単独行動B

アサシン
真名 ハサン・サバーハ
異名 悲嘆のハサン
性別 男性
身長 180センチ
体重 60キロ
特技 特になし
好きなもの なし
苦手なもの なし
天敵 歴代山の翁
出典 中東、山の老翁
地域 中東
属性 秩序 悪
隠し属性 人
イメージカラー 白(月光)
ステータス
筋力C 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運A 宝具C
保有スキル
投擲(短剣)B
自己改造A+
風避けの加護A
クラススキル
気配遮断A+
対人宝具『奇想天外(ザバーニーヤ)』C
魔の爪と呼ばれた六本爪で行われる絶技。自身の鋭利な爪に一撃必殺の願いを込めて心臓を抉りとる。ただそれだけに特化した暗殺術、故に暗殺に身を捧げた彼の人生そのもの。その願いは因果を歪め、過程と結果を入れ替える。つまり、『臓物を爪で抉る』という結果が先に起こり、その後に原因が起こるという絶技。この技を防ぐには高い幸運値か、直感スキルが必要になる。しかし、それらに失敗したとしても『臓物を抉った』のではなく、『抉る』という結果しか起こらないので防御型の宝具やスキルによって塞がれてしまっては意味をなさなくなる。

セイバー
真名 ???
性別 男性
身長 159センチ
体重 49キロ
特技 巨人退治
好きなもの アーサー王 可愛いもの
苦手なもの サー・ケイ 可愛くないもの
天敵 サー・ケイ
出典 フランス聖杯物語
地域 イギリス
属性 秩序 善
隠し属性 地
ステータス
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運A 宝具C
保有スキル
魔力放出A
直感A
巨人殺しB
居眠りB
クラススキル
対魔力A
騎乗B
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