ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ!
組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」
「あの、すみません……。俺、辞退します」
「尾白くん!?」
最終種目の組み合わせ決めの前に、ひと悶着あった。
4位通過チームにいたA組の尾白、及びB組の庄田が棄権を申し出たのだ。
理由は騎馬戦において
原因は恐らく、騎手を務めていた選手の個性。
1年C組、
最終種目、いや第二種目まで残った中で唯一の普通科生徒。
見た感じ、身体能力は普通。
ヒーロー科に比べれば下の下だろう。
派手な動きが無かったことから、個性はどう考えても絡め手系。
恐らく、魔美子が最も苦手なタイプ。
それだけで警戒する理由としては充分すぎた。
結局、主審ミッドナイトの判断により、尾白と庄田の棄権は認められた。
繰り上がりで終了直前まで4位をキープしていたB組の鉄哲と塩崎が最終種目に参戦し、組み合わせが決定する。
第一試合 八木VS上鳴
第二試合 轟VS瀬呂
第三試合 塩崎VS芦戸
第四試合 常闇VS八百万
第五試合 心操VS緑谷
第六試合 飯田VS青山
第七試合 切島VS鉄哲
第八試合 麗日VS爆豪
「よろしく、上鳴少年!」
「終わったぁあああああああ!?」
運悪く最初の生贄に選ばれた電撃ぶっ放しボーイ、上鳴電気が悲鳴を上げた。
しかし、電撃は衝撃波で相殺できない攻撃の一つだ。
相性自体は悪くない……と言えないこともないかもしれない。
「二回戦か。思ったより早かったな」
一方、順当に勝ち上がれば二回戦で魔美子とぶつかる轟は、諦めモードの上鳴と対称的に暗い闘志を燃やした。
「緑谷出久ってあんただよな?」
「!」
「麗日?」
「ひっ!?」
他の者達も自分の対戦相手を意識し始める。
その後、レクリエーションを挟むも、選手達からすれば緊張と共に時間は一瞬にして過ぎ去り。
雄英体育祭最終種目が幕を開けた。
◆◆◆
『第一試合! 自称『体育祭の魔王』! その名乗りに相応しい圧倒的トップ! 八木魔美子!
電気系個性の勝ち組! その雷撃は魔王を撃ち貫くか!? 上鳴電気!』
「だ、大丈夫。大丈夫だ。よく考えりゃ俺にだって勝機はあるんだ。衝撃波じゃ電撃は防げねぇ。貰うぜ、大金星!」
「ハハハ! いいぞ、上鳴少年! その意気だ! お祭りにはそういう健全な闘志が一番似合う!」
レクリエーションで存分に遊んだ後だからか、より一層お祭り気分が強化されてテンションが上がっている魔美子。
一方、上鳴の膝はガクガクと震えていた。
『スタート!!』
「初手全力! 無差別放電! 200万ボル……」
「『デトロイト・スマッシュ』!!」
「ウェーーーイ!?」
上鳴が電撃を放つ前に、魔美子のフルスイング衝撃波が上鳴を襲った。
個性をコンマ1秒でも早く発動させることに躍起になっていた彼は踏ん張ることもできず、電撃を撒き散らしながら場外へと吹っ飛んでいく。
「上鳴くん、場外! 八木さん、二回戦進出!」
『瞬殺! あえてもう一度言おう! 瞬殺! 試合時間、僅か1秒足らず! こいつマジでどうにもならねぇ!』
「ふぅー。さすがに痺れたー」
勝者となった魔美子は、スタスタとスタジアムを去った。
上鳴が吹っ飛ばされながらもぶっ放した電撃に打たれたというのに、何事もなかったかのように歩いているその姿に、観客一同絶句していた。
電撃すら効かないのかよ、あいつホントに人間か、という声まで聞こえる。
「いや、電撃を食らった瞬間はさすがの八木さんも一瞬硬直してた。そこからの回復はやっぱりバカみたいに早かったけど。
でも、一瞬でも電撃が効いたってことは、あの人だって絶対無敵ってわけじゃないんだ。
どこかに必ず攻略法が……攻略法が……あるのかなぁ」
観客席でブツブツ呟いていた
ペンを進める手が重くなる。
憧れが行き過ぎて神のように思ってしまっているオールマイトの娘という肩書。
本気を出せば、そのオールマイトに匹敵するパワー。
翼や使い魔などの変化球も持っている。
加えて、特訓によって骨身にまで刻み込まれた上下関係。
それが緑谷の中に『あの人には一生勝てないんじゃないか』という弱気を生んでいた。
しかし、緑谷は頭を振って弱気を振り払い、胸を借りるつもりで全力でぶつかろうと、ノートに書き込むペンに再び力を込める。
「おい、クソデク! クソ女の対策なんざ考えてる場合かぁ!? テメェは最高でも準決勝敗退が確定してんのによぉ!!」
「か、かか、かっちゃん……!?」
お互いに勝ち進めば準決勝で緑谷とぶつかることになる爆豪が、いつもより五割増しくらいの殺気を緑谷にぶつける。
昔からの癖で彼はビビり……すぐに、ビビりながらも爆豪を睨み返した。
「……勝つよ。僕は君にだって勝つよ! 絶対に負けない!!」
「あぁ!? 言うようになったじゃねぇか、クソナード!! いいぜ、準決勝で当たったらぶっ殺してやる!!」
バチバチと火花を散らす二人。
迫力の差によって、中型犬とライオンが威嚇し合ってる感じの格の違いを感じてしまうが、それでも、かつてのイジメっ子とイジメられっ子は、ライバルと言えなくもないような関係へと発展していた。
「私も、負けてられん……!」
「おいおい! 二回戦で当たる俺を忘れんなよ、爆豪!!」
「緑谷くんも、俺のことを忘れないでもらおう!」
「わっ!? ご、ごめん! 飯田くん達のことを侮ってるわけでは全然なくて!」
「ケッ!」
二人に触発されて、彼らが激突するまでに戦うことになる者達にも気合いが入った。
熱い体育祭になりそうだ。
そして、
「次の試合、始まる」
別の意味合いの熱量を持った男が、ステージに上がった。
◆◆◆
「醜態ばかりだな、焦凍」
第二試合開始前。
入場ゲートの前で、轟はその人物に待ち伏せされていた。
憎くて憎くて堪らない相手、実の父親、ナンバー2ヒーロー『エンデヴァー』と。
「くだらん拘りを持つから、あの娘どころか他の者達にすら負けるのだ。
最高傑作のお前が、俺の完全な上位互換であるはずのお前が、俺と同じナンバー2にすらなれないのは何故だ?
左を使え、焦凍。そうすればお前は、あの娘にも……」
「黙れ。それしか言えねぇのか、テメェは」
神経を逆なですることしか言わないクソ親父に、轟は心をざわつかせながら、足を止めることなく入場ゲートへ向かう。
……クソ親父の言葉に、威勢の良い台詞を返せなかった。
右だけじゃ個性禁止の魔美子にすら勝てないんじゃないか。
この先どれだけ成長できたとしても、右だけじゃ個性を解禁した魔美子には一生勝てないんじゃないか。
そんな焦りが心を蝕んでいたから、轟は立ち止まることなく足を動かすことしかできなかった。
「悪ぃな……!」
そして、第二試合。
相手は騎馬戦で爆豪チームにいたA組のクラスメイト、
決して弱くはなく、むしろ優秀と言える生徒。
そんな瀬呂を━━轟は瞬殺した。
スタジアムよりも大きい氷塊を生み出し、その氷塊の中に瀬呂を閉じ込めて行動不能にするというオーバーキルで。
「瀬呂くん……動ける?」
「動けるはずないでしょ……痛ぇぇ……」
「瀬呂くん行動不能! 轟くん、二回戦進出!」
「……すまねぇ、やり過ぎた。イラついてた」
瀬呂の埋まった氷を、左の熱で溶かして救出する。
それをやった轟の姿は、勝者であるはずなのに、酷く悲しく見えた。