ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「追ってきたら、この裕福な家族ぶっ殺してやるからな! いいかぁ! 俺を追うなよ、ヒーローども!」

「ヒーロー! 助けてぇ!! せめて娘だけでも!!」

 

 とある朝の通学時間中。

 今日も今日とてヴィランが現れた。

 本日のは一家族を丸ごと抱きかかえて人質にしている、異形型の大男だ。

 犯罪発生率がマシになっているのという話はなんだったんだろうか。

 

「行かなくては!」

「行ってらっしゃーい」

 

 車から飛び出してからマッスルフォームに変身し、そのヴィランを退治しに向かう父。

 他のヒーローが少し苦戦していたが、ナンバー1の敵になるようなレベルではなく、首筋に手刀を叩き込まれてあっさりと気絶した。

 

「キャアア! 轢き逃げー!!」

「むむ!?」

 

 が、次の瞬間に飛び込んでくる、更なる事件の情報。

 オールマイトは躊躇なく、そっちの現場へと跳んだ。

 

「ごめん、魔美ちゃん! 先に行ってて!」

「いや、行っててじゃないよ」

 

 通話でそんなことを言われた瞬間、魔美子は長年の付き合いで察した。

 あ、これは次から次へと事件が連鎖して、全部に首を突っ込むパターンだなと。

 今日だって生徒の前ではマッスルフォームを維持して授業をしなくちゃいけないのに、いつもの調子だと活動限界を迎えるまで人助けに走りかねない。

 オールマイトとは、そういう人間だ。

 

「やっぱり、車に積んでおいて良かった」

 

 ヘドロ事件の反省を踏まえ、用意しておいた装備一式。

 歴戦を感じさせる傷だらけの厳ついヘルメット。

 肩幅をかなり大きく見せる上に、絶対にめくれないような工夫が施されたブカブカのローブ。

 靴底30センチもあるスーパーシークレットブーツ。

 魔美子のもう一つのコスチューム。

 車から降りて物陰でそれらを身に着ければ、彼女はあっという間に身長180センチを超える巨漢の男に変身した。

 

「隣町で立て籠もり事件があったらしいぞ!」

「むむ!?」

 

 その状態で父を追いかけてみれば、轢き逃げ犯を車ごと捕まえたところで、案の定次の事件に首を突っ込もうとしていた。

 

「私が行く!!」

「行かなくてよろしい」

「!?」

 

 次の現場に向かって飛び立った父に空中で追いつき、足で押して進路を変更。

 短時間なら人目を遮断できそうな、目立たないビルの屋上に強制着陸させた。

 

「オールマイト。貴様は己の現状を自覚せよ」

「ま、魔美ちゃ……」

「我が名は、Mr.キックブレイクだ」

「あ、はい……」

 

 Mr.キックブレイク。

 最低限人命を気にかけてこそくれるが、建造物等への被害は全く考慮せず、相対したヴィランに大怪我を負わせることも多い過激派自警団(ヴィジランテ)

 ヴィジランテとは、資格を持たない無免許の身でヒーロー活動を行うイリーガルヒーローのこと。

 魔美子の破壊衝動は、とてもではないが資格獲得まで我慢し続けることなどできるはずのない強烈なものであり、隔離施設(学校)で定期的にロボットとかを生贄に捧げても全然足りなかったため、大人達は苦渋の決断で、勝手に始めたこのヴィジランテ活動を黙認したのだ。

 

 ヘドロの時は変装する時間が無くて、顔出しでやらかしてしまったから大事になった。

 ならば、正体不明の男として暴れればいい。

 バレなきゃ犯罪じゃないのだ。

 

「貴様は早く車に戻って学校へ行け。放置できない事件を見かけたら我に連絡を入れろ。間違っても一人で突っ走り、活動可能時間を使い果たすような真似は許さん」

「そ、そこまでやる気は……」

「黙れ。前科が何件あると思っている?」

「……はい」

 

 己の過去の所業の数々を思い出してみれば、ぐうの音も出ない。

 オールマイトはうなだれた。

 

「で、でも、その格好での活動は、あまり褒められたことじゃ……」

「貴様を疲弊させるよりは遥かにマシだ。そうだろう? 平和の象徴?」

「……はい」

 

 自分が倒れることによる影響はよくわかっているオールマイト。

 やっぱり、ぐうの音も出なかった。

 

「車には服を着せた使い魔を監視役として残している。妙な真似をしたら……わかっているな?」

「ひぇ……!? は、はい!!」

 

 口調を変え、ヘルメットに搭載されたボイスチェンジャーによって改変された、威圧感たっぷりの厳格な老人のような声でオールマイトを恫喝するMr.キックブレイク(魔美子)

 オールマイトはその圧力に震え上がった。

 ヤンデレな娘に監禁されて寝るしかない生活のトラウマが蘇り、全身から冷や汗が噴き出してくる。

 

「よろしい。ではまず立てこもり事件とやらを終わらせてくるとしよう」

 

 そうして、Mr.キックブレイクは蹴りで生み出した衝撃波によって宙を駆け、隣町へと消えていった。

 

「魔美ちゃん、演技上手いんだよなぁ……」

 

 一方、オールマイトはそんなことを呟きながら、トボトボと車に戻っていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「おはよー」

「あ、おはよう、魔美ちゃん!」

 

 父の代わりに事件を解決し、どうにかホームルームまでに登校することに成功した魔美子。

 本当に、犯罪発生率がマシになっているという話はなんだったんだろうか。

 朝からどっと疲れた。

 

「あれ? なんかお疲れ?」

「パパが朝からやらかして、その尻拭いをね」

「そ、そうなんだ……。オールマイトもやらかしたりするんやね」

「ナンバー1ヒーローなんて呼ばれてても、家ではただのおっさんだからねー。ワーカーホリックで家族サービスが少ないし、しょっちゅう何かやらかすし、父親としては正直微妙」

「あ、憧れが崩れてく……」

 

 魔美子と会話を弾ませているのは、ボール投げで負けた無重力女子こと麗日お茶子だ。

 入学から一週間以上が過ぎ、委員長決めなどいくつかのイベントを経た今、仲良くなったクラスメイトも何人かいる。

 初めての『友達』というやつに、地味に喜んでいる魔美子だったりするのだ。

 

「で? 緑谷少年は何あれ?」

「あ、なんか今朝のニュースで珍しいヒーローが出たとかで、オタクモード入っとる」

「Mr.キックブレイク。蹴り技オンリーの過激派ヴィジランテ。個性は多分脚力強化系。たまに見せる最高火力はオールマイトに準じるとまで言われてる超人。普段はヴィジランテらしく表舞台には滅多に出てこないのに、今回は立て籠もり事件なんて目立つ事件に正面から首を突っ込んだ。方針転換したのかな? いや、そっちも気になるけど、今は動画。滅多に出回らないイリーガルヒーローの戦闘シーンだ。脚力系とはいえ同じ超パワーの個性として参考にできる部分が必ずあるはず……」

 

 緑谷は凄いスピードをスマホを操作しながら、ブツブツブツブツと小声で呟き続けていた。

 地獄の修行編の時も割とよく見せていたオタクモードだ。

 ぶっちゃけ、かなり不気味である。

 爆豪にクソナード呼ばわりされるのもわかる圧倒的不気味さ。

 

 あと、彼は勘違いしている。

 Mr.キックブレイクが蹴り技オンリーで戦っているのは、纏っているローブから腕を出すと、見せかけの体格との違いで子供だとバレるからだ。

 だからこそ、スーパーシークレットブーツでごまかしの効く足技しか使わない。

 それが良い感じに魔美子本来の戦闘スタイルとの乖離になり、お偉いさん以外に正体がバレずに済んでいたりするのだが、まあ、そんなことを言うつもりもない。

 存分に的外れな考察をしてくれ。

 

「静かにして席につけ。ホームルームを始める」

 

 そうこうしている間に相澤が現れ、緑谷のオタクモードも強制解除。

 本日の授業が始まった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 午後。

 ヒーロー基礎学の時間。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

 つい先日に発生した、マスコミが雄英の敷地内にまで突撃してきた事件と、それを手引きした可能性の高いヴィランの存在。

 そのヴィランが何かしてくる可能性があるとして、念のための三人体制。

 

「はーい! 何するんですか?」

「災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

(うげぇ)

 

 一番嫌いな課目がきて、魔美子は内心でテンションを下げた。

 しかし、授業である以上はやらねばならない。

 それに救助の技術は、魔美子に最も足りていないものの一つであることも確かなのだから。

 

 

 ということで、各自コスチュームに着替えて本日の訓練場へ。

 ただ、何人かコスチュームではなく体操着を着ているのがいた。

 

「ん? デクくん、飯田くん、轟くん、魔美ちゃんまで体操服?」

「うん。僕のはこの前の戦闘訓練でボロボロになっちゃったから……」

「俺のも八木くんに破壊されてしまったからな。あの膝蹴りは効いた!」

 

 麗日の疑問に、この一週間ちょっとで仲良し三人組的な感じに纏まった緑谷と飯田が答えた。

 緑谷のコスチュームは、母が入学祝いにと買ってくれたジャンプスーツを改造したものだった。

 決して悪い品ではないのだが、他のクラスメイト達が雄英の『被服控除』というシステムを利用し、プロに制作を依頼した最新鋭のコスチュームに比べれば当然劣る。

 残念ながら、優れた個性が飛び交う雄英の戦闘訓練には耐えられずに破損し、現在は修理に出している。

 

 飯田のコスチュームはそのプロ作の最新鋭のものだったが、魔美子の膝蹴りがクリティカルヒットしてしまったせいで、一部が破損してしまった。

 轟も同様の理由である。

 同じく魔美子の餌食になった爆豪と障子は、運が良いのか悪いのか、体はボロボロでもコスチュームへのダメージは少なかったため、今も着てきている。

 

「魔美ちゃんはなんで?」

「露出が多すぎるって、パパにダメ出し食らった。今は全然違うデザインを依頼中」

「あー。確かに親御さん目線だと、あれはダメか」

 

 殆ど水着みたいなもんだったもんなーと、麗日は前回の魔美子のコスチュームを思い出して呟いた。

 近くで話していた緑谷と飯田も思い出してしまい、肌色を思い浮かべて慌てて脳内からかき消した。

 もう記憶の中にしか存在しないと思うと、思い出補正で逆にエロい。

 クラスには前回の魔美子と似たり寄ったりな露出度を誇る八百万もいるのだが、発育の暴力で殴ってくるあっちとはまた違う方向性で怖い。

 

「と、雑談をしている場合ではなかった! バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」

 

 飯田がそこで離脱し、この前のホームルームで学級委員長に就任した責務に従って、移動用バスに乗り込むための順番整理に奔走し出した。

 というか、学校内をバスで移動して訓練場に行くとは、さすが最高峰。金のかけ方が違う。

 他のヒーロー科ではこうはいかないだろう。

 雄英出身者と他のヒーローで実力差が生じるのも無理からぬことだ。

 

 そうして、バスは突き進み、お喋りしてる間に目的地へ到着した。

 

「ようこそ、僕が作った演習場へ。水難事故、土砂災害、火事、etc.……。あらゆる災害を想定した、その名も━━USJ(嘘の災害や事故ルーム)!」

 

 どこかのアミューズメントパークと同じ名前を堂々と演習場につけて紹介したのは、宇宙服のようなコスチュームを身に纏ったヒーロー。

 全員がプロヒーローの雄英教師の一人。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わー! 私好きなの13号!」

 

 彼女こそが今回の授業の担当。

 そして、事前に相澤が言っていた通り、今日は相澤と13号ともう一人による三人体制。

 

「わーたーしーがー!! 倒壊ゾーンから飛び降りてきた!!」

 

 娘の露出度を心配していた父こと、平和の象徴オールマイトが本日も現れた。

 

「さて、教師陣も出揃ったことですし。えー、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」

(((増える)))

 

 授業開始前に、13号がちょっとした心構えの話をした。

 

「僕の個性は『ブラックホール』。あらゆるものを吸い込み、塵にしてしまう個性です」

 

 13号はその強力な力を、災害現場から要救助者を引っ張り上げるための力として使っている。

 だが、本来の使い方をすれば簡単に人を殺せる力だと、彼は生徒達に諭した。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。

 しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる『いき過ぎた個性』を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 その時、オールマイトがチラッと魔美子の方を見てきた。

 心配そうな目で。

 

(わかってるよ)

 

 魔美子はそんな父に、真剣な顔で頷きを返す。

 彼女の力は、いき過ぎた個性筆頭。

 しかも、勝手に暴れ出すリスク大ときたもんだ。

 それを持つということ、持って生きるということの意味を、軽く考えているつもりはない。

 人を殺そうとも何も思わないが、やれば父が悲しむことは理解している。

 社会のためでも、不特定多数のためでもなく、父のために彼女は己を律する窮屈な人生を許容したのだ。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。

 この授業では心機一転! 人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう!

 君達の力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってください。

 以上、ご静聴、ありがとうございました!」

「13号……カッコイイ……!」

「ステキー!」

「ブラボー! ブラーボー!」

 

 ヒーロー足るものかくあれみたいな素敵な演説に、生徒達は歓声を上げた。

 オールマイトは喝采を浴びる先輩教師の姿を見て、必死にメモを取っている。

 活かせるといいね、今の経験。

 なお、魔美子は皆にバレないように、こっそりとアクビをした。

 己を律する努力をする気はあるが、人助けはめんどくせぇとしか思わないのだから仕方がない。

 

「さて、そんじゃあ、まずは……」

 

 そうして、相澤が改めて授業を始めようと口を開いた━━次の瞬間。

 

「「「ッ!?」」」

「!」

 

 教師三人と魔美子が、バッと、とある方向を向いた。

 すぐ近くに発生した、黒い靄。

 魔美子が使い魔を出す時のサモンゲートによく似た靄が、突然USJの中に発生し、みるみるうちに大きくなっていき。

 そこから、無数の武装した集団が現れた。

 

「二人とも!!」

「ひとかたまりになって動くな!! 13号! 生徒を守れ!!」

 

 オールマイトと相澤が即座に声を上げ、13号が生徒達の盾になるような位置に陣取る。

 魔美子を目を細めて、黒い靄の中から出てくる集団、その一部に強い視線をぶつけた。

 全身に人の手のような装備を身に着けた、灰色の髪の男。

 それと、脳ミソが剥き出しになった異様な外見の三人組(・・・)

 このあたりがヤバそうだと見て、狙いをつける。

 

「なんだありゃ? また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

「動くな!! あれはヴィランだ!!」

「オールマイト……」

 

 手のヴィランがオールマイトに視線を向けて……。

 

「会えて嬉しいぜ、平和の象徴(社会のゴミ)

 

 彼を盛大に罵倒しながら、ニヤリと笑った。

 魔美子(ファザコン)はイラッとした。

 

「俺達は(ヴィラン)連合。お前を殺しに来たんだ。さあ、息絶えろよ、平和の象徴」

 

 そうして、ヴィランがヒーローに襲いかかった。




・オールマイト
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