ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
試合は続く。
第三試合、塩崎VS芦戸の戦いは。
頭から生えた植物のツタを伸ばしたり切り離したりして自由自在に操る塩崎と、その植物を酸で片っ端から溶かせる芦戸という、瞬殺で終わった先の二試合と違って拮抗した見応えのあるものとなり。
最終的には地力で勝る塩崎が、物量と技術で押し切って二回戦への切符を手にした。
第四試合、常闇VS八百万。
こちらは相性がモロに出た。
個性の使用に少し時間がかかる八百万と、素早い速攻を得意とする常闇。
機先を制した常闇が、八百万に何もさせずに完封。
第五試合、心操VS緑谷。
自分と口を利いたものを問答無用で洗脳するという心操の強力な個性にハマり、絶体絶命のピンチに陥った緑谷だったが。
奇跡的に
第六試合、飯田VS青山。
ヘソから高威力のレーザーを出せる個性の青山を、飯田は例の超加速を使って、開幕速攻で場外に押し出した。
第七試合、切島VS鉄哲
個性『硬化』と、個性『スティール』。
互いに肉体を硬くするという似たような個性同士で、実力まで完全に互角の殴り合いを繰り広げた末、両者ともにダウン。
回復後に行われた簡単な勝負を切島が制し、互いの健闘を讃え合いながら二回戦進出。
第八試合、麗日VS爆豪。
実力差は明白。
それでも凄まじい気迫で食らいついた麗日を、爆豪が油断も慢心も完全に捨てた試合運びで徹底的に攻略し、二回戦進出。
そうして、体育祭最終種目は二回戦第一試合。
一部で『事実上の決勝戦』とまで言われ始めた、八木魔美子VS轟焦凍の戦いを迎えた。
◆◆◆
『さあさあ! 早くもやってきたぜ、序盤の天王山! 互いにもう学生のレベルを大きく逸脱した者同士!
八木
「勝たせてもらうぞ、八木……!」
「やれるもんならやってみなよ、轟少年」
二人の間でバチバチと火花が散る。
だが、その闘志はクソを下水で煮込んだような性格と称される爆豪と比べてもなお、圧倒的に濁っている。
轟だけでなく、魔美子が放つ闘志までも。
悪い意味で当てられたのかもしれない。
『スタート!!』
「フッ……!」
轟は開幕速攻。
一回戦の時のような大規模氷結で魔美子を捕まえにいく。
だが、これが効かないのは轟とてわかっているだろう。
「『デトロイト・スマッシュ』!!」
魔美子のフルスイングの一撃が、押し寄せる氷の壁を粉砕した。
戦闘訓練の時の焼き増しのような光景。
しかし、A組以外にとっては初見だ。
『超火力同士のぶつかり合い!! あれだな! ひたすらに派手だな! 観客席からもどよめきの声が聞こえてくるぜ!』
「ホントに、学生のレベルじゃねぇよ……」
「下手なプロ以上っていうか、個性の馬力だけならビルボードチャートに載るレベルなんじゃ……」
特にプロヒーロー達の注目度が凄い。
雄英体育祭を見に来るプロの目的は、将来のヒーロー事務所の助手『
生徒達の大半もスカウトされることを目的に戦うのだが、この二人に関してはもう、これ以上勝ち進むまでもなく注目の的。
絶対に後で指名が殺到するだろう。
しかし、この二人はスカウト目的で戦っていない数少ない例外なので、プロの視線など本気でどうでもよかった。
「シッ……!」
「む……!」
大規模氷結を目くらましにして、轟は距離を詰めた。
身体能力の化身である魔美子相手に接近戦など正気の沙汰ではない。
だが、遠距離攻撃だけでは仕留められないというのは、戦闘訓練の時に嫌というほど思い知らされている。
あの時だって、魔美子は個性なんて使っていなかった。
それでも、戦闘訓練で唯一通じた攻撃がある。
近距離からの凍結。
迎撃の衝撃波を打てない距離からの攻撃。
すぐに破られはしたが、あの一撃だけは直撃させて魔美子に手傷を負わせることができた。
ゆえに、轟はその成功体験にすがった。
「ハァァ!!」
接近し、近距離からの氷結攻撃を仕掛ける。
凍結させての拘束ではなく、轟が普段高速移動に使っている技、氷で自らを押し出す滑走を応用した攻撃。
氷で魔美子を押し出し、場外へ叩き出す!
戦闘不能による完全勝利ではなく、ルールによる勝利を轟は狙った。
なりふり構わず、手段を選ばず、この場限りのものだとしても勝利に執着した。
……だが。
「ぬるい!」
「くっ!?」
魔美子は轟の左側、封印している炎の方に踏み込んで、あっさりと氷を避けた。
そのまま轟の左腕を掴んでひねり上げながら、彼を地面に押し倒して拘束する。
「この……! 離せ……!」
「離してほしければ抗ってみせろよ。
「ふざけんな……! ぐっ!?」
今の魔美子は、轟の右半身を下にして地面に押さえつけ、左腕を自分の左腕で、首を右腕で、足を足で拘束し、動けなくしている。
彼女の馬鹿力を轟のパワーで振り払うことはできない。
頼みの氷を体の下に発生させて、その勢いで拘束を抜け出そうとしたが、魔美子のパワーはそれすら上から完全に封殺した。
「呆気ないなぁ、轟少年。左を使わない限り、君にもう勝ち目は無いよ。降参するかい?」
「くそっ……! くそぉ……!!」
轟は悪あがきのように、体の下敷きになった右側から冷気を噴射する。
それが魔美子を捉えることはなく、ただただ無意味にフィールドの温度を下げるだけの結果に終わった。
「ねぇ、轟少年。ナンバー1ヒーローってなんだと思う?」
「あぁ!?」
生殺与奪を握っているような状況で、魔美子は轟に話しかけた。
密着するゼロ距離で、耳元でささやいた言葉だ。
主審のミッドナイトにすら、この会話は聞こえていない。
なお、耳元で魔美子が囁いてくれるという状況に、
「ナンバー1ヒーローっていうのはね、最強のヒーローなんだよ。
絶対に敗北は許されない。最強が敗北した瞬間、世界は絶望に包まれるから。
パパはいつだって、そんな重圧の中で戦ってるんだ。
なのに、君は……」
ギュッと、轟の腕と首を掴む魔美子の手に力が入った。
うぐっ!? と、轟は悲鳴を上げる。
「せっかくの強力な力があるのに、それを使わずに1番になる?
半分の力で1番になることでお父さんを完全否定?
それはナンバー1ヒーローって立場への、ひいてはパパへの侮辱だよ。
私は重度のファザコンでね。パパ侮辱罪は死刑って決めてるんだ。
正直、パパに止められてなかったら、本気で君を殺してるところだよ」
ギリギリと、轟を押さえつける魔美子の力がどんどん強くなっていく。
腕にヒビが入り、首が締まり、足が砕けていく。
「ッ!?」
そんな魔美子を見て、痛みを感じて……轟は怯えた。
彼女は今だけ仮面を脱ぎ捨て、本物の殺気を彼にぶつけている。
人を人とも思わぬ怪物の殺気を。
近年最悪と呼ばれた『ヴィラン』の殺気を。
「どうした、轟少年。冷や汗が出てるよ。私が怖いのかな?」
魔美子はニッコリと笑う。
いつもの父を参考にした仮面の笑みではなく、彼女の血縁上の父にそっくりな、底知れぬ悪意と恐ろしさを感じる悪魔の笑みで。
「私はね、これでも君に期待してるんだ。君の力は素晴らしい。
ナンバー2に登り詰めるほどのヒーローが、更なる力を求めて作った子供。
君ならもしかしたら、私達の戦いに足を踏み入れる資格があるかもしれないって」
「なんの話だ……!」
「ナンバー1ヒーローが戦わなきゃいけない相手の話さ。
君はパパのことも舐めてるけど、それと相対するヴィランのことも舐め腐ってる。
例えば私がヴィランで、君にこう言ったとしよう」
魔美子は更に唇を轟の耳に近づけ、鼓膜を通して脳髄に直接突き刺すような言葉を放った。
「君を殺した後は、君のお母さんを殺そう」
「ッ!!!」
その言葉には、冗談では済まないほどの悪意が乗っていた。
玩具を壊して遊ぶ子供のような、愉悦を感じさせる無邪気な悪意が。
血に刻まれた宿命なのか、耳責めがちょっと楽しくなってきた魔美子の声は真に迫っており、本物の魔王の存在を轟に感じさせる。
「可哀想に。君がつまらない拘りに固執したせいで、君のお母さんは私の玩具にされて死ぬんだ。
どんな殺し方がいいかな? ああ、そうだ。君が忌み嫌った炎で焼いてあげよう。
君の炎がお母さんを焼くんだ。きっと、とても素敵な声が天国の君にまで届くことだろう」
「て、テメェ……!!!」
「私に怒るのは筋違いだよ。そうだろう? 力があるのに振るわず負けた、救けられたのに見捨てて逃げた、愚かで無様な轟焦凍♪」
「ッッッ!!!」
その瞬間━━轟の左半身から炎が噴き出した。
観客席のエンデヴァーが凄い顔になり、魔美子は「熱っ」と言いながら轟を解放して距離を取る。
そして、
「……ありがとよ、八木。目ぇ覚めた」
轟は凄まじく複雑な顔で、そう言った。
母を殺すと言われた時、母との思い出が彼の脳裏を駆け巡った。
忘れてしまっていた母の言葉を思い出した。
『嫌だよ、お母さん……! 僕、お父さんみたいになりたくない……! お母さんをイジメる人になんてなりたくない……!』
『……でも、ヒーローにはなりたいんでしょう?』
そうだ。
最初にヒーローを目指した理由は、父の完全否定なんて暗い情念ではなかった。
テレビに映ったオールマイト、目の前の少女の父に憧れたからだった。
『個性というものは親から子へと受け継がれていきます。
しかし、本当に大切なのは血の繋がりではなく、自分の血肉、自分である! と認識すること。
そういう意味もあって、私はこう言うのさ! 『私が来た!』ってね』
その言葉に憧れた。
ナチュラルボーンヒーロー。
血筋も何も関係ない、あるべくしてヒーローであるオールマイトに憧れた。
『いいのよ、お前は。血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ』
忘れてしまっていた母の言葉。
大好きだった母の言葉。
その母を失うかもしれないというリアルな恐怖を突きつけられて、轟焦凍は強引に叩き起こされた。
「俺は、どんな敵からでも、お母さんを守れるようなヒーローになりたい……!」
「ハハハ! 満点だ! 轟少年!」
魔美子は笑う。
さっきのような悪魔の笑みではなく、いつもの仮面の笑みでもなく、本心からの満面の笑みを。
素晴らしい力。素晴らしい火力。
これなら本当に、生きているかもしれないあのクソ野郎との戦いで大きな戦力になってくれると期待して。
「さあ、来い、ヒーロー! この
「お前……それ本当にハマり役だな……!」
轟が力を解放する。
右の冷気と、左の炎。
両方を同時に魔美子に向ける。
これは個性無しではヤバいと、歴戦の戦闘経験で培われた勘が言っている。
それでも、律儀に相澤に言われたルールを守って、魔美子は素の力で迎撃した。
「おおおおおおおおおお!!!」
「ハァアアアアアアアア!!!」
二人の攻撃がぶつかる。
轟の冷気で散々に冷やされた空気が、炎で一気に膨張し、大爆発を引き起こす。
今の今まで氷のみを使い、冷やされに冷やされ切ったステージの上という限定条件下でのみ放てる、ワンフォーオール100%の衝撃波にすら匹敵する超超超火力。
対して、魔美子が選んだのは衝撃波の連打。
一撃じゃ簡単に押し負ける。
だから、ひたすらに拳を繰り出し続ける。
一発目の衝撃波で僅かに相殺できた部分に、間髪入れずに二発目、三発目の衝撃波を叩き込み続けていく。
その、結果は……。
「あ、危なぁ……!」
魔美子の上半身の体操服が完全に吹っ飛び、頑丈なスポブラがエロい感じで露出してしまっている。
体の方は服どころの騒ぎではなく、大爆発に打ち込み続けた両腕がズタボロ。
踏ん張るために地面をえぐり続けた両足もズタズタ。
靴も完全にぶっ壊れ、足の皮なんてモミジおろし状態だ。
それでも、魔美子はギリギリステージの上に体を残していた。
おまけに、負ったダメージもみるみるうちに回復していく。
あっという間に、服以外は戦闘開始前と変わらない姿に戻った。
「回復までするのかよ……。化け物だな……」
「うーん、これは個性禁止縛りに違反するのかな? いや、素の身体能力と同じで解除できない力だし、ノーカンだよね、うん」
魔美子は試合に勝って勝負に負けたような微妙な顔をした。
そう。
試合はもう終わっている。
今の大爆発を撃ち終えた後、轟が崩れ落ちた。
拘束している時に大分力を込めてしまったので、もう体はガタガタだったのだろう。
最後の一撃は根性で放ったと思われる。
「轟くん、動ける?」
「いいえ。俺の負けです」
「轟くん戦闘不能! 八木さん、三回戦進出!」
「「「わぁあああああああああ!!!」」」
凄まじい戦いを見届けて、観客席が大いに湧き上がった。
それを尻目に、魔美子は倒れる轟に近づいていき、優しく抱き起こしながら声をかけた。
「これは試合だから負けても歓声が聞こえる。本番じゃこうはいかない。
いつか本番を迎えた時はちゃんと勝ってね。期待してるぜ、ヒーロー」
「ああ。……ホントに、ありがとな、八木」
「うむ。よろしい」
この一戦で、魔美子の轟に対する好感度は、緑谷と同じくらいに上がった。
父のために必要不可欠な後継者と同じくらいのレベル。
ファザコン怪獣にそれだけの評価をされるのは凄まじいことである。
光栄かどうかはさておき。
なお、現在半裸の魔美子がイケメンの轟くんに寄り添っているわけだが、これを見て心穏やかでいられなかったのは
・緑谷出久
肉体損傷『−2』
轟との繋がり『−1』