ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「それではこれより、表彰式に移ります!」
「んんーーーーー!!!!!」
雄英体育祭は全ての対戦を終え、表彰式の時間。
表彰台の上に約一名、凄まじい形相のモンスターがいた。
3位の台の上に設置されたセメントの柱に拘束ベルトで縛りつけられ、腕には手枷、口には口枷を付けられた爆豪だ。
彼はその状態で暴れに暴れており、ギプスで腕を固定されながら2位の台の上にいる緑谷は冷や汗を流すしかない。
どうやら、諸々の感情がまだ消化できていないようだ。
「もはや、悪鬼羅刹」
同じく3位の台の上に立つ常闇が、凶暴な隣人にちょっと引いていた。
「さあ、メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのは、もちろんこの人!」
「私がメダルを持ってき……」
「我らがヒーロー、オールマイト!!」
ドームの上から降ってきたオールマイトの台詞と、ミッドナイトの紹介の言葉が被った。
ちょっとグダグダになるところも、オールマイトのチャームポイントである。
「こほん! 気を取り直して。
まずは常闇少年、おめでとう! 強いな君は! 準決勝での戦いも見事だった!
格上相手に試行錯誤する気持ちを忘れず、加えてもっと地力を伸ばせば、君はまだまだ強くなれるだろう!」
「……ありがたきお言葉」
オールマイトはまず常闇に銅メダルを授与しながら、ハグと共に称賛の言葉を贈った。
次に向かうのは当然、同じく3位の爆豪のところ。
「爆豪少年! っと、こりゃあんまりだ」
とりあえず、このままでは言葉も交わせないので、オールマイトは爆豪の口枷を取った。
すると、唸り声は咆哮に変わる。
「オールマイトォ!! 離せや!! 帰らせろ!! 負けて3位なんざ何の価値もねぇ!!」
((顔すげぇ))
その時、オールマイトと1位の台の上にいる魔美子の気持ちは一つになった。
爆豪は顔面の構造を無視するくらいに目を吊り上げており、その角度は実に90度。
異形型でもない人間の姿ではない。
「まあまあ。受け取っとけよ、銅メダル。傷として忘れぬように」
「ッ!! ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」
爆豪は実に、実に悔しそうな顔をしながら、オールマイトのその言葉を否定できずに、大人しくメダルを受け取った。
目が更に吊り上がっていく。
右目の端と左目の端が繋がりそうだ。やべぇ。
「大丈夫。君はちゃんと強くなってる。入学当初からは見違えるほどにね。
準決勝で見せた変化球を磨きつつ、それに頼りすぎずに地力や真っ向勝負の技術も磨いていきなさい。そうすれば、君はまだまだ強くなれる」
「言われるまでもねぇ!!」
爆豪は歯ぎしりしながらも、ちょっとだけ、本当にほんのちょっとだけ表情に喜色が混じった。
彼もまたオールマイトに憧れる者だ。
憧れの人から成長を認められ、伸び代が残っていると言われるのは、やっぱり嬉しいものだった。
そんな彼にもオールマイトは常闇と同じようにハグをしたのだが、拘束のせいでとてもやりづらかった。
「緑谷少年! おめでとう!」
「は、はい! ありがとうございます!!」
緑谷は90度に頭を下げた。
準優勝者の態度ではない。
「とはいえ、準決勝でのあれは見過ごせんぞ。
せっかくコントロールができるようになったのに、それを投げ捨てて自傷に走った。
気持ちはわかるし、あの戦いが、あの勝利が、君にとってどれだけ重要だったのかもわかっているつもりだ。
それでも言わせてほしい。もうあんな戦い方はしないでくれと」
「……はい。ごめんなさい、オールマイト」
緑谷はシュンとした。
言われずともわかっている。
爆豪との戦いの最後の最後、緑谷は制御できない力にすがった。
『僕の力で君を超えたい』と言っておいて、借り物の力にすがってしまった。
しかも、それは色んな人を心配させ、迷惑をかけるやり方だ。
これから受け取る銀メダルは、爆豪の銅メダルと同じく、傷の象徴。
緑谷はそれを見る度に、こんなやり方に頼っていてはいけないのだという今の気持ちを思い出すだろう。
「しかし、それでも2位! 準優勝だ! 反省すべきところは大いに反省するべきだが、誇るべきところは誇っていい!
おめでとう! よくやってくれた!!」
「ッ……!」
緑谷の目から涙が出てきた。
体育祭の前、オールマイトに言われた言葉を思い出す。
『君が来た!! ってことを、世の中に知らしめてほしい!』
完璧な形からはほど遠い。
決勝戦を戦うことすらできず、腕をバッキバキにし、体中が傷だらけで、ギプスを付けた状態での表彰台。
皆に安心感を与えるオールマイトの後継者としては失格だろう。
それでも、それでも雄英体育祭準優勝だ。
緑谷出久という存在を知らしめるという、最低限の課題だけは達成できた。
「オ、オールマイト〜〜〜!!」
「よしよし! 本当によく頑張った!」
そうして、オールマイトは緑谷に銀メダルを渡しながら、常闇と爆豪にもそうしたように、けれど贔屓とわかっていても、自分の無茶ぶりをプルス・ウルトラで乗り越えてくれた後継者により強い気持ちを込めて、涙腺が決壊した緑谷にハグを贈った。
「さて、魔美ちゃ……」
「オールマイト『先生』。こんなところに鼻水がついてますよ」
「あ、その……ありがとう、八木少女」
魔美子はオールマイトの台詞に被せるように口を開きながら、緑谷が付着させた鼻水をハンカチで拭き取った。
とても怖い目をしていた。
「こ、こほん! 改めて、優勝おめでとう! 楽しかったかい?」
「はい。凄く楽しかったですよ」
魔美子は自然な笑顔を浮かべた。
外行き用の笑顔の仮面じゃない、心からの笑顔を。
それはきっと、面白いゲームをクリアしたとか、そんな程度の喜びなのだろう。
間違ってもこの体育祭を通して、力をぶつけ合ったライバル達を大切な存在と思えるようになったとか、そんなことは無いのだろう。
それでも、オールマイトは嬉しかった。
「そうか。楽しかったか。それは何よりだ。君が青春を楽しめていることが、私は何よりも嬉しい」
「!」
オールマイトの目尻に涙が浮かんだ。
ずっと学校とは名ばかりの隔離施設に通わされていた娘が、他の皆と感性は違うとはいえ、同年代の子供達とのお祭りを楽しむことができた。
抑圧された、呪われた人生の中で、それでも楽しかったと笑ってくれた。
父親として、嬉しくないわけがない。
二回戦で娘の半裸が全国放送されてしまったことを除けば最高だ。
魔王名乗りは……まあ、あれくらいなら可愛いものだろう。
「さあ、メダル授与だ! この金メダルが、君にとって輝かしい思い出となることを祈っている!」
父の手で、娘の首に金メダルがかけられる。
魔美子はそれを手に取って眺めて、次に父の顔を見て、目尻に溜まった涙を見て、このメダルにどれだけの父の思いが詰まっているかを理解して……重度のファザコンの情緒は振り切れた。
他の人間が獲物か玩具にしか見えない中で、唯一父からの愛情だけを頼りに『人』としての生を送ってきた少女は、その父からの愛情の過剰摂取によって、頭がボンッてなった。
「わ!?」
魔美子は他三人と違って、自分からオールマイトの胸に飛び込んでハグをした。
そして、花が咲くような満面の笑みを浮かべながら、
「ありがとう! パパ、大好き!」
幼い子供のように大声でそう言って、猫のようにスリスリと父に顔をこすりつけ始めた。
「「「……………………パパ!?」」」
「あっ……!?」
観客席から綺麗にハモったそんな声が聞こえてくる。
オールマイトは冷や汗を流し、事情を知っていた者達は苦笑を浮かべ、魔美子は未だにゴロにゃんモードから戻ってこない。
「オールマイトに娘!? 隠し子!?」
「確かに、同じ超パワーの個性だったわね!」
「大ニュース! 大ニュースだ!!」
マスメディアの動きが凄いことになった。
マイクを手に観客席からあふれ出し、オールマイト親子に殺到してきそうな勢いだ。
というか、実際にそれをやろうとして、警備のヒーロー達に押さえ込まれていた。
このままでは収集がつかなくなる。
「さ、さあ! 今回は彼らだった! しかし、皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い、高め合い、更に先へと登っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!」
オールマイトは焦りながら、早口で事前に考えていた締めの言葉を口にしていく。
マスゴミどもは「そんなことどうでもいいんだよぉ!」とばかりの勢いで突撃を継続中だ。
「てな感じで最後に一言! お疲れ様でした!! 撤収!!」
「「「あっ!?」」」
そうして、オールマイトはゴロにゃんモードの魔美子を抱っこしながら、凄い勢いで会場から走り去った。
逃げたのだ。
後始末を押しつけられた者達は「あのおっさん、後で覚えてろ……!」と怒りを燃やすも。
この場にオールマイトが残っていたらもっと酷いことになっていただろうということがわかっているので、非難することもできずに舌打ちをした。
こうして、最後の最後にとんでもないカオスを発生させつつ、今年の雄英体育祭は終わりを迎えた。
◆◆◆
「ハァ……お前達はヒーローじゃない」
全身に刃物を携帯したヴィランの前で、一人のヒーローが血の海に沈む。
ターボヒーロー『インゲニウム』。
本名、飯田
雄英高校1年A組のクラス委員長、飯田天哉の兄だ。
「誰かが、血に染まらねば。ヒーローを、取り戻さねば……!」
彼を倒したヴィランは、静かに燃ゆる信念を瞳に宿しながら、闇へと消えた。
「俺を殺していいのは、
次の戦いが、すぐにまたやってくる。