ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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13 USJ パート2

「脳無」

 

 最初に動いたのは、三人の脳ミソ剥き出しヴィラン。

 オールマイト以上に筋骨隆々の巨漢。

 武道家のような洗練された筋肉を持つ細マッチョ。

 力士のような脂肪を蓄えた肉弾戦車。

 その三人が凄まじい速度でヒーロー達に突撃してきた。

 

(((速い!?))) 

 

 その三人のとてつもないスピードを見て、教師陣は驚愕する。

 多分、生徒達では目で追うことすらできないだろう。

 しかも、相澤こと抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』が視ているのにこれだ。

 すなわち、個性無しの素の力でこの身体能力ということ。

 素の力だけなら魔美子をも遥かに超えている。

 

「行くよ!」

「ッ! 致し方ない!」

 

 その迎撃のために、オールマイトと魔美子が飛び出した。

 ヒーロー免許を持っていない魔美子の不用意な戦闘はマズいが、これは正当防衛の範疇だろう。

 許可を貰った彼女は、イキイキとしながら個性を解放する。

 ヴィランが相手なら手加減は無用。

 それに今回の相手は、随分と歯ごたえがありそうだ。

 

 個性解放部位『右腕』 出力70%

 個性解放部位『左足』 出力70%

 

 左足の踏み込みで距離を詰め、右腕の拳を……。

 

「思い通りにはさせませんよ」

 

 その時、脳ミソヴィラン三人を囮に、もう一人の強敵が動く。

 黒い靄のヴィラン。

 敵軍をこの場に連れてきた、恐らくは『ワープ』の個性を持つ敵。

 それが己自身をワープさせ、ワープゲートである黒い靄を、飛び出したオールマイト&魔美子と他の者達の間に展開した。

 

 相澤の『抹消』により、ワープの効果は消える。

 しかし、相澤の視線が黒い靄に遮られたことにより、封じられていた脳ミソヴィラン三人の個性が解放された。

 

「んん!?」

 

 魔美子の右ストレートが、巨大ロボットを一撃で粉砕した拳が、自分の前に来た脳ミソヴィランに突き刺さる。

 捉えたのは、仲間の盾になるように動いた肥満体の肉弾戦車。

 だが、その一撃を肥満体は耐えた。

 力士のような肉に包まれた体が、まるで衝撃を吸収するように更に膨れ、次の瞬間、一気に萎む。

 空気の抜けた風船のように。

 吸収した衝撃が漏れ出したのではない。

 そのままの勢いで、放ってきた相手に返したのだ。

 

「『ショック吸収』+『衝撃反転』♪」

「ぬわぁ!?」

「魔美ちゃん!?」

 

 自分の一撃を跳ね返されて、魔美子が凄い勢いで吹き飛んでいく。

 USJの外壁を突き破り、かなり遠くまで。

 それを追って、肥満体の脳ミソヴィランもUSJを飛び出していった。

 

「くっ……!」

 

 オールマイトの攻撃も、巨漢の脳ミソヴィランに防がれる。

 クリーンヒットしたのに、まるで効いていない。

 肥満体と違って攻撃を跳ね返しこそしなかったが、頑丈さは似たようなものだろう。

 しかも、巨漢の脳ミソヴィランが反撃に繰り出してきた拳は、弱った今のオールマイトに匹敵する。

 

「シット!!」

 

 オールマイトは思わず叫んだ。

 本音を言えば、すぐにでも魔美子を助けに行きたい。

 助けに行きたいが、目の前のこいつらを放置することはできない。

 それは他の生徒や後輩達を見捨てるのと同義だ。

 オールマイトは板挟みの葛藤を飲み下し、魔美子より戦闘力で大きく劣る生徒達の守りを優先という判断を瞬時に下した。

 ここは、単純な戦闘力だけなら既に今の自分を超えている娘を信じるしかない。

 

「八木さん!?」

「嘘だろ!? クラス最強がこんなあっさり!?」

「魔美ちゃん!!」

「アハハ! あいつは邪魔って聞いてたからな。ご退場願ったよ!」

 

 一瞬の攻防の結果だけを見て、生徒達は悲鳴を上げ、敵の主犯格と思われる手のヴィランは高笑いを上げた。

 だが、悪夢はまだ終わらない。

 魔美子と肥満体がぶつかり、オールマイトと巨漢がぶつかり、残った細マッチョが後方の生徒達に向かってくる。

 雑兵の敵集団も、次元違いの攻防を見せつけられて腰が引けながらも、「お前らも行け」という死柄木の言葉に従って、生徒達に狙いを定めて走り出した。

 

「相澤くん!!」

「くそっ……! 13号! 合わせろ!」

「はい!」

 

 その迎撃をするのは相澤と13号。

 相澤が斜め前に飛び出し、13号が自らの個性であるブラックホールを発動する。

 13号の指先にあるブラックホールの入口に向かって、凄い力で脳ミソヴィランが吸い寄せられた。

 同時に、相澤が武器である捕縛用の凄まじく頑丈な布を操り、吸引力と自分の速度のせいで、勢い良く前にしか進めない脳ミソヴィランの手足を縛りつける。

 

 相澤の個性『抹消』は、生まれつき肉体が変異しているタイプの個性、いわゆる『異形型』に分類される個性は消せない。

 異形型を含む複合型である魔美子の個性も、発動前であれば封じられるが、解放して肉体が変異してしまった後では消せない。

 その手のタイプを相手取るための装備、怪力自慢の異形型すら封殺する、イレイザーヘッドの捕縛布。

 ……しかし。

 

「オオオオオオオ!!」

「馬鹿力が……!?」

 

 脳ミソヴィランは、そんな捕縛布を引きちぎった。

 そのまま吸い寄せられる方向に加速し、13号に向かって拳を放つ。

 

「かはっ!?」

「13号!!」

 

 スペースヒーロー『13号』。

 彼女は災害救助をメインとするヒーローだ。

 その分、戦闘技能は他のヒーローに比べて半歩劣る。

 そんな彼女では、この尋常ならざる身体能力を持つヴィランに対抗できず、モロに拳を食らってしまった。

 分厚い装甲のコスチュームのおかげで致命傷は負っていないが、大ダメージを受けたことに変わりはない。

 

(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!)

 

 プロヒーローが目の前でやられた。

 その光景を見せつけられて、緑谷が内心でテンパりながら動いた。

 オールマイトや魔美子が苦戦するような相手。

 13号はやられ、相澤の個性では相性が悪い。

 この状況で彼が咄嗟にワンフォーオール(オールマイトの力)に頼ってしまったのは、無理からぬことだろう。

 

「スマッシュ!!!」

 

 緑谷の拳が、13号を沈めた攻撃の直後で動きの止まった脳ミソヴィランに突き刺さった。

 まだ制御できない借り物の力。

 その代償に緑谷の腕は、入試の時のようにバッキバキに……ならない。

 

(折れてない!? 力のコントロール! この土壇場で!)

 

 直近の課題だった力のコントロール。

 火事場の馬鹿力の亜種とでも言うべきなのか、緑谷はこの土壇場でそれを成功させた。

 だが、腕が折れない程度の出力にコントロールできたということは、当然威力は自損覚悟の100%より遥かに劣るわけで……。

 

「?」

「ッ!?」

 

 脳ミソヴィランは「蚊でも止まったか?」とばかりに、微動だにしなかった。

 

「そんな……」

「緑谷! どけ!!」

「!」

 

 次に動いたのは、氷の個性を持つ轟焦凍。

 右半身から凄まじい冷気を発生させ、その冷気が脳ミソヴィランを襲う。

 パワーでダメなら別種の攻撃!

 しかし、脳ミソヴィランは軽やかに跳躍して、その攻撃を簡単に避けた。

 

「死ねぇ!!」

 

 そこに爆豪が踊りかかる。

 空中の脳ミソヴィランに両腕を向け、爆破を発動。

 敵の拳が届く範囲に入るようなバカな真似はしない。

 爆豪はキレやすいが、決してバカではない。

 プロを瞬殺するような相手に接近したら、死あるのみだとちゃんとわかっていた。

 

 ゆえに、遠距離からの大爆発を攻撃手段として選んだ。

 戦闘訓練で魔美子に向けて放った技。

 あの時は、これより遥かにヤバい攻撃をヘドロとの戦いで見せたあいつなら普通に相殺するだろうと踏んで放ったが、今は頼むから効いてくれという気持ちが心のどこかにあった。

 サポートアイテムの使用条件を満たせず、無理して放ったから手が痛い。

 そんな渾身の一撃も……当然ながら、脳ミソヴィランには効かない。

 プロのトップレベルと与する相手に、学生の全力程度が効くはずがない。

 

「この化け物……!?」

「爆豪!!」

「爆豪少年!!」

「かっちゃん!!」

 

 爆豪への反撃の動きを見せた脳ミソヴィラン。

 相澤が命と引き換えにする覚悟で爆豪を守ろうとし、オールマイトも目の前の相手を振り切って駆けつけようとする。

 しかし、相澤の身体能力では間に合わず、オールマイトももう一体の脳ミソヴィランがどうしても振り切れない。

 緑谷は叫ぶことしかできない。

 

「ハハハ! 一人目だ!」

 

 主犯格の手のヴィランが嗤った。

 まだ成長を始めたばかりのヒーローの卵に、悪の魔の手は容赦なく迫って……。

 

「━━━━!!」

「なっ!?」

「!?」

「…………は?」

 

 突如、どこかから飛来した真っ黒な影に殴り飛ばされた。

 ノッペリとした顔に、角と翼と尻尾を付けたような影法師。

 この中では相澤とオールマイトだけが、その正体を知っていた。

 

「魔美ちゃん!」

「八木の使い魔か!」

 

 入試において見せた魔美子の個性の機能の一つ、使い魔。

 数はたった一体。

 しかし、その一体に力を集約したのか、この使い魔は入試で見せたやつよりも、なんというか、逞しい。

 具体的に言うと、オールマイト以上の巨体と筋肉ムッキムキの見た目だ。

 

 そんなマッスル使い魔は、個性無しの魔美子と同等くらいの動きを見せた。

 当然、その程度の力で脳ミソヴィランに大したダメージは入らない。

 だが、奴を吹き飛ばして爆豪への攻撃をキャンセルさせることはできた。

 

「マジかよ。オールマイトより厄介ってのは本当だったな」

 

 手のヴィランが不機嫌そうな声を出す。

 そして、

 

「やっぱ、舐めプはダメだな。ちゃんとプレイしよう。黒霧」

「了解です、死柄木(しがらき) (とむら)

 

 死柄木と呼ばれた手のヴィランの指示により、黒霧と呼ばれた黒い靄のヴィランが動き出す。

 

「散らして、なぶり殺す」

 

 黒霧がワープゲートを広げる。

 個性を封じてなお圧倒的な脳ミソヴィランから視線を外すわけにはいかない相澤は、この攻撃を抹消できない。

 広がった黒い靄のワープゲートが生徒達の半分以上を飲み込み、USJの各エリアへと飛ばした。

 転移した先で待ち構えるのは、無数の雑兵達。

 この場に残った半分も、脳ミソヴィランを避けながら突撃してきた雑兵達とぶつかる。

 

「ああ、大変だ、オールマイト! 大事な生徒達が大ピンチだぞ! さあ、どうする?」

「ッッッ!!!」

 

 煽るような死柄木の言葉。

 腹が立つ。

 全くもって腹が立つ。

 癒えぬ怪我を負い、力も譲渡してしまって、長年の行使で体に染みついたワンフォーオールの残滓(残り火)だけで戦っているとはいえ、それにしたって無様に過ぎる己の不甲斐なさに腹が立つ!

 

 目の前の敵は強い。

 だが、それが眼前の状況を招いていい理由にはならない。

 自分は『平和の象徴』。

 悪に屈することなど許されないのだから。

 

「おおおおおおおお!!」

 

 その瞬間、オールマイトは己の限界を超える覚悟をした。




・巨漢脳無
原作通り。
サンドバッグパワーファイター。

・細マッチョ脳無
素の身体能力特化。やばいぞ!

・肥満体脳無
足止め特化。うざいぞ!

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