ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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14 USJ パート3

「『デビル・スマッシュ』!!」

 

 ぶよん。

 そんな音を立てて、魔美子の必殺の拳は肥満体の脳ミソヴィランの体に威力を吸収された。

 脳ミソヴィランの体が膨れ上がり、次の瞬間には一気に萎んで衝撃が返ってくる。

 さっきから、この繰り返しだ。

 今の出力と解放率では、どれだけ打ち込んでも結果は変わらない。

 

「『ダークネス・スマッシュ』!!」

 

 ならばと、闇のレーザービームに切り替えてみるが、脳ミソヴィランはこれすら防ぐ。

 闇を撃ち込んだ瞬間に、脳ミソヴィランはまるで原初の個性である『発光する赤子』のように光り輝き、闇が相殺されて威力を大きく削がれてしまう。

 この技の明確な弱点だ。

 当然、対策を打たれてしまった攻撃では、大したダメージは入らない。

 その少ないダメージですら、すぐに再生していく。

 

「あああ!! うっざい!!」

 

 魔美子はイライラして大声を上げた。

 普段ならこれだけ自分の力を受け止めてくれる存在は大歓迎だが、これと同格と思われる奴を二人も父の前に置いてきてしまっている現状では焦りしか感じない。

 

「おまけに……!」

 

 彼女は忌々しそうに周囲を見渡した。

 魔美子と脳ミソヴィランが戦っている一帯は、半透明のバリアによって覆われている。

 これでは、こいつを無視して父達のところに戻ることもできない。

 バリアが展開される前に使い魔だけは送れたが、あの程度の戦力がどこまで役に立つか……。

 

(……衝撃を吸収して返す個性に、発光、再生、バリア。最低でも個性四つの複数持ちか。嫌な予感しかしねー)

 

 個性複数持ち。

 それは6年前に殺したはずの宿敵の尖兵の特徴。

 あのクソが生きているとは思いたくないが、そうであれば今の状況は大変にマズい。

 

(私はパパと分断されて、向こうには大量のお荷物(生徒)がいる。

 目の前の奴は攻撃力クソザコなくせに防御力だけは腐れ高い、しかも私対策万全の足止め特化。

 ……向こうの掌の上で踊らされてる)

 

 破壊衝撃に苛まれる頭を必死に冷やして、魔美子は戦況を分析した。

 敵は恐らく、ゴキブリのごとくしぶとく生き延びたと思われるクソ野郎。

 あれの性格の悪さはよく知っている。

 術中に嵌ったのなら一刻も早く打ち破らないと、最悪の結果になりかねない。

 後手に回り続けてはダメだ。

 

「……しょーがない。やるか」

 

 できれば、これは使いたくなかった。

 リスクも大きいし、単純に嫌いな技でもある。

 しかし、それと父の安全を天秤にかけたら、迷う余地は一切無い。

 

 個性解放部位『全身』 出力80%

 

 本気で暴走を心配しなければならない危険域(レッドゾーン)のギリギリ手前までの力を解放する。

 頭が破壊衝動に支配され、それを強引に抑えようとすれば酷い頭痛に襲われる。

 それだけでも最悪の気分なのに、肉体に起こった変異も見逃せない。

 

 両手両足が普段より濃い漆黒に染まり、悪魔のような翼が生え、尻尾が生え、角が生え、瞳は血のような真紅に、手足以外の白かった肌は褐色に染まっていく。

 それだけなら良かった。

 むしろ、カッコイイ変化だとさえ思っている。

 だが、最後の一点だけは許容できない。

 

 鮮やかな金色の染髪剤(・・・)が剥がれ落ち、髪色が地毛である白髪に戻っていく。

 別に白髪自体が嫌いなわけではない。

 自分が白髪になるのが嫌なのだ。

 血の繋がったクソとお揃いの髪色は、嫌でも奴との繋がりを感じてしまうから。

 しかも、せっかく父とお揃いにした金髪が剥がれてそうなるというのは耐え難い。

 

「『ディザスター・モード』」

 

 破壊衝動と嫌悪に染まった顔で、魔美子はその技の名前を口にする。

 そして、目の前の嫌がらせ特化を睨みつけた。

 

「これを使った以上は、即行で終わらせる。━━行くよ」

「!!?」

 

 普段の足だけダッシュとは違う、全身を連動させた驚異の踏み込みに、翼による推進力まで上乗せして、魔美子はとんでもない速度で脳ミソヴィランに突撃した。

 これまた全身を連動させ、音速を超えるスピードを余さず威力に変換して拳に伝える。

 その状態で、目の前の敵を殴った。

 

「『サタナエル・スマッシュ』!!」

「!!!!!」

 

 脳ミソヴィランが大きく膨らむ。

 先ほどよりも遥かに大きく膨張した。

 衝撃を受け止め切れず、体のアチコチが破裂して、本来なら跳ね返すはずの衝撃が漏れ出ていた。

 しかし、破裂箇所は即座に再生していく。

 

「これも耐えるんだ。なら!」

 

 魔美子はもう片方の腕を振るった。

 地面を踏みしめ、腰の入った連続パンチ。

 

「ふん!!」

「!!!?」

 

 脳ミソヴィランが萎む前に更に膨らみ、破裂箇所が増えた。

 

「まだまだぁ!!」

「!!!!????」

 

 連打連打連打!

 魔美子のラッシュが肥満体を襲う。

 再生速度を破壊が上回っていく。

 

「『ソロモン・スマッシュ』!!!」

 

 悪魔の連撃。

 しかも、禁じ手の超出力を解放している状態での無慈悲の攻撃だ。

 百発を越える悪魔の拳に打ち据えられて……肥満体の脳ミソヴィランは「パァン!」という派手な音を立てて、破裂した風船のように爆発四散した。

 それと同時に、脳ミソヴィランの個性によって維持されていたバリアが解除される。

 

「次ぃ!!」

 

 散々イラつかされた相手を仕留めても、まだまだ満足してくれない破壊衝動を抱えたまま、魔美子は超高速飛翔でUSJへと舞い戻った。

 黒霧によって生徒達が各エリアに飛ばされ、オールマイトが覚悟を決めて暴れ出そうとした、その瞬間に。

 

(やらねばならない! 私は平和の象徴なのだか……)

「『ベルゼブブ・スマッシュ』!!!」

「えっ!?」

 

 超スピードで空から落ちてきた魔美子が、オールマイトの対峙していた巨漢の脳ミソヴィランの脳天に、落下の勢いを全て乗せたギロチンのようなカカト落としを叩き込んだ。

 USJに巨大なクレーターが出来上がり、脳ミソヴィランは地面に埋まった。

 しかし、驚異的なタフネスで今の一撃を耐えた脳ミソヴィランは、折れた首を再生させながら、魔美子の足をガシッと掴む。

 

「煩わしい!!」

 

 そんな脳ミソヴィランの顔面に向けて、サッカーボールでも蹴り飛ばすようなキック。

 オールマイトの攻撃すら完全吸収していたサンドバッグ人間は、その蹴りの威力を吸収し切れずに吹っ飛んだ。

 ただし、与えたダメージは肥満体も持っていた超再生で即座に全快している。

 

「ま、魔美ちゃん!! 無事で良かっ……」

「パパ。相澤先生達の方に行ってて。ちょっと今、会話とかしてる余裕ないから」

 

 魔美子の無事を確認して反射的に喜んだオールマイトは、絶大な殺気を撒き散らし、暴走まで待った無しの状態に見える娘の姿に絶句した。

 

「大丈夫。大丈夫なラインは見極めてるから安心して」

 

 だが、その状態でも、彼女は父を安心させるようにニコッと笑った。

 自分を参考にしたと言っていた、外行き用の笑顔の仮面。

 しかし、オールマイトに向ける時だけは、笑顔は仮面ではなく本物になる。

 彼は長いこと生活を共にしてきた父親だ。そのくらいのことはわかる。

 

「わかった! 信じる!」

 

 オールマイトは魔美子の負担を最小限に留めるべく、それだけ言って相澤達の救援に向かった。

 残ったのは巨漢の脳ミソヴィランと、唖然とした様子で魔美子を見る手のヴィラン、死柄木弔。

 

「おい。おいおいおい。いくらなんでも早すぎだろ。いいとこだったのに……!」

 

 死柄木が忌々しそうに魔美子を睨み、脳ミソヴィランに命令を発した。

 

「脳無、やれ。そいつを殺せ。とっととラスボス(オールマイト)戦に戻るぞ」

「━━━━━!!!」

 

 主の命令を受け、脳無と呼ばれた脳ミソヴィランが動き出す。

 愚直に突撃し、愚直に拳を振りかぶる。

 技術も何も無い、それどころか知性や理性すら感じない、身体能力に任せた単調な攻撃。

 それに対する魔美子の行動は決まっている。

 

「らぁあああああああああ!!!」

「!!?」

 

 肥満体の脳ミソヴィラン、脳無にやったのと同じ、真っ向からの連打による粉砕!

 

「『ソロモン・スマッシュ』!!!」

 

 連打。

 連打連打。

 連打連打連打連打連打!

 脳無と魔美子の拳が何度も、何度も何度も何度も何度もぶつかる。

 形勢は、魔美子の圧倒的優勢。

 技量は天と地の差、身体能力でも彼女が上を行っている。

 脳無の攻撃は全て打ち落され、逆に魔美子の攻撃は何発も脳無にクリーンヒットしていた。

 ぶつかる度に脳無が吹き飛ばされ、父達のところからどんどん離れていく。

 

「こ、わ、れ、ろーーーーー!!!」

 

 魔美子の拳の回転数が更に上がる。

 

『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!』

 

 脳を侵食していく破壊衝動を、ひたすらに吐き出して脳無にぶつける!

 脳無の腕が折れ、腹がえぐれ、顔面が陥没し、再生が追いつかないほどに壊れていくのを見て、彼女の内に住まう悪魔の愉悦の声が聞こえてきた。

 

『ヒャーッハハッハッハッハ!! 最ッッッ高だなぁ!!!』

 

 飛び出して自分で暴れようとする悪魔の手綱を引き、魔美子は悪魔の代わりに殴って殴って殴りまくって衝動を発散していく。

 そして、

 

「『サタナエル・スマッシュ』!!!」

「!!?」

 

 ついに決定的な一撃が放たれた。

 魔美子の渾身の右ストレートが、脳無の顔面を破裂させる。

 さすがに頭を失えば止まるようで、途端に肉体の再生も停止して無抵抗になった脳無に追い打ちの一撃を浴びせ、その衝撃でUSJの外にまで吹き飛ばした。

 死んだ。殺した。壊した。

 それを見届けて、ひとまず悪魔は満足したようだ。

 

 破壊衝動が完全に収まる。

 ずっと脳を蝕み続けていた衝動が近年稀に見るレベルで落ち着き、それを感じながら魔美子は個性を完全に解除する。

 このまま個性を使い続けるのはダメだ。

 表面上の衝動は消えても、深層心理の部分には無限の破壊衝動が眠っている。

 ディザスター・モードの使用によって、それを封じ込めている精神が消耗し、ダムの堰の調整が怪しくなってきた今、無理をするべきではない。

 うっかり開きっぱなしになったまま閉じなくなったりすれば、目も当てられないのだから。

 

「ふぅ。これで一件落着かな!」

 

 やばそうな脳ミソヴィラン二人を撃破した。

 急いで戻ってみれば、最後の一人もオールマイトと相澤のコンビに追い詰められている。

 生徒達を襲っていた雑兵達も既に全滅。

 なんかその生徒の数が減ってる上に、緑谷の姿まで無いのは不思議だが、父さえ無事なら問題なし!

 ヴィランを二人ほど殺してしまったが、正当防衛だから問題なし!

 疲れて難しいことを考えるのがダルくなった魔美子は、やったぜ! 大団円だ! と言わんばかりの清々しい笑顔を浮かべた。

 

「ふざけんな……。ふざけんなよ!!」

 

 しかし、その大団円に水を差す叫び声がUSJに響き渡る。

 見れば、死柄木が魔美子を指差して喚き散らしていた。

 

「オールマイトすら追い詰めた脳無を瞬殺だと!? ふざけんな、このチートが!! ラスボスより強い中ボスとかどうなってんだ!?」

 

 ガリガリと首筋を搔きむしりながら、凄まじい形相で魔美子を睨みつけてくる死柄木。

 それを見た魔美子の感想は、「ああ、まだチンピラが残ってたわ」だ。

 多分、あのクソ野郎にいいように利用された使いっぱしりか何かだろう。

 

 とはいえ、あれもヴィランである以上、ヒーロー候補生としては捕縛しておくべき。

 あと、あの野郎が現れた時に口にしやがった父への罵倒を、ファザコンは忘れていない。

 結論、ぶっ飛ばす。

 

「『デトロイト・スマッシュ』!!」

「ぐぁ!?」

「死柄木弔!?」

 

 個性無しで放った拳によって発生した衝撃波が、死柄木を吹き飛ばして派手に地面をバウンドさせる。

 今のは牽制。

 ここから近づいてボコボコにして捕縛する。

 

「くっ……!」

 

 そうして、魔美子に狙いを定められた彼を守るように、最後の脳無と共に相澤とオールマイトの二人を相手にしていた黒い靄のヴィラン、黒霧が動いた。

 脳無を盾にして強引に二人を振り払い、死柄木のところにワープして、彼と自分をワープゲートで包み込む。

 

「撤退です! 今の戦力では彼女とオールマイトには勝てません!」

「くそっ!! くそぉ!! 次は殺すぞ!! 平和の象徴とチートのクソガキ!!」

 

 憎悪に満ちた捨て台詞を残して消えていく二人。

 これ以上の個性使用は危ないと思っている魔美子では追いつけない。

 最後の脳無に足止めされているオールマイトと相澤は言わずもがなだ。

 クラスメイト達?

 彼らは雑兵達を倒した安堵で弛緩することもできず、眼前で繰り広げられる脳無とオールマイト&相澤の戦いの余波から我が身を守るのに精一杯で、こちらに目を向ける余裕すら無い。

 

 そうして、死柄木弔と黒霧は消え、襲撃事件の主犯格二名を取り逃がすという結果で今回の事件は幕を閉じた。

 パパ不敬罪の不届き者を仕留められなかったファザコンは舌打ちした。




・オールマイト
体力消耗『−1』

・イレイザーヘッド
肉体損傷『−1』

・緑谷出久
肉体損傷『−1』

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