ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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16 体育祭に向けて

「うへぇ」

「どうした、八木。まだレポートは半分もできてないぞ」

 

 今回の事件を受けて開催の運びとなった、相澤による放課後の特別指導。

 その内容は、人を殺すことによる社会的デメリットを、ひたすらにレポートに纏めるという作業だった。

 下手に倫理だの道徳だの言ってこないあたり、相澤の魔美子への理解度を感じる。

 担任になるに当たって、父とかなり保護者面談を重ねたと聞いているし、この特別指導で最初にやったことも、

 

『俺はお前がどれだけ世間様に醜悪と言われるような本性を持っていようが気にしない。

 それを制御しようと頑張っている限り、お前は立派なヒーロー科だ』

 

 と前置きした上で、魔美子の本音を知ろうとする個人面談から始めた。

 相澤は魔美子の怪物の本性を否定せず、性格を矯正させようともせず、自分の『普通』を押しつけたりせずに、ただただ社会に溶け込むための方法を丁寧に教えようとしてくれた。

 それは魔美子の求める形と合致している。

 歩み寄りの姿勢を感じた。

 彼が担任で良かったと心から思う。

 ただし、レポートの山がキツいことに変わりはない。

 

「うげぇぇ」

「そら、じゃんじゃん書け。体育祭に出られなくなるぞ。お前の大好きな青春イベントを逃してもいいのか」

 

 相澤はそう言って、魔美子の尻を叩く。

 操縦の仕方が上手い。

 今の魔美子にそれは効く。

 友達との時間を人形遊び程度にしか思っていない彼女だが、大きなイベントともなれば、新作ゲームの発売くらいには楽しみだ。

 飴と鞭の使い方が上手い。教師の鑑と言えよう。

 

(体育祭)

 

 その単語で、魔美子は今朝のホームルームの様子を思い出した。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「雄英体育祭が迫っている」

「「「クソ学校っぽいのキターーー!!」」」

 

 雄英体育祭。

 個性によって人間の規格が失われ、形骸化したオリンピックに取って代わるほどのスポーツの祭典。

 ヒーロー科の最高峰、全国でも屈指の優れた個性達が全力でぶつかり合うお祭り騒ぎ。

 プロヒーローも多くが観戦し、青田買いのためのスカウトに奔走する。

 つまり、ここで目立ってプロに見込まれれば、その場で将来が拓ける。

 年に一回、計三回だけのチャンス。

 これで奮起しないヒーローの卵は稀だろう。

 

 ヴィランに侵入された直後にやるのは色々と危険だが、逆に堂々と開催することで『雄英の危機管理体制は盤石』だと示すことも狙いらしい。

 これも魔美子の殺人罪が公になっていればできなかっただろう。

 隠蔽万歳。

 

「とはいえ、普通にやったら八木の一人舞台になるだろう。普段の授業なら露骨な特別扱いもできるが、全国放送される体育祭でそれはさすがにマズい」

「あああ! そうだったぁあああ!」

「あれに勝てる光景とか想像できねぇよぉぉ!」

「あぁん!? 俺は勝つぞコラァ!!」

「すげぇな、爆豪!」

 

 生徒達は何人かの例外を除いて、悲惨な未来予想に絶望した。

 大怪獣に全てを蹂躙される光景。

 恐る恐るといった様子で、何人かが魔美子の方に視線を向ける。

 笑顔でVサインを送られた。

 ダメそうですね、これは。

 

「よって、露骨ではない特別扱いをすることにした。

 八木、お前は体育祭において、全面的に個性の使用禁止だ」

「はーい」

「「「チャンスきたーーー!!」」」

「使ってこいやぁぁ!! 全力のテメェを潰さねぇと意味がねぇぇぇ!!」

「凄いや、かっちゃん……!」

 

 一部例外を除いて、希望の存在に湧き上がるクラスメイト達。

 それも仕方ないだろう。

 トップヒーロー達ですら、圧倒的頂点であるオールマイトを超えようなんて気概のある者は殆どいない。

 魔美子は肩書もあって、A組にとってのオールマイトのようなものだ。

 それにハンデ無しで挑もうなんて思える爆豪の方が凄いのだ。

 

教師(おれ)としては、本気の八木を追い抜こうっていう爆豪みたいな気概が全員に欲しいところだが……自分達(プロ)ですら実践できてないことは言えんか)

 

 相澤はひっそりとため息を吐いた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 そんな感じのホームルームを経て一日が始まり、授業を消化して放課後を迎え。

 B組や普通科の生徒が敵情視察に来て、爆豪が条件反射のように喧嘩を売って宣戦布告みたいになってるのを尻目に、魔美子は相澤に拉致されて特別指導の時間となったわけだ。

 

 宣戦布告してきた普通科の生徒やB組の闘志は悪くなかった。

 A組も爆豪ほど燃えてるのは、同じく戦闘訓練の時にコテンパンにした轟くらいだが、ハンデありならやれるんじゃないかと気合いが入った者も多い。

 楽しい体育祭になりそうだ。

 それを憂いなく楽しむためにも、なんとかこのレポートの山を終わらせなくては!

 

「よっしゃー! やったどー!」

「ご苦労さん。体育祭までの2週間、特別指導は毎日行うからそのつもりで」

「そんな!?」

 

 この悪魔! と魔美子は叫んだ。

 悪魔に悪魔呼ばわりされるとは、相澤消太、恐ろしい男である。

 

「うぅ……。せめて息抜きが欲しい……」

 

 そんなことを呟きながら、疲労困憊で帰路についていた時。

 ピロンという音がして、スマホにメッセージが来た。

 

「緑谷少年?」

 

 わざわざメッセージを送ってくるとは珍しい。

 彼に関しては『父の後継者』としての興味しかないし、向こうもなんとなくそれを察しているのか、プライベートで何かを相談してきたことはない。

 一応は交換しておいた連絡先が活かされたのは、今日が初めてだ。

 

「なになに?」

 

『八木さんへ。

 個性の出力調整のヒントを掴んだので、特訓に付き合ってほしいです。

 出力調整に関しては八木さんの方が上手だから相談してみなさいってオールマイトに言われました。

 どうぞ、よろしくお願いします』

 

「かしこまった文章!」

 

 修行中にゲロ吐かされまくったことを思い出したのだろうか?

 そういえば、しばいた後はいつも怯えた様子で敬語になっていたような気がする。

 なんにしても、父が相談してみろと言ったのなら、魔美子に断るという選択肢は無い。

 ファザコン舐めんな。

 

「よし、息抜きはサンドバッグ緑谷で決定だ!」

 

 緑谷からの連絡が無ければMr.キックブレイクをやろうかと思っていたのだが、まあ、こっちでもいいだろう。

 個性を使ったガス抜きは、USJで存分にした。

 たまには修行編の続きというのも悪くはない。

 

「さーて、今日は何リバースまでいくかなー」

 

 その瞬間、緑谷の背筋に強烈な悪寒が走った。


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