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よし、やっちゃおう!!
……温かい目でお付き合いください。
そこはただの『調整屋』
「はぁ……ここ最近ずっと負けてるんだが、琴里の奴、自分に有利なゲーム選んでないか?」
ため息と共に少年は財布片手に平穏な街の中を歩いていた。
平穏……そう、たとえこの世界に発生する『空間震』という原因不明の地震が存在しようと、それが起こらない間は至って普通の1日である。
妹にコンビニダッシュを賭けたゲーム対決に絶賛連敗中の
若干、琴里が選んでいるゲームに偏りを感じており、真実へと気づき始めているのだが……可愛い妹に免じてそこは許そうと士道は考えていた。
決して、彼女からのバリエーション豊富なプロレス技の餌食になりたくないからでは無い。
つい先ほども琴里からいってらっしゃいのコブラツイストを頂いたのだ。士道は何故か身震いがした。
「……ん?」
何か別のことを考えようと顔を上げたその時だった。街の一角に立つ1件の店が目に入る。外見は少し錆びれており、かなりの古物件だと予見される。
そしてどのような店なのかは全く分からない。何故店であるのか判別できたのかは、扉に掛けられていた看板が掛けられているからだった。
看板には【OPEN】と共に【ミレナ】と書かれており、実際にどのような所か推測するのは難しい。
しかし、それよりも士道が思わず足を止めるほどの興味を惹かれた理由は──
「こんな店、いつの間に立っていたんだ?」
地理には詳しいといかずとも、天宮市に住んでいる彼は記憶を探ってみる。だがこの建物の存在を思い出せない。
確かにこのような古びた外見の建物はたくさんあるが、それでも目の前の店は見た覚えがない。
意外と新しく始まった店なのだろうか。でもだとするならば殿町辺りがその情報を知らないとも思えない。
結局わからないまま、しばらく立ち尽くしていたが、カラン、と扉が内側から開けられたことで我に帰った。
途端に、客でもない自分はここから離れるべきではと士道は足を動かそうとしたが、反応が遅れたためかそれはできなかった。
そして顔を出してきた女の子に思わず硬直してしまう。
女の子にしては長身で鮮やかな銀髪を三つ編みに結んでいる。
紺色を基調としたウエイトレスのような服装からして店員さんだろうか。とにかく士道が彼女の姿に思わず見惚れてしまいそうになったのは言うまでもない。
「あらぁ? お客さまかしらぁ」
「あっ、いや……ちょっと通りすがりの一般人です」
のほほんとした間延び口調で再度、現実に引き戻された士道は言葉を返そうとするが、出てくるのは客観的に意味不明な文章だった。
士道、自身の挙動でメンタルにクリティカルダメージ。
女の子は一瞬驚いたように見開くが、色々と察したのか頬を緩めながら返した。
「あら、ごめんなさい。こんな看板じゃわからないのも当然ねぇ……」
「あっ、いえいえ! 俺も偶々通り掛けただけなので……えっと、ここは何のお店はなんですか?」
彼女のフォローで何とか立て直した士道は、話題の転換を図りつつ目の前の建物について聞いてみることにした。
「ここは『調整屋』よぉ……マッサージやボディケア、ちょっとしたエステもできちゃうお店なのよぉ」
「そうなんですか……」
「つい先週オープンしたのだけど……宣伝が足りないのかしらぁ?」
うーんと悩む彼女の側で士道は改めて建物に目をやる。確かに周辺の家と良くも悪くも同化しているこのお店は、あまり気づいてもらえるような状態ではない。
というか、そもそも何故こんなところで始めようとしたのか謎だが、目の前の彼女の雰囲気から察するに、ノリで決めたのかもしれない。
そんなことを考えていたのが仇となったか。またもや士道が女性と目が合う。その瞬間、何かに気づいたようで手を叩いた。
「そうだわぁ! 貴方、もし良かったら寄っていかないかしらぁ?」
「えっ? いや、でも俺は──」
まさかの提案にたじろぐがそれもそのはず、ここに入る気はおろか、立ち止まる気もなかったのだ。
本来、琴里に頼まれたお使いを遂行していて、正直このような店に寄ろうとは考えていなかったので断ろうとした。
が、彼女の方が一足先だった。一瞬、彼女の雰囲気が変わる。
手を顔に添えながら、じっと士道を見つめると何かに気づいたように口を開いた。
「首元の右側と左足の太腿あたり……少し痛みを感じているんじゃないかしらぁ?」
「っ!?」
指の間から覗かれる群青色の瞳。まるで見透かされたような目に吸い込まれそうになった。
反射的に手で言われた箇所を触れると小さな、だけど確かな痛みが伝わってきた。
そういえば、琴里から受けた絞め技……その決まった箇所を的確に当てられていたのだ。だが、首はともかくズボンで完全に隠れている足まで見抜けられた。
何故?
その事実に士道が驚いていると、彼女はクスリと笑いながら初めの空気へと戻った。
「『調整屋』さんだからねぇ、相手の状態が何となく分かちゃいまーす♪」
「それは……すごいですね?」
「それで、試してくれる気になったかしらぁ? 一応、貴方が疲れが取れてスッキリする保証はするけど?」
そんなものなのか? いや、実際に自分の状態から推測するのもプロにとっては当たり前なのかもしれない。
そんな感情と共に、士道も勧誘に乗らざるを得ないと感じた。
元々ここに立ちづくんでいた自分にも非があるし、実際に実力の一端を見せられては断るのは無粋だろう。
「分かりました、お願いします」
「はぁい、一名様御案な〜い」
心の中で妹に遅くなることに謝りながらも、士道は足を建物の中へと進めた。
……中は外見とは一変して不思議な空間となっていた。
青色のテラスが壁に広がっており、不思議と落ち着きのある空間が形成されている。
幾つものベッドが用意されていて、お客さんはそこに寝座るのだろう。他にも待合場を思わせるソファーや、バーカウンターまでもがある。
「こちらの席に寝転がってねぇ」
カフェなどとは一味違った景色に気を取られていると、彼女がベッドの一つに手を置いてこちらに、と連れた。
「それじゃあ、ゆっくり力を抜いて頂戴……大丈夫よぉ、変なことはしないからリラックスしてねぇ」
「はい、分かりました……」
言われた通りにベッドへ腰をかけて、頭を横にすると、天井の照明が入り手で塞ぎそうになる。だがそれを越してなのか、顔に布が被せられた。
一時的に視界を奪われた状態になるが、流石に問題ないだろうと浅い決断に至った。
雰囲気に飲まれているのだろうか、瞼が重く感じる。視界も薄らと滲み始め、意識が朦朧とし始めた。
隣で何か女の子が話していたようだが、言葉が入って来ないくらいに士道は眠気に襲われている。
何故だろうか、この落ち着いた空間にそのまま溶けてしまうような……そんな気持ちに陥っている。
「大丈夫……信じて、深い眠りに身を任せてねぇ〜……」
「は……ぃ……」
そして士道は簡単に意識を手放した。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
────やっぱり、彼があの子のようねぇ……
────となると、ここに立ち寄ったのも……
────いいえ、それは偶然のようよ……そもそも彼はまだ何も知らない、精霊の存在すら知らないようだわ。
────となれば、ここは様子見するしかないか……それともどうする、何か手でも打っておくか?
────いいえ、今日は何もしないであげましょう。私たちもまだ中立の立場だから……あの話も受けるかどうかは保留ね。
────分かった。じゃあ、自分は再度買い出しに行こう。彼との会合は別の機会にする。
────ええ、お願い。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
「………………ん……ぁ、あれ?」
「ふふっ、よく寝ていたわねぇ。無事に終わったわよぉ」
間延びした声と共に意識が覚醒した士道は自分が寝ていたことに気づいた。いつの間にか、マッサージなどが終わってしまっていたらしい。
「俺、どのくらい寝てました?」
「30分くらいじゃない? それはもう、ぐっすりよぉ〜……知らないうちに疲れていたと思うわ、その証拠に今はかなり楽じゃない?」
「あ……」
そういえば、と身体を動かしてみると、驚くほど軽くなっていた。
日常で少しづつ溜まるような疲労まで、全てがリセットされて健康体になった気分だ。首や足も寝る前より全然動いている気がする。
自分流に言うなら……本来の力を出せる! それくらいの変化が感じられていた。
身体にたまる疲れには色んな種類がある。同じ体制を続けたり、逆に動かし続けたり。
こうして幾度と溜まった身体の疲れは寝る、運動することだけではどうしても残ってしまう時がある。そこを取り除けるのがマッサージをはじめとするリラクゼーション療法だ。
士道もマッサージケアなどは知っていたものの、ここまでの効力があるとは思っておらず驚いていた。
「すげぇ……」
「実感してもらえて何よりだわぁ。お題は結構……勝手に呼び込んじゃったし、サービスしちゃうわ♡」
その代わりに宣伝をよろしくね〜、と女性は笑う。士道もこれには頷く他なかった。
なるほど、確かにここは立地こそは地味なものの、自分でもわかるほどの技術を持っている。また今度ここに来ようと思ってしまうほどに。
先ほど入った扉を開くと、室内と違った青い空が広がる。本当にこの空間が別空間のように感じられた。後ろを振り向くと、彼女が手を振っていた。
「『調整屋【ミレナ】』、またのご来店お待ちしているわねぇ〜」
「はい、ありがとうございました……あっ、俺は五河士道って言います」
別れる前に自分の名を名乗った士道に相手は一瞬キョトンとする。
が、すぐに笑みを戻して答えた。
「五河士道……えぇ、いい名前ね。私は
これが士道と八雲みたま……そして彼女が開く『調整屋』との初めての出会いだった。
うーん、ノリで始めたはいいが、何処まで続けられるか分からん。