ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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10 戦闘訓練!

(あー、ダルい)

 

 たった一人のヴィランチームとして対戦場所のビルに入った魔美子は、対戦相手の様子を思い浮かべて、あまりのめんどくささに顔をしかめた。

 爆豪のあれも、日常で相手をする分にはいい。

 不良に絡まれるのは青春のスパイスだ。多分。

 だが、相手に大怪我をさせないように気を使いながらの戦闘訓練で向き合うのなら、面倒なことこの上ない。

 彼女が戦闘に求めているのは、破壊衝動を気持ち良く発散できるサンドバッグだけなのだ。

 

(でも授業だし、真面目にやらなきゃダメか。嫌いな勉強を頑張るのも青春の醍醐味って、どこかのコミックに書いてあったし)

 

 パンパンと頬を叩いて、魔美子は気合いを入れ直した。

 そして、与えられた5分の猶予時間の間に準備を開始。

 とはいえ、究極の脳筋の娘として育った彼女だ。

 小細工に頼るような戦闘は好みじゃないので、今回も事前にやることなど殆ど無い。

 

「『クリエイト・サモンゲート』」

 

 せいぜい、核兵器(ハリボテ)の護衛として使い魔を出しておくくらいが関の山。

 使い魔は数と質を高めるほど、溜まっていく破壊衝動も増える。

 今回はそれを最低限に抑えるべく、一般人に毛が生えた程度の身体能力の使い魔を、敵チームと同数の4体召喚するに留めた。

 この程度なら、うっかり殺さないように手加減する時の支障にはならないだろう。多分。

 

『屋内対人戦闘訓練、開始!!』

 

 耳に装着した小型無線を通して父の声が聞こえてきた。

 次の瞬間、ビル全体を冷気が包み込んでいく。

 轟の個性だ。昨日の個性把握テストで見た。

 一瞬にしてビル全体を凍りつかせるとは、かなり強力な個性。

 

「おお」

 

 魔美子は思わず感嘆の声を上げた。

 出力だけなら下手なヴィランより、よっぽど強い。

 彼が壊していいヴィランだったら、さぞ張り合いがあったことだろう。

 

(普通の人なら、足が凍りついて行動不能。これだけで試合終了だったね)

 

 そんなことを思いながら、魔美子は凍りついた足を強引に動かして氷を割る。

 使い魔達も足が損傷するのを全く厭わずに、魔美子と同じように足下の氷を割る。

 常人なら足の皮が剥がれているところだが、エネルギーの塊に過ぎない使い魔に痛覚なんて無いので問題ない。

 

(ここで待ち構えてもいいけど……)

 

「いいや。行っちゃえ」

 

 魔美子は使い魔達を核兵器の部屋に残して、行動開始。

 確実に勝ちたいのなら、最高戦力(じぶん)が核兵器から離れた隙を狙われないように待ち伏せするのが上策だが、寒い中で敵が来るまで待つのが嫌だった。

 この程度の寒さで不調をきたすような体ではないとはいえ、それでも寒いもんは寒い。

 

「よっと」

 

 部屋の窓から飛び出して、階下へと落下。

 まずは一階に降りて、恐らくは侵入してきたばかりで一階にいると思われる侵入達を探す。

 そう思っていたが、落下中に運良く二人も発見できた

 

「飯田少年に障子少年だったっけ? 外にいたんだね」

「「ッ!?」」

 

 魔美子はワンフォーオール20%に匹敵する力でビルの壁を蹴り、ビルの外にいた二人へ急接近。

 そのまま、まずはフルフェイス眼鏡こと飯田に接近し、彼に向けて拳を放った。

 万が一にも殺さないように気を使った手加減パンチだ。

 

「ぬぉぉ!!」

 

 だが、これを割り込んできた巨体の異形、障子が止めてみせた。

 握力500キロ越えの怪力を誇る彼は、手加減パンチごときでは倒れない。

 それどころか、障子は突き出した魔美子の右腕を掴み、拘束して封じ込めようとする。

 

「飯田!!」

「ああ! トルクオーバー! 『レシプロバースト』!!」

 

 障子が抑え、飯田が反撃。

 敵は圧倒的格上。

 それを相手に出し惜しみしている余裕は無いと見て、飯田は初手から奥の手を使い、障子が押さえてくれている魔美子に蹴りを放つ。

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

 飯田天哉。

 個性『エンジン』。

 ふくらはぎに搭載されたエンジンによって、超スピードでの走行を可能とする。

 その個性の全力全開を無理矢理に引き出し、数秒後にエンストすることと引き換えに得た超スピードを威力に変換した蹴りが魔美子を襲う。

 

「重っ……!?」

 

 その予想外の速度と威力に、ガードに使った左腕が痺れる。

 これには魔美子も驚いた。

 初撃を受け止めた上に拘束までしてきた障子といい、所詮は学生、それも入学したてのヒーロー科1年生と相手を侮り過ぎていたかもしれない。

 宿敵の放ってきた刺客との戦いや、社会の裏側でこっそりとサンドバッグを探し歩いた経験から、ちょっと相手を下に見過ぎていた。

 これは反省しなければならないだろう。

 

「さすがは雄英。ヒーロー科の最高峰。優秀な人材が集まって当然ってことか」

 

 反省して相手の評価を上方修正し……まずは目の前の障子の腕を振り払った。

 

「!?」

 

 怪力による拘束を更なる怪力で強引に引き剥がし、自由になった右腕を腰だめに構える。

 

「君の頑丈さを見込んで強めにいくよ。防いでね!」

「ッ!?」

 

 そして、今度は手加減抜き(個性を使わない範疇で)の一撃が放たれる。

 

「『テキサス・スマッシュ』!!」

「かはっ……!?」

 

 ガードに使った両腕がへし折れ、そのまま突き進んだ拳が、障子の腹部に突き刺さった。

 内臓をシェイクされるような痛みに彼は膝をつき、立ち上がれない。

 その光景を見て、残った飯田も動揺してしまった。

 

「障子くん!?」

「つーかまーえた!」

「!?」

 

 動揺で動きが乱れた隙に、魔美子は飯田の肩に両手を置いて拘束。

 ニコッと笑いながら、コスチュームのアーマーに守られた飯田の腹に膝を叩き込んだ。

 

「ごふっ!?」

 

 その一撃で飯田も戦闘不能。

 魔美子は崩れ落ちた二人に、確保証明のテープを巻きつけた。

 これで二人はゲームオーバーで脱落だ。

 

「……思わず腕とか折っちゃったけど、大丈夫かなこれ」

 

 遅れてちょっと心配になる魔美子。

 雄英には治癒系の個性を持った優秀な看護教諭がいるし、父も戦闘が始まる前に「怪我を恐れず、思いっきりな!」と言っていたから大丈夫だとは思うが……やり過ぎ判定をされる可能性もある。

 

「ま、怒られたらその時だ。次行こう」

 

 倒れ伏す二人に背を向けて、魔美子はダッシュでビルの中へ。

 身体能力に任せて一階を高速で走り回り、そこで次の獲物を探した。

 まだバトル開始から1分程度しか経っていない。

 残る二人はまだ一階にいるだろう。

 その予想は当たり、数分としないうちに三人目を見つけた。

 

「来たな……! 八木……!」

「轟少年かー」

 

 見つけたのは紅白の髪をしていて、コスチュームで左側の赤髪をすっぽりと覆って見えなくしている少年、轟。

 彼は魔美子を見た瞬間、右半身から冷気を放出してきた。

 冷気は瞬く間に氷に変わり、避ける隙間の無いビルの通路を氷が埋め尽くす。

 

「『デトロイト・スマッシュ』!!」

 

 それを衝撃波の拳で粉砕。

 魔美子は氷壁をものともせず、速度を緩めずに轟に迫る。

 

「ッ……! まるでオールマイトだな……!」

 

 その言葉に少しドキリとした。

 超パワーが被ったのは偶然だが、戦法が似通っているのは、戦い方を教えてくれた師の一人が(オールマイト)だからだ。

 父のうっかりもあったし、早くもバレたかと疑った魔美子だが、轟の様子を見て、別にそういう感じではなさそうだと思い直した。

 

「凄い顔してるね」

 

 轟の顔は何故か、まるで親の仇でも見るような凄い形相だった。

 もしや、親子疑惑よりよっぽどヤバい秘密の方がバレてるんじゃないかと思わされる。

 

「私、君に何かしたかな?」

「……違ぇよ。これは俺の問題だ」

「そっか。安心した」

 

 質問をぶつけた時の轟の様子は、激昂して魔美子に怒りをぶつける感じではなかった。

 そういう反応になるということは、知らない間に彼の親の仇になっていたとかではないのだろう。

 冗談では済まないくらいにはその可能性があったので、割と本気でホッとした。

 これなら遠慮はいらないだろう。

 

「おおおおおおおお!!」

「『テキサス・スマッシュ』!!」

「ごはっ!?」

 

 氷の出力を上げてきた轟に対して、魔美子は凄い勢いで分厚くなり続ける氷の壁を力技で突破し、距離を詰めて、氷壁越しに轟に腹パンを放った。

 氷壁でかなり威力を削がれたが、それでも彼は障子と違って、耐久力に秀でているわけではない個性。

 ガード越しでも超パワーによる腹パンは効き、轟はゲロを吐きながら膝をついた。

 

「確保っと……おぉ!?」

「ま、だだ……!」

 

 しかし、その状態でも轟は氷の個性を使い、動かない体を無視して攻撃してきた。

 確保テープを巻く前に、氷結攻撃が魔美子を襲う。

 ゼロ距離にまで接近していた彼女は、避けられずに氷の中に閉じ込められた。

 

「ふん!」

 

 だが、魔美子はすぐに身じろぎして内側から氷を突き破る。

 そのまま伸ばした手で、轟のアーマーに守られた左の肩に手刀を叩き込み、今度こそ轟を戦闘不能にした。

 

「ちく、しょう……!」

 

 轟焦凍が倒れ伏す。

 彼は最後の最後まで負の感情に満ちたような顔をしたまま、痛みに耐えかねて気絶した。

 

「なんだったんだろう、この子。……というか」

 

 魔美子は己の露出した肌に意識を向ける。

 凍傷になっていて痛かった。

 氷に閉じ込められた時のダメージだ。

 傷はすぐに再生していく(・・・・・・)が、ダメージを食らったことに変わりはない。

 

「やっぱ、雄英舐めちゃいけないわー」

 

 そう呟きながら、轟に確保テープを巻く。

 これで三人。

 残るは不良ただ一人。

 

「お?」

 

 と、その時、魔美子はとある電波をキャッチした。

 魔美子が感じ取れる電波など一つしかない。

 それは……使い魔が倒された時の信号。

 

「マジかよ、不良少年。もう核兵器の部屋に辿り着いたんか」

 

 あの不良、思ったより遥かに優秀なようだ。

 彼の幼馴染である緑谷から多少は話を聞いていたが、才能マンという彼の言葉に間違いは無かったらしい。

 

「よっと!」

 

 魔美子は天井をぶち破って、最短距離で核兵器の部屋までダッシュした。

 戻った時には既に、使い魔は残り一体にまで減っていた。

 一般人程度の身体能力で生み出したとはいえ、痛みも疲労も感じずに襲いかかってくる使い魔は、下手なプロヒーローの手くらい煩わせられる自信があったというのに、この少年は。

 

「拍手でも贈ろうか? 見事なり、不良少年」

「クソ女ぁあああ!!」

 

 魔美子の姿を見た瞬間、爆豪は咆哮を上げながら、核兵器そっちのけで向かってきた。

 掌の爆破を推進力にして、結構なスピードで突撃してくる。

 

「それはちょっと無謀なんじゃないかな?」

「うるせぇえええ!!」

 

 爆豪は冷静さを欠いた様子で突撃を続け……腕に装着した巨大な手榴弾のような籠手を魔美子に向けた。

 もう片方の手で籠手に付いたピンを外した瞬間、凄まじい大爆発が魔美子を襲う。

 

「ッ!? な、なんじゃこりゃあ!?」

 

 今のは洒落にならなかった。

 咄嗟に拳を放って相殺したのに、個性無しの一撃では相殺し切れていない。

 魔美子の体に多少の火傷が刻まれた。

 おまけに、爆豪の体は今の大爆発の反動で後ろに吹っ飛び、核兵器に向かって一直線だ。

 

「うっわ、マジかよ。君、めっちゃクレバーじゃん」

 

 こっちを油断させてあの大爆発を叩き込むために、冷静さを失ったふりをした。

 その大爆発にしても、魔美子を倒すのが目的ではなく、一瞬でもこちらの動きを止めるのと、反動で吹っ飛ぶ超スピードを利用して、最後の使い魔の守りを振り切るのが狙い。

 爆豪勝己。

 中々どうして策士である。

 

「……このまま負けるのはシャクだな」

 

 まんまと相手の掌の上で踊ったまま終わるのは気に食わない。

 存外子供っぽい部分が色濃く残っていた魔美子は、使うつもりの無かった力に手を出した。

 

 個性解放部位『右足』 出力60%

 

「『デビル・ダッシュ』!!」

 

 個性把握テストでも見せた技。

 片足だけ個性を解放して、足場を粉砕するほどの踏み込みで一気に加速する。

 50メートル走を0秒台で走り抜けた超スピード。

 それを使ってもなおギリギリだったが……追いついた。

 

「クソが……!?」

 

 核兵器まであと少しというところで、爆豪は顔面を魔美子に掴まれた。

 彼女はそのまま爆豪の頭を地面に叩きつける。

 もちろん殺さないように、超加速の勢いも何もかも殺した上でだ。

 これがヴィランなら、そのまま全力で叩きつけてフィニッシュだったのだが。

 

「確保っと。いや本当に素晴らしかったよ、爆豪少年(・・・・)

 

 気絶する爆豪に、魔美子は心からの称賛を贈った。

 敗北まで、あと一歩だった。

 相手を舐めてかかって「寒いから」なんて理由で最善手を選ばず、個性も殆ど使わない舐めプと言われても仕方ない戦い方だったとはいえ、それでもここまで追い詰められるとは思わなかった。

 殺さないように、大怪我もさせないように気を使ったので、破壊衝動なんて欠片も発散できていない。

 なのに、結構楽しかった。

 サンドバッグにできない彼らとぶつかり合うなんて面倒なだけだと思っていたが、存外こういう青春も捨てたもんじゃないかもしれない。

 

「とりあえず、勝ったどー!」

 

 何はともあれ、ヒーローチームは全滅し、ヴィランチーム(一人)の勝利だ。

 凍りついたビルの中で、魔美子は勝利のスタンディングを決めた。


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