ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
『互いに同じ中学出身! なんの変哲もない市立中学から雄英へのキップを掴み取った男達が今、最高の舞台で雌雄を決する!
緑谷
「デクゥ……! ホントに上がってきやがったなぁ……!」
「かっちゃん……!」
準決勝の舞台で向かい合う幼馴染達。
かつては呑まれるだけだった緑谷が、未だにビビりながらとはいえ、爆豪を正面から睨み返している。
その姿が気に障る。
ずっと下に見ていた相手。なんでもできた自分とは真逆の、何もできない
そのくせ、ヘドロの時には我が身を顧みずに真っ先に飛び出してくるような、自分を勘定に含めない、気味の悪いほどの自己犠牲と救済願望の持ち主。
気味の悪さによる嫌悪感と、ずっと見下していた相手が個性まで得て同じ舞台まで上がってきたという、追いかけられる側の焦燥のダブルパンチで、爆豪の戦意が歪に膨れ上がっていく。
それでも、今の彼は魔美子によって伸びに伸びた鼻っ柱をへし折られ、肥大化し過ぎた自尊心をえぐり取られて成長を始めた状態だ。
これが入学直後であれば冷静さを完全に失っていただろうが、今ならイラ立ちながらも冷静に立ち回れる。
『スタート!!』
「『爆速ターボ』!!」
開幕速攻、爆豪が動く。
両手を後ろに構え、掌の爆破を推進力にして加速。
身体能力では多少なり個性を使いこなせるようになった緑谷の方が上回っているが、戦闘技能を含めた総合能力値であれば、まだ自分の方が上回っている。
障害物競走でぶつかった時に、それを確信した。
だからこそ、爆豪は自信を持って距離を詰める。
(ワンフォーオール・フルカウル! 出力5%!)
対して、緑谷もまた
真っ向勝負だ。
爆豪は「舐めんなぁ!!」と叫びながら、最初の攻撃を繰り出す。
(来る! かっちゃんは大抵最初は……右の大振り!)
「あぁ!?」
緑谷が爆豪の動きを読み切った。
凄いと思ったヒーローの分析は、全部ノートに纏めてあるから。
特に爆豪は、緑谷にとって最も身近な凄い人だったから。
彼に対しては、特に分析が深い。
振りかざされた爆豪の右腕の攻撃に対し、緑谷は加速して懐に踏み込み、背中を向けながら右腕を取って一本背負い。
見事な背負投げが決まった。
「がっ!?」
「らぁああああああ!!!」
「ッ!! このぉおおおおお!!!」
投げられて地面に倒れた爆豪を、緑谷が力の限り横に振り回してぶん投げる。
場外狙い。
しかし、爆豪は空すら飛べる繊細な爆破のコントロールによって勢いを殺し、踏みとどまる。
「『テキサス・スマッシュ』!!」
「ぐっ!?」
『クリーンヒットォ! 生々しいの入ったあ!』
それでも体勢を大きく崩すことは避けられず、隙を晒した爆豪に、緑谷が渾身の腹パン。
爆豪は痛みにうめき、緑谷は更にその隙を突こうとして、
「舐めんなぁあああああ!!!」
「うっ……!?」
持ち前のタフネスで痛みを堪えた爆豪が、大爆発で反撃。
緑谷は吹っ飛ばされて距離ができ、仕切り直しとなった。
「痛ぇ……! デク、てめぇえええええ!!!」
「言ったはずだぞ、かっちゃん。君に勝ちたい。絶対に負けないって!」
緑谷はグッと拳を握り、幼少期から刷り込まれ続けてきた恐怖で歪みそうになる顔を無理矢理ぎこちない笑顔に変えて、
「いつまでも出来損ないのデクじゃないぞ!
今の僕は『頑張れって感じのデク』だ!!」
雄英入学直後に、友達になった麗日に言ってもらった言葉。
爆豪に付けられた蔑称だった『デク』の、意味を変えてくれた言葉。
己を奮い立たせるようにそれを口にしながら、
「ムカツクなぁあああああ!!!」
そんな緑谷の姿にイラつきながら、爆豪は再度突撃を開始。
キレてはいるが、冷静さを失ってはいない。
その証拠に、彼が次の手に選んだのは、体育祭に向けた準備期間中に思いつき、まだ緑谷に見せていない初見の技。
「『
「!?」
爆破による威力ではなく、強い光を発生させるように調整した技。
あの
圧倒的な肉体と個性のスペック差に叩き潰された爆豪には「どんな手を使ってでも勝つ!!」という、勝利への強い執念が生まれていた。
それが元々のみみっちさと合わさり、格上をぶっ殺すための絡め手という選択肢が彼の中に根づいた。
「おらよ!!」
「ッ!?」
『今度は爆豪がクリーンヒットォ! エグいの入ったぁ!』
光による目潰しを食らって硬直した緑谷の腹に、先ほどの腹パンの意趣返しのような掌底が突き刺さった。
おまけに、掌からの爆破もセットだ。
衝撃と爆撃の二重攻撃に、緑谷は大ダメージを受けた。
「まだ、まだぁ!!」
それでも緑谷はすぐに立ち上がって、未だに眩む目を凝らして戦闘を継続した。
だが、そんな状態で勝負になるほど、爆撃は甘い相手ではない。
「死ねぇ!!」
「!!?」
前から後ろから、右から左から、時には上から。
爆豪は爆破の推進力で縦横無尽に動き回り、あらゆる方向から緑谷を滅多打ちにした。
一回戦の麗日戦を思わせるようなリンチ状態。
それを見て、観客席のクラスメイト達は意見を交わし合う。
「いや、凄まじいね、爆豪少年。小技一つ覚えただけで、あんな強くなるんだ」
「魔美ちゃんから見ても凄いって思うん?」
「そりゃね。私の予想では緑谷少年にも三割くらい勝ち目があると思ってた。予想を覆されれば、そりゃ凄いって思うさ」
麗日と話しながら、爆豪を称賛する魔美子。
正直、個性を含めた肉体のスペックなら、フルカウルを覚えた緑谷は既に爆豪に追いついている。
技量とセンスの差は明白だが、分析厨のあれを上手く活かせれば、その差を埋めることも不可能ではないだろうと思っていた。
ところが、蓋を開けてみれば、結果は一方的なリンチ。
「『大爆竹』!!」
「ッ!?」
目潰しのダメージが少し抜けてきた頃に、爆豪はまた一つ小技を使った。
爆発でも閃光でもなく、凄まじい爆音を鳴らす技。
顔の近くに来た攻撃を、緑谷はいつもの通常爆破だと思って腕でガードしてしまい、結果顔の近くで大音量を聞かされるハメになってふらつき、そこに爆豪の攻撃がクリーンヒット。
「前までの爆豪少年の強みは、個性の強さとセンスに任せた正面戦闘だった。
下手にその強みを更に伸ばそうとするんじゃなく、ああいう絡め手を覚えたのは正解だよ」
例えるなら前の爆豪は、150キロの高速ストレートを見事にコントロールする怪物ピッチャーだった。
だが、魔美子という化け物バッターにストレートだけでは通用せずにボッコボコにされた。
そこで球速を更に上げて160キロを目指すのではなく、カーブやチェンジアップなどの変化球を覚える道を選んだのだ。
攻撃パターンに変化と緩急がつけば、
まさに強くなる最適解と言えるだろう。
「とはいえ、付け焼き刃の小技の練度はまだまだ。緑谷少年には通用しても、私には通じない。
けど、あれは新しく覚えたレベル1のスキルだ。
これからぐんぐんレベルは上がっていく。
彼は、もっともっと強くなるよ」
爆豪の潜在的な成長性の高さに、轟ほどとは言わないまでも、魔美子の興味が少しだけ疼いた。
一方、魔美子の言葉を聞いて、麗日を始めとしたクラスメイト達は「ごくり」と息を呑む。
今でも魔美子を除けばA組トップレベルの爆豪に、まだまだ伸び代が残っているというのは脅威だ。
気を抜けば追いつくどころか置いて行かれ、永遠に追いつけなくなる。
そんなことを許して堪るかと、彼らは気合いを入れ直した。
これが共に高め合うというやつだろう。
「っていうか魔美ちゃん、こんな解説もできたんやね」
「ねー! いっつもゴリ押ししかしないから、脳筋さんだと思ってたよ!」
「お父さんも究極の脳筋だしね!」
「失礼な。私は力押しが好きなだけで、やろうと思えば、ちゃんと頭も使えるんだぜ?」
知らない間に、クラスメイト達にバスターゴリラだと思われていた件。
まあ、間違ってはいない。
間違ってはいないが、魔美子は頭も使えるゴリラである。
森の賢人である。
それは
「死ぃぃぃねぇぇぇぇ!!!」
「うわっ!? 爆豪の奴、ますます速くなりやがった!?」
「あいつの個性、スロースターターだからなぁ」
爆豪勝己。
個性『爆破』
掌の汗腺からニトロのような汗を出して爆発させる。
動けば動くほど汗をかき、爆破の威力はどんどん上昇していく。
彼は長期戦に強いのだ。
勝ちたいのなら、緑谷は短期決戦で終わらせなければならなかった。
これで勝ち目は更に減った。
……それでも。
「ああああああああああ!!!」
緑谷は、まだ倒れない。
分析できていない爆豪の新しい動きについて行けず、最初の攻防以降全く反撃ができない。
リンチというか、もうサンドバッグ状態だ。
体はボロボロ。
体操服はとっくの昔に破損し、上半身は全裸だ。
なのに、倒れない。
気力と根性、あとは執念だけで立っていた。
「くそっ!? なんで倒れねぇ!?」
その姿に、とうとう爆豪の方が少しだけ気圧された。
緑谷は痛む体を引きずり、霞む目で爆豪を見据えて、
「君が凄い奴だってことは、最初から知ってる。嫌ってほど知ってる」
オールマイトから授かった力を、魔美子との特訓でほんの少しでも使いこなせるようになって、それでもまるで届かない。
爆豪勝己は、強い。凄い。
「君が凄い人だから、勝ちたいんじゃないか……! 勝って、超えたいんじゃないか!! バカヤロー!!」
「ッ!!」
緑谷の気迫に、爆豪は怯んだ。
そして、すぐにハッとしたように怯んだ自分に気づき、クソナード相手に何やってんだと自分を叱責した。
「だったら!! 完膚なきまで叩き潰してやる!! くたばれ、クソナード!!!」
爆豪が飛び跳ねた。
左右の手で爆破を使い、空中で体をキリモミ回転。
落下の力と回転力を力に変え、渾身の大爆発を、渾身の力で叩きつけた。
「『
爆豪の最高火力。
当てたら多分死ぬので、緑谷の前方の地面に斜めに叩きつけて、指向性を持った爆風で吹き飛ばそうとする。
そんな爆豪の必殺技に対して、緑谷は……。
(ワンフォーオール 100%!!!)
どうしても勝ちたいという思いが先行し、相澤に滅茶苦茶怒られた我が身を顧みない力にすがってしまった。
「『デトロイト・スマッシュ』!!!」
緑谷の拳が放たれる。
こちらもまた当たれば死ぬので、衝撃波という形で放つ。
二人の間で凄まじい爆風と衝撃波が激突した。
轟と魔美子の戦いにも劣らない超火力。
その、結末は……。
「嘘、だろ……!?」
爆豪が呆然とした声を上げる。
彼の体は観客席の壁に叩きつけられており、すなわち場外に叩き出されたということだ。
そして━━緑谷は、ステージの上にいた。
「爆豪くん、場外! 緑谷くん、決勝戦進出!」
「ッッッ〜〜〜〜〜!!!」
己の敗北を実感し、爆豪の心を憤死しそうなほどの感情の嵐が襲った。
一方、勝ったはずの緑谷は、自損ダメージと爆豪にサンドバッグにされたダメージが合わさり、勝利のスタンディングを決めることもできずに崩れ落ちる。
彼には既に、意識が無かった。
「ッ!? 酷いわね……。すぐにリカバリーガールのところへ!」
主審のミッドナイトが駆け寄り、状態を確認された緑谷は、即座に雄英が誇る看護教諭のもとへと搬送された。
雄英の看護教諭『リカバリーガール』。
個性『癒し』
患者の体力と引き換えに治癒力を活性化させ、どんな怪我でも立ちどころに治す。
ただし、今の緑谷には治癒に耐えられるだけの体力が残っておらず、最低限の治療と、意識を取り戻すことしかできなかった。
当然、戦闘などできるはずがない。
結果、決勝戦は前代未聞の不戦勝となり、魔美子は戦わずして雄英体育祭の頂点に立った。
「えぇ……」
この結果は予想外であり、決勝戦という最高のイベントステージを楽しみにしていた魔美子は、とてもとても微妙そうな顔をするしかなかった。
・緑谷出久
肉体損傷『+1』 やっちまったな!
精神成長『+1』
・爆豪勝己
技術促進『+1』
焦り『+1』