モニターには士道に付随している小型カメラで外の情景が映し出されており、みたまを含めた〈ラタトスク〉がそこからサポートの一手を考えるようだ。
みたまも場所を令音の席の近くに移り、士道の動きを見守っている。彼女の仕事は他のクルーが行う精霊の好感度測定以外にもある。
が、精霊を実際に保護できていない今では特に動く事はできず、今回は令音の同伴ということになった。
まぁ、本気を出せばスクリーン越しでも相手を”診る”事は可能だが、疲れるので彼女はやめておいた。
今回はあくまでも彼への試練であるし、みたまも見極めたいと思っているからだ。
……目線はカメラの映し出すスクリーンへ。無事に転送された士道は精霊がいる教室へと向かう。
今回の現界は学校付近であり、校舎を半壊させつつ中に籠った精霊〈プリンセス〉にASTも手が出せないようだ。
士道は指示に従いながら、足を教室へと進める。
『て──ーここ、二年四組。俺の教室じゃねえか』
「あら、そうなの。好都合じゃない。地の利とまでは言わないけど、まったく知らない場所よりよかったでしょ」
何事もないように続ける琴里に士道は特に返さず、中を除いていた。
鎧のようなドレスを身に纏っており、夜のように黒い色の長髪が特徴の女の子。だが幻想的な輝きを放つ目は物憂げな半眼であり、ただ黒板を眺めていた。
……これは観察するまでもないだろう。彼女の心の中にはポッカリと穴が空いている。孤独……その一言に尽きる状態にみたまは顔を歪めた。
(精霊……いつ見ても彼女たちは悲しそうねぇ)
そんな感想を持っていると、いよいよ彼が接触を試みようとしていた。
『──ぬ?』
『……っ! や、やぁ―』
「っ……士道君、伏せなさい!」
直感的にみたまは精霊の目で判断した。幾らその目が暗くとも、闘志が全く抜けていないことに。
そして士道に対して開幕の一発が見舞われる。音割れするくらいの轟音がスピーカーから放たれ、かなり攻撃的な返しがされたようだ。
『……っ!?』
「士道!」
士道が咄嗟に身を隠した直後、さっきまでいた場所を光の奔流が駆け抜け、校舎の外壁を突き破った。その後も何度は黒い光は放たれ続ける。
1発でも受けたら『死』……そんな攻撃に琴里も叫ぶが、士道もこのまま動かないわけにはいかない。
『ま……待ってくれ! 俺は敵じゃない!』
士道の言葉が通じたのか放たれ続けた光線が止まる。相手が聞く耳を持ってくるだけでもマシであるとみたまは感じていた。
『は、入って大丈夫なのか……?』
「見たところ。迎撃準備はしてないわ。やろうと思えば、壁ごと士道を吹き飛ばすなんて容易いはずだし。──逆に時間を空けて機嫌を損ねてもよくないわ。行きましょう」
(寧ろここからが本番よねぇ……)
ここから士道がどのように精霊の警戒を解かせるかが問題となってくるだろう。
士道が足を踏み込んで──
『と、とりあえず落ち着い──』
『──止まれ』
……一歩踏み込もうとしたところで光弾が足元の床を焼く。警戒の姿勢を全く緩めない相手はそのまま士道に質問してくる。
『おまえは、何者だ』
『っ……あぁ、俺は──』
「待ちなさい」
答えようとしたところで……急にスクリーンに選択肢が出現した。みたまが驚いている間にも琴里は総員へ通達を始めた。
「これだと思う選択肢を選びなさい! 五秒以内」
……そういえば彼らから伝えられていた接近方法に尾行されていた。高性能AIが瞬時に状況から最適の解答を絞り出してくれるという。
いつの間にか令音にタブレットを渡されていたみたまはそちらの方で選択肢に目を通すことに──
① 「俺は五河士道。君を救いに来た!」
② 「通りすがりの一般人ですやめて殺されないで」
③ 「人に名を尋ねるときは自分から名乗れ」
「…………最先端もう少し頑張りなさいよ……」
思わず漏らしてしまうほど癖の強い選択肢だった。だがクルーのみんなは選択しており、自身も参加するべきなのだろう。
……この中で選ぶなら①か③? ②は場を和ませるセリフで彼女に効果薄いでしょうねぇ。
そういえば、私と初めて出会った時も②みたいな挨拶だったわねぇ〜。
そんな呑気な回想をしつつ、結果的に①へとみたまは入れたのだが、実際にデータとして現れたのは③という結果だった。
偏りの多さへ意外に思っていたみたまに対し、琴里たちはやっぱりと何処か納得顔だ。
「みんな私と同意見みたいね」
「あらぁ、みんなと仲間外れになっちゃったわぁ……ちなみに理由を聞いても?」
みたまの問いに答えたのは副司令、神無月と上司の令音。
「①は一見王道に見えますが、向こうがこちらを敵と疑っているこの場で言っても胡散臭いだけでしょう。それに少々鼻につく」
「……②は論外だね。万が一この場を逃れることができたとしても、それで終わりだ」
「なるほど……」
(……でも③も鼻に付く以前に問題発言じゃ──?)
そんなことを考えていると相手も痺れを切らしてきたみたいだ。
たとえ短時間であっても、これ以上は怪しまれると思い琴里は指示を出した。
『……もう一度聞く。おまえは、何者だ』
「士道。聞こえる? 私の言う通りに答えなさい」
『お、おう』
「──人に名を訊ねるときは自分から名乗れ」
(えぇ!? 選択肢そのまま!?)
まさかの回答にみたまも通信を繋げてヘルプに回ろうとするが、色々と遅かった。
「琴里ちゃん、ストレートすぎるわよ! 士道く──あ」
『”──人に名を訊ねる時は自分から名乗れ”……って』
「士道くぅん……」
手でこめかみを押さえながら間に合わなかったことを後悔した。
真っ直ぐな物言いは兄妹揃っての特徴なのだろうか。彼もそのまま言葉にしてしまったが時既に遅し。
彼女から形成された光の球が放たれる。階層を貫通した攻撃に士道も余波で吹っ飛ぶことになった。
『……っぐあ……』
「あれ、おかしいな」
『おかしいなじゃねぇ……ッ、殺す気かっ』
「士道君、ここは頑張って乗り切りなさい……色々な意味で」
生きていることが奇跡じゃないかと思うが、実際に士道はまだ戦場に立っている。このままクルーに選択の時間をとると今度こそ殺されてしまう。
ので、ここからは士道の判断に任せるしかなかった。
『これが最後だ。答える気がないのなら、敵と判断する』
『お、俺は五河士道! ここの生徒だ! 敵対する意志はない!』
『──そのままでいろ。お前は今、私の攻撃可能圏内にいる』
士道が両手を上げて攻撃の意志はないことを示すと、一応少女と対話可能な状況までもっていくことができた。
近づいてきた少女は士道の顔を少しの間凝視していると何かに気づいたように少しだけ眉を上げた。
『……ん? ……おまえ、前に一度あった事があるな……?』
『あ……っ、あぁ、今月の──確か四月十日に。街中で』
『おぉ、思い出したぞ。何やらおかしなことを言っていた奴だ』
そういい、彼女は少し警戒を解いた矢先、今度は士道の前髪を掴みながら顔を上向きにした。
『……確か、私を殺すつもりはないと言っていたか? ふん──見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させておいて後ろから襲うつもりか?』
『……っ──人間は……おまえを殺そうとする奴等ばかりじゃ……ないんだッ』
彼女に反論する士道の言葉を聞いた少女は目を丸くしながら手を放す。これは、ペースをこちらに持っていくチャンスかもしれない。
『……そうなのか?』
『あぁ、そうだとも』
『私が会った人間たちは……皆私は死なねばならないと言っていたぞ』
『そんなわけ……ないだろっ』
士道の言葉はしっかりと目の前の少女に伝わる……が、まだ疑心は消えていない。これではまだ彼女の孤独はまだ晴れない。
『……では聞くが。私を殺すつもりはないのなら、お前は一体何をしに現れたのだ』
『っ、それは──えぇと』
① 「それはもちろん、君に会うためさ」
② 「なんでもいいだろ、そんなの」
③ 「偶然だよ、偶然」
「あらぁ、また選択肢ね?」
再度現れた選択肢にでも今回はまともなものがあることに安心する。
とは言っても、①が最もまともであって、他は微妙なのだが……いちいち文句を言っている場合でもないので①を選択する。
今度は①に票が集まったようだ。
「②はまぁ、さっきの反応を見る限り駄目でしょうね……──士道、とりあえず無難に、君に会う為とでも言っておきなさい」
『き、君に会うためだ』
『……?』
言われるがままに放った士道の解答を聞いた少女は、少し不思議そうな顔をする。そしてそのまま質問を返す。
『ワタシに、一体何のために』
① 「君に興味があるんだ」
② 「君と、愛し合うために」
③ 「君に訊きたいことがある」
「これ、毎回やるのかしらぁ……」
「これが私たちの仕事だからね」
令音の返事に、じゃあ人選の方を優先しなさいよぉ! と密かにツッコミを入れるみたまだった。
案の定、艦内で選択の議論が始まった。琴里がチュッパチャプスの棒を口で上下させながら悩んでいた。
『んー……どうしたもんかしらねぇ』
『ここはストレートに言っておいた方が良いでしょう、司令。男気見せないと!』
『はっきり言わないとこの手の娘はわからないですって!』
(はっきりって……もしかして②? それこそ精霊ちゃんを怒らせるでしょう!?)
いきなり愛だ何だ叫ばれては挑発と取られてしまう……というか、このまま選択肢で止まっていたら話が進まない。
そう感じたみたまの行動は早かった。通信をつなげて、士道に伝える。
「士道君、ここはしっかり自分の言葉で伝えなさい」
「ちょっ!? 貴方、何を──」
「大丈夫よぉ〜……ちゃんと彼女のことを考えているようだからね」
あの相談だって、決め手になったのは目の前の子を助けたいって心のようだから。そう感じていたみたまの言葉には彼女なりの説得力が含まれていたようで、琴里も仕方がなく任せることにした。
そして受け取った士道もまた、目の前の彼女に抱いた感情を慎重に言葉に変える。
『俺は……っ、お前と話をするために……ここにきたっ』
『……どういう意味だ?』
『そのままだ。俺は、お前と話がしたいんだ。内容なんかなんだっていい。気に入らないなら無視してもいい。でも、一つだけわかってくれ。俺は──』
……言葉の一つ一つに彼の思いがちゃんと含まれている。士道が出会った時に素直に感じた思いだ。目の前の少女に手を差し伸べる人がいない。
孤独の辛さは自身が嫌なほど理解している。だから、同じ子が目の前にいて、どうして言葉をかけないがある。
誰も彼女に言葉をかけないのなら、士道自身がいうしかない。
『俺は──お前を、否定しない』
『………………っ』
その言葉は確かに彼女に……〈プリンセス〉に届いた。士道から目を逸らしてしばらく黙っていた後、小さく唇を開く。
「……シドー。シドーといったな」
「──ああ」
「本当に、おまえは私を否定しないのか?」
「本当だ」
「本当の本当か?」
「本当の本当だ」
「本当の本当の本当か?」
「本当の本当の本当だ」
(ここまで来て、やっと一歩前進ってところかしら?)
艦内は二人の会話を最後まで見守っているが、みたまには分かった。彼女は……精霊が救われる方向に向かっている。
士道の言葉は真っ直ぐだ。素直とも言えよう。相手のことを考えて自分の言葉をぶつける。真っ向勝負もいいところだ。
側からすれば当然かもしれない。もっとキザに、情熱的にと茶々入れるべきかもしれない。相手をデレさせるなら尚更だ。
だけど、そんな真っ直ぐな言葉こそが精霊には必要と彼女は考える。精霊のように世界から見放されている存在に、世界を好きになるために。
はっきりした。確かに五河士道なら、彼の言葉で救われる精霊はいるだろう。
もちろん、全員が救われるとは限らないけど……既に数人は思いつくし、と腕を組み直す。
目を戻すと、精霊が頬を膨らましながら士道と会話を交わしている。彼女の感情も安定しており、僅かながらも好感を持ち始めたようだ。
教室の存在や学校のことなど質問しては驚き、感嘆するを繰り返している。
こうしてみると、あの子、とても可愛らしい一面があるわね……意外と純粋というか……
そんな余裕もみたまに出来たその時……
『シドー……おまえは、私をなんと呼びたい』
『……は?』
士道のみならず、艦内全員が聞き返したくなった。今、なんて?
彼の問い返しに対して少女はふんと腕を組みながら調子変わらず続けた。
『私に名をつけろ』
『……』
士道の沈黙の中には心の叫びが聞こえた気がしたが……
『お、俺がかっ!?』
『あぁ。どうせお前以外と会話をする予定はない。問題あるまい』
この女の子、重い。この時、総員見事に思考が一致した。どうやら戦いはまだ続くようだ
みたまさんがどんな人か知りたい方は…
①pi○ivなどでチャチャッと調べる
②アプリ「マギアレコード」をプレイする!
の何れかをやろう!直ぐにどんなキャラかわかるよ☆