ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「で? 話って何かな?」
昼休憩の時間。
魔美子はとある人物に呼び出されて、人気の無い場所まで来ていた。
その人物とは、魔美子に暗い感情を向けてくる少年こと、轟焦凍。
ちなみに、この場には偶然緑谷と爆豪も居合わせ、出ていくタイミングも立ち去るタイミングも逃して、物陰で気配を消しながら会話を聞いていたりするのだが。
轟は二人に気づく精神的余裕がなく、魔美子は二人がいようがいまいがどうでもよかったので指摘していない。
「お前には、言っておかなきゃダメだと思ったんだ。俺の事情。理由もわからずに睨まれ続けるのは迷惑だろ」
「理由があっても迷惑だけどね」
「……すまねぇ」
轟がシュンとした。
この子、恐らく、根は真面目なのだろう。
「まあ、青春気分を損ねるくらいしか実害ないし、そこまで気にしてないから安心して話していいよ」
「……悪ぃな」
轟はそれを魔美子の気づかいと受け取った。
実際は九割本音である。
轟の事情も、あの感情を向けられる意味も、正直あまり興味はない。
むしろ、一割だけでも父以外の人間の事情に興味を持っただけ、彼女にしては奇跡だ。
「……俺の親父はエンデヴァー。万年ナンバー2のヒーローだ。知ってるだろう?」
「まあ、さすがにね」
ナンバー2ヒーロー、フレイムヒーロー『エンデヴァー』。
テレビでもよく、父に次ぐ不動のナンバー2として紹介されているので知っている。
それどころか、11年前には実際に会ったことがある。
まあ、魔美子は覚えていないが。
昔ちょっと会っただけの相澤のことすら覚えていた彼女が覚えていないということは、そういうことである。
「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい。
自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は、次の策に出た」
轟の瞳が憎悪に染まる。
ああ、自分に向けてきていた視線の源泉はこれかと、魔美子はようやく理解を得た。
「━━『個性婚』。自身の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。
実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた」
(ああ、なるほどね)
魔美子はもう一つの納得を得た。
彼女が多少なり轟に興味を持った理由。
それは彼の個性の強さだ。
個性『半冷半燃』。
右で凍らせ、左で燃やす。
その出力は、戦闘訓練でビル一棟丸ごと凍りつかせたり、障害物競走であの巨大ロボ複数を纏めて凍りつかせたりしたのを見れば、どれほどのものかよくわかる。
それに加えて、左の炎まで同等の出力を誇っているのなら、彼の潜在的なスペックは、素の魔美子など軽く超えるだろう。
なのに、彼はここまで、戦闘において右の冷気しか使っていない。
徹底的に左の炎を封印するその姿勢。
少しだけもどかしく思っていたのだが、そういう事情か。
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうってこった。
鬱陶しい。そんなクズの道具にはならねぇ。
……記憶の中の母は、いつも泣いている。
『お前の左側が醜い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた」
轟が顔の左側にある火傷の跡を押さえながら、憎しみに満ちた声を出した。
物陰で聞いてしまった緑谷はゾッとし、爆豪ですら顔色が悪くなる。
「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返すためだ。
クソ親父の個性なんざ無くたって……いや、使わず『1番』になることで、奴を完全否定する」
「……なるほど」
魔美子は神妙な顔を浮かべた。
まあ、共感はできる。
彼女もまた血の繋がった親の醜い悪意で生み出された存在だ。
自分だってあのクソのことは大嫌いだし、ある意味、彼女は誰よりも轟の気持ちがよくわかる立場にいる。
だが、その上で。
(どうでもいいな!)
自分と同じ立場にいる者が、自分と同じ苦しみを抱えていようと、それがどうしたと思ってしまう人でなしこそが彼女だ。
魔美子が大切に感じることができる存在は
それ以外は同類だろうが同族だろうが等しく塵芥、良くて玩具。
父が必死で守ろうとしているから壊さないだけの、いわば父の付属品に過ぎない。
轟の身の上話を聞いて浮かべた神妙な顔も、もちろん父のイメージを傷つけないための仮面でしかない。
「
俺は必ず、右だけでお前の上に行く。
……時間取らせたな」
言うべきことを言い終え、轟は去っていった。
その背中が遠ざかっていく。
「轟少年」
酷く悲しげな背中に、魔美子はなんとなく言葉をかけていた。
「一つだけ言っておくよ。━━ナン
それだけ言って、魔美子も撤収。
彼女の言葉を聞いた轟がどんな顔をしていたのか、見てもいないし、興味も無い。
そして、二人が去ったことで、隠れていた緑谷と爆豪も、なんとも言えない顔でコソコソと立ち去った。
昼休憩が終わる。
◆◆◆
『最終種目発表前に、予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……って、どうしたA組!?』
轟との話で時間を使い、混雑していた食堂で更に時間を使い。
先に食べ終わっていたクラスメイト達とは、今この瞬間まで合流できなかった魔美子は、僅かな時間で変わり果てた自分以外のA組女子の姿を見て絶句した。
「どうしたのさ、それ?」
「峰田さんと上鳴さんに騙されましたわ!!」
魔美子以外のA組女子は、全員がチアガールの格好をしていた。
なんでも、昼休憩中にエロガキ二人組が考えた『午後は女子全員応援合戦しなければならない』という嘘に騙されて、こんなことになってしまったらしい。
これを避けられたことに関してだけは轟に感謝だ。
「まあ、最終課目まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさ。いいんじゃない! やったろ!」
「魔美ちゃんもやらへん? 旅は道連れって言うやろ?」
「目が怖いぞ、麗日少女」
魔美子もチアガールの沼に引きずり込まれそうになった。
しかし、まあ、お祭りは楽しんでなんぼだ。
エロガキどもの目の保養になるのは気に食わないが、エロガキを気にして楽しまないというのも、なんか違う。
「よし、いいだろう! 私もやる!」
「「いよっしゃああああ!!」」
エロガキどもが歓声を上げ、それを尻目に魔美子は控室で八百万が出した衣装に着替えてきた。
そして、持ち前の身体能力とセンスで、キレッキレの動きを披露する。
初めてのお祭りではしゃぐ娘を見て、父が観客席で涙したという。
『まあ、何はともあれ、皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目! 進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式! 一対一のガチバトルだ!』