デート・ア・ライブーー交わる無垢と冥暗   作:RASっさん

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まったり&バタバタ

「あらぁ、メールだわ……え? あのお香が販売されなくなってた? 困ったわねぇ……他のお店を探すしかないかしらぁ?」

 

『調整屋』の独特な雰囲気をやる上でのお香が切れたようでみたまは大いに悩んでいた。そのお香はかなりマイナー物のようで、普通の店には先ず売っていないらしい。

 

 ストックは残してあるものの、早いうちに他の当てを探さなければならないと考えていた。

 

 ……当て自体はあるのだが。

 

 一人……『調整屋』を天宮市に構える前から常連さんになっている子がいるが、こんな形で彼女の借りを返したくないのは正直な感想である。

 でも、()()()なら数の暴力ですぐに情報を集められそうなのよねぇ〜……とどうするか迷っているとカランと扉が開かれる。

 

 パパッと切り替えようとしたが、相手が見知った顔でまたもや立ち止まる。

 

「いらっしゃ〜……あら、珍しいお客さんねぇ?」

 

「こんにちはー! 遊びに来たのだー!」

 

「……お邪魔するよ」

 

 そう言いながら入ってきたのは白いリボンで赤髪をツインテールに纏めている少女。もう一人は藤色の髪を束ねた、目の隈が特徴的な女性……

 

 先日の精霊案件で知り合った〈フラクシナス〉の構成員。

 

「琴里ちゃんに令音さんねぇ……琴里ちゃんはオフの日なのかしらぁ?」

 

「そうだよー! ここ、一回は来てみたかったんだよねー」

 

「急な訪問すまないね……君とこれからの話もしたいと思っていたから」

 

「そうねぇ……飲み物くらいしか出せないわよぉ」

 

 みたまはそう言ってバーカウンターからノンアルコール……りんごジュースを取り出す。『調整屋』を借りた建物が元々バーを運営していたらしく、それをそのまま利用している形だ。

 

 尚、飲食店として機能はするが、運営するのはみたまではない……

 色々な意味で彼女にご飯を任せてはいけない。

 

 そうして、二人をソファーに座らせてジュースを出すと、暫くは和やかな時が流れる。

 

 琴里は中学生の制服を着ていて、先程まで中学校だったようだ。だが、空間振の影響で学校は急遽休みになり、令音を巻き込みながらここにやってきたらしい。

 こうしてみると、琴里のリボンがマインドセットになっていることに改めてみたまは実感した。昨日、一緒だった時のカリスマを感じる威厳は消え、明るく無邪気な性格が遺憾無く現れている。

 

 そしてそのような姿はとても可愛く、懐かしんでしまうもので──

 

「……そうだ、ちょうどいい機会だから聞いておこう」

 

「んー、なーに?」

 

 と、ジュースを吸っている琴里に令音が思い出したように問うた。

 

「初歩的なことで悪いのだがね琴理。なぜ彼が精霊との交渉役に選ばれたんだい?」

 

「……それは──」

 

「んー」

 

 その問に琴理は眉根を寄せた。一足先に彼を"診た"みたまも思い出したかのように表情を暗くした。

 

「誰にも言わない?」

 

「……約束しよう」

 

 令音が約束をした時、破ることは絶対にない……その事を知っている琴里は続けることにした。

 

「実は私とおにーちゃんって、血が繋がってないっていう超ギャルゲ設定なの」

 

「……ほう」

 

(考えてみればそうかもしれないわねぇ……)

 

 令音は小さく首を傾げる。ただ琴理の言葉をすぐに理解し「それと今の話に何の関係が?」と言わんばかりの調子だ。

 その反応を見てか、琴里も頬を緩めて続けた。

 

だから令音の事が好きなんだよねー……で続きだけど、何歳の頃って言ったかな、それこそ私が覚えてないくらいの時に、おにーちゃん、“本当のおかーさん”に捨てられて家に引き取られたらしいんだ。私が物心つく前だったからあまり覚えてんだけどさ、引き取られた当初は相当参ってたみたい。それこそ、自殺でもするんじゃないかってくらいに」

 

「…………」

 

「自殺」という言葉に何故か令音がピクリと眉を動かした。

 

「令音さん?」

 

「…………いや、続けてくれ」

 

「ん。ま、仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけどねー。年齢一桁の子供からして見れば、母親って言うのは絶対的な存在だし、おにーちゃんにとっては自分の存在全てが否定されたような一大事だったと思う。──まあ、一年くらいでその状態は治まったらしいんだけどねー」

 

 ふうと息を吐いてから彼女は続ける。

 

「それからなのかなー。おにーちゃん、人の絶望に対して妙に敏感なんだ」

 

「……絶望に?」

 

「んー。みーんなから自分が全否定されてるような──自分はぜーったい誰からも愛されないと思っているような。まあ要は当時の自分みたいなさ。そんな鬱々とした顔をした人間がいると、まったく知らない人でも無遠慮に絡んでいくんだよね」

 

「十香ちゃんに対しても助けようとしていたものねぇ……無鉄砲なのかしら?」

 

「そうかもねー……でも、もしかしたら、と思ったんだ。──あの精霊に勇んで向かって行くようなの、おにーちゃんくらいしか思いつかなかったからさー」

 

 なるほど、そう言われれば確かに彼の性格はこの計画に向いているのかもしれない。

 ……だがそれはあくまでも感情的観点を見た場合だ。それくらいで令音は納得していなかった。

 

「……だが、私が聞きたいのはそういった心情的な理由ではないね……君が知らないとは思えない──彼は一体”何者”だね」

 

 やっぱり親友でもある彼女には一枚くらいの嘘はつかないなぁと感じながら、琴里は答えることにした。

 だが、意外な方向から先に言われてしまう。

 

「おにーちゃんはね、せ──『精霊を封印できる存在でしょぉ?』……何で知ってるの!?」

 

「……」

 

「ごめんなさいねぇ〜……実は彼の事はこちらで色々調べちゃったのよ♪」

 

 琴里より先に答えたみたまはそう言い、一旦カウンターの方へ戻る。

 少しして昨日令音から渡されたタブレットを取り出し、二人の方に見せた。

 

「こちらが簡単に纏めたデータよぉ……私は令音さんみたいに真っ当な解析者じゃないから実際に検査した方がいいけれど」

 

「ふむ……」

 

 タブレットには士道のデータと思わしき数字が並んでおり、そこには士道の霊力を保つ結果が書かれている。

 要するに、士道は精霊の力を吸収する力があり、そのためにこの計画に参加しているということが安易に想像できた。

 

 〈フラクシナス〉で随一の解析官である令音でもその結果はすぐに読み取ることが出来て静かに眉を上げた。

 

「……なるほど、健康体の身体に霊力の反応がある……既に精霊の力を溜め込んでいるようだね。君の力でそこまで読み取れるのは、そちらに興味が湧いてしまうけどね」

 

「あらあらぁ〜そこは企業秘密とさせてもらうわ♪」

 

 目線の先でのほほんと躱すみたまだが、彼女の能力は想像以上だと琴里も考えていた。

 

『調整屋』の中で八雲みたまの本来の雇用目的……それは解析班と医療班だが、その一端の解析能力が既に使われていたとは。

 おそらくそれは士道がここを訪れた際に行われたのだろうが、士道が気づかずに出来るのはそれなりの技術がないとできないはずだ。

 

 それも、恐ろしいのはこのようにして相手の情報を簡単に抜き出してしまうことができる。これが敵の手に渡った場合はこの上なく厄介だろう。早くコンタクトをとっておいて本当に良かったと琴里は内心で冷や汗を流した。

 

 そのくらい彼女の存在は貴重と言えよう

 

 ……と、ここまでは令音も持った、あくまでも()()()()()()()()()で見た場合の感想だった。技術者の目ではまた違った景色が見えてくる。

 

「だけど、数値はバラバラで……感覚で読み取っているように思える……昨日渡したデータの見真似で作ったようだね」

 

「そこまで分かっちゃうのねぇ……生憎、私は解析者としては三流……いいえ、それ以下になるわねぇ。それでも雇うのかしら?」

 

「もちろんだよー……というか、半分は令音の仕事を受け持ってもらうために頼んでるし」

 

 流石は令音だろうか……直ぐにみたまのデータの不備を発見していた。正直、琴里はあまりデータに違和感を感じなかったのだが、親友は数枚上手だった。

 

 それもそのはず、みたまの”診断”は彼女基準で行われており、このようにして文字にまとめることなどなかったためだ。

 なので実際、解析官は名義の、医療に専念するつもりだったらしい。

 

 早速バレてしまい素直に話したが、二人は特に怒ることもなく答えた。

 

「なに、君くらいなら直ぐに覚えるよ。一から丁寧に教えてあげよう」

 

「お手柔らかにお願いします……それならこれからは令音さんは(せんせい)と呼んでもいいかしらぁ?」

 

「……私は何でも構わないよ」

 

 ……令音の呼び方がなぜ師となったのかは分からないが、少なくとも3人の距離が近くなったのはいうまでもない。

 

 その後は士道の情報交換や、琴里の兄バカエピソードなどを交えて至極普通の女子会が行われている時だった。琴里のスマホに一件の着信が入る。

 

「あっ、神無月からだー……女子会中に連絡だなんて極刑ものだぞー」

「琴里ちゃん、本音漏れてるわよぉ……」

 

 少し黒モードに入りかけた琴里はジュースを口にしながらメールの内容に目を通──

 

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 盛大に吹き出した。ギョッと驚くみたまの隣で、琴里の正面に位置していた令音が被害を被った。

 

 現在進行形の形で。

 

「……」

 

「せ、師!? 直ぐにタオルを取ってくるわ」

 

 言葉のままジュースを顔に被った令音はメガネを拭き、みたまは急いでタオルを渡す。

 琴里はまだむせていたが、それほど動揺していたようだ。

 

「ごめっ、令音……」

 

「…………ん」

 

 まだ少しむせている琴理が謝ると、令音は何事もなかったかのように、みたまから受け取ったタオルで顔を拭った。

 

「……何かあったのかね、琴理」

 

「ん……ちょっと非科学的かつ非現実的なものを見た気がして」

 

「どれどれぇ?」

 

 差し出されたスマホに二人が覗き込む。どうやらメールには写真が添付されており、そこには二人のカップルが仲良くドーナツの食べ合いっこしている写真があった。

 

 ……士道と、彼が昨日会った十香の二人のカップルだ。

 

「……なまらびっくり」

 

「あらあらあららぁ〜」

 

「ええぇ……何これぇ」

 

 三者三様、誰もそれぞれの驚き方に突っ込まないくらい状況に混乱しているらしい。

 何せ十香は精霊であり、厄災とも呼ばれる存在。それが何の警告や前触れもなく現れているのだ。

 

 これにはメールを送った神無月のファインプレーである。何故、その場に居合わせたのかは分からないが。

 

 先に驚いていた分、現実回帰の早かった琴里が精霊に詳しいであろうみたまに質問した。

 

「ねぇ、みたま。精霊って私達に感知されずに現界する方法があるの?」

 

「う──ん……十香ちゃんが霊力を精密に操作しているか、霊力の暴走が起こらないくらい機嫌がいいのか……」

 

「……後者の可能性が高いね」

 

 精霊の霊力は者によれど、一定の制御ができなければ現界した際に何かしらの反応がある。だから霊力の

 

 そして今までの十香の戦いからして、誰かに敵意を向けていない限り霊力の反応はあると令音は解釈した。

 

「もしくは、ただのそっくりさんかもぉ?」

 

「ないねー、おにーちゃんが普通の女の子連れてるってことになるぞー。精霊の静粛現界とどっちが非現実的かって言ったら……僅かに前者かなー?」

 

「兄に辛辣な評価ね……」

 

 いや、これは普通に経験が薄い士道君にも問題があるので何とも言えない。

 

 と、いつの間にかリボンを黒に締め直していた琴里。どうやら司令官モードへマインドチェンジしたようだ。そのまま的確な指示を始める。

 

「みたま、直ぐに〈フラクシナス〉に行って頂戴。令音には作戦コードF-08・オペレーション『天宮の休日』よ」

 

「は〜い、お話はまた今度にしましょう」

 

「この状況からだと──ルートCというところか……ふむ、直ぐにシンと接触するよ」

 

 オペレーションや作戦コードなど、知らない固有名詞が出てくるが気にしない。司令からの命令通り、みたまたちはそれぞれの位置へと急ぐのだった。

 

 みたまは急いで店の表に出て看板を裏返しながら、彼へ連絡しなきゃとメールを始めた。

 

 この後、忙しくなるわぁ〜と、若干楽しみにしながら。

 

 

 

 

 

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

 

 

 

 

 

『急に仕事が入っちゃったから、店番を頼むわね♪ あと、夕方からあの子が来るけど多分その時に私いないから別日に指定してちょうだ〜い』

 

 ちらっと見たメッセージにある「♪」や「〜」がまぁウザい。それが受け取った()の正直な感想だ。

 

 彼女へ送ったメール……あのお香をえらく気に入っていたからどうするか聞いたのに、返事が全く来ない。

 おまけに来たと思えば店番を頼むという割と無茶振りもいいところだ。

 

 自分も午後のバイトを既に始めてしまっているのに……そう受取人はため息をつきながらアイスクリームを掬う。

 

 すると、近付いてくるカップル──美しい黒色、長髪の女の子を引き連れた青髪の男に見覚えがあった。

 よく注目してみると女の子が目をキラキラさせながらバケットに詰められたアイスを眺めており、男は彼女が何の種類を食べたいのか聞いているらしい。

 

 ……だが目線が財布の方もチラチラ向いている。中身がキツイ状態なのかもしれない。それで彼女を満足させられるのか心配である。

 

 ふと、先ほどもらった連絡を思い出す。緊急の仕事、と彼女は言っていた。それがもし、目の前の二人がここにいることだったら──

 

「──次のお客さま、ご注文は?」

 

「っ、はい。コーンのチョコレートを一つ」

 

「畏まりました……一つでいいのか?」

 

「え?」

 

「隣の彼女さんは沢山の種類を楽しみたいと思ってそうだ。少年も一つ頼めばいいのではないか?」

 

「うーん……じゃあ、ダブルでチョコレートと──っテェ!」

 

 その瞬間、彼に強烈なデコピンが炸裂した。予想外の一撃に悶絶する彼だが、幸い彼女はアイスに夢中で気づかなかったようだ。

 

 そのままジト目で店員は彼に小声で悟らせるように言った。

 

「った……な、何を──?」

 

「……何故そうなる。それでは意味がないだろう。彼女だけに満足させて自分は何もしないのは紳士的とは言えんぞ」

 

「寧ろ十香の大食いを加味したらこっちの方がいいんじゃ──」

 

「食もデートの楽しみだろう。何もせずに相手の食べる姿を見るのはいいカップルには思えんな」

 

「うっ……」

 

 およそ店員とは思えない口調と態度に少し言い返したかった男だが、その言葉に含まれる妙な説得力で考え込んでしまう。

 確かにこれはデートであり、いくら彼女の腹が無尽蔵で、自身がお金に不安があっても彼女一人がアイスを食べて果たして良いのだろうか。

 

 間髪入れず、店員は彼に注文の確認をした。

 

「もう一度聞こう、ご注文は?」

 

「……チョコレートと、クッキークリームで」

 

「畏まった。直ぐに作ろう」

 

 そう言い、テキパキとアイスをコーンへ掬う。物の数十秒でアイスクリームを二つ彼に渡した。代金はこっそりおまけしている。

 

 彼はそのまま彼女と一緒に向こうのベンチへと向かった。彼女が二つのアイスのどちらを食べるか悩んでおり、男はシェアを提案しているように見える。

 

 これなら仲慎ましく食べ合いっこというデートでは理想的なシチュエーションへと発展するだろう。

 それを見て、男の店員はため息を吐きながらレジを他の方に譲る。直ぐに店長へ事情を話し、シフトの時間を短くしてもらわなければならない。

 

(……むっ、結局お香はどうすればいいんだ)

 

 今日はいつもより忙しい日になりそうだと、ため息を付きたくなるのだった。

 




さーて、後二話くらいで十香編は終了かな?

…あれ?みたまたち全然活躍してなくない?
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