ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「さあ、振り返りの時間だ! ヒーローチームの最大の敗因が何か、わかる人!?」
「はい。オールマイト先生」
魔美子が戻り、気絶した三人が保健室に運ばれた後。
モニタールームにて振り返りが行われ、オールマイトの質問に発育の良い少女『
「最序盤にて爆豪さんが独断専行で突出し、轟さんも彼に続くように別行動を取ってしまったこと。
あそこでバラバラにならず、バラバラになるにしても、ちゃんとした作戦を立てた上での行動をしていれば、いくら八木さんでも、もっと苦戦したはずです。
彼女の動きにも粗が多く、直接戦闘はともかく、作戦は決して満点と呼べるものではなかった。
正直、能力に任せたゴリ押しでした。つけ入る隙はいくらでもあったはずですわ」
「う、うん……。正解だよ、八百万少女」
「手厳しいー。でも、返す言葉も無いぜ」
言いたいことを全部言われたオールマイトと、雑な戦い方をした自覚のある魔美子は揃って苦笑した。
「と、とりあえず、戦いは全て録画するから、保健室送りになっても後でちゃんと確認して反省すること!
勝ったにせよ負けたにせよ、振り返ってこそ反省ってのは活きるんだ!
魔美ちゃんも勝ったからといって慢心しないこと! 八百万少女の言う通り、反省点の多い戦いだったということを自覚してね!」
「はい。わかりました、オールマイト『先生』」
「あ……」
態度が完全に父親モードになっていたことを自覚して、オールマイトは冷や汗をかいた。
しかし、時既に遅し。
生徒達は好奇心に満ちた目で、オールマイトと魔美子を見ていた。
「『魔美ちゃん』! 名前呼びの上に、ちゃん付け!」
「もしかしなくても、二人って昔からの知り合いだったりするんすか!?」
「ケロ。超パワーの個性も似てるし、親戚とか?」
「デクくん! 八木さんと仲良かったよね? 何か知らない?」
「え、えぇっと……」
マズい。
緑谷にまで追求が及び始めた。
ワンフォーオールの秘密の重要性は魔美子とて理解している。
そして、緑谷とは約1年、父とは10年以上の付き合いがある魔美子は、こいつらの嘘の下手さをよく知っていた。
よく今まで秘密を守ってこれたなってくらい、全部顔と態度に出るのだ。
(……仕方ない)
魔美子は覚悟を決めた。
ポンコツ✕2が口を滑らせる前に、せめて被害を最小限にしておかなくては。
ここにクラスメイト達しかいなくて良かった。
バレてもここで情報を遮断できる。
誰かが口を滑らせたとしても、自分達や学校側が徹底して否定すれば、ただの噂として処理できる……はずだと信じて。
「バレてしまっては仕方がない。真実を話そう」
「魔美ちゃん!?」
「パパ、残念ながら、もう手遅れなんだよ」
「「「パパ!?」」」
クラスメイト達が驚愕の視線をオールマイトと魔美子に向ける。
半ば予想していたとはいえ、やはりこの情報のインパクトは凄まじい。
プライベートの一切が謎に包まれたナチュラルボーンな平和の象徴に、娘がいたなんて大ニュースは。
「そう。私こそがオールマイトの娘、八木魔美子だよ。この情報はここだけの秘密にしといてね。マスコミに騒がれるのは嫌だから」
「お、おう! わかった!」
「ケロ。追求しておいてなんだけど、二人が嫌がるようなことは絶対にしないから安心して」
「俺達、ヒーローだからな!」
よし。
これでワンフォーオールや魔美子の過去の方に追求の手が伸びることは無いだろう。
隠したい秘密があるのなら、他のビッグニュースで覆い隠してしまうというのは有効な手だ。
ついでに、魔美子↔緑谷の繋がりはヘドロ事件のおかげでクラスメイト達に知られているので、緑谷↔オールマイトの繋がりを上手いこと自然に見せてくれるカモフラージュになるだろう。
災い転じてなんとやら。転んでもタダでは起きない。
「魔美ちゃ……」
「学校では教師と一生徒ですよ、オールマイト先生」
「あ、はい」
しゅんとなるオールマイト。
それを見て、生徒達はこの親子の力関係をなんとなく悟った。
「さ、さーて! 気を取り直して第二戦に行くぞー!」
「「「おおー!」」」
ビッグニュースを掴んでテンションが上がったおかげで、第一試合前に漂っていた不穏な空気は完全に払拭された。
まあ、不穏な空気を放っていた筆頭の二人が保健室に隔離されただけとも言うが。
この後の授業は特に何事もなく進み……授業が終了した後、オールマイトは不穏二人組のケアのために保健室へと向かう。
しかし、その時には不穏の片割れである爆豪の姿が、保健室のベッドから忽然と消えていた。
◆◆◆
「かっちゃん!!」
放課後。
校門に向けて歩く爆豪の姿を、たまたま教室の窓から見つけることに成功した緑谷は、反射的に駆け出して、その背中に声をかけていた。
彼をイジメていた頃の、自尊心に満ちていた頃とはまるで違う、少し俯いた背中に。
「……なんだよ、デク。俺を笑いに来たのか?」
振り返った爆豪が緑谷を睨む。
だが、その目にいつもほどの黒い覇気は無かった。
「ああ、そうだ。テメェも個性を隠してやがったな。殆ど個性使わなかった、あのクソ女みてぇに」
爆豪の声は……震えていた。
「なんなんだよ、あいつは。ヘドロの時といい、今回といい……俺はあいつの足下にも及ばなかった。
あのオールマイトみてぇなパンチも使わせられなかった。
直接対決じゃ勝てねぇってビビって、プライド捨ててルール勝ちなんざ狙って、それでも簡単に踏み潰された。
なんなんだよ。ホントに、なんなんだよ、クソが」
歪んだ天才に刻み込まれた、初めての完全敗北。
悔しかった。
いや、悔しいなんてもんじゃなかった。
あれだけ嫌って蔑んでいた
「なぁ、デク。テメェの個性も派手だったよな。指一本でとんでもねぇパワー。出力だけなら、あのクソ女に匹敵するんじゃねぇか?」
そして、爆豪の意識は緑谷にも向いた。
「なぁおい。俺を騙してたのか? 無個性なんて言って、俺をコケにして楽しかったか?」
「違う!!」
その言葉に、緑谷は強く反発した。
そんな風に思ってほしくなかった。
見下されて、イジメられて、踏みつけられて……それでも、ずっと凄いと思って見上げていた彼にだけは。
「……人から授かった個性なんだ」
緑谷出久は、爆豪勝己を嫌な奴だと思っている。
嫌な奴だけど、凄い人だと思っている。
目標も、自信も、体力も、個性も、自分なんかより何倍も凄い。
昔から、その背中をずっと見てきた。
ずっとずっと、嫌でも見せつけられてきた。
長年に渡って熟成されてきたその思いが、彼の口を滑らせた。
「まだロクに扱えもしない、全然ものにできてない『借り物』の個性。
でも、いつかちゃんと自分のものにして『僕の力』で君を超えたい」
凄い爆豪勝己に勝ちたい。
それが今の緑谷出久の願い。
追いつくことを諦めてしまっていた相手に、今度こそ追いついきたい。
だから、
「だから、そんな顔しないでよ!! 君は嫌な奴で、それでも認めざるを得ない凄い奴のままでいてほしい! 僕は、そんな君に勝ちたい!!」
弱ってる爆豪なんて驚天動地のものを見たからか、いつもならビビって言えないような挑戦的な言葉が、スルッと口から出てきた。
スルッと出てきた、緑谷出久の本心だった。
それを聞いて、爆豪勝己は……。
「ッ……!」
情けなくも弱り切った己に活を入れるように、自分で自分の頬を殴り飛ばした。
「クソッ……! クソが……! デクのくせに、クソ生意気なこと言いやがって……!」
口の中で血の味がする。
今のパンチで、口の中を切ってしまったのだろう。
最悪の味だ。
憤死しそうなほどの悔しさの味だ。
「言われるまでもねぇんだよ!! 俺がいつ諦めるっつった!? こっからだ!! いいか!? 俺はここで、一番に
あのクソ女も超える!! オールマイトも超える!! テメェになんざ影も踏ませねぇ!!」
爆豪は緑谷から視線を外し、前を向いた。
校門の方角という意味ではない。
乱暴に涙を拭って、折れそうな心を奮い立たせて、
「勝てるもんなら勝ってみろ!! 振り払って駆け抜けてやるよ!!!」
「……うん!!」
そうして、爆豪勝己は立ち直った。
急いで保健室を飛び出し、二人のやり取りを見つけるも介入するタイミングを逃し、ひっそりと息を殺して眺めていたオールマイトは、それを見て一言。
「…………教師って難しい」
爆豪をどう導いて立ち直らせればいいのかわからずに苦悩していたのに、子供達は自分が何もしなくても勝手に前を向いてみせた。
何もしないのが最善なんてパターンもあるとは、教師道は奥が深すぎて、新米教師の頭をパンクさせるばかりだ。
「轟少年の方はどうしよう……」
まだ目を覚ましていない、もう一人のこじらせオーラの持ち主。
多分、というか間違いなく、爆豪と同じ方法で立ち直らせることは不可能なんだろうなということはわかる。
生徒は一人一人違う人間で、過去も人間関係も全く違うのだから、接し方に普遍的な正解など存在しないのだ。
「ホント、教師って難しい……」
緑谷がワンフォーオールの秘密の一端を爆豪に話してしまったのも頭が痛い。
幸い、彼らにとってはそれ以上の話題で上書きされた感じになっているが、それは結果論だ。
ワンフォーオールの秘密が知れ渡れば、力を奪わんとする輩があふれかえることは自明の理。
この秘密は社会の混乱を防ぐためであり、緑谷のためでもある。
今回は誠実さが裏目に出た。
次を生じさせないためにはどうしたらいいのか。
新米教師の奮闘はまだまだ続く。
◆◆◆
「なぁ、どうなると思う? ━━平和の象徴が、ヴィランに殺されたら」
そして、その裏で。
ヒーローが真に戦うべき相手が、社会の闇の中で生きる者達が動き出す。
・緑谷出久
肉体損傷『−1』
精神成長『−1』
腕を破裂させたりしてないで、健全な学生時代を送ってくれ。
・轟焦凍
焦り『+1』